14 小人 【クリスマス連続ショートショート】
「にがっ!」
野崎さんが出したコーヒーを口に含んだ田中さんが声をあげる。
「何このコーヒー。毒?」
「イタリア風だ」
野崎さんが剥き出しの腕を組む。
「自称だけど」
「宝さんとこのより苦いよ!」
田中さんがカップに入ったコーヒーの匂いをかいで、確かめるように一口飲む。
「にがっ!!」
「癖になるだろ? 結構人気あるんだ」
「みんな舌が麻痺してるんじゃないの?」
「なんていうか、気合が入るって」
「気を張ってないと、意識持ってかれそうだもの」
「ピーナッツは、お菓子じゃない」
田中さんのカップのすぐ横で、小人がピーナッツを齧っている。
「コーヒーといったらピーナッツだろ」
野崎さんはあくまで自信満々だ。
小皿に盛られたピーナッツの殻をむいて、私もひとつかじる。こりこりしてる。田中さんの反応を見てからではコーヒーに口をつける勇気がない。
「で、小津絵さんについてだけど」
野崎さんがにこにこしながら言う。目が笑っていなかった。
「何かわかることがあるんだろ?」
「そうだな」
小人がピーナッツを齧るのをやめた。
「私がここに来たのもそのせいだ。説明しろ、田中」
「俺が?」
田中さんがふいをつかれて大声をあげる。
「この半ソデに呼ばれたのはお前だろう」
「いま、俺のこと『半ソデ』っつった?」
ずいぶん傍若無人な小人だ。大人二人を手玉にとっている。
「そこの嬢ちゃんも気になるだろう?」
食べかけのピーナッツを飲んでしまって、むせる。蚊帳の外じゃなかった。
「どうしてそんなに偉そうなんですか」
「『偉そう』じゃない。『偉い』のだ」
「ええと」
田中さんが頭をかく。机の上の小人を手で示した。
「この人は、『テキストの小人』。サンタクロースの小人です」
「『サンタクロースの小人』って何?」
野崎さんが聞く。
「サンタクロースが配るクリスマスのプレゼントを作る妖怪だよ。知らない?」
「『妖精』だ」
小人が訂正する。
「『妖精』だそうだ」
「『不思議な生き物』ってことだな!」
野崎さんが納得した。
「うん。不思議な生き物だ。だいたいあってる」
「小人にはいろいろいる」
小人が田中さんの話に割って入ってきた。
「大工の小人、音楽の小人、絵描きの小人。みなが得意なことをする」
「テキストの小人は何をするの?」
聞いてみる。小人が嬉しそうな顔をした。
「書類を書くのさ!」
「書類?!」
田中さんが驚いた声を出した。
「お前書類書いてるだけなの?」
「『だけ』とはなんだ。大事だぞ。書類は」
「お前ら何しに来たんだ」
野崎さんがいらいらし始めている。
「小津絵さんのことが聞きたいんだよ、俺は」
田中さんのカップにコーヒーが注がれた。
「ええ?! やっと飲みきったのに?!」
「飲まなきゃいいでしょ」
田中さんに言うと野崎さんに睨まれた。
「売り物なんだけど」
「すいません」
謝って、一口飲んだ。舌が痺れる。
「にっが!」
「北極の、怪物だよ」
小人が急に真面目な声で言った。
「北極の、おそろしい怪物のせいだ。小津絵さんとやらがいなくなったのは」
みんな急に静かになった。小人がゆっくり話し始めた。
「北極から、怪物が逃げ出した。私はそれを捕まえに来たんだよ」
ショートショート No.527
このお話は12月1日から25日まで毎日更新される
お話のアドベントカレンダーです。

連続ショートショート サンタクロースとねずみの王さま
目次
1st week お天気配送業
12月1日 小さなねずみのはなし(その1)
12月2日 おかしなラジオ(お天気配送業 柊屋提供)
12月3日 父親
12月4日 名刺
2nd week 思い出採掘業
12月5日 おかしなラジオ(思い出採掘業 佐々木のこづち提供)
12月6日 ササキノキッチン
12月7日 化石
12月8日 小さなねずみのはなし(その2)
12月9日 失踪
12月10日 手紙
12月11日 着信
3rd week ヒーロー呼び出し業
12月12日 おかしなラジオ(ヒーロー呼び出し業 ノザキ電機提供)
12月13日 録音
12月14日 小人
12月15日 小さななずみのはなし(その3)
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