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16 北極ねずみ 【クリスマス連続ショートショート】

 ピーナッツを齧るのをやめると、小人が急に真剣な顔になった。ゆっくりと、わたしたちに向かって喋り出した。

※ ※ ※

 北極の、おそろしい怪物のせいだ。小津絵さんとやらがいなくなったのは。
 北極から、怪物が逃げ出した。私はそれを捕まえに来たんだよ。
 怪物の名前は「北極ねずみ」。そう呼ばれている。

 そもそも、北極にはねずみはいない。けれども、それはねずみによく似ている。
 誰かが悲しくて流した涙。絶望でついたため息。それらが風にのったり、波にのったりして、いつしか北極までたどりつく。たどりついた挙句、寒さで凍る。凍ったカケラが、吹き溜まりに積み重なる。積み重なってくっついて、いつの間にか固まって動き出したもの。それが北極ねずみだ。

 本当は名前なんかなかったのだけれど、動物たちやイヌイト、ユッピクたちは、『それ』のみかけそのままに、『ねずみ』と呼んでいる。

 白い毛並みをしている。小さな体をしている。尾は長い。赤い瞳をしている。

 北極ねずみの目を見てはいけない。
 北極ねずみは目を見たものの願いを叶える。ほんの一瞬だけ。夢の中で。
 夢から覚めると、自分もねずみの仲間にされている。

 冬に天候が荒れたとき、北極の先住民は、仲間をひとり、北極ねずみの生贄にする。
 ねずみが嘆き悲しむと、大雪が降ると言われているからだ。
 差し出された先住民は、ねずみの仲間になる。仲間ができて、ねずみは寂しくなくなる。やがて空が晴れる。
 そう言われている。

 ※ ※  ※

「小津絵さん、ねずみになっちゃったってこと?!」
小人の話に野崎さんが大声をあげた。
「そうだ。私は、そう思う」
「その割には、全然晴れてないけど」
田中さんが果敢にもコーヒーをすすりながら聞く。
「そうだな。むしろ、どんどん寒くなってる」
小人が何か考えるようにうつむいた。
「よっぽど、悲しいことがあるんだろうな」
「なんで小人がそんなねずみ捕まえにくるの?」
聞いてみる。小人が顔をあげた。
「北極ねずみは我々の仲間だからだよ。『願いを叶えたらネズミにする』。『良い子になればプレゼントをくれる』。サンタと似てるだろ?」
「前か後かでだいぶ違うよ」

「『逃げ出した』って、きちんと捕まえとけよ! そんなばけもの!」
野崎さんは随分怒っている。
「うーん」
小人が腕を組んだ。
「2年前だ。ねずみが逃げたのは。ずっとおとなしかったのに」
「2年も放置してたのかよ!」
「騒ぐな半ソデ。放置してたんじゃない。ちゃんと監視役をつけた。いざというときの伝票も持たせたはずだ」
小人が腕を組んだまま、店の中を見まわした。机の上に置いたままになっていた私のラジオを見て言った。
「いいラジオだな。それ」
「壊れてるのよ」
答えると小人がちょっと怒ったような顔をした。
「へえ。うんともすんとも言わないのか?」
「勝手に喋るの」
「そういうことも、あるだろうな」
小人がえへんと咳払いをした。突然大きな声で喋りだした。

「皆さん。よく聞きたまえ。私は、テキストの小人。サンタクロースの小人にして、小人の長だ。要するに偉い。北極ねずみの脱走は私のせいじゃないけれど、暴れ放題になったのは、長たる私の責任だ。責任をとろう。書類を書くよ」

「書類?」
田中さんが聞く。
「そう。書類」
普通の声に戻った小人が答えた。
「誰か、伝票もってる人はいるか? サンタクロースの伝票だ」
小人がわたしたちを見回す。
「サンタクロースの伝票って……」
田中さんが複雑な顔をした。
「そう。お前が好き放題に使ってたやつ。サンタクロースのおもちゃ工場にプレゼントを発注する伝票。良いこの願いがなんでも叶う魔法の伝票だ」
「もう、ないよ」
「知ってるよ」

伝票。伝票ってなんだっけ。

「今夜中に書くから、静かなところに連れてってくれ」
小人がため息混じりに言う。
「伝票がないのは、きついけど」

「書類がかけたら、小津絵さん戻ってくるのか?」
野崎さんが聞く。
「そうだな。上手に書ければ」
「今すぐ書け。ここかしてやる」
野崎さんが私と田中さんを手招きする。
「ごめん。店、こいつにかすわ」
「俺、あんな雪の中駅に戻る自信ないよ」
田中さんが泣きそうな声を出した。実は私もだ。
「俺んち泊まってけ。狭いけど。お嬢ちゃんも、もしよければ」
頷いた。外は極寒だ。

「半ソデ、そのラジオも持ってけ」
店を出ようとする私たちに小人が言った。
「万が一のためだ」
野崎さんが言われた通りにラジオを手に持った。
「ダメだったら、すまない。あとは任せた。その時はな」
外に出ていく私たちに向かって、なぜかまた大きな声で小人が言った。

ショートショート No.529

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このお話は12月1日から25日まで毎日更新される
お話のアドベントカレンダーです。

連続ショートショート サンタクロースとねずみの王さま
目次

1st week お天気配送業

12月1日 小さなねずみのはなし(その1)
12月2日 おかしなラジオ(お天気配送業 柊屋提供)
12月3日 父親
12月4日 名刺

2nd week 思い出採掘業
12月5日 おかしなラジオ(思い出採掘業 佐々木のこづち提供)
12月6日 ササキノキッチン
12月7日 化石
12月8日 小さなねずみのはなし(その2)
12月9日 失踪
12月10日 手紙
12月11日 着信

3rd week ヒーロー呼び出し業
12月12日 おかしなラジオ(ヒーロー呼び出し業 ノザキ電機提供)
12月13日 録音
12月14日 小人
12月15日 小さななずみのはなし(その3)
12月16日 北極ねずみ
12月17日 不発


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