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小学生でもわかるスコープ3地獄 ④

スコープ3の15カテゴリは、全部読むと眠くなる

文・武智倫太郎

はじめに

やぁ、みんな。

今日は、スコープ3の15カテゴリについて説明するよ。

いきなり嫌な予感がした子は、正しい反応である。

なぜなら、ビジネスの世界で「15カテゴリ」と言われた瞬間、人間の脳は三つ目あたりで、静かに机へ沈み始めるからである。

一つ目、原材料。

二つ目、物流。

三つ目、ええと、何だっけ。

その瞬間、会議室の空気が止まる。

そして誰かが言う。

「一覧表にしておきましょう」

一覧表。

大人の世界では、よく分からないものを一覧表にすると、理解したことになる。

ならない。

一覧表は、理解ではない。

それは、眠気を横罫線で整列させたものである。

スコープ3の15カテゴリも同じである。

何も考えずに上から順番に読むと、カテゴリ番号の森で迷子になる。

カテゴリ1。

カテゴリ2。

カテゴリ3。

そのあたりまでは、まだ人間でいられる。

カテゴリ4あたりから、目が滑る。

カテゴリ8で、会議室の誰かが資料をめくる音だけになる。

カテゴリ15にたどり着くころには、全員が「これは重要ですね」という、何も言っていない大人の言葉を発し始める。

これは危ない兆候だ。

だから今日は、15カテゴリを暗記しない。

小学生でもわかるように、会社の外側で起きているCO₂を、三つの方向から見る。

一つ目は、会社に入ってくるもの。

二つ目は、会社から出ていくもの。

三つ目は、会社のために誰かが動いているもの。

これだけである。

スコープ3の15カテゴリは、難しそうな顔をしているが、正体はそれほど神秘的ではない。

会社の外側で、誰が、何を、どこで、どう動かしているのか。

それを数えようとしている「だけ」である。

ただし、その「だけ」が地獄なのである。

前回までの話

第1話では、スコープ3は環境部だけの話ではなく、有価証券報告書、経理部、IR部、調達部、法務部、監査法人まで巻き込む話だと説明した。

第2話では、Scope 1、Scope 2、Scope 3の違いを説明した。

スコープ1は、自分で燃やしたCO₂。

スコープ2は、買った電気や熱の向こう側で出たCO₂。

スコープ3は、それ以外の会社の外側で出たCO₂。

第3話では、取引先からCO₂調査票が来た会社で何が起きるかを見た。

総務に届く。

環境部に回る。

経理部が呼ばれる。

購買部が逃げる。

製造部が「そんなデータはない」と言う。

営業部が「取引先に出さないとまずい」と言う。

そして社長が最後に言う。

「で、結局いくらなの?」

この質問が出た時点で、会社はスコープ3の入口に立っている。

今日の第4話では、その「結局いくらなの?」をカテゴリ別に分ける。

ただし、ここで注意してほしい。

カテゴリは、会社を助けるためにある。

会社を眠らせるためにあるのではない。

15カテゴリを見た瞬間に眠くなる理由

スコープ3には、15カテゴリがある。

上流に8カテゴリ。

下流に7カテゴリ。

上流というのは、会社に入ってくるものの話である。

原材料を買う。

部品を買う。

機械を買う。

燃料を使う。

荷物を運んでもらう。

社員が出張する。

社員が通勤する。

借りた設備を使う。

こういうものが上流である。

下流というのは、会社から出ていった後の話である。

売った製品を運ぶ。

売った製品を加工する。

売った製品を使う。

売った製品を捨てる。

貸した設備を使う。

フランチャイズ店が動く。

投資先が排出する。

こういうものが下流である。

ここまで聞くと、分かった気分になる。

しかし、実務ではすぐに止まる。

なぜか。

会社ごとに、重いカテゴリがまったく違うからである。

鉄鋼会社とIT企業では、同じスコープ3でも見る場所が違う。

食品メーカーと銀行でも違う。

商社と建設会社でも違う。

自動車メーカーとアパレル会社でも違う。

だから、15カテゴリを全部同じ熱量で読む会社は、途中で体力を使い果たす。

そして疲れた会社は、最後にこう言う。

「とりあえず全部、概算で」

概算は悪くない。

初手は概算でよい。

しかし、概算の意味を分かっていない概算は危ない。

小学生の算数で言えば、答えが分からないから「100くらい」と書いているのと同じである。

100に近いのか、1,000なのか、1万なのか分からない。

これでは、自由研究ではなく、自由落下である。

カテゴリ1:購入した製品・サービス

まず、カテゴリ1。

購入した製品・サービス。

名前からして広い。

広すぎる。

会社が買ったものの多くは、ここに流れ込む。

原材料。

部品。

包装材。

外注サービス。

クラウドサービス。

清掃サービス。

広告制作。

コンサルティング。

文房具。

コピー用紙。

場合によっては、AIサービスの利用料もここに入ってくる。

会社の財布から出ていく支出の大きな部分が、カテゴリ1の候補になる。

この場面で経理部が呼ばれる。

なぜなら、会社が何を買ったかを一番知っているのは、環境部ではなく経理部だからである。

環境部は、CO₂を知っている。

経理部は、請求書を知っている。

スコープ3で本当に怖いのは、この二つが別々の部屋にあることである。

カテゴリ1は、スコープ3の中でも数字が膨らみやすい。

特に製造業では、原材料と部品が重い。

食品メーカーなら、農産物、畜産物、包装材が効く。

アパレルなら、生地、染色、縫製が効く。

IT企業なら、自社の排出量は小さく見えても、データセンター、クラウド、半導体、端末、外部サービスの向こう側が効く。

だからカテゴリ1は、ただの「買ったもの一覧」ではない。

会社の事業モデルが映る鏡である。

きれいな鏡ではない。

見たくないものも映る鏡である。

カテゴリ2:資本財

カテゴリ2は、資本財である。

資本財とは、会社が長く使う大きな道具だ。

工場。

機械。

設備。

建物。

生産ライン。

大型のIT機器。

データセンター設備。

車両。

倉庫。

会社が「今年の費用」ではなく、「長く使う資産」として買うものがここに入る。

小学生向けに言えば、毎日食べるパンではなく、パン工場のオーブンを買うような話である。

カテゴリ1が「材料」なら、カテゴリ2は「道具」である。

ただし、この道具を作るときにもCO₂が出ている。

鉄を作る。

セメントを作る。

半導体を作る。

機械を組み立てる。

船で運ぶ。

トラックで運ぶ。

工場に据え付ける。

設備投資は、未来の売上を生む。

同時に、過去のCO₂も連れてくる。

ここが大人の会計っぽいところである。

企業会計では、設備は減価償却される。

しかし、スコープ3では、その設備を作るまでに出たCO₂をどう扱うかという問題が出てくる。

会計と炭素会計は同じではない。

しかし、まったく無関係でもない。

だからカテゴリ2をまともに見ると、経理、設備、購買、製造、サステナビリティが一つのテーブルに呼ばれる。

そのテーブルの上には、たぶん分厚いエクセルが置かれる。

そして誰かが言う。

「この設備、いつ買いましたっけ?」

ここから始まる。

カテゴリ3:燃料・エネルギー関連活動

カテゴリ3は、燃料・エネルギー関連活動である。

名前だけ読むと、スコープ1やスコープ2と何が違うのか分からない。

この名前で、多くの人が眠くなる。

しかし、考え方は簡単である。

自分で燃やした燃料そのものはスコープ1。

買った電気を作るときの排出はスコープ2。

では、その燃料や電気を作って、運んで、使える状態にするまでの排出はどうするのか。

それがカテゴリ3である。

たとえば、天然ガスを使う。

ガスを燃やした瞬間のCO₂はスコープ1。

しかし、天然ガスを掘る、処理する、液化する、船で運ぶ、再ガス化する、パイプラインで送る。

この過程でも排出はある。

電気も同じである。

発電所で燃料を燃やした排出はスコープ2に入る。

しかし、発電所で燃やす燃料を採掘し、精製し、輸送する過程の排出が残る。

カテゴリ3は、そこを見る。

エネルギーを「使った瞬間」だけでなく、「使える状態にするまで」追いかけるカテゴリである。

日本のエネルギー政策が苦手なところである。

なぜなら、日本ではしばしば、発電所の入口と出口だけを見て、燃料の上流を忘れるからである。

水素もそうだ。

アンモニアもそうだ。

SAFもそうだ。

「燃やしたときにCO₂が少ない」と言う前に、それを作るための電力、熱、水、原料、輸送を見なければならない。

この話をすると、急に会議室が静かになる。

夢の燃料は、夢の請求書も連れてくるからである。

カテゴリ4:上流の輸送・配送

カテゴリ4は、上流の輸送・配送である。

会社に入ってくるまでの物流だ。

原材料を運ぶ。

部品を運ぶ。

包装材を運ぶ。

輸入品を港から倉庫へ運ぶ。

倉庫から工場へ運ぶ。

工場の前までトラックが来る。

このトラックが、どこで何を燃やしたか。

ここがカテゴリ4である。

物流は、会社の血管である。

血管が詰まると会社は死ぬ。

しかし、血管を流れているCO₂を見ている会社は、まだ多くない。

特に日本企業は、物流を外注していることが多い。

外注しているから、自社の排出ではない。

そう思いたくなる。

だが、スコープ3では、外注した瞬間に消えるわけではない。

むしろ、外注したからこそ、データをもらわなければならない。

この段階で物流会社が呼ばれる。

「トラックの燃費を教えてください」

「配送距離を教えてください」

「混載ですか、専用便ですか」

「帰り便は空ですか」

物流会社は困る。

荷主も困る。

そして誰かが言う。

「平均値でいいですか」

初手は平均値でもよい。

しかし、平均値に寄りかかったままだと、削減余地が見えない。

鉄道に変えるのか。

船に変えるのか。

積載率を上げるのか。

倉庫配置を変えるのか。

調達先を変えるのか。

スコープ3の物流は、CO₂計算だけで終わらない。

サプライチェーン設計の話である。

カテゴリ5:事業から出る廃棄物

カテゴリ5は、事業から出る廃棄物である。

工場から出る廃材。

オフィスから出る紙ごみ。

食品工場から出る残渣。

建設現場から出る廃材。

包装材の端材。

不良品。

廃溶剤。

汚泥。

大人の会社は、いろいろなものを捨てる。

捨てた瞬間、会社の視界から消える。

しかし、地球からは消えない。

廃棄物処理業者が集める。

焼却する。

埋め立てる。

リサイクルする。

破砕する。

選別する。

その過程でCO₂やメタンが出る。

カテゴリ5は、そこを見る。

すると、「リサイクルしているから大丈夫」と言う人が出てくる。

出てくるのだ。

環境会議では、必ず出てくる。

リサイクルは大事である。

しかし、リサイクルにもエネルギーがいる。

集めるにも、洗うにも、砕くにも、溶かすにも、運ぶにも、エネルギーがいる。

だから、リサイクルは魔法ではない。

リサイクルは、廃棄よりましになることが多い技術である。

魔法と技術を混同すると、会社はエコポエムを書く。

有価証券報告書に必要なのは、エコポエムではなく、根拠である。

カテゴリ6:出張

カテゴリ6は、出張である。

飛行機に乗る。

新幹線に乗る。

タクシーに乗る。

ホテルに泊まる。

海外出張に行く。

国内営業に行く。

展示会に行く。

学会に行く。

出張のCO₂は、昔から比較的イメージしやすい。

航空券の距離。

鉄道の距離。

宿泊数。

これらから計算できることが多い。

だから、スコープ3の中では、取りかかりやすいカテゴリに見える。

しかし、ここにも落とし穴がある。

出張削減だけで脱炭素をした気になる会社である。

もちろん、無駄な出張は減らしたほうがよい。

オンライン会議で済むものは済ませればよい。

しかし、製造業のスコープ3全体から見れば、出張は小さいことが多い。

原材料や製品使用時の排出が巨大なのに、出張だけを削って満足していると、会社は靴ひもを結びながら家が燃えていることに気づかない。

小さい排出を管理するな、という意味ではない。

小さい排出だけを管理して、大きい排出から目を逸らすな、という話である。

カテゴリ7:雇用者の通勤

カテゴリ7は、雇用者の通勤である。

社員が会社に来る。

電車に乗る。

バスに乗る。

車で来る。

自転車で来る。

歩いて来る。

リモートワークをする。

社員の通勤も、会社の外側で発生する排出である。

会社が直接燃料を燃やしているわけではない。

しかし、会社で働くために社員が移動している。

だからスコープ3に入る。

そこで会社は、社員にアンケートを取り始める。

「あなたの通勤手段を教えてください」

「片道距離を教えてください」

「週に何日出社していますか」

社員は思う。

ついに会社は、私の通勤までCO₂にし始めた。

そうである。

大人の自由研究は、社員の定期券にも及ぶ。

ただし、ここで重要なのは、通勤を悪者にすることではない。

拠点配置。

リモートワーク。

勤務制度。

社宅。

通勤手当。

採用地域。

こうした人事制度や働き方が、排出量にも関係するということだ。

スコープ3は、環境部だけで閉じない。

人事部にも来る。

だから地獄なのである。

カテゴリ8:上流のリース資産

カテゴリ8は、上流のリース資産である。

借りて使っている設備や建物の排出である。

自社で所有していない。

しかし、自社が使っている。

たとえば、賃借オフィス。

リースした機械。

借りた倉庫。

借りた車両。

自社所有ではないが、自社の事業のために使っている資産である。

ここは、会計上の扱いと炭素会計上の扱いが絡みやすい。

所有か。

支配か。

使用か。

契約上、誰が何を負担しているのか。

電気料金は誰が払っているのか。

共用部分はどうするのか。

テナントビルでは、会社ごとに計測できないこともある。

そこで床面積按分が出てくる。

また按分である。

按分は便利である。

便利すぎて、何でも按分したくなる。

しかし按分は、分からないものを分かったことにする呪文ではない。

どういう前提で割ったのか。

なぜその前提が妥当なのか。

後で説明できるようにしておく必要がある。

有価証券報告書に向かうスコープ3では、この説明力が会社を守る。

ここまでが上流である

カテゴリ1から8までが、主に上流である。

会社に入ってくるもの。

会社のために使うもの。

会社のために誰かが動くもの。

ここまでを見れば、会社は自分が何に依存しているかを少し理解できる。

原材料に依存しているのか。

物流に依存しているのか。

エネルギーに依存しているのか。

人の移動に依存しているのか。

設備投資に依存しているのか。

クラウドサービスに依存しているのか。

この依存関係を知らない会社は、スコープ3以前に、経営管理として危ない。

なぜなら、CO₂を数える前に、自分の会社が何で動いているのか分かっていないからである。

スコープ3は、環境開示の顔をしている。

しかし、切ってみると会社の解剖である。

切ると痛い。

でも切らないと分からない。

カテゴリ9:下流の輸送・配送

ここから下流である。

カテゴリ9は、下流の輸送・配送。

売った製品を顧客に届ける物流である。

工場から卸へ。

卸から小売へ。

小売から消費者へ。

ECなら配送センターから家庭へ。

輸出なら港、船、現地港、倉庫、配送先へ。

ここで問題になるのは、自社がどこまで関与しているかである。

自社が手配した輸送なのか。

顧客が手配した輸送なのか。

販売条件はどうなっているのか。

契約上、所有権や危険負担はどこで移るのか。

インコタームズまで出てくる。

小学生でもわかるスコープ3入門のはずなのに、急に国際取引実務が顔を出す。

怖いね。

しかし、これが現実である。

スコープ3は、環境だけの話ではない。

契約条件、貿易条件、物流設計、販売形態の話である。

だから、国際取引をしている会社ほど、単純なエクセルでは済まない。

カテゴリ10:販売した製品の加工

カテゴリ10は、販売した製品の加工である。

自社が売った中間製品を、顧客がさらに加工する場合に関係する。

たとえば、素材メーカーが樹脂を売る。

顧客が成形する。

鉄鋼メーカーが鋼材を売る。

顧客が部品に加工する。

化学メーカーが原料を売る。

顧客が製品にする。

この加工過程で排出が出る。

それをどう見るか。

ここはB2B企業に刺さる。

最終製品を売っていない会社ほど、自社の製品がどこでどう使われているのかを追いにくい。

「売った後のことは顧客の問題です」

そう言いたくなる。

しかし、スコープ3は言う。

売った後も見ましょう。

大人の世界はしつこい。

このカテゴリで必要になるのは、顧客理解である。

どの業界に売っているのか。

どの工程で使われるのか。

どの程度のエネルギーが必要なのか。

製品仕様が変わると、顧客の排出は変わるのか。

ここまで見ると、スコープ3は営業戦略にも関係する。

低炭素素材を売る。

加工しやすい材料を売る。

歩留まりを改善する。

顧客の工程を軽くする。

これは開示だけでなく、商品開発である。

カテゴリ11:販売した製品の使用

カテゴリ11は、販売した製品の使用である。

スコープ3の中でも、数字が跳ね上がりやすいカテゴリである。

自動車を売る。

その自動車が走る。

ガソリンを燃やす。

家電を売る。

その家電が電気を使う。

ボイラーを売る。

顧客が燃料を燃やす。

建機を売る。

現場で軽油を使う。

売った製品が、使われている間に排出する。

それがカテゴリ11である。

ここは、企業のビジネスモデルに直撃する。

自社工場の電気を再エネにしました。

本社ビルをLEDにしました。

社用車をEVにしました。

それはよい。

しかし、売っている製品が使用時に大量の燃料や電力を使うなら、会社全体の排出構造はそこに出る。

自動車メーカーにとって、使用時排出は避けて通れない。

家電メーカーにとっても、製品の省エネ性能は避けて通れない。

機械メーカーにとっても、顧客が使うときの効率は避けて通れない。

ここで、日本企業の得意技が顔を出す。

厳しい燃費基準。

省エネ基準。

品質基準。

耐久性。

長寿命設計。

保守性。

こうしたものは、スコープ3時代には品質にとどまらず、排出削減の武器になる。

厳しい基準は、対応できない会社には罰ゲームである。

対応できる会社には、参入障壁である。

ここを理解しないまま、「緩い規制がチャンス」などと言う人がAI政策を語ると、なかなか味わい深い地獄が生まれる。

日本企業が世界で勝ってきたのは、緩い基準で好き放題をしたときではない。

厳しい基準を、工程管理、品質管理、証跡管理に落とし込んだときである。

スコープ3も同じである。

面倒くさい基準を、取引先に見せられる能力に変えられる会社は強い。

カテゴリ12:販売した製品の廃棄

カテゴリ12は、販売した製品の廃棄である。

売った製品は、いつか捨てられる。

燃やされる。

埋め立てられる。

リサイクルされる。

分解される。

回収される。

中古品として再利用される。

その最後のところを見るのがカテゴリ12である。

ここからプラスチックの話が出る。

レジ袋の話も出る。

包装材の話も出る。

家電リサイクルの話も出る。

食品容器の話も出る。

太陽光パネルの廃棄も出る。

バッテリーのリサイクルも出る。

製品の終わり方は、製品の設計段階で半分以上決まる。

分解しやすいか。

材料が混ざりすぎていないか。

回収ルートがあるか。

有害物質が含まれていないか。

リサイクル材として使えるか。

カテゴリ12は、廃棄物処理業者だけに押し付けられる話ではない。

設計部門の話である。

開発部門の話である。

調達部門の話である。

販売後の回収スキームの話である。

「売ったら終わり」の会社は、スコープ3時代にはだんだん苦しくなる。

売った後も、製品は会社の影を引きずる。

カテゴリ13:下流のリース資産

カテゴリ13は、下流のリース資産である。

自社が他社に貸している資産の排出である。

たとえば、機械を貸す。

車両を貸す。

建物を貸す。

設備を貸す。

それを借りた相手が使う。

その使用に伴う排出を見る。

リース会社、不動産会社、機械メーカー、車両提供会社などに関係しやすい。

ここにも契約が絡む。

誰がエネルギーを買っているのか。

誰が運用しているのか。

誰が保守しているのか。

誰が利用実態を把握しているのか。

所有しているが、使っていない。

使っていないが、収益を得ている。

この微妙な関係を、炭素会計は見逃してくれない。

会計、契約、運用データが必要になる。

またしても環境部だけでは終わらない。

カテゴリ14:フランチャイズ

カテゴリ14は、フランチャイズである。

コンビニ。

外食チェーン。

小売店。

サービス店舗。

ブランドや仕組みを本部が提供し、加盟店が運営する。

この場合、加盟店で発生する排出をどう見るか。

電気を使う。

ガスを使う。

冷蔵庫を動かす。

調理する。

配送を受ける。

廃棄物を出す。

店舗が多ければ多いほど、排出も積み上がる。

フランチャイズ本部は、自社が直接運営していない店舗について、「知らない」と言いたくなる。

しかし、ブランド、商品、運営マニュアル、設備仕様、物流網、販促を本部が設計しているなら、排出構造にも影響している。

ここで本部の実力が試される。

加盟店に無理を押し付けるだけではだめである。

冷凍冷蔵設備の効率。

店舗照明。

配送頻度。

食品ロス。

廃棄物回収。

再エネ調達。

こうしたものを、加盟店が実行できる形に落とさなければならない。

フランチャイズのスコープ3は、本部の机上の空論と現場のレジ横の現実がぶつかる場所である。

カテゴリ15:投資

カテゴリ15は、投資である。

最後に投資が来る。

金融機関、商社、持株会社、投資会社にとっては、ここが本丸になる。

投資先の排出。

融資先の排出。

プロジェクトファイナンス先の排出。

株式保有先の排出。

金融機関が自分のオフィスをLEDにしても、融資先が巨大な排出事業をしていれば、全体の気候影響はそこに出る。

銀行の本店ビルがどれほど省エネでも、融資ポートフォリオが何に向いているかのほうが重いことがある。

ここでようやく、お金の向こう側にCO₂が見えてくる。

いや、正確には、お金そのものがCO₂を出すわけではない。

お金がどの事業を動かしているかを見ると、その向こう側に排出がある。

これがカテゴリ15である。

だから、サステナブルファイナンス、トランジションファイナンス、グリーンボンド、GX経済移行債、カーボンクレジット、プロジェクトファイナンスは、全部どこかでつながってくる。

投資は、未来への投票である。

ただし、その投票用紙にはCO₂のインクが付いている。

15カテゴリは、全部同じ重さではない

ここまで15カテゴリを見てきた。

疲れたね。

これを毎年やる会社も疲れる。

しかし、肝心なのは、15カテゴリを全部同じ重さで扱わないことである。

製造業なら、カテゴリ1、2、3、4、11、12が重くなりやすい。

食品なら、カテゴリ1、4、5、12が効くことが多い。

自動車や家電なら、カテゴリ11が巨大になりやすい。

金融なら、カテゴリ15が本丸になる。

IT企業なら、自社オフィスよりも、クラウド、データセンター、半導体、外部サービス、電力、顧客利用の扱いが問題になる。

商社なら、取引形態、物流、投資、販売先、連結範囲が絡む。

建設なら、資材、建設機械、廃棄物、建物使用時の排出が問題になる。

スコープ3の実務は、15カテゴリを全部暗記することではない。

自社に刺さるカテゴリを見つけることだ。

これを重要性という。

英語で言えば、マテリアリティである。

また横文字が出た。

大人はすぐ横文字を出す。

しかし、意味は簡単である。

大事なところから見る。

それだけである。

最初から完璧にやろうとすると失敗する

スコープ3で起きがちな失敗は、最初から満点を取りに行くことだ。

全カテゴリ。

全拠点。

全取引先。

全製品。

全データ。

全証跡。

全削減計画。

全部やろうとする。

そして倒れる。

会社には、いきなり全身MRIを撮る体力がないこともある。

最初は健康診断でよい。

どこが危ないのか。

どこが大きそうなのか。

どこにデータがあるのか。

どこにデータがないのか。

誰に聞けばよいのか。

どの部署が逃げるのか。

どの取引先が答えられないのか。

これを把握する。

初年度は、粗い推計から入るしかないこともある。

ただし、荒いなら荒いと分かるようにする。

推計方法を書く。

排出係数を書く。

データの範囲を書く。

除外したものを書く。

来年改善するところを書く。

ここで手を抜くと、後で帳尻が合わなくなる。

適当に作った数字を、精密そうな表に入れるから危ない。

粗い数字は、粗い数字として扱う。

この正直さが、後で会社を救う。

スコープ3は、会社の外側にある経営リスクである

15カテゴリを見れば分かる。

スコープ3は、環境の話に見える。

しかし、ページをめくると経営リスクの棚卸しである。

原材料が高騰する。

燃料が高騰する。

物流が止まる。

取引先がデータを出せない。

海外子会社の数字が分からない。

クラウド利用が増える。

AI利用が増える。

廃棄物処理費が上がる。

規制が変わる。

顧客が低炭素製品を求める。

投資家が開示を求める。

監査法人が証跡を求める。

有価証券報告書に書くなら、根拠が必要になる。

この全部が、スコープ3の15カテゴリのどこかに入ってくる。

だから、15カテゴリは退屈な表ではない。

会社の弱点リストである。

ただし、見方を変えれば、競争力リストでもある。

原材料を押さえている会社は強い。

物流を設計できる会社は強い。

省エネ製品を作れる会社は強い。

廃棄後まで考えて設計できる会社は強い。

投資先の排出を説明できる金融機関は強い。

サプライヤーと一緒に改善できる会社は強い。

スコープ3は罰ゲームであると同時に、企業の実力テストでもある。

本日のまとめ

今日の話をまとめる。

スコープ3の15カテゴリは、全部読むと眠くなる。

しかし、眠くなるのは、読み方が悪いからである。

カテゴリ1から8は、主に会社に入ってくるものを見る。

カテゴリ9から15は、主に会社から出ていった後を見る。

カテゴリ1は購入品・サービス。

カテゴリ2は設備などの資本財。

カテゴリ3は燃料や電気の上流。

カテゴリ4は上流物流。

カテゴリ5は廃棄物。

カテゴリ6は出張。

カテゴリ7は通勤。

カテゴリ8は借りた資産。

カテゴリ9は下流物流。

カテゴリ10は販売後の加工。

カテゴリ11は販売後の使用。

カテゴリ12は販売後の廃棄。

カテゴリ13は貸した資産。

カテゴリ14はフランチャイズ。

カテゴリ15は投資。

覚える必要はない。

自社にとってどれが重いかを見る。

どの部署がデータを持っているかを見る。

どの取引先に聞かなければならないかを見る。

どのカテゴリを最初に精度改善すべきかを見る。

それが実務である。

スコープ3は、会社の外側を数える話である。

しかし、会社の外側を見ようとすると、会社の内側がどれほど整理されていないかが分かる。

ここで地獄の扉が、静かに開く。

次回は、この地獄を少し明るい方向から見る。

厳しい基準で勝つ国、緩い規制で沈むAI。

日本企業は、スコープ3で本当に負けるだけなのか。

それとも、厳しい基準を競争力に変えるいつもの変態的な技を、もう一度使えるのか。

そして、なぜAI政策で「規制が緩いからチャンス」などと言う発想が危ないのか。

その話をしよう。

連載リンク

第1話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ①|有価証券報告書にCO₂がやってくる

https://note.com/aiethics496/n/n5467ae1329fa

第2話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ②|Scope 1・Scope 2・Scope 3は何が違うのか

https://note.com/aiethics496/n/nc397d8f23175

第3話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ③|CO₂調査票が来た会社の末路

https://note.com/aiethics496/n/nb823fd9a43e7

第4話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ④|スコープ3の15カテゴリは、全部読むと眠くなる

https://note.com/aiethics496/n/n385045ac862c

第5話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ⑤|厳しい基準で勝つ国、緩い規制で沈むAI

https://note.com/aiethics496/n/n219d91fc6a14

第6話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ⑥|レジ袋で地球を救えると思った国の有報開示

https://note.com/aiethics496/n/n587496f58475

第7話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ⑦|廃食油はどこにも余っていない

https://note.com/aiethics496/n/n9b8378886dcf

第8話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ⑧|水素は夢のエネルギーではなく運び屋である

https://note.com/aiethics496/n/ne0e33cc6ee07

第9話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ⑨|化学肥料が止まると、持続可能な農業は江戸時代に戻る

https://note.com/aiethics496/n/n16ed7ab944b4

第10話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ⑩|植林クレジットは木を植えれば終わりではない

https://note.com/aiethics496/n/nd0b21f6d8176

第11話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ⑪|AIデータセンターは電気を食ってCO₂を吐く

https://note.com/aiethics496/n/n88c755206bc5

第12話:小学生でもわかるスコープ3地獄 ⑫|企業は自社の外側を知らない

https://note.com/aiethics496/n/ndde4684c9afd

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