「Solaria 2nd Stage 第八話|雨の再会」

「Solaria 2nd Stage 番外編|はじまりの音」
「Solaria 2nd Stage 第一話|星降る約束」
「Solaria 2nd Stage 第二話|ぎこちない光」
「Solaria 2nd Stage 第三話|はじまりの朝」
「Solaria 2nd Stage 第四話|揺れるスタートライン」
「Solaria 2nd Stage 第五話|見えない距離」
「Solaria 2nd Stage 第六話|すれ違うリズム」
「Solaria 2nd Stage 第七話|雨に溶ける声」
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「第八話 | 雨の再会」
■ 放課後
空は、重かった。
灰色の雲が、ゆっくりと広がっている。

ダンス室。
音楽は、流れていない。
「……今日も、来てない」
ひなたの声が、静かに落ちる。
誰も、返さない。
スマホの画面。
「既読もつかない」
あかり。
さくらが、不安そうに言う。
「……学校にも、来てないです」
沈黙。
ゆいが、小さく言う。
「……昨日のこと」
言葉が、止まる。
誰も責めない。
でも——
何もできなかった自分たちが、そこにいる。
「……探しに行こう」
あかりが言う。
「でも……どこを……」
さくらの声は、不安に揺れていた。

ゆいは、何も言えなかった。
(……私のせいだ)
胸の奥に、あの瞬間が残っている。
触れてはいけなかったかもしれない一線。
でも。
「……それでも」
小さく、呟く。
「……会わなきゃ」
誰も、否定しなかった。
■ 昇降口
外に出る。
空は、どこか重たかった。
灰色の雲が、ゆっくりと校舎の上に広がっている。
「……雨、降りそうだね」
誰かが言う。
でも、その言葉につづくものは無かった。

昇降口の端。
小さな影。
「あの……すみません」
声は、少しだけ震えていた。
「水瀬しおりって……」
「え?しおり先輩?今日は見てないけど……」
「……そう、ですか」
少女は、小さく頭を下げる。
(……いない)
手を、胸元で握る。
(……どこにいるの)
雨音が、強くなる。
(……会いに来たのに)
(……まだ、会えない)
唇を、ぎゅっと結ぶ。
(……絶対に、見つける)
■ 校舎を離れた通路。
しおりは一人で歩いていた。
でも。
(……帰りたくない)
足は、止まらない。
ぽつり、と頬に冷たいものが当たった。
雨だ。
小さな粒は、あっという間に数を増やしていく。
「……降ってきたね」
誰かの声が背後で聞こえた。
しおりは何も言わず、鞄から折りたたみ傘を取り出す。
慣れた手つきで広げると、そのまま一人、歩き出した。

足音と、雨音だけが重なる。
(……今日も、帰るだけ)
ポケットの中。
指先に触れる、硬い感触。
あの写真。
(……なんで、今さら)
考えたくないのに。
浮かんでくる。
笑っていた、あの頃。
「……」
思考を振り払うように、歩く。
でも。
消えない。
■ 再会
ふと。
視線を感じた。

誰かに、見られている。
足を止める。
雨音が、少しだけ強くなる。
ゆっくりと、振り返る。
そこに——
ひとりの少女。
雨に濡れた制服。
肩までの髪が、雨に貼り付いている。
(……あの制服……)
見覚えがある。
(……うちの学校の……)
中等部の制服。
赤いリボン。
「……」
目が、離せない。
理由は、分からない。
でも。
胸が、強く鳴る。
少女の唇が、わずかに震える。
そして…

「……お姉ちゃん」
世界が、止まった。

——カラン。
手から、傘が滑り落ちる。
地面に当たる音が、やけに大きく響いた。
次の瞬間には、雨がしおりの体を打ちつける。
でも。
何も、感じない。
「……え……?」
声が、出ない。
目の前の現実が、信じられない。
「……どうして……」
少女が、一歩、近づく。
「……会いたかった……」
震える声。
「ずっと……ずっと……!」
次の瞬間。
走り出していた。
しおりの胸に、飛び込む。

「……っ」
衝撃。
温もり。
現実。
止まっていた時間が、一気に動く。
「お姉ちゃん……っ……!」
その声で。
すべてが、崩れた。
「……っ……!」
しおりの手が、震える。
ゆっくりと。
妹の背中に、触れる。
その瞬間——
ふと、視線が落ちる。
濡れた制服。
まだ新しい生地。
折り目の残るスカート。
中等部の制服が、雨粒を吸い込み、じんわりと色を深めている。
確かめるように。
「……あゆみ……?」
その名前を、口にした瞬間。
涙が、あふれた。
「……今日から、この学校」
「……通うことになったの」
その言葉が、胸に落ちる。
五年間、離れていた時間。
埋まらないと思っていた距離。
それが、今。
同じ場所に、重なった。
「……ごめん……っ……!」
声が、崩れる。
「……ごめんね……っ……!」
強く、抱きしめる。
「……守れなかった……!」
「違うよ……!」
あゆみが、必死に首を振る。
「お姉ちゃんは、何も悪くない!」
「……大好きだった……!」
その言葉に。
しおりは、立っていられなくなった。
その場に崩れ落ちる。
それでも、手は離さない。
二人は、ただ泣いた。
雨の中で。
■ 校門の外
少し離れた場所。

一人の女性が立っていた。
傘を差しながら。
動かずに。
ただ、見つめている。
震える手。
でも。
一歩も、動かない。
その目に、涙が滲む。
それでも。
近づかない。
■ ダンス室
しおりは、小さく言う。
「……来て」
手を引く。
あゆみを連れて。
扉の前。
一瞬だけ、止まる。
そして。
開ける。
中には——

ひなた、あかり、ゆい、さくら。
全員が、振り向く。
沈黙。
時間が、止まる。
しおりは、息を吸う。
そして。
「……この子」
少しだけ、声が震える。
「……妹の、あゆみ」
その一言が。
空気を変えた。
■ 屋上
雨は、止みかけていた。
濡れた床に、空の光が映る。
誰も、すぐには話さない。
風の音だけが、通り抜ける。
しおりは、ゆっくりと前に出る。
フェンスの向こう。
遠くの街。
その隣に、あゆみ。
少しだけ距離をあけて。
でも。
確かに、隣にいる。
「……」
しおりは、何も言わない。
言葉が、見つからない。
ただ。
空を見上げる。

雲の切れ間。
光が、差し込む。
その光が、揺れる。
少しだけ、眩しい。
後ろ。
ひなたたちが、静かに立っている。
誰も、近づかない。
誰も、急かさない。
ゆいが、一歩だけ前に出る。
でも。
そこで、止まる。
「……」
視線だけが、交わる。
一瞬。
でも、それだけで十分だった。
ゆいが、小さく、頷く。
しおりは、わずかに目を伏せる。
そして。
ほんの少しだけ。
頷き返す。
それだけ。
言葉は、ない。
でも。
確かに、何かが繋がった。
しおりは、そっと手を伸ばす。
あゆみの手に、触れる。
握る。
今度は、迷わずに。
光が、広がる。
二人の影が、並ぶ。
その後ろに。
四人の影が、重なる。
風が、吹く。
空が、開けていく。
(……もう一度)
心の中で、呟く。
(……ここから)
■ 校門の外。
女性は、静かに背を向ける。
一度だけ、空を見上げる。
そして。
歩き出す。
雨は、もう止んでいた。
第八話 雨の再会 (終)
▶ Solaria 2nd Stage 第九話|
― 重なりはじめる音 ― へ続く
