揺れない天秤 第一話
あらすじ
路上でどこかの会社員の死体が見つかった、と報告を受けた橘啓は、居候にして部下であるゴンと現場に向かう。
発見されたのは首なしの死体、橘には貴方を監視する、という謎の警告と共に味方へ付いたAI、レイラが捜査協力しており、レイラはAI特有の演算能力と、あらゆるコンピューターにアクセスできる特殊能力で、警察の持つ事件のデータや監視カメラの記録に侵入、事件の謎を解き明かすべく橘とレイラは事務所の仲間と共に事件の沿革を追っていく。
被害者の首から上の行方を追う内、橘にはある秘密があることが明らかになる。そこには犯人のトリックと動機が隠されていて、AIというレイラの特性によって、犯人の正体が明かされていく。
小学生の頃、誰もが上皿天秤というものを使っただろう。
ピンセットを使って片方の皿に重りを乗せ、もう一方にも同じように重りを乗せてみる。すると、より重量の重い方へと皿は沈み、天秤は傾く。
その重りを取り除けば、あるいは反対側に重りを乗せれば、重量が逆転した時、天秤はまた反対側へと傾く。
誰もが見てわかる、理科の授業の一幕だ。そこには小難しい論理も、難解な数式も存在しない。極めて単純な物理現象、それだけの実験だ。
ではーーもしも重りを乗せても、天秤が傾かない時。それが明らかに重量物である時。どんな重りを乗せても、それが平衡を保つ時。おかしいのは、天秤だろうか? それとも、それを見ている人間だろうか?
そんな疑問を抱きながら、過ごした理科の授業、、記憶にあるのは、そんな疑問を抱いたという記憶だけ。何が原因だったのかは、今も思い出すことができずにいる。
どうやら事件が起きたらしい。
俺、こと橘啓は、寄りかかっていた倉庫のコンテナの鉄板から身を離し、その報告をしてきやがったゴンに、いつも通り無愛想な目を向けてやった。
ゴンは、白のカッターシャツにジーンズ、目元まで伸びる茶色の前髪が明らかに視界の邪魔をしている、だがファッションだのオシャレだのとのたまってそれ以上は絶対に切ろうとしない、やる気のない今風の若造だ。毎回無言で睨む俺に、ニラハラなる謎ワードを放ちながらも、二日で慣れた胆力だけは大したものだが。
まだ5月という、桜も散って久しいこの時期に、上下ともに茶色という、季節感のないスーツに身を包んだ俺に、ゴンは、反応を催促するように、だから、と両手を握りしめて話を続けていく。
「聞いてます、ケイさん? だから、事件なんですよ! それも殺しのっ!」
「、、さっさと続きを喋りやがれ」
事件だけじゃわかんねえっていつも言ってんだろうが。こいつも学習しない奴だ。
動画配信やらクリエイターやらが世に溢れ、昨今こそ学歴社会という色は薄れつつあるが、それでも高校で中退となれば、半ば人生をドロップアウトしかけていたと言っていい。
そんなこいつを拾ったのは、もう三年も前のことだ。正式な名前は権藤天翔、下の名前は俺には『てんしょう』としか読めないが、これで『かける』と読むらしい。
生家がどんな環境だったのか、何をして16まで生きてきたのかを聞いたことはない。当時はまだ中坊同然のクソガキだったこいつも、少々特異な環境に身を置く俺の下で修行を積んで、ちっとはマシになったと思ったんだが。言われなきゃ動けねえ辺りは、まだまだ未熟だ。
ゴンは、ええと、と慌てて俺が渡してやった、擦りきれ、色褪せた革のメモ帳を取り出して、記録した概要を読み上げていく。普段はスマホに頼りきりの若造が、格好良いから、なんて理由で使い始めた、俺のお古だ。渡してやった当初こそ持ち歩くだけだったが、今ではちゃんと有効活用しているらしかった。
ちゃんとメモを取るとは、こいつも成長したもんだ、と感心した俺に、ゴンは、
「ガイシャはどっかのリーマンッスね。名前も年齢も身許もナゾ、どっかの道端で倒れてたのをどっかの主婦が見つけて通報、どっかの署のサツが来て事件になったみたいッス」
「、、おい、ちょっとそれ見せてみろ」
なんなんだ、その雑な報告は。上からその手帳を取り上げ、そのメモの内容らしき殴り書きを読んでみる。こいつの背丈は平均身長程度、俺の方が身長は10センチ以上高く、腕っぷしも遥かに強い。取り上げるのは容易だったが、それにしても、幼稚園児の画伯が書いたみてえな、汚ねえ字だ。
「サツ、しゅふ、リーマン、首、、道か? なんだこの単語集は?」
「えっ、それが事件のメモっすよ。何かあったらちゃんと詳しい内容を書いておけって、ケイさん言ってましたから」
どうですか、とかドヤ顔を決めたと思ったら、返してくださいよ、とか言って人の手元から強引にメモをふんだくるクソガキ、すげえな、詳しいって言葉の意味を知らねえのか。いや、むしろこんな雑な殴り書きの単語からさっきの説明ができた、こいつの類推力を誉めてやるべきなのかもしれなかった。
いずれにせよ、ここで一つ確かに言えることは、
「やっぱてめえで行くしかねえな」
面倒だが仕方ねえ。こいつはただのクソガキだ。取り柄も特技も何もねえ、ただのやんちゃな若造だ。
まったく、ろくに報告もできねえとはな。こんな風に育てやがった師匠の顔が見てみたいもんだぜ。なあ?
ゴンの案内で着いた先は、ごく普通の一般道路で、こんなところで殺しかよ、というのが俺の最初の感想だった。その道も、車が一台通れば十分という程度の広さしかなく、それも当然のように、既に警察によって規制線が引かれ、一般の空間からは隔離されていた。
遠目で見る限り、道自体にもほとんど人気はなく、周辺には工場らしき白い立方体の建物が立ち並び、その周りでは二車線程度の、車通りが多いとは言えない道路が通っている。現場となった場所は、その工場の間を人が通り抜けできるよう作られた細い道で、工場の敷地がだだっ広いから、近隣住民が迂回しなくても済むよう配慮されて設置された、生活道路ってやつだ。今はそれが青いシートとバリケードテープによって隔離され、いかにも殺人現場然とした密閉空間になっていた。
「で、サツが二人、、おいゴン、立ち止まるなよ。怪しまれたら面倒だ」
場所が生活道路だから、別に人が歩いている自体は不思議でもなんでもない。俺たちは今、その閉鎖された道を歩き、少しずつ殺人現場に近づきながら、その近辺の状況の確認に来ている。
「おっと、ごめんね、ここから先は立ち入り禁止だよ」
ーー勿論、そんな殺人のあった現場まで、一般人を素直に近付かせてくれるほど警察もバカじゃない。手前の十字路で迂回するよう指示してきた、制服の警官に従って、俺たちは一度その道を外れ、外周にある二車線の道路へ向かって歩いていく。
曲がる前に確認した野次馬は、十字路の地点に主婦らしき買い物帰りの女が二人ほど。案外少なかったな。主婦なんて噂好きなのが定説の生き物だ、これからかなり増えそうだがね。
「ケイさん、なんで現場に行かないんすか? こんな遠くで曲がったって何も確認できませんよ?」
「物事には手順ってものがあるんだよ。いいから付いてこい」
素直に道を曲がった俺に、ゴンは不満げに文句を言ってくる。現場に出向かずにどうやって事件の確認をするというのか、それ自体はもっともな疑問だが、警察相手に正面突破なんてしたらそれこそ面倒だろう。ゴンは、俺に従って迂回路にはちゃんと付いてくる。
二車線の道路に出ると、俺はそのまま生活道路の裏側に向かって歩を進めていく。当然こっちも封鎖されてるだろうが、別に抜けられないわけでもない。先に工場の周りを見ておこうと思っただけだ。警察に関わってから歩いたんじゃ、見てる奴に捜査してますって教えるようなもんだからな。
「、、よし、大体把握した」
ここに来るまでの経路と併せて、近隣の環境はこれで把握した。二車線道路で囲われたほぼ正方形の工場の敷地、その中央を十字に走る生活道路、その奥に続く一角で、殺人事件が起きたらしい、、まずはこれを記憶しておく。
この周囲の建物は、全面的にくすんだ灰色の塀で囲われていて、この工場の敷地内になら、まばらに人がいる気配はある。だが、塀はコンクリ製で分厚く、透視能力でもない限り、道路へは中も外もお互いに見えはしない。
だから、ここで起きたのがどんな事件であろうと、目撃者がいるとしたら、あの現場に続く、一直線の道路をたまたま歩いていた人間か、その道路の手前、なんちゃら製薬とかいう生活道路正面の研究所めいた巨大な建物からかーー、あるいは、たまたまこの辺の工場の塀をよじ登っていた、変質者くらいのもの、ということになる。勿論、そんなヤツがいればだが。
周囲には細長い街路樹が立ち並んでいて、一見するとこの上からでも道の向こうを見ることはできそうだが、樹が細すぎて大人が登るには頼りない。少ないとはいえ、人通りもある中で街路樹なんかに登ってる奴がいれば、そっちが先に通報されるだろうな。
「ここが裏側だな」
さて、二車線の道路を直角に曲がって、俺たちは同じく二車線の道路を、さっきの生活道路の出口側に向かって歩いていく。所要時間は曲がり角まででおよそ5分。生活道路は正方形の敷地を十字に区切るように延びているから、迂回路から反対側に進んでも、およそ5分で曲がり角に辿り着くはずだ。
この工場の敷地は正方形、つまりーーどの一辺を歩いても徒歩で10分、生活道路まで5分という、四辺でできていることになる。人間の歩く速度は時速4~5キロ、分速だと80メートルが基準というから、これでいうとこの敷地は縦横800メートルってところか。生活道路自体も4メートル程度の幅はあるが、正確に実測しているわけではないし、誤差の範囲でいいだろう。
さて、生活道路の裏側に着いてみれば、こっちにも規制線が引かれ、ブルーシートと黄色いテープの前には警察が二人。パトカーも停まっていて、中で鑑識でも進められているのか、複数人の人間の気配がある。ちなみにこっちには野次馬は6人、道路の反対側には公園があり、大通りに面している側だから、さすがに工場の敷地よりは人もいる、が。
「それにしても6人か、、少ねえな」
いくら場所が工場の敷地とはいえ、ゴンの話によれば、コトが殺しだ、もう少し騒ぎになっていてもおかしくなさそうなものだが。どう数えて見てみても、買い物帰りの主婦や移動中のサラリーマンなど、顔ぶれは6人しか存在していない。
「ケイさん、ケイさん」
そうして、野次馬に紛れる形で中を覗く俺に、ゴンが何やら人の袖を引っ張ってくる。
「ケイさん、あいつら犯人の仲間なんですかね?」
「あ? あいつらはサツだろ。なんでそうなるんだ?」
「や、だってあいつら道路の前に立ち塞がって、俺たちの捜査の邪魔してるじゃないっすか。何か調べられてまずいものでもあるんすよ、きっと!」
阿呆か、こいつは。俺たちは今のところただの部外者で一般人、向こうは正規の捜査機関だ。向こうからすれば、捜査の邪魔をされないために、当然のこととして部外者の立ち入りを禁じているにすぎない。
「自分視点だけで物事を考えるんじゃねえ、あれはサツの仕事だ」
「イテッ、痛いじゃないっすか、もう!」
額を軽く小突く俺に、ゴンは恨みがましげな目を向けてくる。勿論、そんな目はスルーする。小突かれるようなバカな台詞を吐く方が悪い。
「ケイさん、これパワハラっすからね。上に言いつけてとっちめてもらいますからね」
「うるせえ、俺がその上だ。いいから反省しろ」
生憎だが、俺たちはほとんど自営業のようなもので、訴えられて困るような役職者は存在しない。ーーただ一人を除けば。
「マサキさんに言いつけてやる、、」
「っ、てめえ、、」
額を擦りながら、ゴンはジト目で人のことを見上げてくる。最近こいつも小利口になって、人のウィークポイントってやつを利用する術を覚えてきやがった。その頭を、まずは常識を身に付ける方に使いやがれ。
「ったく、、いいから反省しろ。痛くねえよ、こんなもん」
「っわ、髪が崩れるじゃないっすか!」
頭に手を乗せて、髪をくしゃっとする俺に、ゴンは、今度はマジの勢いで手を振り払ってきやがった。どうやらこいつにとっては叩かれるより、髪型が崩れる方が重大事らしい。
「ちょっと、あんたたち。あんたたちもここから立ち去りなさい、捜査の邪魔だよ」
っと、、気が付けば、辺りの野次馬たちは皆立ち去っていて、規制線の前に残っているのは、俺とゴンだけになっていた。
見てくれの悪さからだろう、警官二人はさも犯人にでも遭遇したかのように、剣呑な目を向けて俺たちを警戒してくる。
ゴンは茶髪にだらしなく着崩したワイシャツ、スラックスと見るからにヤンチャ坊主の風体だし、俺も黒髪とはいえ、身長で180を超える格闘家に近い体格、短髪、目付きは悪く、見た目が堅気でない自覚はある。確かに、傍目にはチンピラが二人いるようにしか見えないだろう。怪しく思う気持ちは理解できるが、無闇に疑われるのは気分の良いものではない。
俺は、悪いな、と言葉だけで軽く謝罪してから、一歩更に近づき、警官を見下ろすようにして、なあ、と気安げに声をかけてやる。
「佐久間を呼んでくれないか。どうせいるだろ? 橘啓が来たって言えば通じるはずだ」
「は? なんなんだ、あんた?」
ああ、どうやら堅物の警官に当たっちまったか。佐久間の名前を出したってのに、警官は逆にますます疑いを強めて、こっちを睨み付けてくる。
さて、それじゃあここは他の名前を出すべきかーー、と思案する俺の前に、今度は何故かゴンが前に出てきて、警官にメンチを切りやがる。
「おいてめえ、ケイさんが佐久間出せって言ってんだろ? おとなしくさっさと佐久間のドロップスってやつをーー」
「お前は黙ってろ、話がややこしくなる」
だからチンピラ同士の喧嘩じゃねえんだよ。無駄に警官に喧嘩を売ってんじゃねえ。しかもドロップスって、飴じゃねえかよ。
速攻で頭を掴み、後ろに引いて引き離してやったが、予想通り、警官はもはやこいつを先に捕まえるべきか、みたいなレベルでこちらを警戒していて、もう話が通じそうな気もしねえな。余計なことしやがって。
「あんたらねえ、、これ以上邪魔するなら、公務執行妨害でーー」
「悪かった、またな」
仕方ねえ、この場は撤収だ。運良く佐久間が出てきて場を納めてくれる、なんてドラマみたいな都合の良いことは起こりはしない。仕事中に気軽に抜け出す、なんてことができるほど器用な奴じゃないことは、俺もよく知っている。
まあーーこれだけ近づけただけでも、収穫としては十分だ。
行くぞ、とゴンに声をかけて、俺たちは結局最後まで殺人現場に立ち入ることなく、規制線の前から立ち去っていった。
さて、ここから先だが、勿論わざわざ警察の隙を突いて現場に戻るようなバカな真似はしない。普通に自分達の事務所に帰るだけだ。電車で二駅ほど進み、改札を出てオフィス街を横切っていく。昼も過ぎて腹が減っていたから、ついでにコンビニに寄って弁当を二つ選び、チョコレート菓子も一つ買っておくか。金は俺が支払ったが、お釣りはゴンの奴が駄賃とか言って横からかっさらっていった。ほとんどスリの手口だ。
そうして、コンビニを出て今度はオフィス街の方へ戻り、裏路地に入って、狭苦しいビルの中へと入っていく。辺りはビニール袋に入ったコンビニ飯の空容器や、包装の袋ゴミが散乱し、残飯でも転がっているのか、鼻を突くような異臭も漂っている。だが、街の裏側なんてこんなものだ。何年も通っていれば、いい加減慣れてしまう。
ビルの中、人同士がすれ違うことすら難しそうな、狭い階段を登り始めた俺に、ゴンが今度もまた俺のスーツの袖を引いて、訝しげに問いかけてくる。
「ケイさん、結局事件現場も見ずに帰って来ちまいましたけど、良かったんですか? 死体も見られませんでしたし、これじゃ何も調べられませんよ?」
「心配すんな。あんだけ現場に近づいたんだ、どうせ奴がどうとでもするだろうよ」
お前のせいだ、とは敢えて言わずにおく。最近の若造ってのは扱いが難しいからな、変に口を滑らせて自主帰宅でもされても面倒だ。
俺たちには心強い、とは口が裂けても言えないが、実は、とにかくその道のエキスパートであることに間違いはない味方がいる。本音で言ってしまえば、味方、と一口に言っていいのかすら、疑問もあるんだが。
三階の古びた扉に手をかけ、まずは少し押した状態で鍵穴に鍵を入れて、扉の解錠をする。築年数が古いせいもあるが、立て付けが悪く、少し面倒だが、こうしないとまともに鍵が回らないのだった。
「帰ったぞ、、っつっても、もうわかってるよな」
扉を開けると、入り口の左右には山積みになった雑誌の束、中央には引っ越し業者でも来てたのかと疑うような、両腕で抱えるほどのサイズの段ボールの箱が出入り口に鎮座し、ほとんどバリケードのように天井まで積み重ねられている。
どう見ても人為的に作られたこの壁だが、さてその隙間を抜けようか、段ボールを退かして道を作るべきか。無難なのは後者だな。迂闊に抜けようとして、ブービートラップにかかっても面倒だ。
仕方なく、まずは山となった段ボールの一つに手をかける。すると、なにやらボソボソと喋る、人の声のようなものが奥から聞こえてくる。いや、奥と言っても、部屋の奥ではなくーー
「また変なもん作りやがったな。おいゴン、この道こじ開けろ」
「えええ、俺っすか? 和希のやつ何仕掛けてるかわかんねーから怖えんすよね、、」
わかってんだよ。だからお前に開けさせるんだろ。
渋るゴンに、早くしろ、と急かして、まずは一番上の段ボールを取り除かせる。中身は空っぽなのか、大きさに反して軽々と持ち上がった。何かが入っているような音もしない。
「ケイさん、これどこに置けば良いんすか? 置く場所ねえっすよ」
「ほら、置く必要ねえだろ」
懐からナイフを取り出し、俺はその段ボールの底に、遠慮なく刃先を突き入れて底を封じていたガムテープを切り裂き、解体する。中身はやっぱり空だ。こんなもん積み上げるんじゃねえよ、邪魔くさい。
「ケイさん怖えっすね、そんなもん持ち歩いてたんすか」
「護身用だろ。俺たちの仕事は誰に狙われるかわかんねーからな」
それは、こいつを居候させたときに断ったはずだ。今更ビビってるんじゃねえ、と叱咤して二つ目の段ボールを持ち上げさせる。
「、、おっ?」
「当たりか?」
その、段ボールを取り除こうとしたゴンの手が、予想外に重いものに当たったように止まり、中の何かが、単に持ち上げる、というだけの動作を阻んでいる。そして、再び聞こえてくる何かの声。この箱の中からだ。
「ケイさん、お願いします。マジこえーっす!」
「仕方ねえな、こいつを退かさねえと中に入れねえからな」
毎度思うが面倒な仕掛けだ。一つ取り除いた分、積み上げられていた嵩が減って、段ボールの上部が今は俺の鼻辺りに位置している。泣きそうな声で嘆願してくるゴンに代わって、今度は浅めに、ナイフの刃先で上からガムテープだけを切り裂き、段ボールの蓋を開けてやる。
「、、何やってやがんだ、てめえ」
「ご、ごんさん、けいさん、おはようございますー」
視界に入ってきたのは、ざんばらに切られた黒髪と、黒淵眼鏡、色の白い細面と、いかにも気弱な風体をした、冴えない女の顔だった。
何がすげえって、その段ボールには首から上だけが見えていて、パッと見では生首にしか見えないところだ。胴体は下の段ボールの方に収まってるんだろうが、いかにも暗い目付きといい、半分こけた頬といい、晒し首にでも出くわしたような印象で、一瞬通報の言葉が脳裏をよぎる。ゴンのやつ以前一回これを見て、まじで腰を抜かしやがったからな。
「や、やっぱ和希っすか? 俺の位置からだと見えねーんすけど」
「ああ、見ない方がいいぜ。フツーに生首だ」
「生首っ? うっわーこえーっ!」
「いつものことだろ、今更ビビんな」
俺の方が身長が高い関係で、ゴンの視界ではこの中は見えないらしい。とりあえずこいつを退かせ、と命じ、和希は渋々ながら箱を抜け出す。どうやって収まったのかと思ったら、後ろに下がれば簡単に抜けられる仕様だったらしい。
「おい。バラすぞこのゴミ」
「あ、どうぞお好きに、、私の目的は自分の身を守ることですからー」
中は何故か白衣の下にスーツという、妙な格好をした和希は、間延びした声で答え、軽く頭を下げると、もはや興味は失せたとばかりにデスクへと戻っていく。ちっ、こいつを片付けるのはどうやら俺たちの仕事らしい。
和希が何をしてたのかといえば、要するに侵入者対策にバリケードを作って、ついでに相手をビビらせて追い返せるよう自分も箱の中に潜んで、場合によっては奇襲でも仕掛けようとしてたらしいな。きちんと鍵をかけていれば侵入者になんてそうは出くわさないだろうに、下の箱の中にはバールらしき金属の棒が収まっていて、下手をしたらここでも事件が発生するところだった。
「相変わらずやべーっすね、あの女。毎回人をビビらせる仕掛けを作って、どんな趣味してんすかね」
「しかも自分じゃ片付けねーしな」
思わず同意しちまったが、こいつを雇っている俺たちの側にも責任はあるだろう。
こいつは御田村和希。一瞬男の名前に見えるが、読み方は『なごみ』、年齢も23とまだ若く、ゴンと同じく普通じゃ読めないコンビの片割れだ。うちの事務員の一人なんだが、とにかく怖がりで、なら先制で相手をビビらせて退散させてしまえ、をモットーに生きる、根暗な女だった。ビビりのくせに気が強く、就活の時には圧迫面接をこの幽鬼じみた迫力で圧迫し返し続け、殴り合い寸前にまで持ち込んだトンデモである。
なんの間違いか、マサキの目に留まってうちで雇っちまったわけだが、パソコンのスキルは何をやらせても並大抵でないものが揃っているし、有能な事務員であることにも違いはない。難を言うなら、こいつのせいで邪魔なゴミが量産され続け、処理費用が倍以上になったことだが。パソコン仕事ができるのが俺とマサキしかいない以上、簡単にクビにもできないわけだ。
その和希が、ようやく全ての段ボールを解体し、事務所の中へと入ってきた俺に、怨みでも込められているようなじっとりとした目を向けてくる。
「そういえば啓さん、死体の発見現場に行ってたんですってー? マサキさんが心配してましたよー」
「、、ああ、中までは立ち入らなかったけどな」
「お気をつけくださいねー、啓さんの挙動は一挙手一投足全部が監視されてるんですからー、、」
うふふふふ、とか不気味に笑う和希、そういやこの目付きも間延びした喋り方も、こいつにとっては平常運転だったな。
一個一個の挙動がいちいち気味が悪いのは、たぶん相手を怖がらせるため、長年続けてきた悪癖みたいなものなんだろう。ホラー映画にでも出たら引っ張りだこだと思うが、本人いわく、自分の身の安全のために相手を怖がらせているだけで、自分が怖い思いをするのは嫌らしい。我儘というか、マイペースな女だ。
「監視っつってもな。便利に使わせてもらってるのは間違いねえが」
そもそも、これがなきゃ仕事になんねえからな。今回の事件でも、こいつが重要な協力者になる。
俺は自分のデスクに戻って、まずは買ってきた弁当を広げる。ゴンにも一応机はあるが、ここまで来るのが面倒なのか、和希の後ろを通るのが嫌なのか、解体した段ボールの山の上に座り込んで、そっちで飯を食い始めていた。段ボールの山は他にもいくつもあって、このままじゃ段ボールの山で事務所が埋まりそうだ。後で処理しねえと、床が抜ける可能性すらありそうだった。
ーーさて、さっさと飯を腹に詰め込んだところで、俺も自分のデスクのパソコンを起動する。マサキを除く他の連中のパソコンは普通の市販品だが、俺のパソコンだけは、それらとは異なる仕様で作られている。
俺は、何かの輪郭を形作っていく起動画面に目を向け、いつもながらどこか恥ずかしいような気持ちで、そいつに声をかけた。
「帰ったぞ、レイラ」
『橘啓、帰還。時刻5月13日13時35分54秒06、指紋、声紋、虹彩、顔容、耳介、認証完了』
パソコンの画面には、金髪碧眼の女の映像が浮かび上がり、そいつが機械音声で本人確認を行っていく。
『お帰りなさい、マスター。本日のご用件は?』
その、全ての認証を終えると、画面の中の女はにっこりと微笑み、俺に向かってそう、問いかけた。
問いかけた、と言っても、見ての通りというべきか、相手は人間ではない。非常に精巧に作られた、AIによって生成された画像、、アバターのようなものだ。
ただし、つぶらな瞳に、ゆるふわに流れる金髪、そこらの芸能人なら軽く霞んでしまうような、見た人間全てを狂わせてきたと本人の自己申告する美貌は、目の保養になることは違いない。これがいったい誰の趣味なのか、、こいつの所有者でもない俺には、その由来を知る術もないが。
ただ一つ言えるのは、こいつは現代社会の動脈とも静脈とも、あるいは心臓とも言うべきインターネットのネットワークへと、自由にアクセスする能力があるということ。それも、あらゆる防護壁、認証システムやロックなどをスルーして。侵入した形跡さえ残さずに。
こいつが、いったい誰からの贈り物なのか、郵送されてきた相手先は不明で、俺にも心当たりはない。ただ、試しに箱を開き、起動をしてみた、その日から俺とこいつの奇妙な連帯は始まっていた。
『あなたは監視対象に選ばれました。以後、あなたの全ての言動は私の知るところとなります。了承しますか?』
これが、その出会いの第一声だ。もう少し他に言いようがあるだろうとは思ったが、当時の俺は、自分でも不思議なくらいあっさりと、その提案を受け入れていた。
普通であれば、気味が悪いと破棄するか、了承せずにレイラのシステムをアンインストールして、普通のパソコンとして使うかの二択だろう。第一、国にか警察にか、それともどこかの研究所になのか、どこからの監視なのかも明確ではない。こんな提案を飲むのは、よほど神経のおかしな人間だけだ。
だが、当時の俺は、それなら好都合と、全部を監視して見せろとばかりに、その提案に従いーーそして、いくつかのすったもんだの後にマサキと出会い、こいつの能力を利用して始めたのが、この総合事務所だった。
事務所自体は、名目上はいわゆる普通の会社で、具体的に何をメインとするとは決めていない、依頼を受けて活動する、ただの事業所の一つだ。中でも現状の俺は、非正規の警察への協力者、情報屋とも違う、いわゆる事件解決への助っ人稼業を専門としている。俺の場合は特に、レイラのマスターであるが故の役割が強いが、警察には話せない情報でも手広く集め、分析して解決に導く、トラブルシューターといった立場の人間だ。
俺が警察に協力しているのは、俺が昔ある事件に関わっていて、警察にとっての難題を片付けることで、貸しを作り、優先的にそちらに人手を回してもらうため、、その成果が出るまで、期間限定で手伝ってやっているに過ぎない。本当は向こうも面子があるからな、向こうから俺に頼ろうとすることはほとんどない。俺が出向いて勝手にさっさと解決しているだけの、ただのお節介だ。
「それも、必要なことだからな。レイラ、今日起きた殺人事件についての情報を知りたい。警察が保管している映像を見せてくれ」
『不正アクセス禁止法に該当します。続けますか?』
「続けろ」
この、ちょっと融通が利かないというか、いちいち忠告を与えてくるのが面倒なんだが。あとAIのくせに口が軽く、所員やマサキに俺の言動をリークしまくるところとかな。監視というより、情報をバラまきまくるストーカーだ。
レイラはけれどあっさりと、承知しました、と頷き、すぐにパソコンの画面に、何枚かの写真が張られていく。
一枚目の写真は、ゴンの言っていたサラリーマンとおぼしきスーツの男性が俯せに倒れているところで、道路の周囲の白い壁から、これがあの工場で起きた殺人の写真だとわかる。
ただしーー、なるほどな、と。それを見れば俺も、ゴンの言葉には納得せざるを得なかった。
「名前も身元も年齢も謎の、どっかのリーマンか、間違いねえな」
「あっ、事件の写真っすか? 俺にも見せてくださいよ!」
と、俺も死体は見てねーんすよ、とゴンが事務所を大回りして、あくまでも和希には近付かないよう俺のデスクへと駆け寄ってくる。今は普通に事務仕事をしているだけのはずだが、どんだけ和希が苦手なんだこいつは。
「うえっ、グロっ! キッモ! おえっ!」
しかも、画面を見るや盛大に顔をしかめて、おえええ、とかいって、えずきやがる。苦手なら見に来るんじゃねえ。
まあーー油断していたなら、無理もないとは思うけどな、首なしの死体、なんてな。
そうーーその写真では、黒いスーツと白の少しよれたワイシャツ、紺のネクタイ、体格や腕時計などから男性だろうとは予想が付くが、その首から上は、壊れたマネキンからもぎ取ったように、存在自体が失われていた。
辺りには散乱した血液のためだろう、道の端から端、前後にも数メートル以上と、かなりの広範囲に渡って絵の具のようにベッタリとした朱色がぶちまけられていて、血の池という表現がぴったりと当てはまる。ここから、男の年齢やら顔やらを探るのは不可能になっていた。
画像は警察のデータベースから流用しているはずだが、警察がある程度捜査を進めたはずの現状でも、死亡推定時刻は一昨日の夜、ということ以外、このデータに注意書きなどはない。身元も年齢も不詳のままってことは、免許証のような、身元を証明する物は何も持ってなかったってことなんだろう。強殺事件ではなく、ただの殺人に分類されている辺り、殺された後に盗まれたってわけでもなさそうだった。
道の全域を覆うようなド派手な出血量からすると、普通に生きている間に首を落とされたって感じだな。この写真だけでは、首がなくなった理由も、その首から上がどこに行ったのかもわからないが、、さて、二枚目以降で見つかるのかどうか。
ーーと、画面に目を集中させる俺の肩を、ゴンのやつが何やら泣きそうな顔で揺さぶってくる。さっきから何なんだこいつは。
「ケイさん、ケイさん、あんたよくこんなもんガン見してられますね!? これマジの事件じゃねーっすかっ! ガチで死体じゃねーっすかあ!」
「マジじゃねえ殺人事件がどこにあんだよ」
第一、ちゃんと見ねえと事件の詳細がわかんねえだろうが。こっちは現場に簡単に立ち入れるわけじゃねえし、見られるものからありったけの情報を引き出すのは捜査の基本だ。
「とりあえず先に二枚目に行くか」
あんまり赤に染まった画面を見ていても、目には悪いしな。俺はゴンを無視してデスクトップへと向き直り、マウスをクリックする。集中していたせいか少し目がチカチカしていて、これなら医者の手術着よろしく、青色の服でも用意しておくべきだったかもしれない。
開かれた二枚目の写真は、その倒れたリーマンの姿を、足元の側から撮ったものだった。生活道路を抜けた先、さっき俺とゴンが警察と言い合いになった場所が写し出されていて、リーマンは左右に寄るでもなく、思っていたよりも、道路のド真ん中で倒れていたことが見てわかる。
血液の散乱具合は、画面の手前、倒れた足元側よりは、失われた首の側、画面の奥に向かって放射状に飛び出している。物理法則に従って考えるなら、これはつまり、倒れる前よりは、倒れた後に噴出した血液が多かった、ということだろう。
「つまり、首を落とされたのは倒れた後、、ってわけでもねえな」
倒れた後であれば、足元の側に血液が散乱することはない。これを見てわかるのはせいぜい、倒れながら首を落とされた、もしくは首にかかった衝撃で、首を落とされながら前に倒れたか、だ。
だがその場合も、落とされた首は俺たちが警官と言い合いになった、道路の側へ落ちていなければならないはずだ。身元も年齢も不明ということは、首から上はまだ見つかっていない可能性の方が高い。ならそれはどこへ行ったのか。俺は更にマウスをクリックして、三枚目の写真を表示させる。
「すげえな、今の警察はこんな映像も残してんのか」
三枚目の写真は、その首だけをアップにした断面図だった。真っ赤に染まった首と、肉の生々しい切れ目、欠けて砕けた骨や、神経とおぼしき糸状の何か、その下のワイシャツまでが写し出されていて、パッと見では何の映像だかわからないかもしれない。少なくとも、正常な神経の持ち主であれば、こんな映像、脳が認識を拒否するだろう。
「ケイさん、ケイさん、、っ! なんなんすかこれ! なんでこんなことになってんすかっ!」
「泣くんじゃねえ。嫌なら見なきゃいいだろうが」
「だってケイさん、仕事に手を抜くなってよく言ってるじゃないっすか!」
横からゴンが涙目で俺の肩を揺さぶってくる。さすがの俺でもグロいと認識する映像だ、確かにそれはよく言うが、精神に異常を来してでも仕事と割り切ってグロ画像を見ろ、とまでは、俺は言っていない。わざと曲解してんのかと疑ったが、ゴンの顔色は血の気が引いて悪く、少なくとも、この画像は後で俺が一人で確認した方が良さそうだった。
仕方ねえな。俺は三枚目をほとんどスルーする形でもう一度マウスをクリックし、四枚目の写真を表示させる。実際、俺が確認してるのはただの補助作業のようなものだ。本格的な調査はこの後ですることになるから、かまいやしねえんだがな。
今度の画像は、倒れた頭の方から撮った写真だった。写真の手前側には血という血を撒き散らしたサラリーマン、奥には、今度は俺たちが迂回させられた十字路が見えている。
「わりと奥だな、、600から700メートル地点ってところか?」
写真写りからすると、このサラリーマンは十字路を抜けてから、更に三分の二以上は進んだ地点で倒れたように見える。半分で400メートルなら、倒れたのは700メートルの少し手前ってところだろう。
これを見て一つ考えなければならないのは、なぜこんな地点で、この男は首を落とされたのか。また、どうやってそんなことを可能としたのか、という点だと思うが、、画像だけでは、ヒントになりそうな異常は見受けられない。この点は、後で現場に行って確認する必要がありそうだった。
この死体自体は、同じものを角度を変えて見ているだけだから、特段目新しいものがあるようにも見えない。さっきまでの写真で見えなかった部位を見つけようにも、首の写真はドアップが一枚あるから、そっちを見ればいい話だ。
「ケイさん、まだ見るんすか? 休憩にしません? 労基に怒られやすよ?」
「うるせえな、こんなところに労基が入ってきやしねえよ」
ゴンのやつ、怖いもの見たさなのか意地でも張ってるのか、恐怖に震えながらも何故か隣で写真を一緒に見ている。俺にとってはほとんど休憩してるようなものだが、こいつはネタ探しに出掛けていたから、死体発見の情報を得た、朝からずっと働いている認識でいるのかもしれない。
写真はこれで最後のようだし、このまま、次のフェーズに進んでもいいがーー俺はふと思い立って、ゴンに、おい、と声をかけてみる。
「ゴン、この事件、お前ならどう見る?」
ここまで俺が見てきてわかるのは、死体は工場の敷地を通る生活道路の路上にあって、おそらくは男性で、スーツ姿や体格からはサラリーマンだと推察できる、首なしで発見された、ということくらいだ。後は死体の状態やどう殺されたか、とかな。
だが、ゴンにはゴンの物の見方がある。年代も遠く昨今の若造であるこいつなら、別の視点から何か新しい発見があるんじゃないか。そう期待しての問いかけだったが、ゴンは、
「えええ、、血がすげえな、ってのと、グロすぎてこんなん見るヤツいねーよ、ってくらいっすかね、、動画映えするとも思えねーし、グロ好きなら自作しねえで、その辺に転がってる画像で我慢しろよ、みたいな?」
あー、、すげえな、確かに俺にはねー発想だわ、うん。
こいつの中では、動画作成目的か、グロ画像好きがリアルを求めた結果の殺人、ってことになってるわけか、、さすがに予想の斜め上すぎて、次に何をしようとしたのか忘れたじゃねえか。
「啓さん、ごんさん、ちょっとよろしいですかあぁー?」
一瞬フリーズした俺に、何やら和希の声がする。なんだよ、と思って声の方を振り返ると、
「っ、、!」
「ひいっ! ででで出たああっ!?」
どがしゃん、と派手な音を立ててゴンが椅子ごとひっくり返る。そりゃあ無理もねえな。和希は、さっき解体したはずの段ボールをわざわざ引っ張り出し、バラされた穴から首だけを出した、晒し首の状態で俺たちに話しかけてやがったんだからな。
しかもご丁寧に口から赤い何かを流していて、よく見れば口紅だとわかるが、とっさには血でも吐いたのかと疑いたくなる。こっちはまさに死体の首から上について考えていた矢先で、まったくもって悪い冗談だった。
「和希、お前な、、!」
「うふふふ、口紅を塗ったら久しぶりに失敗しまして、ちょっとすごくないですかあー?」
あー、すげえすげえ、ゴンのやつひっくり返ったまま、また腰を抜かして目を回してやがるし、目元がいつも恨めしげだったり、色白で頬がこけてるあたり、どう見ても毒殺された生首だもんな。まじでホラー映画に転職しろ。
「、、で、用事ってのは?」
「それだけですよー? では、失礼しまーすー」
「、、、」
いや、マイペースが過ぎんだろ。まじでフツーに自分のデスクに帰って行きやがったな、、あれで事務員としては有能なんだから、世の中わからねえもんだ。
ったく、、こいつらのせいで、一瞬死体のことも忘れかけたじゃねえか。いつもながらよくわかんねえ、独自色ばっかり強い野郎どもだ。だがここは無理矢理にでも切り替えて、次にやるべき作業を進めることにする。
この、四枚の写真ーー殺された場所と、首をどう落とされたのか、人間にわかるのは、おそらくはせいぜいがこんなものだ。誰が、どうやって、何故、いつ、こんな場所で殺人を行ったのか。不明な点はまだまだ多く、国家権力たる警察の力をもってしても、そうすぐに真実が見えてくることはないだろう。勿論、俺たちにもそんな悠長なことをしている時間はない。
それなら、すぐにでもわかるやつに任せればいい。ここにはその適任者がいる。正確には、者ですらないんだが。
「ーーレイラ、お前の出番だぜ」
俺は、ここで頼れる相棒へとそう、声をかけた。
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