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⑲話 最終回【これは、風俗を通して自分を赦す物語】 ♯お仕事小説部門♯創作大賞2025



【あらすじ】
風俗という仕事を通じて、自分の過去と向き合い、赦し、人生を再び歩いていくまでの物語の完結になります。

♯これは、風俗を通して自分を赦す物語

①話
②話
③話
④話
⑤話
⑥話
⑦話
⑧話
⑨話 聞いてください、お母さん。私、風俗で働いているんです。
⑩話 風俗嬢って楽しいの?
⑪話 「ヒカルちゃんはやってくれたよ」って嘘だよね?
⑫話 店長は、ちょっとだけお父さんの匂いがする
⑬ 話 「ゆゆちゃんってアタシのことバカにしてるでしょ?」
⑭話 初めての“婦警さんごっこ”でやらかした話
⑮話 整形したリンちゃんは可愛いって言われるのが嫌い
⑯話 お客さんと結婚したあの子の話
⑰話 「私はお母さんの子に産まれたくなかった」ってお兄ちゃんに言った話
⑱話  ちょっと過保護な、大好きなお母さんに会いに行こう
⑲話▶New!

全19話予定🍀

お母さんと話してみて思ったけど、やっぱり
『今何してるの?』
って聞かれたとき嘘をつくのってしんどい。
それにすごくリアルな話をすると、風俗嬢として若いうちの数年働くよりも、一般職として何十年と働いたほうが、生涯年収が3000万くらい多くなる。
だから私は風俗嬢を“趣味程度”に収め、“フツウ”に定職に着くことに決めた。

「辞めるの店長に渋られてたね。公務員に戻るのに、風俗嬢続けてて良いの?」

リンちゃんは買ったばかりのコーヒーの新作を飲みながら言った。
もうお馴染みとなった事務所のBARカウンターに並んで座りながら、私たちはアイスコーヒーを飲んでいた。
リンちゃんの話を聞き、私はうーんと唸った。

「店長も応援してくれてるし、何より人と関わるのが嫌いじゃないんだ、私。一般職には戻るけど、風俗も月1ぐらいで続けようかなって思ってるの」
「えーそうなんだ。まあM性感は特殊だし、お客さんも優しい人多いし、時々ならいいかもねえ。ゆゆちゃんが公務員に戻っちゃうの、なんだか寂しいなあ」

少ししょんぼりするリンちゃん。 

“公務員”と聞き、私は
「あ」
と思った。

____うーん、リンちゃんになら、話しても良いかなぁ……。

「……私ね、公務員って言ってたけど、正確には行政機関で働いてるだけで、仕事は看護師なの」
「ええ、公務員じゃないの?」
「いや、行政機関で働いてたから、公務員って言えるんだけど。あ、行政機関って自衛隊とか刑務所とか色々あるんだけど、私の場合は__」
「あはは、一緒一緒。アタシも看護師だったんだよぉ」

リンちゃんがケラケラ笑った。
え?と私もびっくりする。

「リンちゃん、看護師なの?」
「そうだよ。ホストにハマって稼がなきゃいけなくなって辞めたけど。ははは、まぁお局に嫌われてたのもあるんだけどさ」
「え、一緒だ……」
「あははは、一緒じゃん」

私たちは顔を見合せて笑った。
本音を話して気持ちがいいこともあるんだな、と。私は少し、嬉しくなった。

「看護師また戻んの?」
「……うん、戻ろっかな。怖い人のいないクリニックで働いて、休みの日はオタ活して。私“フツウ”に戻ろっかな」
「うん、うん。そしたらさ、その環境が良かったらさ、アタシもそこで働きたいから、LINEして」
「え?」
「アタシもホストと別れてさ、風俗辞めたらさ、そこで働くよ。だからゆゆちゃんは、いい環境探して、アタシの事待っててよ」

__『アタシの事、待っててよ』?

「え?え?い、いいの?ホストは?整形は?もう全部、全部、やめちゃっていいの?」
「うん。もうやめていっかな。アタシもさ、ちゃんと未来のこと考えて、自分の人生歩いてくよ。だからさ、ゆゆちゃん。アタシたち、これからも友達で、そんで、一緒に遊んだりして、おばあちゃんになっても、仲良くしていこうね」 
「……な、なにそれぇ」

ただ風俗を辞めて、普通に働いたからって、凄く幸せになれるみたいに言うリンちゃん。

それがなんだかくすぐったくて、気がついたら笑いが込み上げていた。 

未来のことはやっぱり分からない。

それでも、私たちの未来が、いまと同じぐらい、底なしに明るい希望で満ちているような気がした。 

そんな気持ちにさせてくれるリンちゃんと出会えて、風俗も悪くなかったなって。 
やっぱり私は、嬉しくなって笑ってしまった。

♢♦

「あ、ゆゆさん」
「……?」

声をかけられ振り向いた。
私が辞めると思っていたリンちゃんが小さな花束をくれたので、なんだか卒業式帰りの学生気分で帰路についていた。

「あ、三上さん……」
「ゆゆさん、お久しぶりです~」

呼び止めてきたのは三上さんだった。
居酒屋の雇われ店長をしていて、絶賛彼女募集中の、あの人だ。

「お昼時に1人なんて水臭いですね。よかったらウチで飲んでいきませんか?サービスしますよぉ」
「い、居酒屋ですか?」

ちょっとうろたえる私。
だって居酒屋に若い女の子1人は恥ずかしいだろう。
それに、私は居酒屋が苦手なんだよ。
同期に“変”って言われたそこに、1人で入れるわけが……。

「…………」

そう思ったところで、少しの違和感が込み上げた。

なんだろ。うまく言えないけど、なんだか悔しい感じがする。
私だけくよくよ考えるなんて、そんなの間違ってるよ。

私だって前を向けるんだ。
人と関わって、人が嫌いじゃないことに、やっと気が付けたし。

私だけ、逃げてるだけじゃ、イヤなんだ。

「いや、いけます」
「え?」
「こっちの話です。行きましょう、居酒屋」
「…………?わからないけど、なんだか頼もしいですねぇ!」

私が意気込むと、なぜか三上さんも腕まくりをして私の後をついてきた。三上さんのお店の、居酒屋さんの横開きの扉に手をかける。

ガラガラっ

驚くほど子気味よく扉が開いた。
その心地良さに、思わず拍子抜けする。

____私がかけられた。…………私がかけていた、数か月にも及ぶ呪い。
それがこんなにも軽く、なんでもないように、溶けていくなんて。

「1名様ご案内しま〜す」

三上さんが景気よく声をあげた。
お客さんは私だけだし、店員さんは三上さんだけなのに。
私は小さく笑ってしまった。

「まずは何にしましょー!」
「うーん、じゃあカシオレにしようかな」
「お、可愛いのいきますね〜」
「お願いしまーす」

カウンターに座る私にオーダーを取る三上さん。木製のカウンター、厨房から香る焼き鳥みたいなソースの匂い。
食欲をそそる暑さに、無意識に喉が鳴っていた。

私は三上さんが用意してくたカシスオレンジを手に取った。

これは、あの同期との一件以来、初めて飲むお酒だった。

「……っ!」

ごくん、と勢いよく飲むと甘い味が口いっぱいに広がった。

____いや、違う…………?なんだろ、これ?

「み、三上さん!このカシオレ甘すぎます!なんなんですか、これ」
「ははは、普通のカシオレっすよ」
「ふ、普通の?」

え?じゃあなんでこんなに甘いの……?
ぐぐっと飲み干して、私は唇をなめた。

なんでだろ。  
今の私には、カシスオレンジは甘すぎるみたいだった。

今度は、もう少し、大人な飲み物が飲みたくなる。

「ビール飲んでもいいですか?」
「お!いきますね〜ビール一丁!」
「ありがとうございます!」

シュワシュワ白い髭を載せた、苦い香りのするビールを渡された。

ぐぐっと飲み込むと、口の中に苦味が広がり、思わず私は舌を出した。

「あ、これは……すみません。無理です。飲めない。残してもいいですか?」
「ははは、瓶ビールだから後で僕が飲んでおきますよ。次は何にしますか?」
「……うーん、じゃあ次はワインにしようかなぁ。三上さん、赤ワインくれますか?」
「お!いけますね~!赤ワイン一丁〜」
「ありがとございまーす」

ワイングラスに赤いお酒が注がれる。
カシスオレンジよりは甘さ控えめで、ビールよりは苦くない、大人な香りが漂った。

「わぁ、おいしそう……」

ゆらゆらと揺れる熟れたさくらんぼ色のそれを、ぐぐっと口に入れた。
お酒の苦みが後を引く、フルーティーな味が口いっぱいに広がった。

__これは、甘くて、苦くて、ちょうどいい。

「美味しいです……!」
「おー!大人じゃないですか〜」

三上さんがちゃかして笑うので、私もなんだか嬉しくて、一緒に笑ってしまった。 

カシオレは甘くて、ビールは苦い。
ワインはちょうどよくて、美味しいと思う私は、ちょっとだけ大人になったような感じがした。

昼間から1人でお酒を飲み、居酒屋で楽しでしまうなんて。

____こんなこと、昔の私じゃ想像できない。
あの頃のゆゆちゃんなら、絶対やらないこと。

でも、いま、すっごく楽しいよ。ゆゆちゃん。

私は風俗を体験して、人生のちょっとした寄り道をしてしまった。

風俗の仕事には色んな感情があった。
嫌なこと、悲しいこと、逃げ出したいこと。
____手を取りたいけど、取れなかったこと。

だけど私がいて良かったって人に会った。
私は人を赦し、自分を赦すことを知った。

自分をさらけ出すことは少し恥ずかしい。
でも、さらけ出したら世界は開けてくる。

明けない夜はないんだよ。 

あの時泣いていた君をトイレから連れ出して、
色んなことを語りたい。
私、すっごく幸せだよって、笑顔で言い合いたいんだ。

これは、私にとっては必要だった寄り道の話。

____風俗を通して、自分を赦す物語。

おわり


🍀ようやく完結することができました……! 
ここまで長いお話を書くのは初めてだったので、感慨深いです! 

 長い文章を書いてくると途中でめげてくるのですが読んでくださった皆様がいたので無事完結することが出来ました😢
本当に本当に頭が上がりません
最後までお読み頂きありがとうございました……!

一応大賞向けに書いているのですが、
なんとエッセイ部門だと文字数が規定違反だったのです! 
 なので急遽お仕事部門に変えさせて頂きました。 

賞には応募しておりますが、ここでコメントしてくださったりスキを押してくださった皆様との思い出は本当に宝物だなぁとしみじみと思います。書ききって良かったです!私に素敵な思い出をありがとうございました😢

連作は終わりますが短編は書きたいなぁと思っております。またお暇な時に覗きに来て下さると嬉しくです(*ˊ˘ˋ*)
私も覗きに行きますので仲良くしてくださいねᐕ)ノ

最後になりますがここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました! 
 


前回のお話はこちら👇


一番最初の物語はこちら👇🏻



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