ユーベルの過去と二人のこれから 葬送のフリーレン【帝国編】第138話
黄金郷編における準主役がデンケンだったように、帝国編の準主役はユーベルとラントであるため、二人に関する謎や伏線の多くが帝国編内で解決される可能性が高いと思われます。
そこで、今しかできない考察(予想)ということで、ユーベルの過去について改めて考えてみます。
「待つ。それもまた一つの選択だと思うがな」(第116話、アイゼン)というご意見もあろうかと思いますが、考えて作文するのが楽しいのでやってみましょう。
彼女の過去については既に諸説ありますが、ネットを見まわしてみた感じではいずれもベースとなっている資料が一級試験編からアップデートされていません。帝国編でユーベルが再登場したことにより材料が増えて、具体的な考察が可能になってきたことも「今」考察する理由の一つです。
本稿の最後ではユーベルとラントの「これから」について簡単に触れています。
魔法使いらしからぬユーベルの研ぎ澄まされた感覚
魔導特務隊との交戦時、ユーベルは魔力探知を封じられ、視力も奪われてしまいます。(第128話)

こちらは封魔鉱によって魔力探知が使えなくなったフェルンの反応です。「まるで暗闇に放り込まれたみたい」と不安そうです。これが魔力探知を封じられた魔法使いの通常の反応です。(第61話)

しかし、ユーベルは魔力探知を封じられ、加えて視力も奪われた状態でも臆せず魔導特務隊と戦っていて、しかも、相打ちが可能な状態にまで持ち込んでいます。まるで、女神の石碑編で奇跡のグラオザームと戦った時のヒンメルのようです。

この魔導特務隊との戦闘の様子から、ユーベルは魔法使いであるにも関わらず、フリーレンがヒンメルについて言っていた「持たざる者の研ぎ澄まされた感覚」を持っていることがわかります。(第118話)

ユーベルの鋭い聴覚にラントが驚く場面もあります。(第131話)

普段から魔力探知に頼っている魔法使い(や魔族)は、この「研ぎ澄まされた感覚」を持っていないはずです。
となると、ユーベルには「魔法使い」とは別のバックグラウンドがあるのではないか?と考えてみてもよさそうです。
ユーベルは何者なのか?という疑問
そう考えると、ユーベルのクラフトへの自己紹介「私は魔法使いユーベル」(第37話)も疑いたくなってきます。ユーベルって何者なんでしょうか?
ユーベルを他のキャラクタと比べた時の特徴は、第一にその「死にたがり」にあります(第50話)。他人の命を軽く扱うのはマンガですからともかくとしても、自分の命を掛け金にして博打を打つような行動を取ることが度々あり、そこが彼女の危うい魅力にもなっています。彼女の死生観はかなり特殊で、普通ではないバックグラウンドを持っていることは間違いありません。

ネットを検索すれば、ユーベルと不死なるベーゼが同一人物であるとする説があり、私もこれには一定の説得力を感じます。
私は、ユーベルとゼーリエは旧知の仲(もちろん、今生でではなく過去生を含めての話です)だと考えており、その線で魔族とつながりがあってもおかしくないと思います。(根拠はゼーリエによる面接時の「まだ何も話していないけど?」「会話が必要なのか?」「それもそうだね」のやりとりの一点です(第58話)。お互いのことを知っていなければ「それもそうだね」とは言えないはずだからです。)

ただ、こういった考察の真偽はストーリーがかなり先に進まないことにはわかりません。
そこで、せめて帝国編の中で結果がわかるような具体的な予想ができないだろうか?と考えてみました。(ハズレていたら笑ってください)
影なる戦士について語るユーベル(第138話の分析)
そういう観点で帝国編を読み直してみると、第138話(逆賊)前半の作戦会議の場面が気になります。
ここでユーベルは影なる戦士に関する自分の考察を帝国編のメンバーに披露しています。
なお、ユーベルはラントの考察を引き継ぐ形で語っており、ここでも二人の相性の良さを感じます。この点も後の考察に関わってきます。
ユーベルによる「影なる戦士の指揮官の行動原理」の説明を引用します。
しかも指揮官は皆一様に帝国に忠誠を誓っている。
「影なる戦士が解体されたら、帝国を導く存在がいなくなってしまう。」
そう考えてもおかしくないよね。私だったら正義感に燃えちゃうかなー。
間違った方向に進む帝国を救わなきゃって。
※(メモ)ファルシュはゼーリエの迎えに行っており会議に途中から参加するため、影なる戦士に関する一連の議論には立ち会っていません。
本当に「私だったら…」なのか?(考察方法への疑問)
まず疑問を感じるのは、ユーベルの考察方法についてです。(考察結果については後述します)
ユーベルの説明を素直に受け取るなら、ユーベルは「もし私が影なる戦士の指揮官だったら?」と仮定して考察を行なっていることになります。
しかし、普通に考えれば、個人主義的なユーベルの考え方と帝国への絶対的忠誠を誓った影なる戦士の指揮官の考え方との間には、相当な隔たりがあると感じます。そのユーベルに「私だったら」と仮定の話をされても、反応に困ってしまいます。そういう仮定をするなら、影なる戦士の指揮官の行動原理をよく理解した人物がするのでなければ意味がなく、ユーベルが適任だとは思えません。
実際、ユーベルは「私だったら正義感に燃えちゃう」と言っていますが、ユーベルが正義感で行動する人物だとは思えません。その場にいたユーベルを知る一級魔法使いたちは皆「『私』だったら?正義感に燃える??」と感じたでしょう。
つまり、ユーベルの見立てすなわち「帝国の将来を案じた影なる戦士の指揮官の暴走」という考察結果は、ユーベルが「もし私が影なる戦士の指揮官だったら?」と仮定して考察することにより導かれた結論だとは考えにくいのです。
そうすると、ユーベルは考察方法に関して嘘をついていることになります。
なぜユーベルに影なる戦士のことがわかるのか?(考察結果の不思議)
次に、ユーベルの考察結果です。間違っていると言いたいわけではありません。不思議な点があります。
不思議なのは、「帝国の将来を案じた影なる戦士の指揮官の暴走」というユーベルの見立てには、読者視点で評価してもなるほどと思わせる説得力があるという点です。現時点(第140話まで)で、このユーベルの見立ての他に有力な説は見当たりません。ゼンゼたち一級魔法使いの視点から見ればなおさらです。
ユーベルは帝国出身ではないため魔導特務隊についての知識がなく、ラントに頼んで帝国の事情を色々と教えてもらっています(第128話)。そのユーベルが同じ帝国の機関である影なる戦士について詳しいとは思えません。

しかし、なぜか不思議なことに、帝国出身でもなく、国家への忠誠心とも無縁そうな性格のユーベルが影なる戦士の指揮官の行動原理を言い当てているのです。
前述したとおり、これは「もし私が影なる戦士の指揮官だったら?」と仮定して考察した結果ではありません。
論理的な推理でもありません。それはラントの得意分野で、語るならユーベルではなくラントが語るはずだからです。そういう役割分担ができるレベルにまで二人の関係が既に発展していることは、第131話の二人の会話からわかります。(別記事参照)
にも関わらず、ユーベルはまるで見てきたかのように影なる戦士の指揮官の行動原理を知っています。
ここまでを整理すると
上記の2点を整理すると、ユーベルは
考察方法に関して嘘をついている
考察結果に関しては真実を述べている
ということになります。
何故そんなわけのわからないことをするのか?と考えると、それは自分が「影なる戦士の指揮官の行動原理」を知っている理由を説明したくないからです。そのために、「私だったら」と言うことで「なぜそう考えるか」の根拠を誤魔化して曖昧にしたのでしょう。
この時のユーベルを、フリーレンは疑うようにじっと見ています。フリーレンはユーベルの誤魔化しに気付いていると思われます。(他方でフェルンは気付いていません)
ユーベルと影なる戦士
そこで、ユーベルと影なる戦士には何らかの関係があったと考えてみます。
すると、先のユーベルの言動をすっきりと理解できてしまいます。
ユーベルは影なる戦士と過去に関係があったために影なる戦士の指揮官たちの行動原理を知っている。ただ、自分の複雑な過去を説明したくないので「もし私が影なる戦士の指揮官だったら…」と前置きして語った、というわけです。
しかも、ユーベルが過去に影なる戦士としての訓練を受けていたとすれば、彼女の「持たざる者の研ぎ澄まされた感覚」や、自他の命を軽く扱う「死にたがり」の性格(目的のためには自らの命さえ駒として扱う)を説明できます。(第139話、チェスをしながらのレーヴェとクレマティスの会話を参照)

こうして帝国編の構成を見てみれば「ラントと魔導特務隊」、「ユーベルと影なる戦士」という対比もきれいです。
また、帝国編への導入部(第13巻後半)の
第124話【影なる戦士】影なる戦士が初登場。任務終了の手紙(きっかけ)を待っている。
第125話【家族】影なる戦士ラダールが手紙を待つことを止め、自ら任務を終了して新しい生活を始める。ラダールの家族について。
第126話【新たな任務】ラントは故郷を出るきっかけを待っている。そこへユーベルが帝国編任務の手紙(きっかけ)を持って来訪。ラントの家族(祖母)について。
というストーリーの連環について、これまでは「家族」や「待つこと、始めること」というテーマで繋がっていると考えていたのですが、それだけではなく「影なる戦士とユーベル」の連環がある様にも見えて来ます。

さて、ここからは、既存の謎や伏線が帝国編で処理されると前提して、ちょっと駆け足で根拠なく考えてみます。
ユーベルが過去に影の戦士だったとして、現在は?と考えると、流石に組織を抜けているのが自然でしょう。ラダール(第124,125話)のように16年前の組織解体に伴って自然消滅的に穏便に抜けられた可能性もありますが、何かトラブルがあって、ユーベルが組織を裏切ったと考えてみます。
とすると、第138話のタイトルは「逆賊」で、これは第一義的には「影なる戦士」を指しています。けれども、ユーベルが影なる戦士を裏切って組織を抜けていると考えると、影なる戦士から見れはユーベルが「逆賊」です。
影なる戦士を裏切ったためにユーベルが命を狙われているとすれば、ユーベルがクラフトと会った時に「人殺しの目をしている」と指摘されたことにも頷けます(第37話)。初対面の手練れの武道僧を見て影なる戦士ではないかと最大級の警戒をしたはずだからです。(ユーベルの三白眼はマンガ的表現ですから、普段から「ヤバい」目付きをしているわけではないはずです)

そして、ユーベルの目的は「誰か」を殺す事でした。これに関しては、ヴィアベルへの共感理由と一緒に考察していますので、詳細は別記事を参照ください。要点は、ユーベルが「殺すまでの猶予が欲しくなった」のは、「殺人一般」についてではなく「特定の殺し」についてで、そのためにヴィアベルに共感できたということです。
ユーベルと影なる戦士の間に何かトラブルがあったとすると、ユーベルが殺そうとしているのは影なる戦士の指揮官レーヴェかもしれません。
なお、ゼンゼたちはレーヴェの人相書だけはまだ入手できていません(第139話)。これが意味するところは、レーヴェがゼーリエ暗殺と関係している事をユーベルはまだ認識していないという事です。
ただ、帝国編大トリのバトルを想像してみると、この時ゼーリエと護衛は分断されて、ゼーリエ対レーヴェの形に持ち込まれているはずです。それが影なる戦士側の作戦です(第132話)。そこにユーベルが関われるのかと考えると…

私はユーベルはラントに(ラントの祖母の墓前で)共感できていて既に分身魔法を使えると考えていますが、これはラントとの関係でお披露目すると思います。なので、ちょっと自信がないですね。(クレマティスは人相書で既に面が割れています)
まとめ
以上の考察の結論をまとめると
ユーベルは「影なる戦士」の一員だった
ユーベルは何らかの理由で「影なる戦士」を裏切った
ユーベルの目的は影なる戦士の指揮官レーヴェを殺すこと
となります。
伏線や謎の解決のために無理をしたところもありますが、後に答え合わせをしてみたいと思います。
ユーベル・ラントの「家族ごっこ」と二人のこれから
先に見た、帝国編導入部の第124話(影なる戦士)と第125話(家族)は、最初は偽りから始まった人間関係(家族関係)が時間を経て本物と寸分違わぬものとなったというお話です。
これは黄金郷編での「マハトとデンケンの師弟関係」、「マハトとグリュックの友人関係」と同じモチーフです。
似たお話として、ヒンメルの剣に関する第114話(勇者の剣)があります。こちらは偽物の勇者の剣が本物の勇者の剣と同じように活躍して、作り手の元に戻ってきたというエピソードです。(ヒンメルに関するエピソードのなかで私はこれが一番好きです)
もちろん、第25話(剣の里)でヒンメル自身も偽物の勇者だったことが語られています。
『葬送のフリーレン』では、この「偽物とは?本物とは?」というテーマが頻出しています。
そこで、帝国編の冒頭、第126話(新たな任務)を見直してみます。ラントが自宅でユーベルにお茶を出した時のやりとりです。二人の言葉遣いに着目してください。

ラントが「お砂糖は?」と訊くと、ユーベルは「いっぱい」と幼児語で応え、ラントは「はいはい」と言って砂糖をたっぷり入れてあげます。

さらにラントは「クッキー持ってくるけど、食べる?」と勧め、ユーベルは「食べる」と応えます。
お砂糖は? → いっぱい。 → はいはい。
食べる? → 食べる。
まるで「おままごと」のような微笑ましい光景です。付き合い始めて日の浅いカップルって、何故かこういう幼児退行したような振舞をしますよね。私たちは一体何を見せられているのでしょうか。
後になって振り返ったときに、この場面は本物の家族を失った二人の「家族ごっこ」だったと見ることができるのかもしれません。
この場面は、舞台がラントの自宅であるためということもあるのですが、ラントが世話を焼く側、ユーベルが甘える側になっていることも興味深いです。兄妹のようにも見えるからです。マンガ的には「理知的な兄を振り回す破天荒な妹」という感じです。(この「破天荒」は本来誤用らしいですね)
※実は、一級試験の前から二人は知り合いなのでは?という気もするのです。
帝国編の冒頭、偽りの家族関係から始まった二人の関係は、これからどう発展してゆくのでしょうか。楽しみです。
関連する記事のご紹介
ユーベルに関する考察
※ユーベルの目的(誰かを殺そうとしている)とヴァイアベルへの共感について
※ユーベルのラントへの共感について
※帝国編でのユーベルとラントの会話について
※ユーベル、ラント、ゼーリエの関係について
