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ある日突然、「面白い雑学チャンネル」が政治ニュースに変わっていた話

〜推定16万件、こっそり入れ替えられていたYouTubeチャンネル〜

国際論文”Chameleon Channels: Measuring YouTube Accounts Repurposed for Deception and Profit”を読み解く

もし、あなたの好きなチャンネルが、いつのまにか別人になっていたら

こんな想像をしてみてください。

毎日楽しみに見ていたチャンネルが、ある朝起きたら、まったく違う内容に変わっていました。

名前も、投稿する話題も、なにもかもです。

しかも、あなた自身は何も操作していません。

そんなことが、実際に起きています。

一つや二つではありません。

調べてみると、想像以上の規模で起きていました。

22,000人が、知らないうちに「政治アカウントのフォロワー」にされていた

2022年、南米パラグアイで、こんな出来事がありました。

@InfoVacunatePyというアカウントは、もともと政府のワクチン接種の情報を伝える、まじめなアカウントでした。

ところがある日、フォロワーたちは気づきます。

自分が選んだ覚えのない@HonorColoradoOkという、与党の政治アカウントを、いつのまにかフォローさせられていたのです。

タイムラインは、いきなり選挙がらみの投稿だらけになりました。

しかも、大統領選挙のちょうど1年前というタイミングでした。

実際に売買されたのかどうかまでは分かっていませんが、いずれにせよ、22,000人以上いたフォロワーは、誰一人フォローを外した覚えがないのに、いつのまにか政治アカウントのフォロワーにされていたのです。

数日で苦情が殺到し、このアカウントは削除されました。

でも「気づいたときには、もう中身が入れ替わっていた」という不気味な感覚だけが残りました。

実は、これは私が個人的に見聞きした話ではありません。

ある国際論文が、この事例を「運営する主体が変わり、中身が転用された」代表的な例として紹介しているのです。

論文はこの事例から始まります。

研究者たちが調べたのは、「アカウントの中身が、こっそり入れ替えられる」現象です。

少し前にお伝えした、あの連載を覚えていますか

去年、2025年の5月から8月にかけて、9回にわたってお伝えしてきた国際論文の連載がありました。

SNSアカウントが「商品」として売買されている実態を明らかにした、あの研究です。

連載の最後で、研究チームはこう結論づけていました。

「アカウント売買そのものを禁止する法律が必要だ」と。

今回ご紹介する研究は、あの連載の直接の続きではありません。

でも、似たような問いを、別の場所から追いかけたものです。

舞台はYouTube。

テーマは「売りに出されたアカウントの中身が、その後どうなるか」です。

世界中で、アカウントが「商品」として売られていた

カーネギーメロン大学とプリンストン大学の研究者たち(Alejandro Cuevasさん、Manoel Horta Ribeiroさん、Nicolas Christinさん)が、2026年8月にアメリカで開かれる国際学会で発表する研究「Chameleon Channels(カメレオン・チャンネル)」を、ご紹介します。

研究チームは、Fameswapという、世界最大級のSNSアカウント売買サイトを、2024年10月から2025年3月まで、毎日チェックし続けました。

見つかったのは、びっくりするような規模の市場でした。

すべてのSNSを合わせると、25,404件のアカウントが売りに出されていて、提示されていた価格の合計は3億6,670万ドル(日本円で約550億円)。

フォロワーの数を全部足すと、なんと26億人分にもなります。

YouTubeだけに絞っても、4,641件の出品、8億2,300万人分の登録者、1億6,040万ドル分という規模です。

「売りに出されたチャンネル」は、その後どうなるのか

研究チームが本当に知りたかったのは、「売りに出されたアカウントは、その後どのように使われるのか」という一点でした。

追跡してみると、Fameswapに出品されていたチャンネルのうち1,024件、つまり23%で、以前とはまるで「別人」のように名前や内容が変わっていたことが分かりました。

研究チームは、この変化を「転用(てんよう)」と呼んでいます。

新しい名前やタイトルが、前の内容とまったく関係がなくなっている状態のことです。

ただし、研究チームがすべての取引の成立を直接確認したわけではありません。

ここで確認されたのは、売買サイトに出品されたチャンネルが、その後、以前とは関係のない名前や内容へと変化した、という事実です。

論文の中で紹介されている、象徴的な例があります。

AIツールを使って「面白い雑学」を紹介していたチャンネルが、ある日を境に、ロシア・ウクライナ・ゼレンスキー大統領といった、生々しい国際政治のニュースを扱うチャンネルに変わってしまったのです。

いちばん怖いのは、多くの人が気づかないということ

この研究でいちばん驚くべき発見は、こうした転用が、多くの場合、気づかれないまま進んでいる、という点でした。

ふつうに考えれば、たとえばゲーム実況を楽しみにしていた人が、ある日いきなり仮想通貨や政治のニュースを見せられたら、チャンネル登録をやめそうなものです。

ところが実際のデータを見ると、転用されたチャンネルの登録者数は、転用後も減るどころか、むしろじわじわ増え続けていました。

少なくとも、YouTubeによって停止されている様子もほとんどありません。

転用されたチャンネルも、されていないチャンネルも、200日後まで生き残っている割合はどちらも約85%で、ほとんど差がなかったのです。

少なくとも停止率を見る限り、転用が十分に検知・対処されているとは言いにくい結果でした。

転用されたチャンネルのうち、53%が「センシティブな内容」に

研究チームは、転用されたチャンネルがその後どんな内容を発信するようになったかも調べました。

Fameswapに出品され、その後、転用されたと確認できたチャンネルのうち、53%が、転用後に政治、医療、ニュース、暗号資産など、社会的な影響が大きく、慎重な扱いが求められる「センシティブな内容」を発信するようになっていました。

政治や医療、ニュースなどに関する内容が374件、暗号資産やギャンブルなど金銭に関係する内容が286件です(重なっているものもあります)。

転用される前は、ユーモアやスポーツ、芸能ゴシップなど、こうした分野とは異なる内容を扱っていたチャンネルが多かったにもかかわらず、です。 

どんなチャンネルが狙われやすいのか

では、どんなチャンネルが転用されやすいのでしょうか。

研究チームは、統計を使った分析もしています。

もっとも強い「危険信号」は、意外にも「AIで作られたコンテンツ」でした。

次に多いのは、仮想通貨、ギャンブル、宗教系、子ども向けコンテンツの順です。

逆に、登録者数の多さそのものは、転用されるかどうかとほとんど関係がありませんでした。

小さなチャンネルも、大きなチャンネルも、平等に狙われているということです。

もう一つの手がかりは、動画をアップロードする間隔がバラバラなことでした。

買う人は「歴史がありそうに見える」古いチャンネルを好んで選ぶ傾向がありますが、実際には投稿の間隔がとびとびで、本当の意味で長く大事に育てられたチャンネルとは、少し違う特徴を持っていました。

YouTube全体では、何件くらい起きているのか

Fameswapという一つの市場だけでなく、YouTube全体でこの現象がどれくらい起きているのかも、研究チームは計算しています。

Social Bladeという、6,800万以上のチャンネルを17年間も記録し続けてきた分析サイトから、140万チャンネルを無作為に選び、2025年1月と3月の2つの時点を比べました。

その結果、たった3か月のあいだに、0.24〜0.25%のチャンネルが転用されていたと推定されました。

これをYouTube全体に当てはめると、推定で16万件以上のチャンネルが、数千万から数億人規模のフォロワーを抱えたまま、こっそり中身を入れ替えられているという計算になります。

この研究にも、限界があります

研究チーム自身が、正直に認めている限界もあります。

今回の調査はYouTubeだけが対象です。

X(旧Twitter)では、Elmasさんたちの先行研究によって「転用」という現象そのものはすでに確認されていますが、今回の研究のように、売買市場のデータと結びつけて追跡したり、プラットフォーム全体での発生規模を推定したりしたものではありません。

また、TikTokやTwitchなど、ほかのプラットフォームで同じような現象がどの程度起きているのかも、まだ十分には確かめられていません。

研究チームは、同様の問題がほかのSNSにも存在する可能性を指摘していますが、その規模や特徴については、今後の研究課題として残されています。

実は、2つの研究がつながって生まれた論文でした

この論文には、隠れた系譜があります。

一つは、あの9回連載でご紹介したBeluriさんたちの研究です。

Chameleon Channels論文は、Beluriさんたちの研究を「アカウント売買市場の規模を、まるごと調べ上げた研究」として引用しています。

おもしろいことに、研究チームは論文の中で「Beluriさんたちの研究は、自分たちがデータを集め始めたあとに発表されたので、あとから追加で参照した」と正直に書いています。

つまり2つの研究チームは、ほとんど同じ時期に、それぞれ別々の場所から、同じ問題にたどり着いていたのです。

もう一つは、トルコ出身の研究者Tuğrulcan Elmasさんたちが2023年に発表した「Misleading Repurposing on Twitter」という論文です。

Elmasさんたちは、Twitter上でアカウントの名前やプロフィールが書き換えられて、まったく別の目的に使われる現象を、いち早く分析していました。

Chameleon Channels論文は、自分たちの研究に「もっとも関係が深い先行研究」として、この論文を挙げています。

つまりこの1本の論文の裏側には、「売買市場そのものの大きさを測る」研究と、「転用というやり方を初めて定義する」研究という、2つの違う流れが合流していたのです。

Chameleon Channels研究は、その両方を受け継ぎながら、「YouTube全体で、どれだけこの現象が起きているか」という規模の推定にまで、一歩踏み込みました。

なぜ、この話が大事なのか

これは、YouTubeだけの、遠い国の話ではないかもしれません。

フォロワーという「信頼」をそのまま引き継いだまま、中身だけをこっそり入れ替えるというやり方は、SNS全体に共通する弱点をついている可能性があります。

研究チームは論文の最後で、こう述べています。

SNSのフォロワーという存在は、どんどん「商品」として扱われるようになっているのかもしれない、と。

あの連載でお伝えしたBeluriさんたちの研究は、「アカウント売買市場そのものがどれだけ大きいか」「そこで何が売られているか」を明らかにした研究でした。

今回のChameleon Channels研究は、その先で起きていること、つまり「売りに出されたチャンネルが、その後どう姿を変えていくか」を、実際のデータで示した研究です。

言いかえると、Beluriさんたちの研究が「入口」を照らし出したのだとすれば、今回の研究は、その先にある「その後」を照らし出したことになります。

研究の対象は違っても、2つの研究は、同じ問題の別々の場所を明るくしてくれた、そんな関係だと思います。

あなたが今フォローしているチャンネルも、もしかしたら、いつか静かに、別のものに変わっているかもしれません。

そのとき気づけるかどうかは、この仕組みを知っているかどうかに、かかっているのかもしれません。

私たちにできること

今回ご紹介したChameleon Channels研究も、去年の連載でお伝えしたBeluriさんたちの研究も、たどり着く結論は同じです。

プラットフォーム任せでは、この問題は解決しません。

だからこそ、私はサイバー防犯ボランティアとして、SNS上の違法投稿を通報する活動と並行して、SNSアカウントの不正売買そのものを法律で規制するよう求める署名活動を続けています。

どうか、この記事を読んでくださったあなたも、「この事実を知る一人」になってください。

そして、もしよろしければ、署名という形で力を貸していただけたら嬉しいです。

👉 オンライン署名はこちら
犯罪を生むSNSアカウントの不正売買を禁止に!!

これまでの活動や、今回のような国際研究の紹介記事は、Safe SNS Japan

にもまとめています。
あわせてご覧いただけたら幸いです。

サイバー防犯ボランティア rose


出典・参考資料(本記事内での番号付け。他記事とは対応しません)

一次資料(論文)

[1] Cuevas, A., Horta Ribeiro, M., & Christin, N. "Chameleon Channels: Measuring YouTube Accounts Repurposed for Deception and Profit." To appear in Proceedings of the 35th USENIX Security Symposium (USENIX Security '26), Baltimore, MD, 2026年8月. プレプリント: arXiv:2507.16045(初出2025年7月21日、最終改訂2026年2月26日). https://arxiv.org/abs/2507.16045

[2] Elmas, T., Overdorf, R., & Aberer, K. "Misleading Repurposing on Twitter." Proceedings of the International AAAI Conference on Web and Social Media, ICWSM 2023. ([1]の論文の参考文献リストにおける著者表記に基づく。[1]の論文が「最も関連が深い先行研究」として引用)

[3] Beluri, M., Acharya, B., Khodayari, S., Stivala, G., Pellegrino, G., & Holz, T. "Exploration of the Dynamics of Buy and Sale of Social Media Accounts." Proceedings of the 2025 ACM Internet Measurement Conference (IMC ’25), pp. 32-47. DOI: 10.1145/3730567.3732927(プレプリント:arXiv:2412.14985、2024年12月19日)。連載記事:note.com/safe_sns_japan「SNSアカウント売買の危険性に迫る国際論文」シリーズ(全9回、2025年5月17日〜8月20日)

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