不自由を選ぶ自由(結婚)
息子は無事に引っ越して行った。
別れ際に、母の日の豪華なお花と手紙を贈ってくれた。今回は特に遠くに行くわけでもなく、寂しさがこみあげることはなかった。
手紙だっていつものように感謝の言葉が並んでいるのだろう。と思っていたけれど、いざ読みはじめたら、涙が出た。私がとことん(息子を)信じて、いつだって自分の価値観を押し付けず、心から信頼と応援をしていることへの改めての感謝と、そのおかげで今の自分がやる気に満ちていることが書かれてあった。
私自身が20代の頃に母に対して感じていたことでもあったけど、私はこんなふうに感謝したことなんてなかった。ありがとうのメッセージとともに今でもお花を贈ったり、会いに行ったりするのに、どうしても照れが入ってしまう。もっとしっかり伝えないとね。
数年前に、子供が持つピュアな心を親のエゴで振り回さないように。という言葉に出会ってから、それを意識して育ててきた。息子は自分の声を聞きながら自分の選択で人生を進むようになった。
でも、それが本当に幸せの答えなのかは、実はよく分からない。
だって答えはひとつではないのだから。
では、自分に自由で選択するのではなく、親や誰かの期待を背負って生きる人生は、果たして不幸なのだろうか。
そんなことを考えながら、ヨガクラスに行くと、近所に住む医師の男友達も来ていた。世界中の研究機関からラブコールが絶えずに、日頃からとても忙しくしている博士である。一昨日、彼の自宅に招かれ、パーティをしたばかりだ。↓
ヨガマットの上で挨拶しながらギュッとハグを交わすと、彼はしょんぼりと打ち明けてきた。 「夜遅く帰宅した妻が残り物を見て、『こんな料理を客に出したの!?』って怒っちゃって。あれって、ダメだったのかな……」
昨日は奥さんは不在だったので、料理のできない彼がレストランから色々とテイクアウトしてきてくれたのだ。キッチンの使い方もよく分からない彼のこと。レンジでチンすらちょっと下手で、料理は冷めたく、量も人数分には全然足りなかった。
でも、有名研究所の所長が子供のように肩を落とす姿が、あまりに可愛くて。 「いいじゃない。楽しかったんだから、それが一番!」と言ったら、パッと顔を明るくした。
実は彼、大恋愛の末に今の奥様と結ばれたわけではない。かつて留学先で結婚を考えていた恋人がいたけれど、親の猛反対に遭い、自国に戻って親が決めた相手と結婚した。そんな過去を、いつか私の夫に漏らしたそうだ。
今の彼は、奥様に頭が上がらない。来客を嫌う彼女を気遣い、友人とも疎遠になりがちだ。数年前までは単身赴任をしていて、私の夫や同じマンションに住む独身男性たちと集まって飲んだりしていた。「あの頃は懐かしい」とこぼすこともある。
昨晩は、私と夫がダンスに行くと知って、自分たちもぜひ!と言ってきた。すごく楽しみにしていた。「やっぱり行けない」と連絡が来た。奥さんが行きたがらないから、という理由。アメリカはカップル単位でもある。カップルに誘われたとき、片方が嫌なら終わりなのだ。(我が家は片方を快く送り出すという選択もあるが)
彼はガッカリしていたが、奥さんの気持ちも分かる。
仕事をしてるのにすべての家事を任され、成人した子供たちのことにも何かと関わり続けている。だから週末の夜はゆっくり一人で過ごしたい。自分が料理や片付けをすることになるんだから、夫の友達が自宅になだれ込んでくるのも絶対嫌。
私が彼女だったらそう思う。私が自宅に人を呼ぶのが苦にならないのは、準備から料理、後片付けまでを夫が全部楽しんでやるからだ。
けれど、彼は不幸ではない。 そうした不自由に従うことで仕事に没頭し、家庭を円満に保ち、富を築いている。最近、あらたにアメリカと母国に新たな物件を購入した。子供たちは医者になり、娘の方は恋愛結婚をしたばかり。
彼は「不自由さを選ぶ自由」の中にいる。
自分の心に従って、親や周囲の言葉も聞かずに自由を謳歌する私の息子。 親や妻の期待に身を委ねることで、穏やかな幸せを維持する友人。
いろんな在り方があり、人生があり、いろんな展開をしていって、そんな中で気の合う私たちみんなが出会えたのだから、まあいいじゃない、と思ってる。
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