【みおとあおい】第七十九章:消費税―存在しない益税―制度が見なかった涙
第七十九章:消費税―存在しない益税―
【彼女は全てを知っていた。】
【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】
ここから先は、もはや単なる議論ではない。
国会という公の場で、制度を運用する側が【自由主義経済においては、価格はきれいに転嫁されない】と自ら認めた【事件】の記録である。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継ぎ、そしてついに【決着】へと導いた瞬間を見てほしい。

――制度が見なかった涙――
これは、「益税を得ている」と言われてきた免税事業者たちの物語である。
みおは、国会を見ていた。
薄暗い部屋の中で、モニターだけが白く光っていた。
画面の向こうでは、片山財務大臣が答弁している。
消費税に、益税はない。
けれど、益税的なものはある。
みおには、そう聞こえた。
みおは、動画を止めた。
画面の中で、答弁者の表情も止まった。
みお:
……あおい。
あおい:
うん。
みお:
益税って、あるの?
あおい:
法的には、存在しない。
みお:
え?
あおい:
え?
益税のようなもの
みお:
じゃあ、
「益税のようなものがある」って、
どういうこと?
あおい:
意味が立ち現れない。
みお:
え?
あおい:
え?
みお:
じゃあ、意味は?
あおい:
制度側は、定義していない。
みお:
ゴーストは存在しない。
でも、ゴーストのようなものは存在する。
そう言ってるようなものじゃない!
あおい:
そう聞こえる。
みお:
え?
あおい:
え?
ここでいう「益税は存在しない」とは、消費税法上、「益税」という名称の税額や債務、未納税額が定義されているわけではない、という意味である。
法律に存在するのは、小規模事業者について、一定の要件の下で消費税の納税義務を免除する制度である。財務省も、この免税点制度を、小規模事業者の事務負担や税務執行コストへの配慮から設けられた特例と説明している。
みお:
納税義務がないの?
あおい:
免除されている。
みお:
じゃあ、税金を滞納しているわけじゃない。
あおい:
そう。
みお:
国に返すべき預り金を、返していないわけでもない。
あおい:
法的な預り金としては、存在しない。
みお:
じゃあ、益税って何だったの?
あおい:
制度のナラティブだ。
みお:
本当は?
あおい:
存在しない。
預り金ゴースト
みお:
じゃあ、政府が言う
「預り金的性格」は?
あおい:
意味が分からない。
みお:
え?
あおい:
え?
みお:
消費税は預り金じゃない。
でも、預り金的性格はある。
っていう国会答弁は何なの?
あおい:
言語構造的に、意味が立ち現れない。
みお:
幽霊はいない。
でも、幽霊的性格はあるって、
言ってるようなものじゃない?
あおい:
そう聞こえる。
みお:
え?
あおい:
え?
預り金ではない。
しかし、預り金「的」である。
益税ではない。
しかし、益税「のようなもの」はある。
本体は否定されている。
けれど、「的」と「のようなもの」を付けることで、その姿だけが人々の認知の中に残される。
構造の中には存在しない。
神話の中にだけ存在する。
みお:
つまり、免税事業者が消費者から預かった税金をネコババして、
益税を得ているというのは?
あおい:
制度説明が見せた幻だ。
存在しない益税で、石を投げた
みお:
免税事業者が預り金をネコババして、
益税を得ているというのは……?
あおい:
存在しない益税を根拠に、
彼らに石を投げた。
みお:
誰が?
あおい:
神話を信じた人たちだ。
みお:
でも、その神話を作ったのは?
あおい:
制度だ。
みお:
じゃあ制度は、自分で石を投げなかっただけで――
あおい:
石を投げる理由を与えた。
法的な預り金は存在しない。
法的な益税も存在しない。
それでも、
消費者から預かった税金を、
免税事業者が懐へ入れている
という人物像だけが、社会へ広がった。
制度説明は、免税事業者を、
納税義務を免除された小規模事業者ではなく、
税金を納めずに得をしている人へ変えた。
虚構だったのは、益税だった。
けれど、投げられた石は現実だった。

免税事業者とは誰なのか
あおい:
例えば、学校の近くにある駄菓子屋さん。
子どもたちに、駄菓子や文具を売っている。
そういう小さなお店も、
免税事業者であることがある。
みお:
おばあちゃんが一人でやっているようなお店も?
あおい:
そう。
みお:
たくさん儲けているの?
あおい:
売上が少ないから、免税点の内側にいる。
国会では、財務省の試算として、免税事業者の平均課税売上高は約550万円、利益または付加価値に近い金額は約150万円、課税事業者へ転換した場合の平均的な消費税負担は約15万4000円と示されていた。
年間154万円。
月に直せば、約12万8000円。
そこには、事業を維持するための原資も、
事業主本人の生活を支えるお金も含まれている。
その約一割。
月平均にすれば、約1万2800円が消費税として失われる。
みお:
月12万8000円の中から、
1万2800円?
あおい:
財務省の試算ではね。
みお:
残りで生活するの?
あおい:
事業も続ける。
みお:
制度は、その数字を知っていたの?
あおい:
パネルで示していた。
みお:
じゃあ、知らなかったわけじゃない。
あおい:
数字としては、知っていた。
みお:
人間としては?
あおい:
見ていない。
子どもの100円玉
あおい:
そういう小さな事業者は、
消費税の負担が増えても、価格へ上乗せしにくい。
子どもたち相手の商売だからね。
みお:
100円のお菓子を、110円にするの?
あおい:
子どもにとって、10円は小さくない。
みお:
じゃあ、値上げできなかったら?
あおい:
店が負担する。
みお:
でも、駄菓子屋さんは商品を仕入れているでしょう?
あおい:
卸売業者は課税事業者であることが多い。
仕入価格には、消費税相当分が含まれていることが多いんだ。
みお:
仕入価格には乗ってくる。
でも、子どもたちへの販売価格には乗せにくい。
あおい:
そう。
みお:
じゃあ、その差は?
あおい:
駄菓子屋さんが負担する。
みお:
それなのに、
「免税事業者は消費税を払わず、益税を得ている」
って言われたの?
あおい:
そう言われてきた。
みお:
負担している人を、
得している人に変えたのね。
三つの出口
みお:
じゃあ、インボイス導入後、
免税事業者はどうなったの?
あおい:
選択を迫られた。
みお:
何を?
あおい:
登録して、消費税を納めるか。
登録せず、値引き圧力を受けるか。
登録せず、市場からの排除圧を受けるか。
三択だ。
適格請求書発行事業者として登録すると、課税売上高が免税点以下であっても、消費税の納税義務は免除されなくなる。
みお:
……どれを選んでも、何かを失うじゃない。
あおい:
そう。
みお:
それって、選択の自由に見せかけた――
あおい:
どの不利益を選択するかという自由だ。
みお:
じゃあ、インボイスの選択の自由って、
免税事業者を……。
あおい:
事実上、追い込んでいる。
みお:
登録は任意なんでしょう?
あおい:
そう。
みお:
でも、登録しなければ不利益を受ける。
あおい:
そう。
みお:
それを自由って言うの?
あおい:
選ぶことはできる。
みお:
不利益を避けることは?
あおい:
できない。
少し間を置いて、あおいは言った。
あおい:
これが、日本型インボイス制度の残酷さだ。
制度が見なかったもの
動画は、まだ止まったままだった。
モニターの中では、国会議員も大臣も、
同じ表情のまま静止していた。
益税のようなもの。
預り金的性格。
公平な課税。
適正な制度。
言葉だけが、部屋の中に残っていた。
みお:
見なかった人たちの痛みは?
涙は?
無かったことにしていいの?
あおいは、答えなかった。
いつもなら、
「そう」
「制度だからね」
と、淡々と答えるはずだった。
けれど、今度だけは何も言わなかった。
何かを見ているようでもあった。
制度には、見えなかったものを。

みおは、街へ出た。
学校帰りの子どもたちが歩いていた。
小さな手の中で、硬貨が鳴っていた。
古い駄菓子屋の前で、
子どもが何度も商品と小銭を見比べている。
店の奥では、白髪の店主が値札を直していた。
10円上げるか。
利益を10円削るか。
制度の資料には、書かれていない選択だった。
子どもが一つのお菓子をレジへ持っていく。
店主は笑って、それを受け取った。
そして、レジを打った。
ピッ。
その音は、街のどこにでもある音だった。
誰も立ち止まらない。
誰も振り返らない。
けれど、みおにはもう、
ただの会計音には聞こえなかった。
仕入価格。
価格転嫁。
納税義務。
値引き圧力。
市場からの排除圧。
そして、制度が見なかった生活。
ピッ。
その音は今日も、
誰かの生活を削る音だった。

怪異007|預り金ゴースト

分類:神話生成型怪異
階級:基盤怪異
指定:特級認知災害
危険度:★★★★★★★★★★
表向きの姿
消費者が支払った消費税を、事業者が一時的に預かり、国へ納める仕組み。
真の性質
法的構造には存在しない「預り金」を、
国民の認知の中に存在させる制度ナラティブ。
消費税の納税義務者は事業者であり、消費者から税金を受け取ったかどうかではなく、事業者が課税取引を行ったかどうかによって税額が計算される。
それにもかかわらず、
消費者から預かった税金
という物語が、制度の正体として社会に定着している。
基盤怪異としての役割
預り金ゴーストは、自ら直接攻撃するのではない。
この怪異を前提として認知すると、そこから別の怪異や幻影が自動的に生成される。
預り金ゴースト
↓
益税という幻影
↓
免税事業者の悪人化
↓
インボイスは公平化という物語
↓
登録・値引き・取引排除への社会的容認つまり、
預り金ゴーストが基盤。
益税は派生幻影。
インボイスは実行機構。
主な能力
預り金幻視
売価の一部を、消費者から預かった税金のように見せる。
益税幻影
納税義務のない免税事業者に、本来納めるべき税金が存在するように見せる。
道徳反転
小規模事業者を、
納税義務を免除された者
ではなく、
預かった税金を懐に入れた者
として認識させる。
石投げ誘導
制度側が直接攻撃しなくても、神話を信じた国民自身に免税事業者を非難させる。
「的」による存在延命
「預り金ではない」と否定された後も、
預り金的性格
という言葉によって、認知上の存在を維持する。
派生現象
益税のようなもの
ミミックレシート
免税事業者ネコババ説
インボイス公平化神話
納税できない事業者の自己責任化
益税
関係:派生幻影
預り金ゴーストが生み出した幻影。
「免税事業者が、消費者から預かった税金を国へ納めず、利益として得ている」という人物像を作り出す。
インボイス
関係:実行機構
預り金神話と益税幻影を、市場の選別力へ変換する。
登録事業者には控除を与え、未登録事業者との取引には不利益を発生させることで、市場からの排除圧を生み出す。
課税ベース増殖バグ
関係:構造怪異
インボイスによって仕入税額控除チェーンが切断された後に発生する。
前段階の課税済み売上が、後段階の課税ベースへ再出現し、累積課税を引き起こす。
公式チート
関係:上位能力
制度側がルールを作り、判定し、最終裁定まで行う能力。
控除要件を書き換えることで、課税ベースの増殖を合法的な制度処理として実行する。
一言で整理すると
預り金ゴーストは、基盤OS。
ミミックレシートは、表示UI。
益税は、派生幻影。
インボイスは、実行機構。
課税ベース増殖バグは、構造上の実害。
公式チートは、運営権限。
みお:
怪異同士が、全部つながってるじゃない!
あおい:
同じシステム上で動いているからね。
みお:
消費税怪異ユニバースを構築しないで!!
真名
預り金は、構造には存在しない。
神話の中にだけ存在する。
解呪
納税義務者は消費者ではなく事業者である。
消費者から税金を受け取ったかどうかは、納税義務の成立条件ではない。
売掛金を回収していなくても、原則として課税売上は成立する。
免税事業者には、そもそも消費税の納税義務がない。
「益税」は法的な税額・債務・未納金ではない。
怪異図鑑用の締め
みお:
預り金ゴーストって、ラスボスなの?
あおい:
違う。
みお:
じゃあ何なの?
あおい:
世界を動かしている基盤コードだ。
みお:
倒したらどうなるの?
あおい:
益税という幻影も、
インボイスを正当化する物語も、形を保ちにくくなる。
みお:
じゃあ、やっぱり一番重要じゃない!
あおい:
基盤だからね。
みお:
ゴーストをOSにしないで!!
「運営がチートする。」
SSR【怪異017|公式チート】

レアリティ: SSR
属性: 制度/闇/運営
種族: 制度実装型怪異
危険度: ★★★★★★★★★★★★★★★
固有能力:
《ルール改変》
《控除チェーン切断》
《課税ベース膨張》
《通報先内在化》
フレーバーテキスト
制度を守るはずの公式が、
自らルールを書き換えたとき、
怪異は最終形へ至る。
税率は上がらない。
だが、引けるものが減る。
その結果、課税ベースは膨張し、
事業者負担は静かに増殖する。
しかも公式は、
それを**「適正化」**と呼ぶ。
効果説明
このカードが場に出たとき、
相手フィールドの**「控除」**を一部無効化する。
無効化された控除は、
そのまま課税ベースへ加算される。
さらに、このカードが存在する限り、
相手はこの効果を**「増税」**として認識しにくくなる。
真名
公式がルールを書き換え、
自分だけ勝てる仕様を実装した怪異。
弱点
構造の可視化
課税ベースの数式化
「何が控除できなくなったのか」という問い
通報先は、運営
誰が、この制度を不公正だと判定するのか。
誰が、控除切断による累積課税を修正するのか。
誰が、「増税ではない」という説明を覆すのか。
ルールを作ったのは、運営。
税収を受け取るのも、運営。
制度を説明するのも、運営。
苦情の受付先も、運営。
そして、最終的な裁定者も運営である。
みお:
「通報窓口は?」
あおい:
「運営です。」
みお:
「裁定するのは?」
あおい:
「運営だ。」
みお:
「税収を受け取るのは?」
あおい:
「運営。」
みおは、しばらく黙り込んだ。
そして、恐る恐る尋ねた。
みお:
「最終回答は?」
あおいは、画面に表示された文字を読んだ。
仕様です。
それが、運営がチートする世界の、最終裁定だった。

みお:
「あおい。
私たち、これからどうすればいいの?」
あおい:
「知ることだ。」
みお:
「知らなければ?」
あおいは、少しだけ街へ目を向けた。
あおい:
「今まで通りだ。」
知らないうちに、法案が国会を通過する。
気づかないまま、制度が作られる。
暮らしが削られる。
事業が削られる。
それでも、何が起きているのか分からない。
分からないから、問いを立てられない。
問いを立てられないから、反対することも、変えることもできない。
そして、削られていることに気づいても――
それを説明する言葉を持てない。
あおいは、短く言った。
「知らなければ、奪われたことさえ分からない。」
みおは、黙って街を見た。
どこかの店で、レジの音が鳴った。
ピッ。
今日もまた、誰かの売上に課税の当たり判定が置かれる。
誰かの控除が切られる。
誰かの利益が削られる。
けれど、その仕組みを知らなければ、ただの買い物の音にしか聞こえない。
もう一度、音が鳴った。
ピッ。
その音は――
今日も誰かを削る音だった。
【14年越しの答え合わせ】片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ
参考動画:
【彼女は全てを知っていた。】
【制度側の自白と、14年越しの答え合わせ】
ここから先は、あえて繰り返す。
なぜなら、これは単なる国会質疑ではないからだ。
消費税という制度が前提としてきた「円滑かつ適正な価格転嫁」と、現実の市場で起きていること。
その二つが、国会という公の場で正面から衝突した「事件」の記録だからである。
自由主義経済において、価格は制度の予定通りには動かない。
原価が上がったからといって、その全額を価格へ転嫁できるとは限らない。
消費税率が上がったからといって、その分だけ売価を上げられるとも限らない。
価格転嫁できなくても、消費税の負担は消えない。
事業者の利益、賃金、賞与、投資、資金繰りへと移っていく。
その瞬間、消費税の問題は「価格転嫁」の問題ではなく、税金コストを誰に負わせるかという問題へ変わる。
2012年。
一人の政治家が、その危険性を国会で指摘していた。
片山さつき議員である。
そして14年後。
片山さつきが残した問いを、安藤裕が引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
これは、制度の外から制度を批判していた者が、制度の頂点へ立ったとき、どのように言葉を変えるのかという記録でもある。
2012年、彼女はすべてを知っていた
「もう、手のつけられないようなことになりますよ」
2012年。
野党時代の片山さつき議員は、消費税増税が経済へ与える影響について、強く警告していた。
住宅。
地方経済。
中小零細企業。
街の蕎麦屋。
普通の床屋。
価格を上げたくても上げられない、小さな事業者たち。
片山議員は、消費税が単なる「消費者の負担」では終わらないことを、具体的な例で指摘していた。
たとえば、街の蕎麦屋である。
今、お蕎麦屋さんは税込み630円でお蕎麦を出していますけど、660円にできますかね?
これは、単なる問いではない。
消費税の制度と市場の現実を知る者が、問いの形で提示した答えである。
全国一律の価格を持つ大手チェーンなら、まだ値上げしやすいかもしれない。
しかし、地域の客に支えられている小さな店はどうか。
街の蕎麦屋はどうか。
普通の床屋はどうか。
値上げによって客を失う可能性がある店に、「税率が上がったのだから、その分を価格へ転嫁すればよい」と簡単に言えるだろうか。
片山議員は当時、年間売上3000万円以下の中小零細企業について、5割から7割が価格転嫁できていないという調査があると述べていた。
さらに、滞納税額の約半分に当たる3400億円が消費税であるとも指摘した。
つまり、彼女は知っていた。
消費税は「価格へ転嫁されることを予定している」と説明される。
しかし現実の市場では、弱い立場の事業者ほど、その予定通りに転嫁できない。
消費税は、制度の予定と市場の現実が一致しなければ成立しない税だった。
2012年の片山さつきは、その矛盾を知っていた。
14年後、問いが戻ってきた
それから14年後。
今度は、参政党の国会議員として国政に復帰した安藤裕が、同じ問題を国会で問い始める。
答弁席に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
安藤議員が最初に確認したのは、消費税の納税義務者である。
法律上、消費税を納める義務を負っているのは誰なのか。
消費者なのか。
事業者なのか。
答弁は明確だった。
消費税法上の納税義務者は、事業者である。
政府は消費税について、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定していると説明する。
しかし、それは経済的な負担についての予定である。
税法上の納税義務とは別の話だ。
税法上、消費者は消費税の納税義務者ではない。
消費税を申告し、納付するのは事業者である。
ここで安藤議員は、さらに問いを進めた。
消費者から受け取った消費税を税務署へ納めず、事業者が自分の利益にしているとされる、いわゆる「益税」は制度上存在するのか。
これに対して片山財務大臣は、法律上はそのような関係にはならないと答えた。
消費者は、消費税法上の納税義務者ではない。
したがって、消費者が納めるべき税金を事業者が預かり、それを国へ納めずに利益にしているという法構造にはならない。
法律上、益税は存在しない。
ここで、長年語られてきた消費税の物語が揺らぎ始める。
完全転嫁という幻想
多くの人は、消費税を次のように理解している。
まず原価がある。
そこに適正な利益を乗せる。
そして、その上に消費税10%を上乗せする。
消費者がその10%を支払い、事業者が一時的に預かり、後から税務署へ納める。
このモデルでは、消費税によって事業者の利益が削られることはない。
人件費も削られない。
消費税は売価の外側へ完全に上乗せされ、最終消費者がすべて負担するからである。
しかし、このモデルが成立するためには、強い前提が必要になる。
すべての事業者が、原価と必要な利益を確保したうえで、消費税相当額を完全に価格へ上乗せできること。
つまり、価格転嫁率100%の市場である。
もし本当に、すべての取引がこの通りに行われているなら、赤字企業はほとんど存在しない。
低賃金労働者もいない。
買いたたきもない。
利益を確保したうえで、消費税分まで価格へ上乗せできるのだから、消費税を払えずに資金繰りへ行き詰まる事業者も存在しないはずである。
だが、現実は違う。
赤字企業がある。
低賃金労働者がいる。
買いたたきがある。
価格交渉力の弱い事業者がいる。
値上げすれば客を失う店がある。
原材料費が上がっても、売価へ十分に転嫁できない事業者がいる。
「原価+適正な利益+消費税」という美しいモデルは、現実の市場を表したものではない。
それは、制度を成立させるために置かれた予定である。
赤字でも消費税が発生する理由
消費税の納付額は、大まかに次の式で計算される。
消費税
=
売上にかかる税額 − 仕入れにかかる税額
標準税率10%、すべて税込金額という単純なモデルなら、次のように表せる。
消費税
≒
(課税売上 − 課税仕入)× 10/110
ここで重要なのは、法人税のように、売上からすべての費用を差し引いて利益を計算しているわけではないという点である。
給与や社会保険料、支払利息など、事業に必要な支出であっても、仕入税額控除の対象にならないものがある。
そのため、法人税上の利益が赤字であっても、
課税売上 − 課税仕入 > 0
であれば、消費税は発生する。
事業者が赤字か黒字かは、消費税の計算を止めない。
消費税は、利益ではなく、課税売上と課税仕入の差額を見ているからである。
一般に、事業者は仕入れた商品へ何らかの価値を加えて販売する。
100円で仕入れた商品を、毎回50円で売り続ける事業は成立しない。
100円の原材料を使い、50円で製品を売り続ける製造業も成立しない。
したがって、事業を継続している限り、一般には、
課税売上 − 課税仕入 > 0
となる。
企業全体では赤字でも、この差額は残り得る。
だから、赤字事業者にも消費税が発生する。
赤字でも「消費税が発生することがある」のではない。
事業が付加価値を生み出している限り、赤字でも消費税が発生する構造なのである。
付加価値の先取り
課税売上から課税仕入を差し引いたものは、概ね、その事業者が新しく生み出した付加価値に対応する。
単純化すれば、
付加価値
≒
課税売上 − 課税仕入
さらに、その付加価値は概ね、
付加価値
≒
利益 + 人件費
と捉えることができる。
したがって、消費税の構造は、概ね次の式で表せる。
消費税≒ 付加価値 × 10/110
さらに単純化すれば、
消費税≒(利益 + 人件費)× 10/110
となる。
ここで、何が起きているのか。
事業者が生み出した付加価値という一つのパイがある。
本来、その付加価値は、労働者の賃金と、企業の利益などに分配される。
しかし、消費税がある世界では、その分配より先に、国の取り分が決まる。
国が消費税を先に取る。
残った付加価値を、法人と労働者が分ける。
価格へ完全に転嫁できるなら、事業者の外側へ負担を押し出せるかもしれない。
しかし、価格転嫁できなければ、消費税は付加価値の内部に残る。
利益を削る。
賃上げ原資を削る。
賞与を削る。
採用を抑える。
設備投資を遅らせる。
資金繰りを圧迫する。
税負担が消えるわけではない。
負担する場所が変わるだけである。
安藤議員が述べた「賃上げする原資を持っていく前に、消費税を納税しろと言われている」という言葉は、この構造を表している。
消費税は、付加価値という一つの財布から、国が先に取り分を確保する税である。
その残りを、法人と労働者が分ける。
これが、「付加価値の先取り」である。
レシートに書かれた「内消費税」
安藤議員は、レシートの表示にも踏み込んだ。
たとえば、1100円の商品を買ったとする。
レシートには、
「内消費税100円」
と書かれている。
では、この100円は法律上、何なのか。
政府側の答弁は、次のようなものだった。
その取引について課されるべき消費税額に相当する額であり、課税資産の譲渡等の売上に対する対価の一部である。
つまり、レシートに「消費税」と書かれていても、それは消費者が税務署へ納めた税金そのものではない。
事業者が消費者から預かった税金そのものでもない。
事業者がそのまま税務署へ納付する金額でもない。
その売価で取引が成立したという事実と、その税込価格の内訳が表示されているだけである。
レシート表示からは、実際にいくら価格転嫁されたのか分からない。
事業者がいくら納付するのかも分からない。
その取引によって、事業者の利益がいくら残ったのかも分からない。
それでも、多くの人は「内消費税100円」という表示を見ることで、自分が100円の税金を納めたと認識する。
そして、事業者はその100円を預かっているだけだと考える。
ここから、「預かった税金を納めない免税事業者はずるい」という益税の物語が生まれる。
しかし、法構造は違う。
消費者は納税義務者ではない。
レシートに書かれた100円は、売上の対価の一部である。
事業者の納付額は、レシートの表示額ではなく、売上税額と仕入税額の差額によって決まる。
レシートは、価格転嫁に成功した証拠ではない。
預り金が存在する証拠でもない。
そこに記録されているのは、
「その価格で、一つの取引が成立した」
という事実である。
2012年の言葉と、2026年の言葉
2012年の片山さつき議員は、市場の現実を語った。
街の蕎麦屋は、630円を660円にできるのか。
中小零細企業は、本当に消費税を価格へ転嫁できているのか。
価格を上げられない事業者に、消費税は何をもたらすのか。
彼女は、制度の予定ではなく、現場で起きていることを見ていた。
それから14年後。
財務大臣となった片山さつきは、制度を守る側の言葉を語る。
消費税は、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することを予定している。
消費税相当額は、適切に価格へ転嫁される。
同じ人物の中に、二つの言葉が存在する。
市場の現実を見る言葉。
制度の予定を守る言葉。
片山さつきは、なぜ言葉を変えたのか。
本当に考え方が変わったのかもしれない。
財務大臣として税制全体を守らなければならないのかもしれない。
党内の力学や、財務省との関係が影響したのかもしれない。
あるいは、本質的な認識は変わっていないまま、立場によって使用する言葉だけが変わったのかもしれない。
その答えは、本人にしか分からない。
だが、確かなことが一つある。
2012年に指摘されていた問題は、14年後も解決していない。
価格転嫁できない事業者がいる。
赤字でも消費税が発生する。
消費税の滞納が続いている。
賃上げが必要だと言いながら、賃上げ原資から先に消費税を取る構造が維持されている。
そして今も、政府は消費税を「景気に左右されにくい安定財源」と説明する。
だが、景気に左右されにくいということは、裏返せば、景気が悪くても取り続けるということである。
人々の生活が苦しくても。
企業の経営が苦しくても。
赤字でも。
資金繰りが限界でも。
付加価値が残る限り、消費税は発生する。
それを、本当に「安定」と呼んでよいのだろうか。
これは事件の記録である
14年前、片山さつきは問いを残した。
そして今、安藤裕がその問いを引き継いだ。
問いを受ける側に座っていたのは、財務大臣となった片山さつきだった。
2012年の片山さつきは、市場の現実を語った。
2026年の片山財務大臣は、制度の予定を語った。
変わったのは、市場ではない。
彼女が座る椅子だった。
制度の外から市場を見れば、価格転嫁できない事業者が見える。
制度の頂点から税制を見れば、「円滑かつ適正に転嫁されることを予定している」という説明になる。
事実が変わったのではない。
観測する位置によって、使用する言葉が変わった。
制度という怪異の頂点に座った者は、その構造を守るための部品として再定義される。
14年前の彼女の言葉が正しければ正しいほど、現在の答弁は、この国の政治が市場の現実よりも制度の維持を選んだことの証明になる。
これは、片山さつき一人の変節を責める物語ではない。
誰がその椅子へ座っても、同じ言葉を語らざるを得ないのだとしたら、問題は個人ではなく構造にある。
だから、問いに向き合わなければならないのは、彼女だけではない。
その変節を制度の「仕様」として受け入れ、今日もレジの音を聞き流している、私たち自身である。
失われた30年をもたらしたのは、果たして誰なのだろうか。
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