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【短編小説】月下美人とヒロインたち【一話完結】



……ちょいと追加エピソードを思いついたので、記してみます。

吉川美緒=間宮美緒

(前回の続き)夫の研究チームの女子を見てひがむ!

夫の出席した、ある宴会の写真を見て。

美緒: 「ちょっと真くん、この子、距離があやしくない? 正直に言いなさい!」
真: 「えっ?……いや、彼女は今年の『素数と楕円曲線に関する――』」
美緒: 「論理のすり替えはナシ!……私、知ってるんだから。男の人って、こういうちょっと素朴で、おとなしそうな子に弱いのよ。……私みたいなタイプは、すぐ『気が強そう』とか言って逃げるくせに!」

いじけています。

真:「え?お姉様、彼女の話が興味深かったから……僕は能力重視だよ。それに、パーティーで小一時間話し込んだ程度で、その人の何が分かるんだろう。その程度の時間なら、誰だって処世術で真人間のフリをするよ。心配要らないって。……お姉様よりチャーミングな女の人なんか居ないって。……お姉様のせいで、女の人のほぼすべてがきれいに見えないんだよ?……テレビ、ネット、SNS……いろいろと『美人』が出てくるけど、低次元すぎて鼻で笑ってしまうよ

勝ち誇った、この顔!悪人ヅラ!
性的な意味で、ナニカを企んでいるようです。

美緒: 「……ちょっと真くん、もう、だまされないんだから……」

追憶

翌朝、美緒はこの場面を思い浮かべながら、
(真は私の言葉を聞いていたのかいなかったのか、こう付け加えた……)
と心中つぶやいた。

真:「……それにお姉様。正直に言うと、数学者の妻を欲しいときもあった。けどね、もしもそれが叶えられたとすると、僕は心の休まる暇がなくなりそうで。……数学は確かに魅力的だけど、正気ではいられないほど、重力が猛烈なんだよ。……お姉様が来てくれたから、それに気づけたんだよ……だから、生涯のパートナーには数学の知識なんて不要だよ。数学は僕の頭の中にだけあれば、十分だよっ……あれ?」

バタバタと床が響いたかと思うと、洗面所の引戸がピシャリと閉められた音が、真の耳に入ってきた。

「生涯のパートナーには数学の知識なんて不要」と言われたとき。
この顔は真に見られないで済んだ。顔を覆って逃げ出したから。

(お姉様?どうしたの?)

20分経っても美緒は戻らない。

(……また、なんかおかしなことを言って、怒らせたかな?……一緒にされてから、もうすぐ半年になろうというのに……)

真がリビングを出ようとしたとき、彼のスマホが震えた。

(お姉様からのメッセージ)

(今すぐに窓の外を見て、私が戻ってもそのままにしていて)

真はそうした。

リビングの照明OFF。
わずかに残った光。

ペタペタという裸足の足音。
背後に美緒の気配。

窓ガラスに映る妻。
そのシルエット。

……一糸まとわぬ姿?

「……!……えっ?」

「振り返ったらダメ!」

真は感じた。
背中を覆い、強く締め付ける力を。
襟の素肌は、美緒の熱気と湿気を覚知した。

「……お姉様?……そんなにショックだったの?」

蚊の鳴くような美緒の声。
「……ハずかシぃょよぉ」

「……お姉様?」
「……名前を呼んで……呼び捨てて……」

……非常に遺憾なことだが、ここから先は再生できない。
動画のデータにバグが発生した。
美緒が真に呼び捨てを求めて以降、映像も音声も再生不能である。
完全なブラックアウト。

経過時間不明。
画面ブラックアウトのまま、すっかり満ち足りた、疲労した美緒の深い溜息が聞こえた……。

イメージ画像__” I love YOU. ”=「月がきれいですね」

追加エピソードは以上です。

あるバージン夫婦(蓮見夫妻)

航と千瀬は一緒に、こういうドラマを観ながら、
ご都合主義が過ぎるわよ!……なんで美緒なんかに、間宮真みたいな超優良な夫があてがわれるのよ……おかしいよ。あなた!そう思わない?」
「……千瀬、ドラマの中くらい勘弁してやれよ。美緒は遠回りをしたけどさ、最後は幸せになれたからよかったよ。……それとも、彼女が嬲りモノにされるところを観たかった?……そんなの放送できないって!……どこに感情移入すればいいんだよ(笑)」

やっぱりこいつらの画像は作れんな。

奥さん

……というドラマを観て、涙を流しながら、隣の旦那にこう言った。
「よかったね。美緒、幸せになれて……」
いつもはドラマを腐す旦那も何も言わない。黙って頷いていた。
腐すのは野暮だからだ。

旦那は心の中で、
(……盛りすぎ、できすぎなんだよ……美緒の情熱を表したかったんだろうけどさ、あんなドラマティックにやるのはおかしい……洗面所ではなくて、寝室に駆け込んだと思うけど……そして、スマホのメッセージは悪手だよ。真が読むとは限らないんだし……)
とツッコんでいた。

旦那のツッコミ__「これは何処なんだ?間男の家?」__イメージ画像だよ!

相沢夫妻

……というドラマを観て、涙を一切流さず、遥は直哉にこう言った。
「……美緒って、純情キャラ?それともやっぱりすべて計算だった?」

「……遥サマ、あんまりです。いろいろと彼女の過去を重くしたのは、このシーンのためだよ……。やっと素直になった、無防備になれたってことじゃないの?」

「ええーー、美緒には最後まで、演技なのか純情なのか、どっちか分かんないっていうのがいいよ!」

「それを表現しようとすると、美緒のモノローグをはさむとか、もっと余裕のある感じにするとか、練習していたとか、そういう演出しないとダメじゃないかな?そういう演出はなかったから、純情ってことでいいじゃない」

「ええーー、でもでもだって……」

「……まあ、しかし、そもそもさ、リビングに全裸で現れるかな?……遥なら、そんなことしないだろ?……ドラマでさ、美緒がひがんでみせたところまでは、ありそうだけど……恥じらって逃げ出すところからは、なんか嘘くさい」

「美緒、本当はどうしたの?」

「……知りようがないよ!(笑)」

「私がやったら?……ねえねえ、直哉さん……ぷぷぷ」

「……芝居がかり過ぎて、反応に困るよ……裸なら何でもいいって、そんなわけないよ」

「だよねー、どうせ寝室にいけば居るんだし!……私ならベッドから『本当?……とても嬉しい。続き、待ってます』って送る!」

「そうそう、それだよ!そのメッセージ、読まれなかったら、どうしたんたろう?……ここでメッセージなんて小細工、必要?……それはそうと、そんなメッセージ、怖いよ!」

「ええー!なんでなんでなんで?」

(エンドレス)

相沢夫妻流のイチャイチャなのでしょう。

イメージ画像__何故に和服?月下美人だからなの?

サキ

刺激的なシーンにキャーキャー言いながら、自宅で姉妹とドラマを観た。

サキはドラマの演出を、真に受けています(笑)。

翌日、シンに、
「ねえねえ、昨日のドラマ観た?」
と尋ねた。

シンは、
「……宿題で観てないよ」
と塩対応。

シン、サキがマシンガントークを炸裂させる雰囲気を察知し、
「サキちゃん、宿題したの?」
と尋ね返す。

サキ、既に炸裂させていた!
「……それでさ、美緒のシルエットが『これ放送していいの?』ってくらい、エロかったんだよ!私、あんなこと出来ないよ!どうしよう……え?宿題?……シンちゃん、助けて!」
とあざとくウィンク。

シン、応じて、
「ほれ、ノート写すといいよ。だけど、相当に長いから、1頁くらい写したところで、ギブアップしても、先生、許してくれると思う。……なんでドラマどおりにやることになってんだよ(笑)。だいたい誰を相手に全裸アタックするの?……俺なら脈絡のない全裸から全速で逃げる(笑)このクラスの男どもも半分くらい、リビング全裸アタックから裸足で逃げ出す(笑)。逃げないヤツはバカが一割、フリーズしたヤツが四割。ほとんどの男子なら、女子の全裸アタックなんて、ドン引きだよ!」
と、シビアなことを言い出す。

イメージ画像__口を開かなければ……。

才木みちる=高尾みちる

彼女はこういうドラマを観ない。
彼女は読書派です。
夫も同様。
……なんというつまらない夫婦だ!

イメージ画像__なぜにルーペで月下美人を見ているんですか?

水原夫妻

栞が目をらんらんと輝かせてドラマに見入っていた。
見終わって、少し涙目になって、峻に一言。
「……美緒の気持ち、よく分かるわ……!」

峻、言葉では、
「栞さん、失恋したことはあっても、アングラ送りになりかけたことはないだろ(笑)?」
「……夫の真の方にシンパシーを感じる……ドラマの前半、美緒は悲惨だった。だからこそ、後半の怒濤の幸せラッシュがよかった……でも、脚本がエロに走ってて、あざとい展開だった。上品な描き方、できなかったのかな?」
と返した。

言葉にはしなかったが、峻はドラマを観ているとき、心の中でいろいろ深読みしていた。

……スマホにメッセージなんて送らなくていいし、リビングで裸体になって迫る理由がない……どうせ2人は寝室にいくのに、なんでリビングで情事になるんだ?

……ホテルの同室とはわけが違うんだよ?……美緒がリビングで紅潮した顔のまま真に甘えて、その流れで寝室に行けばいいだろ?

……お姫様抱っこでもして、美緒を運んだ方が良さげだよ。……実際は案外、そっちじゃないのかな。

……間宮真の数学の才能に疑いはなくて、成果を出すことはほぼ確定だったはずなんだ。

……美緒を彼にあてがったのは、彼の遺伝子を残したかった役所の思惑。

……役所が提示した「フィールズ賞などの成果を三年以内に出せ」なんて条件、本当のところはどうでもよくて、真が彼女を必要とする限り、二人を引き裂く気なんて無かったんじゃないのか?

……間宮真が美緒を本気で愛したなら、彼はこう主張するにちがいない。

『両性の同意があれば婚姻は成立するし、別れにしても同じことですよね?美緒を正妻に迎え、夫婦の実体のあって、子供たちも居るのに、役所の都合で離婚を強いられるはずがない。憲法と法律的に無理です』

あのドラマの世界で最優先されるのは、出生率の向上。

夫と良好な関係を築いた美緒を、わざわざ夫の激しい抵抗を押し切ってまで、アングラ送りにする動機なんて、役所にはない。

いいことが一つもない。

間宮真のモチベーションが失われるし、子供たちはどうなる?

役所にとって、窮地に落ちた美緒は、おあつらえの『器』だったって訳だ。

そして、間宮真に成果を出させるための、この上ない動機だったってこと。

……アングラを目前にしているにもかかわらず、この期に及んでもなお、美緒が選り好みをしたなら、役所は容赦なく地獄に落としただろう。


一方、栞は峻の言葉に反応する前に、かつての自分を思い出していた。

(……そう言えば私、あの夜、ホテルのルームウェアの下は全裸で、峻の部屋に突撃したわ……キャー!……美緒と私、同じだわ!……私は美緒ほどたくさん失恋してないけど(笑))

素肌に直接まとったルームウェア、そのゴワゴワしたような、おかしな感覚。そして、その感覚で過熱してしまった自分を思い出していた。

今宵、また栞は暴走するだろう(笑)。

結論、栞の方が美緒よりヤバい!

イメージ画像__悪気なく美緒にマウントする栞(笑)


この作品は、登場人物も組織も団体も、書かれていることはすべてフィクションです。現実世界とは一切関係ありません。