枇杷と柿の木陰、カエルや電車や鐘の音の聞こえる場所
北西の角は、私が育った庭でお隣と隣接しており、日当たりはよくない場所でした。そこに琵琶の木が生えていました。枇杷の木は強く、ゆったりと根を張り一階のひさし程度の高さまで成長しました。初夏になると、ほんのり甘い果実が鮮やかに実ります。小鳥たちは、ここに生えていることを知っているらしく、毎年小鳥と分け合いました。東南の角に生えている柿の方が糖度が高く、小鳥たちとの競争も慌ただしいものでした。小鳥がつつかずに残っているものは、高い確率で渋かったので、皮を剥かなくても渋いかどうか把握できるのかもしれません。
枇杷の木から時計回りに見ると、北側は裏のお家との境のシンプルなフェンスがあり、風呂のガス給湯器が置かれた細い通路になっています。ここを歩くと東側は住宅地の細い道に面しており、風通しがよく植木とフェンスが並びます。やがて柿の木などが生える東南の角地になり、南に面する場所は背の高い木を植えず祖父から贈られた松などが生えています。そして、毎年梅酒や梅干しを作るのに十分な梅を実らせてくれる梅の木があり、その向こうに金木犀の木がそびえています。金木犀の木と、枇杷の木の間に、南向きに玄関があります。
野良猫が庭に入ってくれば、我が家の犬が追い出しますが、空は彼女の管轄ではないので、気にならないようでした。建物と庭の構造上、東南の角は見通しが良く、柿の木や桃の木や梅の木という木陰の下でもあるから、我が家の犬のお気に入りの場所の一つでした。飛び石があるから、ほどよく太陽光であたたまった飛び石に顎を乗せて寛いでいることもあります。寛ぎすぎて、お腹を見せて寝ていたりするので、野生は実家に置いてきているタイプの女の子です。
ただ一つ困るのは、スズメが我が家の金木犀の枝で休んだり歌うことは問題ないのですが、鳩やカラスが、「スズメが安全なら自分たちも安全だ」と考えるのか、集まってきてしまうことです。体の大きな鳥たちが2階のステンレスのベランダを排泄物で白や灰色の水玉模様に染めるため、洗濯物やお布団を干せませんから、鳥たちと当時40代前半の母の戦いを、少年の私は見上げていました。そんな金木犀の下で大きくなったから、秋の始まりは短調のメロディと似て物悲しく、甘い香りで幕を開けます。
この庭には、丘の上にあるお寺の池の角で見つけた、トノサマガエルを、小学校3年生前後に、「寒そうだから、うちにおいでよ」と両手で掴んで(今なら触れないですけど、あの頃は平気でした)、1km以上かけて運んで連れて帰った思い出もあります。9歳くらいの私は、トノサマガエルが庭で快適に過ごしてくれると信じ切っていました。実際は、蛇は平気だけどカエルは苦手な、お隣のおばちゃんを驚かせる羽目になりました。この丘の上のお寺は除夜の鐘だけでなく、夕方になると鐘をついて時を知らせます。
北西の角と東南の角に挟まれた小さな庭は、人工的な空間だけど生態系が出来ています。木々は枝を伸ばすように根を深く広く張り、蟻やダンゴムシなど、様々な昆虫が集まり空白を埋めていき、アブラムシが増えればてんとう虫が訪れます。自然の持つ修復力のようにも思えるのです。この庭から、石畳の急な坂を下り、田んぼと川と丘の向こうを見ると、鉄道が横切っています。昼はかすかに、夜ははっきりとレールを渡るリズムが響いていました。夏はこの田んぼでカエルたちが恋の歌を合唱します。
こうした記憶に、思い出が雪のように、落ち葉のように堆積し、胸の中の故郷を形成しています。無常観と少し似ています。もうどこにもないけれど、かつて確かにあった場所は、時の流れと、全ては変化することを教えてくれるのですから。
英語版
"Echoes from a Childhood Garden":
The Garden That No Longer Exists
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