風景を遡っては網膜の中を旅をする
網膜に映された、いつかの風景を
再生してくれる職業であるという網膜屋。それは
大竹伸朗氏が手掛ける網膜シリーズの作品の中の
設定の一つで、この世から去った人の記憶を再現
する。記憶を濾過する小屋に流れる温度にふれる。

網膜映像を再現できるという設定の小屋は

移動可能な構造物で

依頼に応じて出張するものとして

実物大にて展示室の空間を占める

この世から失われていく
記憶が封じ込められた写真、形見、痕跡

小屋は過去の質感を帯びたもので埋め尽くされる
ものに宿る時間と、ものから流れ出す時間

記憶濾過小屋と名付けられた構造物が持つ

懐かしさを帯びる色や形

切断されたブレーカーがつなぐ記憶

小屋が放つ淡い青い光は

深く沈んではたゆたうように
海の風景を思い起こさせる

記憶をつなぐものであふれる小屋の内側に

そっとふれる。そこには様々な時間が
流れては沈殿する

かつて網膜に映ったもの

小屋は人々の記憶を更新しながら街をゆく

取り付けられた赤い船は
海の記憶を運ぶもの

取り付けられたタンクや配管は

錆びついては、時間の経過を浮かび上がらせ

棚に並べられた古道具は
時間が進む流れをゆるやかにする

使いこまれた道具がまとう記憶が漂い

小屋の周囲には異なる時間が流れている

そこでは、目をこらすほどに、奥行きは深くなり

物語を持つものの力に引き込まれる

記憶濾過小屋は街をゆき

写真に映る記憶を再生する
過去を切り取る写真に寄り添えば

時代を超えて風景が呼び起こされる

網膜屋は、その再生精度を高めるもの

展示には、大竹伸朗氏の目に映る写真が並べられ

朽ちゆくものへのまなざしは

染みや、ひび割れ、褪せた色へと
時間が経過することへの思いが響く

喪失への抵抗を示すもの、巻き込まれるもの

記憶は写真により瞬間として留められ

それは時を経ては質を変え、意味を変える

集められた記憶の欠片は、つなぎ合わされ

意味をなす。すでにそこにあったものが

重ねられては、意味を変えては失いながらも存在する

それらは誰かの網膜に映ったもの

貼り合わされては、新たな意味が生み出される

過ぎ去る時間は拾われては

確かにあった痕跡として刻まれる

おびただしいものの断片が、層をなし

新たな時間として表れる
過去を参照しては、網膜に映る像を重ねる
旅をして、様々なものを目にしては、時間にふれる。
文章を綴る。映像に定着させる。言葉を重ねる。その
時、網膜に映ったものを心に刻む。時間はものを
変質させる。記憶はやがておぼろげとなる。過去の
風景は今に塗り替えられていく。失われるであろう
記憶と時間を引き延ばす。旅から戻り、もう一度
網膜の中を旅をする。そして旅は形となり、意味を
なし、その連続の先にある風景へと思いをはせる。
