見出し画像

⑱話 ちょっと過保護な、大好きなお母さんに会いに行こう 【これは、風俗を通して自分を赦す物語】♯お仕事小説部門♯創作大賞2025


【あらすじ】
「寄生虫」と言われたあの日から、母とは距離を置いていた。
久しぶりに会った母の言葉は、意外にも――「ごめんね」だった。

♯これは、風俗を通して自分を赦す物語

①話
②話
③話
④話
⑤話
⑥話
⑦話
⑧話
⑨話 聞いてください、お母さん。私、風俗で働いているんです。
⑩話 風俗嬢って楽しいの?
⑪話 「ヒカルちゃんはやってくれたよ」って嘘だよね?
⑫話 店長は、ちょっとだけお父さんの匂いがする
⑬ 話 「ゆゆちゃんってアタシのことバカにしてるでしょ?」
⑭話 初めての“婦警さんごっこ”でやらかした話
⑮話 整形したリンちゃんは可愛いって言われるのが嫌い
⑯話 お客さんと結婚したあの子の話
⑰話 「私はお母さんの子に産まれたくなかった」ってお兄ちゃんに言った話
⑱話 ▶︎New!

全19話予定🍀




お母さんは私の家から電車で1時間半の場所に住んでいる。
近いと言えば近いし、遠いといえば遠い。
理由がないと行かないし、お母さんもウチに来ようとはしなかった。

坂道と平坦な道を繰り返し歩くこと15分。
4階建ての集合住宅のすみっこに、お母さんは住んでいた。
エレベーターが無いから4階まで階段をのぼり、心臓をバクバク言わせながらインターホンを押す。

__あ、私鍵あるのに。久しぶりだから間違えた。

慌ててカバンを触ると、それより早く扉が開いた。
私を見たお母さんは目を丸くしていた。

「ゆ、ゆゆちゃん。どうしたの?突然」
「あ、ごめん……。たまたま近くに来たから。どうしてるかと思って」

驚かれることは分かっていたけど、こんなにぼさぼさのまま出迎えられるとは思わなかった。
人に見られたら恥ずかしいと思い、入口にいるお母さんを押し込みつつ、扉を閉めた。距離が近くなると、彼女は大袈裟に鼻をつまみ、私を睨みつけた。

「まって、ゆゆちゃん。家に入らないで」
「え?」
「タバコ臭い。ゆゆちゃん、まだあの強いタバコ吸ってるんでしょ」
「……気のせいでしょ。もう吸ってないから、そんな臭いしないよ」

呆れた。
こういう所が苦手なんだよ。
お母さんは大袈裟に咳き込みながら、私に消臭スプレーをかけた。

「もう。お父さんの真似なんかして……」

仕方がなさそうに言うお母さん。
背の低い彼女のつむじが見えて、白髪が増えていることに気がついた。
それに、化粧をしてない、お母さんの顔って……。

__やっぱりお母さん、おばあちゃんみたいな顔をしてる。

私は22歳を名乗ってるけど、本当はフツウに結婚していてもおかしくない年齢だ。
お母さんもフツウに、孫がいてもおかしくない年齢だ。

私たちはお互いに歳をとった。

それなのに、“幸せな姿”を見せてあげられないことを、申し訳なく思った。

「お母さん、あのね、聞いて欲しいことがあるの」

私はお母さんのいれてくれた紅茶を1口飲んでから、切り出した。
マイメロのマグカップは、私が小学生の頃に使っていたものだった。
お母さんが捨てられないでいるそれを、どこか居心地悪く、両手で握った。

「あの、」

口を開き、息を吸う。
__何を言おう?言葉が上手く、出てこない。
だけど、続きの言葉は言えなかった。

お母さんが先に、話し出したからだった。

「ゆゆちゃん、ごめんね。お母さん、意地悪なこと言っちゃったね」

「__っ」

一瞬何を聞いたのか分からなかった。
ずっと謝って欲しかった。

__謝って、欲しかった……?

「『寄生虫』なんて強い言葉を使って、ごめんね。お母さん、本当に反省したの。それでね、もし、それを言われたのが原因で家を出たのなら、お母さん直すから、また戻ってきて欲しいの。
__お母さんね、できたらまた、ゆゆちゃんと一緒に暮らしたいって考えてるの」

「____え?」

動揺からマグカップが揺れ、紅茶にさざ波がたつ。

__『一緒に、暮らせないかな』って……。

嫌なことを言って追い出したのは自分じゃないか。
私のことを、いつまで子供だと思っているんだろう。

寂しかったから今更すがるなんて、都合がよすぎる。
自分のことしか目に入っていないところが、
途方もなく、きもちわるい……。

「                  」
    いい加減大人になってよ。

言いかけたが、途中で言葉が止まった。
それは言ってはいけないことに気がついたから。

頭の中にお兄ちゃんの顔がチラつく。


『お母さんはちゃんと親としての責任を果たしてくれて、ちゃんと僕たちを育ててくれた』
……だから、『お母さんは、いい人だと思うよ』

お兄ちゃんは長い時間をかけて、お母さんやお父さんを赦すことができた。
それじゃあ、私は。

………………________わたしは、

「私ね、寄生虫って言われて、やっぱり嫌だったんだ。でもお母さんが私のことが嫌いだからそう言ったんじゃないって分かってるんだよ。お母さんが思う“フツウの子”に私が入れなかったから、つい強い言葉を使っちゃったんだよね」

気が付いたら、優しい声で、話し出していた。
お母さんは驚いた顔をして、ただ聞き入るように、私の声に耳をすませている。

「お母さんは私の小さい時から使ってるマグカップをずっと大切にしてくれてる。私も一緒だよ。お母さんが引越しの時にくれたタオルを、ずっと大切にしているよ」

お母さんにこんなに自分のことを話すのは、何年ぶりだろう。
幼稚園生の時。
泣いている私を無視し、自分の怒りを優先して、幼稚園に電話をかけた時。

私は自分の意見が、言えなくなってしまった。

だから、数十年ぶりに、私はお母さんとちゃんと“会話”が出来ているんだと思う。

「お母さん、私はお母さんとは一緒に住めない。
私はもう社会人になって、大人になったから、ちゃんと家を出て、今度は自分の足で立とうと思います。
でもそれは、お母さんのことが嫌いだからじゃないんだよ。
お母さんのことが大切だから、ちゃんとお母さんを支えられる大人になりたいから、家を出るんだよ。
……、私はお母さんのこと、すごく大切に思っているよ」

「……」

お母さんは、
__お母さんは、意外なことに、真剣な眼差しで私の話を聞いていた。

いつの間にか、マイメロのマグカップがぬるく、冷めていた。

「……ごめんね。お母さん、ゆゆちゃんの気持ちを分かってあげられなくて」
「……。」
「お母さんはゆゆちゃんに幸せになって欲しい。それが結婚とか出産っていう形じゃなくても一緒だし。近くにお母さんがいない所でも、一緒なの」

お母さんは優しかった。
ふわりと香る紅茶の匂い。
お母さんはいい所のお嬢様で、いい匂いの、紅茶の香りがする人だった。

私はこの香りが、ずっと好きだったのに。

どうして忘れてしまっていたんだろう……。

「この先絶対こう。なんてことは無いから、ゆゆちゃんの好きに生きて良いんだよ。お母さんがそれを縛っちゃってごめんね。意地悪なことを言って、今まで傷つけて、ごめんね。お母さんはゆゆちゃんが、大好きなんだよ」

「……うん、知ってる」

ずっと閉じ込めていた言葉が、ようやく胸から出ていったような気がした。

私は誰のことも恨んでないし、誰のことも嫌っていない。
ただ、傷つきやすくて、すぐに壁を作ってしまうだけなんだ。

お母さんはずっと私のことを大切に思ってくれてたけど、その思いが強すぎて時々酷いことを言ってしまう。

傷つきやすい私とは最初から相性が悪かったんだ。
だけど、お母さんのことは、すごく大切だ。

私はお母さんを、赦してあげよう。
だってお母さんのことが、大好きだから。

紅茶を一口飲むと、胸にあたたかな気持ちが広がった。

マイメロのマグカップ。
小さなゆゆちゃん。

頭の中を通り過ぎる彼女は、とても穏やかな顔をしていた。
長いしがらみが、ようやくほどけていくのを感じていた。


♦♢

🍀ここまでお読み下さりありがとうございました!
これでお母さん編は終わり、次で最終回になります……!
悩みながらも出した答えになります!
書き足りない所はありますが、伝えたい大筋のところは書ききったかなと思います……!
拙いところは多かったと思いますが、ぜひ皆様の思ったことや感じたこと、アドバイスなどありましたらコメントくださると嬉しいです(*ˊ˘ˋ*)

最後になりましたがいつもコメントをくださる方々や、スキをくださる方々、少しだけ覗きに来てくださった方々、いつもありがとうございます……!

次は火曜日更新でものがたりは終了となりますので、どうかゆゆの旅路を一緒に見届けて下さると嬉しいです……!

次のお話はこちら👇

前回のお話はこちらになります!👇🏻
お兄ちゃんとの会話とお母さんと会おうとしたきっかけのお話になります



いいなと思ったら応援しよう!