お金を守って逃げる友
ミラノに長期滞在中のアメリカ人の女友達から、突然メッセージが届いた。
「私、もうここに移住しちゃうと思う」
とあり、思わずのけぞった。
当分フロリダには戻りたくない(というか、戻れない)のだという。
とりあえず夏になったら、LAにある娘のアパートに転がり込む。娘はパリに遊学に行って留守にするから、ちょうどいい。秋になったらまたイタリアへ。もうチケットも買ったのよ、とあった。
なんだかお洒落な逃避行のようだけれど、彼女は今、金銭トラブルで自宅に近づくことができないのだ。
お金がなくて困っているのではない。その真逆。お金がありすぎるがゆえの、骨肉の家族トラブル。おかげで今年に入ってからの彼女は、あちこちの友達の別荘を渡り歩くジプシーのような生活を送っている。 数年前に彼女が引っ越してしまってからは会う機会が減ったけれど、連絡はずっと取り続けているから、彼女が抱えるお金にまつわる家族の確執も昔からよく知っている。どうやら長年の憂いと不安のタネが、ここにきて一気に現実化してしまったらしい。
なんだかネトフリの海外ドラマを見ているような展開なので、 「もういっそ、本に書いちゃえば?」 と言うと、 「自分の人生を切り売りするなんて嫌すぎる。あなたが書きなさいよ、ネタはいくらでもあげるから!」 と返ってきた。私に文才があれば、今すぐペンを執って連載を始めたいくらいだ(笑)。
彼女は、もともと資産家だった。毎年のように富は増えるが、家族間のゴタゴタも深刻になってきた。お金の争いに勝つために腕利きの弁護士を雇い、すり減った精神をケアするためにセラピストに大金を払う。実は、そんなふうに大変そうな人生を送っている知人を、私は他にも何人か知っている。超裕福ということで決して不幸ではないはずだけれど、はたから見ていると「本当に、お疲れ様です……」と肩を叩きたくなってしまう。
お金で幸せは買える、と世間は言う。 確かに買えるものは山ほどあるし、経済的な安心感は半端ない。だけど、愛とか豊かな人間関係ばかりは、さすがに札束でひっぱたくわけにはいかないらしい。家族と揉めていく資産家たちを長年見ていると、「幸せの正体って、一体なんだろう?」と、ふと立ち止まって考えてしまう。もちろん、すべてを手にしている(ように見える)人たちもいる上でのこと。
とはいえ、今回の彼女の大騒動に限っていえば、脳が起こした強引な大逆転劇、あるいは宇宙からのちょっと手荒なギフトなのかもしれない、なんて思ったりもしている。
「大好きなヨーロッパに住みたい」という彼女の強烈な願いを叶えるために、「家族のいざこざが絶えないアメリカ生活の強制終了」がやってきた。アメリカにいられない理由を、不安という名の潜在意識が見事に現実化させてしまったように私には見えてしまう。 ずっと長い間、健気に「良い人」をやりすぎて限界を迎えていた彼女を、大好きなミラノへ強制移住させてあげるための、粋なはからいだったんじゃないかしら、なんて思えてしまう。
彼女には現地で新しいアパートを即金で買うお金もあるし、アメリカの豪邸を留守にできる余裕もある。老親や子供たちをサポートする経済力だって健在だ。 散々ゴタゴタを乗り越えてきたのだから、ミラノで素敵な出会いでもして、ときめく人生へシフトしてほしいと心から祈っている。
ちなみに私はといえば、国をまたいだ大冒険は20代でとっくに味わい尽くしたので羨ましいとは微塵も思わない。でも、同い年の彼女の人生がどんな展開になっていくのか、遠くから応援しつつ次の連絡を楽しみに待っているところ。
⭐無条件の愛(エイブラハム)
⭐どんどん、いなくなってしまう
⭐地雷の言葉も愛でしかない
⭐あなたがいないと私は空っぽ
⭐ラブバグの季節に思うこと
⭐不自由を選ぶ自由
⭐喜びにピントを
⭐息子とカフェ。母の日、そしてまた当分さようなら。
⭐逃げ場のない海の上で(エイブラハム)
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