外為特会の基礎⑫:外為特会改革と外為特会の積立金制度について
近年の外為特会の重要な改革として積立金制度の廃止があります。今回についてこれについて取り上げます。
かつて外為特会には積立金というものがありました。積立金を持つロジックとしては、そもそも外為特会は円の短期ファンディングをして、主にドル資産で運用するファンドです。これはいわば円キャリートレードをするヘッジファンドみたいなものであり、円ドルのボラティリティが高いことを考えると、大幅に損失を計上するリスクを有しています。仮に特会で大損するということになると、可能性を言えば国民負担ということもあり得ます。
積立金の発想は民間金融機関のリスク管理と同じ
通常、為替リスクは大きいため、銀行や生保などの金融機関だと、外貨で運用する場合、外貨ファンディングすることで為替ヘッジをします(このために為替スワップなどが使われるのですが、これについては私のJGBの教科書を待ってください)。しかし、そもそも外為特会は、円高を抑制するために、ドルを買うことで積みあがっており(介入とは円ファンディングしてドルを買うことです)、その資金として円ファンディングをしているため、構造的に外貨のミスマッチが生まれます。そのため、外為特会の資産サイドがドル、負債サイドが円という構造は避けられません。
実際、民間金融機関も、すべてのリスクをヘッジをしているわけではなく、リスクをとっています(というより、リスクをとることが収益の源泉なので、リスクをとる適切な範囲を選択しているといったほうが正しいでしょう)。この場合、民間金融機関のリスク管理については、通常、運用から生まれる損失額を見積もって(これは典型的にはVaRなどで計算します)、その損失額が例えば自己資本(=リスクをとってもよいと考えているからの調達額)に収まるような運営されています。これであれば、損失を計上しても、株式投資家にその責任をとってもらえばいいということになります。
私の理解では、外為特会の積立金も同じ発想です。外為特会の場合、株主みたいなものはないので、かつての利益を積み上げて積立金とし、それを民間でいうところの自己資本のようにして備えるということです(民間の場合、利益を積み上げたものは自己資本になります)。
UIP(カバーなし金利平価)という観点でみた外為特会の運用
そもそも、外為特会の場合、円でファンディング(=低金利)して、ドルで運用する(=高金利)ということなので、金利収入は得られます。しかし、内外金利差がある場合、UIP(カバーなし金利平価)が成立していれば、ドル高になるので、外為特会は為替差損が生まれます。つまり、内外金利差がある場合、ファイナンスのスタンダードな理論では、
・利息収入では益(PLで益)
・為替評価では損(BSで損)
という構図になります。しかし、これも、よく知られているように、UIPは実証研究では成立していないので、結果的に、日本の外為特会は高金利を得ながら、円安で儲けることができました。
今後もこれが続くかということですが、読者がこのストーリーを本当に信じるなら(つまり、海外の金利は高いまま、円安になるというストーリー)、為替でも金利収入でも儲かるので、今すぐ、すべて円資産をなげうってドルに換えればいいという話になります。しかし、かつてのチャートをみて運用して大損をした人は山ほどいますし、また、UIPは長いスパンで見れば成立するという可能性もありますから、一定の積立金があってもいいのでは、という話になるわけです。
問題はこの積立金をどれくらい積み立てるかです。かつての外為特会の運用では、積立金を定めるうえで、保有外貨資産の30%が目安とされていました。円ドルの為替レートがかなりボラティリティが高いことを踏まえ、VaR的な発想でリスク量を計算すれば、かなり大きな損失が計算される可能性があり、30%というのも一つの考え方ともいえます。かつての積立金は、30%に満たないことから、これを目指して繰り入れていました。もっとも、これだと多すぎるという議論も十分あり得ると思います。実際のところ、VaRでリスク量を計算する場合、計算する期間や保有期間などをどう設定でかなり変わりますし、その金額は日々変わります(為替の場合大きく変化するでしょう)
積立金繰り入れのイメージ
かつての積立金の具体的なイメージは下記の通りです。例えば、19年度に3.9兆円の利益が上がっています。これを、1.8兆円を翌年度の一般会計に組み入れて、残りの2.1兆円は積立金として積み立てるということをやっていました。積立金は、17.5兆円であったところ、19.6兆円というかたちで、2.1兆円積みあがるというわけです。

下記が、制度改正前における一般会計への繰り入れと積立金ですが、積立金は確かに増加していっているということがわかります。

なお、この積立金の実際の運用については、筆者の理解では、財投預託という形で、財投に流れていました。つまり、外為特会の運用で利益が上がったものについては、同額をFB(円建て)を発行して、一部を一般会計を繰り入れ、残りは財投への預金という形で積み立てることをしていました。
そもそも、為替リスクに備えるために積み立てるので、その積立金が外貨であった場合、積立金自体がリスクにさらされるとみることができます。そのため、積立金は円建てにして積み立てることにするわけですが、その一方で、財務省は財投という形で政府系金融機関に貸し出しているため、銀行に預けたり、国債で運用するのではなくて、財投で運用しようという発想になったのだと思います。外為特会は、FB(円建て)でファンディングしていたため、積立金の分については、円建てファンディング(=FB発行)、円運用(=財投で運用)という形で、円調達・円運用となっていたことを意味します。
これが民主党政権において改革がなされたのですが、ここまでで長くなったので次回記載します。上記については必要に応じて加筆・修正しますが、これまで外為特会について継続して記載しているので、関心がある読者は下記を参照してください。
これまでのメモ
外為特会の基礎①:外為特会のBSと為替介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎②:運用の概要|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎③:外国為替資金証券(為券)について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎④:日本には非不胎化介入は存在しない?|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑥:外貨準備と外為特会の違い|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑦:国債整理基金特会との関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑧:IMFとの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑨:外為特会が有する外貨資産の活用とチェンマイ・イニシアティブ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑩:為替介入と民間銀行のBSの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑪:為替介入や特会の運用に関する財務省の体制|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑫:外為特会改革と外為特会の積立金制度について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑬:積立金制度廃止とFBの償還(外為特会改革について)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑭:外為特会における適切な剰余金(30%ルール)とリスク管理(VaR)の考え方|服部孝洋(東京大学)
外為特会の基礎⑮:2022年の円買い為替介入と不胎化介入について|服部孝洋(東京大学)
