「文車妖妃のメソッド」第9話:最強読者の称号
「志村さん、五十嵐さんの話は加藤くんにしたんですか?」
加藤がオフィスを出てミーティングルームに行ったのを確認してから、新井が志村のデスクに近寄り質問する。
「詳しくは言ってねぇけど、そうだな。ん? ふうこんは五十嵐が消えた理由を知ってたっけ?」
「加藤くんには適当にはぐらかしましたけど、なんとなーく知っています。えっと重大な規約違反ですよね?」
「おいおい嫌だねぇ。ほぼ全てを知ってるじゃん」
「元営業部ですから、社内の噂には敏感なんですよ。五十嵐さんの規約違反は解雇案件ですけど、志村さんがそれを止めたとか」
「営業部の調査能力すごくねぇか? それ、ふうこんだけの特技だろ。まぁ、合ってるよ。ただな。五十嵐は文章に取り憑かれたんだ。それだけなんだ。あいつは文章が好きだ。好きで好きで、それこそ怨念のように文章に没頭した。五十嵐が目をつけた記事は必ずヒットした。バズっていったよ。あいつの記事を見る目は本物だ。誰もが持っていない読者の目を持っていたんだ。五十嵐のあだ名、知ってるか?」
「最強読者、ですよね」
「そうだ。一般的な読者の視点を五十嵐は持っていた。だからこそ、やっちゃいけないことに手を出してしまったんだ。ふうこんは『文車妖妃』って妖怪、知ってっか?」
「フグルマヨウヒ?」
「ああ、思いが届かない恋文に宿った怨念の妖怪だ。五十嵐はそれだ。恋文じゃなく記事にたいしてだけどな。記事を見る目は一級品なんだが……。いない人の悪口はやめておくか。まぁ、俺はもう、あいつみたいな社員は見たくない。あいつが作った『嵐文メソッド』があいつを狂わせたんだ。だから、俺は書き換えた」
「え? 書き換えたんですか?」
「おいおい、それは知らなかったのかよ! 嫌だねぇ。ザルな調査能力だねぇ」
「ええやんとは言いにくいです。でも新しいメソッドで問題ないんですか?」
「それは大丈夫だ。ある意味、第2の五十嵐を生まないメソッドでもあるからな。っと、ふうこん、そろそろ戻って本気で審査しないと間に合わねぇぞ」
「はぁ〜い」
最強読者・五十嵐文子。あいつがあのあだ名をどれほど嫌ったか。誰にも聞こえない独り言を志村は口にして、ディスプレイに視線を戻した。
第1話:https://note.com/u_yasushi/n/n50fe762ef006
第2話:https://note.com/u_yasushi/n/n2aefa79ddb17
第3話:https://note.com/u_yasushi/n/n7766d2efafdd
第4話:https://note.com/u_yasushi/n/n14db0d504832
第5話:https://note.com/u_yasushi/n/ne3df7df82afc
第6話:https://note.com/u_yasushi/n/nce363b3a3b6d
第7話:https://note.com/u_yasushi/n/n988d2fbbea88
第8話:https://note.com/u_yasushi/n/nc7891dfdb586
第9話:https://note.com/u_yasushi/n/nf24d6f4b8133
第10話:https://note.com/u_yasushi/n/n7df18307a437
第11話:https://note.com/u_yasushi/n/n3729eec39423
第12話:https://note.com/u_yasushi/n/n986740e6ffa6
第13話:https://note.com/u_yasushi/n/ne4d645a75975
第14話:https://note.com/u_yasushi/n/na38f84e5a63f
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