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屍人の夜①


あらすじ


2025年、太陽のスーパーフレア発生によりX線、紫外線のエネルギーが地上に放射され、様々な粒子が地球に降り注いだ。世界各地で停電や通信障害が起きる中、放射線が人体に影響を及ぼした一部の人々に最悪の事態が発生する。……徐々に迫りくる屍人の群れ…、それらの発生から逃げ惑う人々を描く。




登場人物

納棺師/五條紗代子(女36歳)
缶詰め工場の派遣社員/伊藤隼平(男26歳)
ミステリー・ホラー作家/有賀祐樹(男32歳)
ハンター・猟師/田原剛(32歳)
ビル清掃員とその彼女/高橋アタル(男21歳)/浅丘あや(女21歳)
看護師/佐藤恵理子(女27歳)
自衛隊員/田原浩次(男30歳)


                                 
                  
①ビル清掃員・高橋アタルと恋人・浅丘あや/
看護師/佐藤恵理子

昼下がりの団地アパートで清掃員として働くアタルは、ラジオを聴きながら、床のモップ掛けをしていた。
「…外出には十分に紫外線対策を行い出掛けるようにお願いいたします…太陽から放射されるスーパーフレアの影響で……」

ラジオからは世界が混乱に陥っているというニュースを耳にしながらも黙々と清掃業務をこなしていくアタルだった。そこへアタルの交際相手の女性、あやがやって来た。二人は高校時代、同級生だった。「アタルお疲れ様〜、差し入れ持ってきたよ…」あやは冷たいジュースをアタルの傍に置いた。「おっ、ありがと…ああもうこんな時間か」時計は午後3時を回っていた。
あや「ねぇ、少し休憩したら。」
アタル「うんするよ、この面が終わったらね。」あや「あ〜暑い、でもここはクーラー利いてるから涼しいね」あやは手でパタパタと顔を仰ぎながら呟いた。
アタル「やっぱり暑い外?」

あや「うん、暑いし町は大変よ、警報アラートが出てるみたい。」アタル「なんかラジオでも言ってたな、そんな事。」あや「町は警察のパトカーや自衛隊まで出動してたよ」「何か大変な事が起きている気がする。」

「よし終わり、少し休憩するか」アタルはモップを置いて2人は新聞紙の敷いた床に座った。
あや「ねぇ、いつ話そうか、お父さんに…」
アタル「うん、今日切り出して言ってみるか」
「この前もそんな事言ってたのに、結局だんまりだったじゃない」「今日は言うって」「いっつもそればっかり…」「本当だって」
「ほんと?」「うん…ほんと」「絶対、だからね…」「うん約束する…」
寄り添い、互いの目を見つめながら話す2人。
アタルは今日の現場を終え、明日は休みだった。2人はあやの父親が経営する居酒屋へ飲みに行こうとしていた。10階建てのアパートでエレベーター待ちをしていた2人は廊下の奥の方からゆらゆらとした足取りの人がこっちへ向かって歩いて来るのを目撃する。

あや「なんだろあの人?」「酔っぱらいみたい」アタル「昼呑みでもしてたのかな」「待ってる?」「まさか、次のエレベーターで行ってもらおう」「それより早く行こう」2人は近づいてくる怪しい人を無視しエレベーターに乗り込んだ。
あや「なんか目が変だったね、何というか虚ろな目がやばかったね」アタル「やっぱり酔っぱらいだよ、絡まれる前に行って良かった」エレベーターは1階へ降りると、車高の低い軽カーに乗り込み、居酒屋へと車を走らせた。
町は自衛隊の車両が往来し、警察車両も何台も出動していた。
アタル「本当だ、凄いね。大事故でも遭ったのかな?」
あや「そんな感じだね…、あっ!人が倒れてる、救急隊が人工呼吸までしてる」
アタル「かなりの事故だよこれは…でもなんか可怪おかしい、事故車が見当たらないな」「どんな事故だったんだろう」
アタルの運転する車は騒然とした街中を駆け抜け、あやの父親が経営する居酒屋へと着いた。夕方の5時少し前だった。近くの駐車場へ車を止め、歩いて店へ向う2人。辺りは繁華街に隣接している通りだが、流行りの居酒屋というよりは、一般的な赤提灯の店だ。
「しゅうちゃん」と書かれた看板、屋号だ。

2人は和式の横にスライドする扉・引き戸を開け入った。ガラガラと独特の音が鳴り響く。
店主「おっ、あやか、アタル君もいらっしゃい」
あや「父さんお疲れ様」
アタル「こんにちは」アタルはペコリとあいさつをする。
「いつもの席座ってて」そう言うとあやは厨房へと入っていった。

生ビールの中ジョッキとウーロン茶を片手に持ち、もう片手には酒のつまみを持ってテーブル席へと戻ってきたあや。
あや「じゃ、乾杯っお疲れ様〜」
アタルはよく冷えたビールとウーロン茶を、2人は喉越しよく飲んだ。
「あ〜!うまい!」思わず声が出る2人。
父親「いらっしゃいませ~!」
開店した店へと次々にお客が入ってくる。
「忙しくなってきたかな、私ちょっと手伝ってくる」そう言うとあやはまたカウンターの奥の厨房へと入って行き、テーブルを回り注文を取っていった。
「いらっしゃいませ、ご注文お決まりですか?」
「生ビールと焼き鳥の盛り合わせ、…あとモツ煮込みでお願いします」
「はい、ありがとうございます」
客「あっ、すいません。あとモロキューもお願いします」
「はい、分かりました、ありがとうございます」

接客をこなすあやを見ながら、アタルは枝豆をつまみながら、ジョッキ生でノドを潤す。

その時だった、扉にもたれ掛かりながら叩く音がした。

ふつう客は引き戸を横にスライドさせて入って来るのだが、ドアを叩いてくる客はちょっと怪しい。危険を察知したあやの父親・修一は警戒しながらもドアに近づいた。ドアの磨りガラスには人の黒い影が揺らめき、不気味に映っていた。
「何だろう…」修一は扉をゆっくりと開けた。
そこには、真っ青な顔で目は虚ろで生気が抜けたような男が立っていた。
その男は、修一と目が合うと突然抱き込むように押さえつけ修一の肩に噛みついてきた!
激痛に耐えられない絶叫に近い声を上げる。
修一の肩からおびただしいたほどの血が流れ、店は悲鳴に包まれた。
アタルはすぐに咬みつく男を修一から引き離した。
店の客たちは驚き、混乱に包まれた。
「お父さん、大丈夫?」娘のあやが、厨房から出てきて傷を見た。咬みつき押し倒された男は、にうめき声を上げ、襲いかかろうとしたが、アタルは扉を閉め鍵を掛けた。
「何なんだアレは!酔っぱらいにしては様子が変だった、異常者だよ!」
修一の肩からは異常な量が出血していた。「大変だ…、あや!救急車だ!」
あやは店の電話から119番しようとしたが、繋がらない。「おかしい、繋がらない…」あやは自分のスマホからも掛けようとしたが、電波は圏外になっていた。「どうして!?こんな時に…」 
引き戸を叩く音がする、今襲った奴がまた入ろうとしているだけではなく、今度は3人に増えていた。ドアは壊されるかもしれない。

客も動揺を隠せなった、携帯で電話をかけようとする者もいるが、繋がらなくないようだった。
非常事態だと察知したあやは、客を裏の勝手口から避難させようとした。

「皆さん、ここは危険ですので裏の勝手口の方から外へ出て下さい、今日のお代はいりません、すみやかに避難して下さい」あやは客を裏の勝手口へ誘導し、避難させた。


アタル「出血が酷い、とりあえず止血だ、あや!タオルを持ってきて!」アタルはタオルで傷口を押さえ止血を試みる。
「あの!その怪我、見ましょうかか?」そこへ飲んでいたお客がきた。
「私、看護師なのですが…。」
「看護師の方ですか、出血が酷いんです、診てもらえますか!」女性看護師のお客は修一の傷口を見る。
「かなり強く咬まれてますね、肉が皮膚ごと咬み切られてます。」
傷は思ったよりも深かった。
「救急箱などありますか?」
「ええ、備えつけのですが」あやは奥の部屋から急いで救急箱を取りに行き、看護師に渡した。

「応急処置としてカーゼと包帯で止血します」

恵理子は修一の傷をガーゼと包帯で傷口を抑え止血の処置を行うが、そうしている間にも異常者からドアは間もなく壊されるだろう。

「あや!ドアが壊されそうだ!ここは危ない早く逃げた方がいい!」アタルは奴らがもうすぐこのドアを破って侵入してくる事を察知した。

意識が遠のいていく修一「2人とも早く逃げろ…、私はここに残る事にする…」

「そんな、父さん…一緒に逃げようよ…」

「いや、一緒には行けない、きっと足手まといになるだけだ…」

「嫌だ…父さんも一緒じゃなきゃ嫌だ!…」

あやは父親の修一に傍に寄り、抱きしめた。
アタルも傍に寄り添い3人で抱き合った。

「…アタル君…あやを…娘を頼んだよ…」

その時、ドアが打ち破られる音が響いた!

屍人たちはドアをぶち破り店内へと侵入してきた。

「さあ早く逃げろ、そして生き延びるんだ…」


あやとアタル、そして看護師の恵理子は店の勝手口から脱出した。


赤紫色に染まる夕暮れ…、3人は、屍人たちが徘徊する街へ飛び込み、生か死か先の見えない闇へと消えていった。



        つづく