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「文車妖妃のメソッド」第5話:志村談義

第4話:新井ふうこと高木ちよ

memo社から歩いて5分ほどの居酒屋『それから』。カウンター席が6、テーブル2の小さな店だ。カウンター席に座るなり「ビールは飲める?」と志村が聞いてきた。1杯だけならと答えると志村は嬉しそうにして、店員に注文する。

「じゃあ、ようこそ、文章大賞チームへ。かんぱーい」

時刻は17時を過ぎた頃。店には自分たちしかまだいない。適当に居酒屋定番メニューを頼みつつ、今日のオフィスの様子や印象などを志村から質問され、答えていた。志村は2杯目のビールを喉に流すように飲み始めた。もじゃもじゃ頭をかきながら、志村は話し始める。

「うちのチームはなかなか個性的なメンバーでさ、まぁ、俺も『言葉のペテン師』なんて不名誉なあだ名があるけどさ。ひどいよねぇ。嫌だねぇ」

志村はコピーライター出身だった。そちらの世界では芽が出なかったものの、前に勤めていた会社で取引先だったmemo社の代表取締役からスカウトされ入社したらしい。

「ちよさんは、うちの元売れっ子ライターよ。知ってる?」

「はい。男性経験がない自分を自虐し、巧みな比喩表現を使いこなすエッセイストさんです」

「そうそう。ありゃ、バケモンだぜ。有料記事でガンガン稼ぐからうちで雇わないと赤字だったわ。はっは!」

「新井さんってどんな人なんですか?」

「ふうこんはなー、共感のプロだな。元々うちの営業部だったんだけど、他のSNSでコミュニティを運営してたのよ。うちは副業を認めてるしな。ふうこんは有料コミュニティを作って、まぁ、会社員ぐらいの収入はあったんじゃねえかな。共感を武器に人の承認欲求を満たして、会員からお金を稼ぐ。あいつもプロだな。『ええやん』って口ぐせだろ? あれ言われると肯定感が上がるというか、悪い気がしねえんだわ」

「じゃあ何の特長もない僕は、どうして文章大賞チームに入れたんでしょうか」

「あー、やっぱ気になるわな。社長に言ってさ、全社員にアンケート取ったのよ。覚えてるか? 趣味とか好きな映画とか書かされたやつ」

「はい。ありましたね」

「んで、結果を見たら加藤くんがいちばん『ふつう』だったわけだわ。面白みもなんもない、THE ふつう。量産型20代」

けなされているのだろうか。褒められてるとは思えない。

「いや、悪口じゃねえんだわ。ちなみに好きな映画ってなんだっけ?」

「アベンジャーズです……」

「それよ。『ニューシネマパラダイス』とか『ガタカ』とか小津安二郎作品を答えないのが、たまらなくいいのよ。褒めてるからな?

いいか? 俺たち書き手やクリエイターは個性が全てだ。尖ってなきゃ売れない。でもな、記事を読むのは『ふつう』な人ばかりなんだわ。その人らがおもしろいって思わなきゃいけないんだわ。

memo文章大賞はまだ日の目を見てないライターが出版するチャンスだ。出版社はもちろんベストセラーを狙う。ライターの名刺がわりに本を作るわけじゃねえからな。ベストセラー本を作ろうと思ったら、読むことに普段は興味のない人まで巻き込まなきゃならない。

だから『ふつう』の感覚を持ってる人が審査員に必要なのよ。ちーよは個性しかない。ふうこんは金に繋がる記事しか見えていない。加藤くんは逸材なのよ。memo社には尖った人材しかいねえ」

「はぁ、そんなもんですか。なんだかあんまり嬉しくないんですけど」

「はっは! 褒めてるっつーの。というかこの人選方法も五十嵐が考えたんだけどな」

来た。五十嵐さんの話題だ。加藤は早く聞きたかったのだ。口を開こうとしたら志村に遮られる。

「じゃあさ、加藤くん。おもしろい文章の定義ってなんだかわかるか?」

「え、考えたことありません」

「満点な回答だな。おもしろい文章とは、『おもしろい文章とは何か?』と問いをたてた時にだけ現れる幻想である」

「ペテンっぽいっすね」

「言うねえ!」

第6話:消えた審査員

第1話:https://note.com/u_yasushi/n/n50fe762ef006
第2話:https://note.com/u_yasushi/n/n2aefa79ddb17
第3話:https://note.com/u_yasushi/n/n7766d2efafdd
第4話:https://note.com/u_yasushi/n/n14db0d504832
第5話:https://note.com/u_yasushi/n/ne3df7df82afc
第6話:https://note.com/u_yasushi/n/nce363b3a3b6d
第7話:https://note.com/u_yasushi/n/n988d2fbbea88
第8話:https://note.com/u_yasushi/n/nc7891dfdb586
第9話:https://note.com/u_yasushi/n/nf24d6f4b8133
第10話:https://note.com/u_yasushi/n/n7df18307a437
第11話:https://note.com/u_yasushi/n/n3729eec39423
第12話:https://note.com/u_yasushi/n/n986740e6ffa6
第13話:https://note.com/u_yasushi/n/ne4d645a75975
第14話:https://note.com/u_yasushi/n/na38f84e5a63f

#創作大賞2024
#お仕事小説部門

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