見出し画像

「文車妖妃のメソッド」第12話:正体

第11話:来訪

「どういうことですか! あなたは誰なんですか!」

個室のミーティングルーム。加藤と五十嵐(仮)が対面で座っている。抑えめにした大声で叫ぶように囁いたのは加藤だ。

(ん? ああ、五十嵐が来て驚いているのか)

「そりゃそうですよ! あなたは五十嵐さんじゃないんですか?」

(違うぞ。加藤よ。そもそも私は五十嵐だと名乗った覚えはない)

「いや、そうかもしれませんけど!」

(本人を連れてくるから待ってろ)

「え? あなたは僕以外に見えないのでは?」

(加藤と同じように五十嵐には、私が見えるのだよ)

五十嵐(偽物)が壁をすり抜け、数分後に五十嵐(本物)を連れて帰ってくる。容姿が似ているのでまるで双子のようだ。

「君が加藤くんね。はじめまして。五十嵐です」

(私は神吉蘭かんきらんだ)

「はじめまして、加藤です。ってあなたは神吉かんきさんって言うんですか!」

(さっきからうるさいぞ。そうだ。名乗ってなかったからな)

「大変だったでしょ、神吉さんの相手をするのは」

(失礼だな、五十嵐。そもそも君を育てたのも私じゃないか)

「そうですけど、そこは感謝してますけど」

「どうして神吉さんは五十嵐さんの格好をしてるんですか? それが僕が勘違いした原因ですよ」

「あ、加藤くん、違うの。逆なのよ。私が神吉さんに憧れて格好を真似してるんだ」

(そういうことだ)

「憧れて? 幽霊に憧れてるんですか?」

(失敬だな、加藤は)

「あれ? 神吉って苗字を聞いてわからない? 神吉蘭さんは、戦後最大の出版プロデューサーと呼ばれた人の娘だよ」

「え、あ、聞いたことあります。まさか、テングノベルスの作った……」

(私の父だ)

「そう。そのお父様の編集スキルを蘭さんは引き継いでいたのよ。お父様が偉大すぎて蘭さんは目立たなかったけど、いくつもベストセラーを出してきたプロの超一流編集者よ」

「じゃあ、嵐文メソッドは」

「蘭さんが『私の名前は出すな』ってしつこいから、無理やり当て字にして『嵐文メソッド』にしたわけ。本当は『蘭文メソッド』なんだけどね。私が蘭さんに教えてもらった文章のルールだね」

(五十嵐には書く才能はないが、読む才能はある。私はそれを見抜き、五十嵐に接近したわけだ。こいつも最初は私に怯えていたが、加藤と同じように、私の類まれなる文章スキルに惚れたわけだよ)

「よくそこまで自分を良く言えますね」

「本当に。でも五十嵐さんは、どうして文章大賞の審査から外れたんですか?」

(欲だな)

「はい。そうですね。欲です。書き手になりたい気持ちを捨てられなかったんだよ。だから蘭文メソッドに沿って、作品を作って投稿してしまったの」

(それでも第一次審査さえ通らなかったがな)

「うるさいですね。そうですよ。わかってますよ。私には書く才能がないんですよ」

(しかし、読む才能はある。五十嵐、何度か言ったが、本は作者のものではない。かといって読者のものでもないのだ。作者が書き、読者が読む。一方通行ではないんだよ。だから読者を代表し、まだ日の目を見ていない作家を世に送り出す我々が必要なのだ)

「今はわかりますけど」

「僕は書きたい気持ちはもうないですよ。だからこの審査の仕事が合ってると思います」

「加藤くん、私もそうだったよ。でもね、たくさんの作品を読むうちに『これくらいなら自分でも書ける』と勘違いしちゃうのよ。そしていつしか良い作品を見ても、嫉妬や羨望、マイナス感情しかわかなくなるんだ」

(それなら文章大賞ではなく、他の公募賞に応募すればいいんだがね)

「それが出来なかったのが私の弱さでした。ズルをしてでも、賞をとりたかったんです。誰かに私の文章を認められたかった」

(五十嵐に認められたい作者は、それこそ数万人もいるのにな)

「皮肉なものです」

「話の腰を折りますけど、どうして神吉さんは幽霊になってまで、審査に関わろうとするんですか? もしかしてなにかの怨念とかあるのでしょうか」

(そうだな。ある意味で私は怨霊や妖怪の類かもしれない。なに、五十嵐と理由は似ているのだ。私も父に認められたかった。でも叶わなかった。それを新時代の書き手に求めたかもしれない。私の読者視点が、私がおもしろいと思う作品が、世に新しいベストセラーとなって生まれるのを、父に見て欲しかったのかもしれないな。いくつかは出したが、欲だな。際限がない。君たちと出会って、なんだかもう嬉しくなった。いい読者視点を持つ若者はいる。嬉しいもんさ。おそらく文章大賞からベストセラー作家が生まれたら私の存在は消えるだろうよ)

「ここは妖怪だらけですね」

「失礼ね」
(失礼だな)

第13話:審査する者たち

第1話:https://note.com/u_yasushi/n/n50fe762ef006
第2話:https://note.com/u_yasushi/n/n2aefa79ddb17
第3話:https://note.com/u_yasushi/n/n7766d2efafdd
第4話:https://note.com/u_yasushi/n/n14db0d504832
第5話:https://note.com/u_yasushi/n/ne3df7df82afc
第6話:https://note.com/u_yasushi/n/nce363b3a3b6d
第7話:https://note.com/u_yasushi/n/n988d2fbbea88
第8話:https://note.com/u_yasushi/n/nc7891dfdb586
第9話:https://note.com/u_yasushi/n/nf24d6f4b8133
第10話:https://note.com/u_yasushi/n/n7df18307a437
第11話:https://note.com/u_yasushi/n/n3729eec39423
第12話:https://note.com/u_yasushi/n/n986740e6ffa6
第13話:https://note.com/u_yasushi/n/ne4d645a75975
第14話:https://note.com/u_yasushi/n/na38f84e5a63f

#創作大賞2024
#お仕事小説部門

いいなと思ったら応援しよう!

ヤスシ◆放課後ライティング倶楽部 最後まで読んで頂きありがとうございます! また是非おこしください。 「スキ」を押していただけるとめちゃくちゃ感激します 感想をツイートして頂ければもっと感激です ありがとうございます!感謝のシャワーをあなたに