「文車妖妃のメソッド」第13話:審査する者たち
「五十嵐、お前みたいな新人がやってきたぞ」
「加藤くんよね。さっき2人で話したけど、ふふふ、彼と私は似てるよ。新井さんと高木さんはクリエイター寄りだから志村くん好みだよね。でも彼は違うからこそ大丈夫かな。私の意志を継いでくれてて、志村くんともうまくやれそうだし。それに、まだキャッチコピーや文章について彼に教えてないんでしょ?」
「まぁ、あいつはエンジニア部だしな。文章大賞が終わったら元の部署に帰るだろうよ。それに書く才能はどうだろうなぁ」
「そうかな。志村くんが引き止める気がするんだけど? 私が書くのに悩んでいるって打ち明けた時、志村くん『俺が教えてやるから諦めるな』って言ったじゃない? 嬉しかったんだよ。でも私の応募作品を落としたよね」
「意地の悪いことを言うねぇ。結果的に規約違反だからよかったでしょうよ。あと加藤な。たしかにあいつの選んだ作品を読んだらおもしろかった。しかもどれも全てだ。どうして五十嵐と同じ選定基準を加藤が持っているんだろう? 俺が教えたわけでもないのに、新井も高木も今年から審査員だから五十嵐のメソッドを知らないのにな」
「ふふふ。どうしてだろうね。あ、そういえば志村くん、私のメソッドを変えたそうじゃない。どうしてあんなに緩くしたのよ」
「嵐文メソッドはな。五十嵐がいないと最後の審査ができねえんだわ。俺だとバッサリ切れない。どうしても書き手側の気持ちが入って、書いていない意図まで汲んでしまうんだわ」
「ああ、そういうこと。それなら戻すのがいいよ、加藤くんは私側だと思うから。同じ『最強読者』なんじゃない?」
「うーん。五十嵐。お前、自分のメソッドに縛られてただろ。あんな厳しい文章ルールに則って書いたお前の記事からは、楽しさがなかったんだわ」
「楽しさ?」
「そうだ。五十嵐が書いたおもしろいと思う文章は、五十嵐をおもしろくさせなかった。楽しさより『認めてほしい』欲求がぷんぷんと見えていたのさ。それは作品としてどうなのかなって」
「痛いところを突くわね。でもそうかもなー。でも加藤くんなら見失わないって思うんだよね。そういえば好きな映画、彼はなんて答えたの?」
「アベンジャーズ。五十嵐は、たしか」
「ミッションインポッシブルね」
「ベタだねぇ。ありきたりだねぇ」
「志村くん、うるさいよ」
「志村さーん。私の審査終わったんで、見てもらっていいですかー?」
「あいよ。五十嵐、どうだ、応募作品を読んでいくか?」
「それこそルールでだめでしょ。やめておくわ。加藤くんに任せる」
「俺じゃねーのかよ! 嫌だねぇ。冷たい同期だねぇ」
オフィスに加藤と神吉(幽霊)が戻ってくると、五十嵐は鞄を手にした。
「じゃあ、そろそろ戻るね。加藤くん、いい作品を選んでくれるのを期待してるよ」
加藤は軽く会釈をし、隣りの神吉(幽霊)は片手を軽くあげた。「俺は期待されてねーのかよ!」と志村がわめき、そこにがたがたと椅子にぶつかりながら慌ただしく新井が五十嵐の元へやってきた。
「五十嵐さん! もう帰っちゃうんですか? 私ももっとお話ししたかったですぅ」
「そうね。でも、私はもう文章大賞の審査員じゃないから、本当はこのオフィスにも入っちゃだめなんだよ。ここ、部外者立ち入り禁止なんだから。さっき加藤くんが『他の社員に会わないオフィスなんですけど』って不安がってたけど、会わないようにされてるのよ」
「えー。でもでも、じゃあ、ミーティングルームでお話ししません?」
「うーん、やめとく。新井さんは私の苦手なタイプなの」
「なんでやねん」
新井のいきなりな関西弁ツッコミに加藤と志村は思わず吹き出している。ディスプレイから目を離さない高木までくすくす笑っていた。神吉(幽霊)は上を向いて大声で笑っている。
「じゃあね」
第1話:https://note.com/u_yasushi/n/n50fe762ef006
第2話:https://note.com/u_yasushi/n/n2aefa79ddb17
第3話:https://note.com/u_yasushi/n/n7766d2efafdd
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第5話:https://note.com/u_yasushi/n/ne3df7df82afc
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第12話:https://note.com/u_yasushi/n/n986740e6ffa6
第13話:https://note.com/u_yasushi/n/ne4d645a75975
第14話:https://note.com/u_yasushi/n/na38f84e5a63f
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