宿題|ひとりじゃない
田中先生から電話があったのは、金曜日の夕方だった。
「お疲れさまです。明日の土曜参観の出席確認のためにお電話しました。」
土曜参観。また私一人で行くことになる。田中先生が担任する息子のクラスは、教育熱心なご両親が多い。
シングルの私はいつも少し肩身が狭い。
教室に向かう廊下で、見覚えのある男性とすれ違った。同じクラスの山田くんのお父さんだ。奥さんを亡くされてから、一人で学校行事に参加されている。
「お疲れさまです」
軽く会釈を交わす。平静を装ったが、内心ではドキドキしていた。
参観が終わって教室を出ると、山田さんが廊下で待っていた。
「お疲れさまでした。もしよろしければ、このあとコーヒーでも飲みませんか?」
その提案に、私は戸惑った。嬉しい気持ちと、うしろめたさが混ざり合う。
「でも、お子さんが...」
「うちの子は友達と遊ぶ約束があるので。お母さんも普段は、なかなか息抜きできないでしょう?」
気遣いの言葉が嬉しかった。
近くのカフェで、私たちは子どもの話をした。そして山田さんは奥さんの三回忌を終えたところだと話してくれた。私は離婚して二年。似たような境遇だった。
「親としてじゃなくて、一人の人間として誰かと話したいと思うことってありませんか?」
その言葉に、胸が熱くなった。共感と同時に、山田さんに惹かれる自分を感じた。
誘われているのかもしれないと思ったが、すぐに自分で否定した。自分の気持ちを整理することが、私の宿題になった。
家に帰ると、息子が聞いてきた。
「ママ、山田君のお父さんと何を話していたの?なんだか楽しそうだったね」
頬が熱くなった。「何を・・・」考えかけて、改めて動揺した。こんな気持ちになっていいのだろうか。母親である私が、誰かを好きになっても...
息子は続けた。「宿題で作文を書いたんだ。」
見せてくれたそれには「お母さんの笑顔」という題名がついていた。
「笑っているママが、僕は大好きだよ」
その言葉に私は思った。私が幸せでいることが、息子の幸せだと考えてはいけないだろうか。
それは自分勝手な理屈だろうか。
恋をすることは、決して一人だけの問題じゃない。でも、それは悪いことでもない。
ひとりじゃない――――――――――
シングルマザーの日常
☔雨の日のお迎え 🪑待合室の30分 😌お帰りなさい
🌊どこから来たの 📆特別な日 ☂ひとつの傘
🫴伸ばした手 👤憧れの後姿 🌞36.5度の優しさ ⏱6時過ぎのお迎え
🍉夏休みの宿題 🌇夕焼け
スキ・フォロー・コメントなど頂けると励みになります。
