外為特会の基礎⑬:積立金制度廃止とFBの償還(外為特会改革について)
前回、外為特会の積立金および外為特会改革の議論をしました。今回はそれの続きです。今回は下記の議論を前提とします。
外為特会の基礎⑫:外為特会改革と外為特会の積立金制度について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
前回議論したとおり、外為特会は、円調達、ドル運用というキャリートレードを行うファンドのような側面を有しています。これは介入を行うことから生まれる構造上の問題であり、銀行のように外貨調達、外貨運用というリスク管理ができません。したがって、大きな為替リスクに備え、積立金制度を有していました。
そのような中、民主党政権のときにこの制度が見直され、結果的に積立金制度が廃止されました。というのも、まず、BSを見てもらうと、以前は、財投預託金という形で資産サイドに、円資産を積立金として保有していました。したがって、下記のように、資産側と負債側に円資産(財投預託金)と円負債(FB)が立ちます。

そのため、円資産とFBをキャンセルしてしまえばいいのでは(円資産でFBを返済してしまえばいいのでは)という考えがあり得、民主党政権時にはそのような改革がなされました。その概要は下記の通り、記載されています。

積立金制度の見直しについて図で示したものは下記の通りです。下記の右図からも、「財投預託」から「FB償還」ということが確認できます。

積立金廃止によるBSの変化
ここで実際のBSへの影響を確認します。外為特会改革以前であると、下記のように、BSの資産サイドに、現金・預金が20兆円程度あり、そのうち19兆円くらいが財投預託金になっていました。

その一方、それでは最近のBSを見たものが下記の通りです。下記をみると、そもそも財投預託金という部分がありません。さらに、円貨預け金自体が3兆円と大幅に圧縮されていることがわかります。

BSにおいて「財投預託金」という表示がなくなり、「円貨預け金」になったのは、平成27年度の特別会計ガイドブックからですが、それ以降のガイドブックをベースに円貨預け金の推移を見ていくと、下記の通りです。これをみると2012年に18兆円近くあった積立金が毎年4兆円くらいのペースで減っていき、2016年に2-3兆円で横ばいとなっていることがわかります。これが減った分については、FBの発行が抑えられた、と解釈されます。

それでは外為特会のリスク管理はどうなったか
もっとも、外為特会のリスク管理が大幅に変わったかというとそうではありません。金融機関のリスク管理上、外為特会のようなBS構造を有する場合、資産サイドに一定のバッファーを設けて、損失に備えるということが主軸にならざるを得ません。
現在、そのバッファーは、積立金と呼ばれず、剰余金という表現になっています。下記が特別会計ガイドブックの書きぶりになりますが、今でも、外貨資産の30%以上をバッファー(剰余金)とすることを目指しており、令和3年度末時点で18.6%であることから、外為特会で計上された収益を一定程度繰り入れるという措置が取られています。

この外貨建ての剰余金ですが、円貨建てでファンディングして外貨資産で稼いだ部分(のうち一般会計に繰り入れていない部分)ということなので、BSにおける資産と負債の差額、すなわち、「資産・負債差額」が「剰余金=バッファー」に近い概念と整理されます。外貨資産の30%という水準に賛否両論があるでしょうが、円ドルの為替変動が大きいことは確かだし、どこかに水準を設けなければならないことも確かでしょう。30%という水準が維持された点も特徴といえるとおもいます。

民主党政権時における積立金廃止のまとめ
それでは、民主党政権時に行った積立金制度の廃止はなんだったのかというと、運用を行う際、リスクに備えるバッファーを無くしたというわけでなく、あくまで円資産で保有していた部分(財投預託)をFBの返済に充てて、FBの発行を縮小させたということです。その一方で、FBを圧縮して以降、バッファーについては外貨資産で、やはり30%の資産超過(資産・負債差額)になるように、適時、運用益を繰り入れてがんばっていきましょう、ということなのだとおもいます。VaR的な発想でリスク管理するなら自然な対応だと整理できます。
なお、FBと財投預託のキャンセルが必ずしもFBの発行による調達コスト減につながらない点に注意してください。というのも、外為特会により発行されるFBの金利負担分については、財投機関に貸し出す際に相応の金利負担を求めればいいし、あるいは、他の円建ての安全資産で運用する手段もあるからです(そもそも財投は政府系金融機関や地方自治体のために政府がグループファイナンスしてあげるという発想です)。BSとしてはすっきりした、という点も指摘できるとおもいます。
この改革についていろいろな意見があるでしょうが、河上(2016)では
外国為替資金が保有する外貨資金が増大するにつれて外為資金特会の歳入歳出の決算上の剰余金が増大し、この円貨現金が積立金として積み立てられてきたわけで、こうした円貨現金は実質的に見て外為証券の発行により調達されたものであった。
そしてこうした構造の経済的な実質をみると、短期で円貨資金調達を行いその円貨資金を財政融資資金に長期預託することにより、長期金利と短期金利の利鞘に相当する金額をさらに外為資金特会の歳入に計上するということになっていたのである。短期で資金調達しそれを長期運用することにより生じる利鞘を国の歳入に計上するということは、そもそも日本政府が行うべきことかという問題を抱えていたのであった。
こうしたことを考慮すると、積立金制度の廃止は当然行われるべきものであり、むしろ遅すぎた改革といっても過言ではなかろう(p.382)
と評価しています。
この整理については、必要に応じて適時修正していきます。これまで外為特会について継続して記載しているので、関心がある読者は下記を参照してください。
外為特会の基礎①:外為特会のBSと為替介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎②:運用の概要|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎③:外国為替資金証券(為券)について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎④:日本には非不胎化介入は存在しない?|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑥:外貨準備と外為特会の違い|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑦:国債整理基金特会との関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑧:IMFとの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑨:外為特会が有する外貨資産の活用とチェンマイ・イニシアティブ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑩:為替介入と民間銀行のBSの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑪:為替介入や特会の運用に関する財務省の体制|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑫:外為特会改革と外為特会の積立金制度について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
