SoFi USDの衝撃⑫ ― 利益率90%と「もう一つの収益柱」
※前回からの続きとなります。
これまで、2030年の暗号資産取引市場(B2B)におけるSoFi USDの発行残高規模と、その前提となる市場シェア、そして金利環境などを整理してきた。
次に焦点を当てるのは、SoFi USDが生み出す「準備金運用収益」が、いかなる構造によって高い利益水準を実現し得るのか、という問題である。
<準備金運用収益は「単純な金利ビジネス」ではない>
ステーブルコインの準備金運用収益は、一見すると政策金利によって決まる、単純なビジネスに見えるかもしれない。
しかし実際には、同じ金利環境、同じ発行残高であっても、どのようなコスト構造を持つかによって、最終的な利益水準は大きく異なる。
今回の試算では、準備金運用収益の利益率を90%と想定している。この数値はステーブルコイン事業が本来持つ性質と、SoFiが有する事業構造を踏まえれば、合理的な前提である。
<Circleとのビジネスモデルの決定的な違い>
CircleのUSDCは、Coinbaseとの事実上の共同事業として位置づけられており、Circleに残る利益は構造的に限定されやすい。加えて、事業拡大に伴い、株式報酬費用を含む人件費が増加している点も、利益率を押し下げる要因となる。
一方、SoFiの場合、特にSoFi USD発行当初は、流動性を生み出すための分配が発生する可能性が想定されるものの、Circleのように恒常的な分配コストを前提とする構造にはない。
さらにSoFiは、ステーブルコインの需要を“自ら”生み出す基盤をすでに備えている。流通量の維持・拡大のために、外部パートナーへ継続的なインセンティブの支払いが必要なCircleとは、事業構造そのものが異なる。
具体的には、以下のような基盤が存在する。
・SoFi Cryptoや国際送金などの自社サービス群
・2025年末時点で1,300万人強に達するユーザー基盤
・BaaS(Banking-as-a-Service)を通じた約1億6,000万人の外部ユーザー基盤
加えて、SoFiはすでに銀行としての経営基盤を確立しており、ステーブルコイン事業を開始したからといって、人件費や株式報酬費用が大きく膨らむ可能性は低い。
<ステーブルコインの製品特性とコスト構造>
ステーブルコインは「デジタルコピー」の世界だ。10億ドルを発行しようが、1,000億ドルを発行しようが、追加発行に要する費用は極めて小さい。
もちろん、実務上は次のようなコストが発生する。
・AML(資金洗浄防止)/KYC(本人確認)
・トラベルルール対応(送信元・送信先情報を取引データにひも付ける規制)
・取引監視、各種レポーティング、監査対応
しかし、これらの多くは発行残高や取引量に比例して増える変動費ではなく、固定費的なコストが大半を占める。一方で、SoFi USDの発行残高が拡大すれば、その裏付け資産から得られる利息収入は発行残高にほぼ比例して増加する。その結果、1ドルあたりのコストは急速に希薄化していく。
<多様なサービス展開による固定費の吸収>
SoFiは、今後、複数の領域へステーブルコインを展開していく構想を持つ。
・B2B決済(企業間送金、貿易決済など)
・トークン化市場(国債、MMF、社債、ローンなど)
・B2C決済(国際送金、小売決済、給与支払いなど)
これらの領域でも、準備金運用収益に加えて、決済や清算に伴う手数料収入が発生する。すなわち、暗号資産取引市場(B2B)からの運用収益単体で、すべての固定費を回収する前提を置く必要はない。
ステーブルコイン事業“全体”で固定費を回収できる構造を持つ点は、SoFiにとって大きな強みである。
<準備金運用収益の位置づけ>
本来、ステーブルコイン事業は、決済や清算に伴う手数料収入やサービス収益を主軸として成立すべきビジネスである。準備金から得られる運用収益は、あくまで“補完的収益”という位置づけにとどめるのが望ましい。
なぜなら、政策金利は将来再びゼロ近傍(0〜0.25%)まで低下する可能性がある以上、運用収益を前提に固定費を配分し過ぎる事業設計は、安定性を損なう。
そのため、準備金運用収益の限界利益率は理論上100%に近いという前提を置いたうえで、規制対応やシステム維持に関わる固定費を一部織り込み、利益率を90%と設定している。
※限界利益率:売上が1単位増えたときに、どれだけ利益として残るかを示す割合
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さて、ここまで見てきたように、SoFi USDが生み出す準備金運用収益は、ステーブルコイン事業における重要な収益の柱の一つである。
もっとも、この収益源だけに依存した事業設計は、必ずしも安定的とは言えない。
というのも、政策金利がゼロ近傍に低下する局面が再び訪れた場合、準備金運用収益も大きく縮小する。政策金利はSoFiがコントロールできるものではなく、この収益源はマクロ環境の影響を強く受ける。加えて、特にSoFi USDの発行開始当初は、流通量拡大のため、流動性を提供するLPや取引所などのパートナーに対して、運用収益を大胆に配分する戦略が採られる可能性もある。
だからこそ、準備金運用収益に加えて、暗号資産取引市場(B2B領域)における金融インフラとしての“サービス収益”を、もう一つの収益の柱として捉える必要がある。次回は最終章として、この“サービス収益”について掘り下げていく。
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