ママちゃんのお弁当🌸 子ども時代編
小学校の卒業式が終わり、
春休みに入った頃の話だ
当時流行していたアイドルグループの
映画を観るため、私は友人とバスに乗って
街へ出かけた
出かける前、ママちゃんからお金を渡された
「中学で使うお弁当箱、買っておいで」
今なら不思議ではない話だが、
当時の私はお弁当生活というものを
ほとんど知らなかった
幼稚園の頃にお弁当を持った記憶はあるものの、
それ以降は給食生活だった。他人のお弁当を
じっくり見るような機会も無かった
だから私は、お弁当箱がどんなものなのか
よく分かっていなかった
映画を観たあと、友人とデパートを歩き回った
お弁当箱はどこに売っているのだろう
そう考えながら辿り着いたのは、鍋や食器、
保存容器などが並ぶ金物売場だった
お弁当は食べ物だし、
この辺りに入れ物はあるだろう
容器コーナーには様々な大きさの入れ物が
並んでいた
私は真剣に選んだ
ピンク色で、パッキンも付いている
大きさも十分
お弁当も入りそうだ
「これだ」
満足して購入し、家へ帰った
得意げにママちゃんへ見せる
ところが反応は予想外だった
「これにお弁当入れていくの?」
そう言って、しばらく困惑した顔をしていた
うーん、とまで言われた
私は意味が分からなかった
容器なのだから、お弁当は入る
何が問題なのだろう?
今なら分かる
ママちゃんは、サンリオのキャラクターが
付いたような可愛らしいお弁当箱を
想像していたのだろう
母としても可愛いお弁当箱に何を入れようか
構想してたかもしれない
一方の私は、容器コーナーで選んだ
保存容器のような
大きなピンクの入れ物を持ち帰った
お互いの認識が違っていたのである
結局、そのお弁当箱は採用された
今思えば、私だけに選ばせたママちゃんも少し
油断していたのかもしれない
そして迎えた中学校初日
クラスは近隣の小学校三校から集まった生徒で構成されていた
知っている顔もいる
けれど知らない顔の方が圧倒的に多い
教室の空気も友人関係もまだ分からない
十二歳の私は、かなり緊張していたと思う
昼休みになる
今振り返ると、お弁当を食べることさえ少し緊張していた
家なら気にしないことも、周囲の目が気になる
大きな口を開けないようにしよう。
ご飯をこぼさないようにしよう。
みんなもきっと、少し背伸びをしていたのではないだろうか
そんな中でナプキンを開く。
透明な蓋の向こうから見えたのは、好物の海苔巻き
私は当時、好き嫌いが結構あった
ママちゃんなりに考え、
私の好きなものを入れてくれたのだろう
知らない顔が並ぶ教室の中で、見慣れた海苔巻きを見た瞬間、
少しだけ緊張がほどけた
あの時のお弁当は特別豪華だったわけではない
けれど新しい学校、新しい環境の中で、
知っている味がそこにあった
それだけで十分だった
今ではお弁当箱をいくつも持っている
けれど最初に自分で選んだお弁当箱は、
デパートの容器コーナーで選んだ大きなピンクの容器だった
「これにお弁当入れていくの?」
困惑したママちゃんの顔も、
透明な蓋の向こうに並んだ海苔巻きも、
今でもはっきり覚えている
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