デジタルアクター試論 3. ブルース・リーという最有力候補

デジタルアクター試論 目次
1. 発想の出発点——肖像権を払ってCGで作るという可能性
2. 最初の突破口は誰が開けるか
3. ブルース・リーという最有力候補
4. アイコンと役柄のバランス問題
5. 完全オリジナルのCGキャラによるスターシステム
6. 契約のパーセンテージ化
7. 仮面ライダー1号という日本の特殊事例
8. ルパン三世・クレヨンしんちゃんとの対比
9. 違う人が本郷猛を演じても定着しなかった理由
10. 今の仮面ライダーがほぼCGという逆説
11. 一文字隼人と佐々木剛氏
12. 美空ひばりとの違い——役を演じるか否か
13. 性格の可変性という基準——ブルース・ウェイン、長谷川平蔵、車寅次郎
14. 「群像劇化」が原点を重くする逆説
15. 特撮主演というキャリアの賭け——村上弘明、長谷川初範、細川茂樹、オダギリジョー
16. 西島秀俊という稀有な存在——シン・ウルトラマンからBLACK SUNへ
17. 西島秀俊と木村拓哉——芸能人としての格と俳優としての評価
18. 30代・40代の本郷猛を描くという可能性
19. 総3Dアニメ化という選択肢
20. フランケンシュタインの被造物として
21. 唯一無二性を生んだ三つの偶然
22. 撮影現場の一体感、という最後の鍵
23. ブルース・ウェインとクラーク・ケント——比較対象の精緻化、そして本郷猛の特異性のまとめ
24. 最初のデジタル化に生じる微妙な変更
25. 『ボヘミアン・ラプソディ』が示した「受け手の補完」
26. マイケル・ジャクソンの伝記映画
27. 『ワイルド・スピード』のブライアン・オコナーと、ドミニクたちの老い
28. 乱用するプロデューサーへの懸念
29. 「コモディティ化」と「民主化」という言葉の歪み
30. 政治権力による技術の独占とプロパガンダ
31. ゲリラ的パロディというもう一つの危険
32. 結語
ロボット産業の発展を見て思う通り、中国、この方面の事、やると決めたら仕事が早そうだ。
中国人の世界的スターはまだ少ないが、例えばブルース・リーで最初にやってしまいそうだ——これは「すでに動きがある」ど真ん中のラインである。
実際、中国の映画スタジオやテック企業の間では、ブルース・リーや若き日のジャッキー・チェン、ジェット・リーといったカンフースターの過去作をAIで「再構築・リマスター」したり、デジタルで復活させたりする大規模なプロジェクトが動き出している。
彼が「最初のドミノ」になり得る背景には、カンフースターならではの三つの決定的な理由がある。
第一に、「肉体のアクション」はCG・モーションキャプチャと相性が良すぎる。ドラマ作品の「繊細な表情の演技」をCGでやるのは、人間の脳が違和感を察知しやすいためハードルが高い(不気味の谷現象)が、「キレのある格闘アクション」は、人間の視線が「動きのスピード」や「ポーズの美しさ」に向かうため、CGの違和感を力技でねじ伏せやすい。
現在の技術なら、ブルース・リー独特のジークンドーのステップや、あの超人的なスピードのパンチを、モーションアクター(あるいはAI)に完璧にトレースさせ、顔だけを精巧なデジタル・ブルースに変えることは、明日からでも一本丸ごと可能だろう。
第二に、「没後50年」という権利とリスペクトのバランスがある。
ブルース・リーは1973年に亡くなっており、彼の肖像権や知的財産は娘のシャノン・リーが率いる「ブルース・リー・エンタープライズ」がガチガチに管理している。過去に映画『イップ・マン3』で彼をCG復活させようとした際も、この遺族側との決裂で一度断念された歴史がある。
しかし、もし中国の巨大資本が「彼の武術と精神を、現代の最高峰の映像で世界に遺す『文化的遺産プロジェクト』である」という大義名分(と、天文学的なライセンス料)を引っ提げて遺族を納得させたら、一気にGOサインが出るだろう。
近年はそうした「AIによる文化遺産の継承」という文脈で、遺族側が首を縦に振るケースが増えている。
第三に、『死亡遊戯』という「未完の呪縛」を解くという大義名分がある。
ファンにとってもクリエイターにとっても、彼が志半ばで遺した映画『死亡遊戯』を「本人が生前に頭の中で描いていた完璧な形で完成させる」というのは、究極のロマンである。
かつての映画(1978年版)は、本人の生前映像にそっくりさんのカットを混ぜ、ひどい時は「鏡にブルースの写真を貼り付ける」といった無理やりな手法で作られた。
「AIで『死亡遊戯』を真に完成させる」という名目のもと、世界中のカンフー映画オタクたちが最新の生成AIとCGを駆使して「本物のブルース・リーが五重の塔を上り詰める完全版」を作ったら、それは世界的な大事件になる。
中国のテック企業(TencentやBaiduなど)のAI映像技術の進化スピードと、自国の文化的アイコンを世界に発信するというモチベーションを考えると、ハリウッドの組合が「AIお断り」と揉めている隙に、「アジア発、ブルース・リーの完全新作AIカンフー映画」が世界を震撼させるというのは、十分にあり得る——というか一番現実味のあるシナリオかもしれない。
前章 2. 最初の突破口は誰が開けるか
次章 4. アイコンと役柄のバランス問題
