「文車妖妃のメソッド」第2話:幽霊女
「すいません。高木さんの姿が前のパテーションに反射してたみたいで。僕、目が悪くて」
「なーんだ。びっくりしたよ。なんか加藤くんに霊感があって、お化けでも見えたのかと思ったよー。あ! それならおもしろい記事を書けるかもね! 怪談話はウケるしねー。有料記事でも怪談なら買ってくれるかも。ええやんええやん」
(すまないな、加藤。私は皆が退社するまで喋りかけないから、あとで話そう。というか私は話すつもりはなかったのに、加藤が話しかけてきたせいじゃないか)
幽霊女(仮称)がなんだか言いがかりのように言う。困惑はそのままに、加藤は目だけで返事をし、無視することにした。考えると気分が悪くなる。どうして誰にも見えないんだ。ああ、考えるのはやめよう。ああ、気持ち悪い。
「加藤くん、大丈夫? 顔色良くないみたい」
「はい、すいません。大丈夫です」
「ほんと? じゃあ、改めて説明するね。文章大賞は私たち3人で第1次審査をします。そのあと志村さんを含めて2次審査。通過した作品だけ協賛企業に送ります。そして各企業が賞を決めるんだよ。その前段階の選別が私たちね。志村さんがノルマ1万って言ったのは3万作品の応募があれば、1人1万作品の審査をするからでーす。ファイトだね。慣れだよ」
「1万作品を1人ですべて読むんですか?」
「そうだよ。想像できると思うけど時間がかかるのよこれが。だからほら、ちよさんだってさっきからずーっとエントリーされた記事を読んでるでしょ。締め切りは明日だけど、読むのは早ければ早い方がいいからね。締め切り直前で修正されても、書き手の根本的なセンスは変わんないからね」
高木がずっとディスプレイを見ているのは、文章大賞にエントリーされた作品を読んでいたからのようだ。幽霊女(仮称)に気を取られ気にしていなかったが、さきほどから蚊の鳴くような小さな声がするのは高木の独り言だった。
「……あうとー。あうとー。あうとー。スリーアウトだねー。はい、これもあうとー。ってかひとりで何作品も出すなよなー。クオリティが変わらないならいくら書いても意味ないじゃーん。あうとー。これもあう……お、ちょいアリ。キープ」
ザリザリとマウスのホイールをスクロールしながらぶつぶつと言い、記事を読んでいる高木は、文章大賞の審査中らしい。そんなスピードで1記事を読み、一瞬で審査するのかと加藤は内心で不安になる。
「驚いたでしょ? あんなスピードで審査するの?って思ったでしょ?」
「はい、正直、僕には出来ないかもって思います」
「だよねだよねー。ええやんええやん」
何がいいのだ。
「ふっふっふ。そんなビビりまくりの加藤くんのために、手取り足取りレクチャーするのが、わたし、ふうこんの役割なんだよ! 志村さんに頼まれたのだよ!」
ちらちら視界に入る幽霊女(仮称)の顔が微笑んでいるように見えた。
「じゃじゃーん! これが初代文章大賞プロデューサー・五十嵐文子さんが残した、文章大賞審査マニュアル『嵐文メソッド』です! 私たちはこれがあるから審査ができるんだよー。ちなみに、『嵐文』ってのは五十“嵐文”子の名前から取ってるんだ」
新井が手に持つのは、プリントアウトをしたA4用紙だ。上部に大きな字で「嵐文メソッド」と書かれているのが見える。
第1話:https://note.com/u_yasushi/n/n50fe762ef006
第2話:https://note.com/u_yasushi/n/n2aefa79ddb17
第3話:https://note.com/u_yasushi/n/n7766d2efafdd
第4話:https://note.com/u_yasushi/n/n14db0d504832
第5話:https://note.com/u_yasushi/n/ne3df7df82afc
第6話:https://note.com/u_yasushi/n/nce363b3a3b6d
第7話:https://note.com/u_yasushi/n/n988d2fbbea88
第8話:https://note.com/u_yasushi/n/nc7891dfdb586
第9話:https://note.com/u_yasushi/n/nf24d6f4b8133
第10話:https://note.com/u_yasushi/n/n7df18307a437
第11話:https://note.com/u_yasushi/n/n3729eec39423
第12話:https://note.com/u_yasushi/n/n986740e6ffa6
第13話:https://note.com/u_yasushi/n/ne4d645a75975
第14話:https://note.com/u_yasushi/n/na38f84e5a63f
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