中学でも分かる⑬「行列」
ここでは行列について学習します。行列の計算方法をしっかりと押さえるとともに、間違いやすい注意事項を述べていきます。最後は「ケイリー・ハミルトンの定理」についても解説します。
行列について(導入)
りんご1個の値段を $${100}$$ 円、みかん1個の値段を $${60}$$ 円とします。これを次のように書きます。
$$
\begin{pmatrix}
100 & 60
\end{pmatrix}
$$
リンゴを $${2}$$ 個、みかんを $${3}$$ 個買うとすると、その総額はいくらになるでしょうか。それは
$$
\begin{align*}
100 {\scriptsize 円}\times 2 {\scriptsize 個}+60 {\scriptsize 円}\times3 {\scriptsize 個}&=200 {\scriptsize 円}+180 {\scriptsize 円}\\
&=380 {\scriptsize 円}
\end{align*}
$$
となります。これを次のように書きます。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
100 & 60
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2\\
3
\end{pmatrix}
&=100\times2+60\times3\\
&=380 \cdots(*1)
\end{align*}
$$
形式的に、下図のように計算します。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
① & ➁
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
➂\\
➃
\end{pmatrix}
&=①\times➂+➁\times➃
\end{align*}
$$
また、買う個数はそのままで、りんご1個の値段を $${120}$$ 円、みかん1個の値段を $${50}$$ 円と変えると、その総額はいくらになるでしょうか。それは
$${120\times2+50\times3=240+150=390}$$ 円
$$
\begin{align*}
120 {\scriptsize 円}\times 2 {\scriptsize 個}+50 {\scriptsize 円}\times3 {\scriptsize 個}&=240 {\scriptsize 円}+150 {\scriptsize 円}\\
&=390 {\scriptsize 円}
\end{align*}
$$
となります。この計算も、先ほどの $${(*1)}$$ と同じように書けます。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
120 & 50
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2\\
3
\end{pmatrix}
&=120\times2+50\times3\\
&=390 \cdots(*2)
\end{align*}
$$
すると、この $${(*1)}$$ と $${(*2)}$$ を組み合わせて、次のように表記することも可能です。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
100 & 60\\
120 & 50
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2\\
3
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
100\times2+60\times3\\
120\times2+50\times3
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
380\\
390
\end{pmatrix} \cdots (*3)
\end{align*}
$$
これは、次のように $${(*1)}$$ と $${(*2)}$$ を組み合わせて、1つの数式にまとめています。どのように組み合わせているのか確認してください。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
100 & 60
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2\\
3
\end{pmatrix}
&=380 \cdots(*1)\\[10pt]
\begin{pmatrix}
120 & 50
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2\\
3
\end{pmatrix}
&=390 \cdots(*2)\\[13pt]
&\hspace{2pt}\downarrow\scriptsize{この2つの計算を \atop 一つにまとめて}\\[8pt]
\begin{pmatrix}
100 & 60\\
120 & 50
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2\\
3
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
380\\
390
\end{pmatrix} \cdots (*3)
\end{align*}
$$
この計算は何を意味しているでしょうか?
これは、$${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{rr} 100 & 60\\ 120 & 50 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ という合計額を求める計算ルールを、何個買うかという情報 $${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{c} 2 \\ 3 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ に働きかけることよって、新しい情報、つまり総額 $${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{c} 380 \\ 390 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ を求めています。
$$
\begin{align*}
\underset{計算ルール}{\begin{pmatrix}
100 & 60\\
120 & 50
\end{pmatrix}}
\underset{個数}{\begin{pmatrix}
2\\
3
\end{pmatrix}}
=\underset{総額}{\begin{pmatrix}
380\\
390
\end{pmatrix}}
\end{align*}
$$
この、計算ルールの定義された数学的な道具
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
100 & 60\\
120 & 50
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
を行列といいます。行列とは、ある情報を別の情報に変換するための、計算ルールを持った数学的な道具とみることができます。
一般に、この計算は次のように定義されます。
$$
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
ax+by\\
cx+dy
\end{pmatrix}
$$
これが、行列の基本的な計算ルールです。この
$$
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
$$
を行列といいます。上下に $${2}$$ 行、左右に $${2}$$ 列なので、詳しくは2行2列の行列といいます。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix*}[r]
a & b\\
c & d
\end{pmatrix*}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{rr}
\cdots \scriptsize{1 行}\\
\cdots \scriptsize{2 行}
\end{array}\\[-4pt]
&\hspace{11pt}\vdots\hspace{12pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{6pt}\scriptsize{1 列}\hspace{4pt}\scriptsize{2 列}
\end{align*}
$$
さらに、りんごとみかんの個数を変えてみましょう。りんごを $${4}$$ 個、みかんを $${5}$$ 個買うとすると、りんご $${100}$$ 円、みかん $${60}$$ 円のときの総額は
$$
\begin{align*}
100 {\scriptsize 円}\times 4 {\scriptsize 個}+60 {\scriptsize 円}\times5 {\scriptsize 個}&=400 {\scriptsize 円}+300 {\scriptsize 円}\\
&=700 {\scriptsize 円}
\end{align*}
$$
りんご $${120}$$ 円、みかん $${50}$$ 円のときの総額は
$$
\begin{align*}
120 {\scriptsize 円}\times 4 {\scriptsize 個}+50 {\scriptsize 円}\times5 {\scriptsize 個}&=480 {\scriptsize 円}+250 {\scriptsize 円}\\
&=730 {\scriptsize 円}
\end{align*}
$$
となります。これを、先ほどの行列の計算 $${(*3)}$$
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
100 & 60\\
120 & 50
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2\\
3
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
100\times2+60\times3\\
120\times2+50\times3
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
380\\
390
\end{pmatrix} \cdots (*3)
\end{align*}
$$
と同様に表記すると、次のようになります。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
100 & 60\\
120 & 50
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
4\\
5
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
100\times4+60\times5\\
120\times4+50\times5
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
700\\
730
\end{pmatrix} \cdots (*4)
\end{align*}
$$
この $${(*3)}$$ と $${(*4)}$$ を組み合わせて、次のように表記することも可能です。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
100 & 60\\
120 & 50
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2 & 4\\
3 & 5
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix*}[r]
100\times2+60\times3 & 100\times4+60\times5\\
120\times2+50\times3 & 120\times4+50\times5
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix}
380 & 700\\
390 & 730
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
これは、次のように $${(*3)}$$ と $${(*4)}$$ を組み合わせて、1つの数式にまとめています。どのように組み合わせているのか確認してください。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
100 & 60\\
120 & 50
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2\\
3
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
380\\
390
\end{pmatrix} \cdots (*3)\\
\begin{pmatrix}
100 & 60\\
120 & 50
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
4\\
5
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
700\\
730
\end{pmatrix} \cdots (*4)\\[13pt]
&\hspace{2pt}\downarrow\scriptsize{この2つの計算を \atop 一つにまとめて}\\[8pt]
\begin{pmatrix}
100 & 60\\
120 & 50
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2 & 4\\
3 & 5
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
380 & 700\\
390 & 730
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
一般に、この計算は次のように定義されます。
$$
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z\\
y & w
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
ax+by & az+dw\\
cx+dy & cz+dw
\end{pmatrix}
$$
この計算に慣れることが、行列の勉強の始まりです。
以上をふまえて、教科書的にきちんと行列を定義していきます。
行列について(教科書的)
行ベクトルと列ベクトル
平面上のベクトルは、その成分を用いて、例えば $${(5, 3), (-1, 4)}$$ のように表されました(中学でも分かる⑫「ベクトル」)。ここでは、これらを単に
$$
\begin{pmatrix}
5 & 3
\end{pmatrix}
,\hspace{10pt}
\begin{pmatrix}
-1 & 4
\end{pmatrix}
$$
と、コンマ($${,}$$)をつけないで表します。また、縦書きにして
$$
\begin{pmatrix}
5\\
3
\end{pmatrix}
,\hspace{10pt}
\begin{pmatrix*}[r]
-1\\
4
\end{pmatrix*}
$$
のように表すこともあります。
一般に、幾つかの数を横または縦に並べた組もベクトルとよばれます。コンマ($${,}$$)を付ける必要はありません。
そして、数を横に並べた組を行ベクトル、数を縦に並べた組を列ベクトルといいます。
また、ベクトルに含まれる各々の数をベクトルの成分といい、成分の個数をベクトルの次元といいます。例えば
$${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{cc} 3 & -2 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ は、 $${2}$$ 次元の行ベクトル
$${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{ccc} 2 & 0 & -5 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ は、 $${3}$$ 次元の行ベクトル
$${\\[-12pt]}$$
$${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{r} 3 \\ -2 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ は、 $${2}$$ 次元の列ベクトル
$${\\[-10pt]}$$
$${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{r} 2 \\ 0 \\ -5 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ は、 $${2}$$ 次元の列ベクトル
となります。
行列について
ベクトルを一般化して、次のような数の配列を考えることもできます。
$$
\begin{pmatrix*}[r]
5 & -6\\
2 & 3
\end{pmatrix*}
,
\begin{pmatrix*}[r]
1 & 0 & -5\\
3 & -2 & 6
\end{pmatrix*}
,
\begin{pmatrix*}[r]
2 & 5\\
-4 & 0\\
1 & -3
\end{pmatrix*}
$$
このように、数を長方形の形に並べたものを行列といいます。
行列の横の並びを行といい、上のほうから第 $${1}$$ 行、第 $${2}$$ 行、$${\cdots}$$ とよびます。縦の並びを列といい、左のほうから第 $${1}$$ 列、第 $${2}$$ 列、$${\cdots}$$ とよびます。
例
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix*}[r]
a & b\\
c & d\\
e & f
\end{pmatrix*}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{rr}
\cdots \scriptsize{第 1 行}\\
\cdots \scriptsize{第 2 行}\\
\cdots \scriptsize{第 3 行}
\end{array}\\[-4pt]
&\hspace{12pt}\vdots\hspace{12pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{-2pt}\scriptsize{第 1 列}\hspace{4pt}\scriptsize{第 2 列}
\end{align*}
$$
「行」と「列」の覚え方
「行」と「列」は、初めのうちは混同しやすいので、いくつか覚え方を紹介します。
漢字で覚える
「行」と「列」の漢字のつくりを見ると、「行」という漢字には横に伸びた線が2本あるため、横方向と覚えます。「列」という漢字には縦に伸びた線が2本あるため、縦方向と覚えます。

ひらがなで覚える
「行(ぎょう)」の「ぎ」の書き始めは横線なので、横方向と覚えます。「列(れつ)」」の「れ」の書き始めは縦線なので、縦方向と覚えます。

数式を横方向に書く
数式を書き進めていく方向は横方向のため、「行」は横方向と覚えてもよいでしょう。
例 $${3x+2y=5}$$ と、数式を書き進める横方向が「行」。
m 行 n 列の行列
行列は、その行と列の数によって $${m}$$ 行 $${n}$$ 列の行列、または単に $${m\times n}$$ 行列といいます。例えば、次の行列
$$
\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{rr} 5 & -6\\ 2 & 3 \end{array} \hspace{-5pt}\right)
$$
は $${2}$$ 行 $${2}$$ 列の行列、または $${2\times2}$$ 行列といいます。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix*}[r]
5 & -6\\
2 & 3
\end{pmatrix*}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{rr}
\cdots \scriptsize{第 1 行}\\
\cdots \scriptsize{第 2 行}
\end{array}\\[-4pt]
&\hspace{11pt}\vdots\hspace{19.5pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{0.5pt}\scriptsize{第 1 列}\hspace{3pt}\scriptsize{第 2 列}
\end{align*}
$$
また、次の行列
$$
\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{rrr} 1 & 0 & -5\\ 3 & -2 & 6 \end{array} \hspace{-5pt}\right)
$$
は $${2}$$ 行 $${3}$$ 列の行列、または $${2\times3}$$ 行列といいます。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix*}[r]
1 & 0 & -5\\
3 & -2 & 6
\end{pmatrix*}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{rr}
\cdots \scriptsize{第 1 行}\\
\cdots \scriptsize{第 2 行}
\end{array}\\[-4pt]
&\hspace{11pt}\vdots\hspace{19.5pt}\vdots\hspace{19.5pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{0.5pt}\scriptsize{第 1 列}\hspace{3pt}\scriptsize{第 2 列}\hspace{3pt}\scriptsize{第 3 列}
\end{align*}
$$
先に横方向(行)を数え、次に縦方向(列)を数えます。逆にしないように注意しましょう。
正方行列とその次数
特に
$${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{rr} 3 & -2\\ -4 & 5 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ や $${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{rrr} 3 & -2 & 1\\ 5 & -3 & 2\\ 1 & 0 & -4\end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$
のように、行の数と列の数が等しい行列を正方行列といい、その行(または列)の数を、正方行列の次数といいます。例えば、$${2\times2}$$ 行列は $${2}$$ 次の正方行列、$${3\times3}$$ 行列は $${3}$$ 次の正方行列です。
一般に、行ベクトル、列ベクトルは、行列の特別な場合であると考えます。
例えば、行ベクトル $${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{cc} 3 & -2 & 4 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ は、$${1}$$ 行 $${3}$$ 列の行列($${1\times3}$$ 行列)であり、
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix*}[r]
3 & -2 & 4
\end{pmatrix*}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{c}
\cdots \scriptsize{第 1 行}
\end{array}\\[-4pt]
&\hspace{7pt}\vdots\hspace{18pt}\vdots\hspace{15pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{-4.5pt}\scriptsize{第 1 列}\hspace{2pt}\scriptsize{第 2 列}\hspace{2pt}\scriptsize{第 3 列}
\end{align*}
$$
列ベクトル $${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{r} 5\\ 3\\ -1 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ は、$${3}$$ 行 $${1}$$ 列の行列($${3\times1}$$ 行列)となります。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix*}[r]
5\\ 3\\ -1
\end{pmatrix*}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{c}
\cdots \scriptsize{第 1 行}\\
\cdots \scriptsize{第 2 行}\\
\cdots \scriptsize{第 3 行}\\
\end{array}\\[-4pt]
&\hspace{16pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{7pt}\scriptsize{第 1 列}
\end{align*}
$$
例題1
次の行列の型をいいなさい。
(1) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rrr} 1 & 0 & 4\\ 0 & 3 & 1\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$ (2) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 4 & -1\\ 5 & 3 \\ 7& 0\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$ (3) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rrr} 1 & 0 & 2\\ 0 & 5 & -7\\ 2& 0 & 9\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$
$${\\[-8pt]}$$
(4) $${\begin{pmatrix*}[r] 5 & -3 & 0 & 2 \end{pmatrix*}}$$ (5) $${\begin{pmatrix*}[r] 4 \\ 0 \\ -1 \\ 5 \end{pmatrix*}}$$
解答
(1) $${2}$$ 行 $${3}$$ 列の行列($${2\times3}$$ 行列)
(2) $${3}$$ 行 $${2}$$ 列の行列($${3\times2}$$ 行列)
(3) $${3}$$ 行 $${3}$$ 列の行列($${3\times3}$$ 行列)
(4) $${1}$$ 行 $${4}$$ 列の行列($${1\times4}$$ 行列)
(5) $${4}$$ 行 $${1}$$ 列の行列($${4\times1}$$ 行列)
$${\blacksquare}$$
1×1 行列について
$${1\times1}$$ 行列、例えば $${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{c} -2 \end{array}\hspace{-5pt}\right)}$$ は、括弧を略して単に $${-2}$$ と書き、数値とみなすことができます。これは、$${1\times1}$$ 行列の要素が単一の数値であるため、実数と同じように演算ができるためです(行列の演算については後に解説します)。
例 次の $${1\times1}$$ 行列の演算(後に解説する行列のたし算)
$$
\begin{align*}
\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{c} -2 \end{array}\hspace{-5pt}\right)
+\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{c} 5 \end{array}\hspace{-5pt}\right)
=\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{c} 3 \end{array}\hspace{-5pt}\right)
\end{align*}
$$
は、次のように実数の演算とみなせる。
$$
\begin{align*}
-2+5=3
\end{align*}
$$
行列の成分
行列の各々の数を、この行列の成分といいます。行列の第 $${i}$$ 行目、$${j}$$ 列目の成分を、特に行列の $${(i, j)}$$ 成分といいます。
また、行列 $${A}$$ の $${(i, j)}$$ 成分を $${a_{ij}}$$ として、例えば3次の正方行列を、次のように表すこともあります。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix*}[r]
a_{11} & a_{12} & a_{13}\\
a_{21} & a_{22} & a_{23}\\
a_{31} & a_{32} & a_{33}
\end{pmatrix*}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{rr}
\cdots \scriptsize{第 1 行}\\
\cdots \scriptsize{第 2 行}\\
\cdots \scriptsize{第 3 行}
\end{array}\\[-4pt]
&\hspace{14pt}\vdots\hspace{20pt}\vdots\hspace{20pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{3.5pt}\scriptsize{第 1 列}\hspace{3pt}\scriptsize{第 2 列}\hspace{3pt}\scriptsize{第 3 列}
\end{align*}
$$
例えば行列
$$
\begin{pmatrix*}[r]
5 & -6 & 1\\
2 & 3 & 0\\
-3 & 4 & -7
\end{pmatrix*}
$$
においては
$$
\begin{alignat*}{3}
&a_{11}=5,& &a_{12}=-6, & &a_{13}=1\\
&a_{21}=2,& &a_{22}=3, & &a_{23}=0\\
&a_{31}=-3,& &a_{32}=4, & &a_{33}=-7
\end{alignat*}
$$
となります。この表記法は、大きな行列を一般的に表すのに便利です。例えば4行6列の行列($${4\times6}$$ 行列)は、次のように表せます。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix*}[r]
a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} & a_{15} & a_{16}\\
a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} & a_{25} & a_{26}\\
a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} & a_{35} & a_{36}\\
a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} & a_{45} & a_{46}
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
行列の成分の個数
一般に、$${m}$$ 行 $${n}$$ 列の行列の成分は $${m\times n}$$ 個あります。
例えば、$${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{rr} 5 & -6\\ 2 & 3 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ は成分が $${2\times2=4}$$ 個の行列、$${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{rrr} 1 & 0 & -5\\ 3 & -2 & 6 \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ は成分が $${2\times3=6}$$ 個の行列です。
例題2
次の行列の成分の個数を求めなさい。
(1) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rrr} 1 & 0 & 4\\ 0 & 3 & 1\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$ (2) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 4 & -1\\ 5 & 3 \\ 7& 0\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$ (3) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rrr} 1 & 0 & 2\\ 0 & 5 & -7\\ 2& 0 & 9\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$
$${\\[-8pt]}$$
(4) $${\begin{pmatrix*}[r] 5 & -3 & 0 & 2 \end{pmatrix*}}$$ (5) $${\begin{pmatrix*}[r] 4 \\ 0 \\ -1 \\ 5 \end{pmatrix*}}$$
解答
(1) $${2\times3=6}$$ 個。
(2) $${3\times2=6}$$ 個。
(3) $${3\times3=9}$$ 個。
(4) $${1\times4=4}$$ 個。
(5) $${4\times1=4}$$ 個。
$${\blacksquare}$$
行列 A の行ベクトルと列ベクトル
例えば、行列 $${A=\begin{pmatrix*}[r] a & b & c \\ x & y & z \end{pmatrix*}}$$ において、
第 $${1}$$ 行 $${\begin{pmatrix*}[r] a & b & c \end{pmatrix*}}$$,
第 $${2}$$ 行 $${\begin{pmatrix*}[r] x & y & z \end{pmatrix*}}$$
を、行列 $${A}$$ の行ベクトルといい、
第 $${1}$$ 列 $${\begin{pmatrix*}[r] a \\ x \end{pmatrix*}}$$
$${\\[-14pt]}$$
第 $${2}$$ 列 $${\begin{pmatrix*}[r] b \\ y \end{pmatrix*}}$$
$${\\[-14pt]}$$
第 $${3}$$ 列 $${\begin{pmatrix*}[r] c \\ z \end{pmatrix*}}$$
を、行列 $${A}$$ の列ベクトルといいます。
例 行列 $${A=\begin{pmatrix*}[r] 4 & -1 & 2 \\ 3 & 0 & -5 \end{pmatrix*}}$$ において、
$${\begin{pmatrix*}[r] 4 & -1 & 2 \end{pmatrix*}}$$
$${\begin{pmatrix*}[r] 3 & 0 & -5 \end{pmatrix*}}$$
は、行列 $${A}$$ の行ベクトル、
$${\begin{pmatrix*}[r] 4 \\ 3 \end{pmatrix*}}$$
$${\\[-14pt]}$$
$${\begin{pmatrix*}[r] -1 \\ 0 \end{pmatrix*}}$$
$${\\[-14pt]}$$
$${\begin{pmatrix*}[r] 2 \\ -5 \end{pmatrix*}}$$
は、行列 $${A}$$ の列ベクトルとなります。
上記のように、行列の各行や各列は、行ベクトル、列ベクトルとして扱うことができます。これにより、どのように行列ができているのか、行列の性質は何かを理解しやすくなります。
例えば、次のように3人の生徒 A, B, C の身長と体重を表す表(行列)を考ましょう。
$$
\begin{align*}
&\hspace{33pt}\text{A}\hspace{18pt}\text{B}\hspace{17pt}\text{C}\\
&\begin{matrix*}[r]
\small{身長} \\ \small{体重}
\end{matrix*}\hspace{2pt}
\begin{pmatrix*}[r]
172 & 168 & 176 \\ 70 & 63 & 75
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
「行」は身長や体重の情報、「列」はそれぞれの生徒の情報です。これを行ベクトルと列ベクトルに分けて考えると、何の情報か、誰の情報かがはっきりします。
また、行列の中の特定の行や列だけを見て考えたい場合は、行ベクトルや列ベクトルに分割して考えると、理解しやすくなります。
行列の相等
ここから、行列を簡単に大文字 $${A, B}$$ などで表します。
2つの行列 $${A, B}$$ の行の数と列の数がそれぞれ等しいとき、$${A}$$ と $${B}$$ は同じ型であるといいます。
一般に、行列 $${A}$$, $${B}$$ が同じ型であって、かつ、その対応する成分がすべて等しいとき、$${A}$$ と $${B}$$ は等しいといい $${A=B}$$ と書きます。
例えば、$${2\times2}$$ 行列については、次のようになります。
$$
\begin{pmatrix*}[r]
a & b\\
c & d
\end{pmatrix*}
=
\begin{pmatrix*}[r]
p & q\\
r & s
\end{pmatrix*}
\Longleftrightarrow
\begin{matrix}
a=p & b=q\\
c=r & d=s
\end{matrix}
$$
例題3
次の等式が成り立つように、それぞれ $${x, y, u, v}$$ を求めなさい。
(1) $${\begin{pmatrix*}[r] 4 & 3 \\ x & y \end{pmatrix*}=\begin{pmatrix*}[r] u & v \\ -2 & 0 \end{pmatrix*}}$$
$${\\[-14pt]}$$
(2) $${\begin{pmatrix*}[c] x+y & x-y \\ u-1 & 2v \end{pmatrix*}=\begin{pmatrix*}[r] 3 & 1 \\ 2 & -4 \end{pmatrix*}}$$
解答
行列の相等より
(1) $${x=-2, y=0, u=4, v=3 \cdots{\small (答)}}$$
(2) $${x+y=3, x-y=1}$$
$${u-1=2, 2v=-4}$$
$${x, y}$$ は連立方程式を解いて
$$
\begin{align*}
\begin{align*}
x+y&=3\\
+) x-y&=1\\
\hline\\[-12pt]
2x &=4\\
x &=2
\end{align*}
\hspace{25pt}
\begin{align*}
x+y&=3\\
-) x-y&=1\\
\hline\\[-12pt]
2y &=2\\
y &=1
\end{align*}
\end{align*}
$$
$${u, v}$$ はそのまま解いて
$${u-1=2}$$ より $${u=3}$$
$${2v=-4}$$ より $${v=-2}$$
以上より、$${x=2, y=1, u=3, v=-2 \cdots{\small (答)}}$$
$${\blacksquare}$$
行列の計算
行列の和
同じ型の2つの行列の和(たし算)を、次のように定めます。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
+
\begin{pmatrix}
p & q\\
r & s
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
a+p & b+q\\
c+r & d+s
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
***
例
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
2 & 3\\
1 & -4
\end{pmatrix*}
+
\begin{pmatrix}
2 & -4\\
3 & 1
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
2+2 & 3+(-4)\\
1+3 & -4+1
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
4 & -1\\
4 & -3
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
行列の和は、同じ型の行列同士で定義され、対応する成分同士を足します。
行列の差
同じ型の2つの行列の差(ひき算)を、次のように定めます。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
a & b\\
c & d
\end{pmatrix*}
-\begin{pmatrix*}[r]
p & q\\
r & s
\end{pmatrix*}
=\begin{pmatrix*}[r]
a-p & b-q\\
c-r & d-s
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
***
例
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
3 & -2\\
-4 & 1
\end{pmatrix*}
-\begin{pmatrix*}[r]
1 & -3\\
2 & -5
\end{pmatrix*}
&=\begin{pmatrix*}[r]
3-1 & -2-(-3)\\
-4-2 & 1-(-5)
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
2 & 1\\
-6 & 6
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
行列の差は、同じ型の行列同士で定義され、対応する成分同士を引きます。
零行列
成分がすべて $${0}$$ である行列を零行列といい $${O}$$(アルファベットの大文字のオー)と表します。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
0 & 0\\
0 & 0
\end{pmatrix}
,
\begin{pmatrix}
0 & 0
\end{pmatrix}
,
\begin{pmatrix}
0\\
0
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
などはいずれも零行列 $${O}$$ ですが、型が異なります。$${O}$$ がどの型の零行列であるかは、前後の関係から判断します。
<零行列の和の性質>
零行列 $${O}$$ が行列 $${A}$$ と同じ型であるとき、次の等式が成り立ちます。
$$
\begin{align*}
A+O=A\\
O+A=A
\end{align*}
$$
これは、
「零行列は、左右どちらから足しても変わらない」
という性質です。この性質において、零行列は数字の $${0}$$ と似ています。$${0}$$ は左右どちらから足しても変わりません。
例
$$
\begin{align*}
2+0=2\\
0+2=2
\end{align*}
$$
行列と実数の積(スカラー倍)
行列と実数の積について、次のように定めます。
$${k}$$ を実数とするとき
$$
\begin{align*}
k\begin{pmatrix*}[r]
a & b\\
c & d
\end{pmatrix*}
=\begin{pmatrix*}[r]
ka & kb\\
kc & kd
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
***
例
$$
\begin{align*}
3\begin{pmatrix*}[r]
3 & -1\\
0 & 5
\end{pmatrix*}
&=\begin{pmatrix*}[c]
3\times3 & 3\times(-1)\\
3\times0 & 3\times5
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
9 & -3\\
0 & 15
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
このように、行列のすべての成分に同じ実数(スカラー)を掛ける操作を、スカラー倍といいます。
行列は、複数の情報をまとめて扱う「箱」のようなものだと考えることができます。この「箱」に入っているすべての情報(成分)を、一律に変化させたいときに、このスカラー倍の定義が役立ちます。
例えば、ある月の家計の食費、交際費、医療費の支出を、次のように行列で表したとします。
$$
\begin{pmatrix*}[r]
食費 & 交際費 & 医療費
\end{pmatrix*}
$$
消費税が $${10}$$ %かかるとすると、税込みの支出額を計算するには、すべての項目に $${1.1}$$($${10}$$ %増し)を掛ける必要があります。
$$
\begin{align*}
&\,1.1\begin{pmatrix*}[r]
食費 & 交際費 & 医療費
\end{pmatrix*}\\
=&\begin{pmatrix*}[r]
食費\times1.1 & 交際費\times1.1 & 医療費\times1.1
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
このように、行列の各成分の情報を一律で変更したい場合に、スカラー倍が自然な操作として定義されます。
ちなみに、このスカラー倍の逆演算として、行列の各要素をスカラーで割るという計算も可能です。
例1
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
9 & -3\\
0 & 15
\end{pmatrix*}
&=3\begin{pmatrix*}[r]
3 & -1\\
0 & 5
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
例2
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
\dfrac{3}{2} & 0\\[8pt]
-\dfrac{1}{2} & 2
\end{pmatrix*}
&=\begin{pmatrix*}[r]
\dfrac{3}{2} & 0\\[8pt]
-\dfrac{1}{2} & \dfrac{4}{2}
\end{pmatrix*}\\[20pt]
&=\dfrac{1}{2}\begin{pmatrix*}[r]
3 & 0\\
-1 & 4
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
例題4
$${A=\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 2 & 3\\ -1 & 4\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$, $${B=\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 1 & -2\\ 2 & -3\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$, $${C=\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 2 & 1\\ -3 & 0\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$ のとき、次の式を求めなさい。
(1) $${2A-3B}$$
(2) $${3A-2B+5C}$$
解答
(1)
$$
\begin{align*}
2A-3B
&=2\begin{pmatrix*}[r]
2 & 3\\
-1 & 4
\end{pmatrix*}
-3\begin{pmatrix*}[r]
1 & -2\\
2 & -3
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
4 & 6\\
-2 & 8
\end{pmatrix*}
-\begin{pmatrix*}[r]
3 & -6\\
6 & -9
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
4-3 & 6-(-6)\\
-2-6 & 8-(-9)
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
1 & 12\\
-8 & 17
\end{pmatrix*} \cdots{\small (答)}
\end{align*}
$$
(2)
$$
\begin{align*}
3A-B+5C
&=3\begin{pmatrix*}[r]
2 & 3\\
-1 & 4
\end{pmatrix*}
-2\begin{pmatrix*}[r]
1 & -2\\
2 & -3
\end{pmatrix*}
+5\begin{pmatrix*}[r]
2 & 1\\
-3 & 0
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
6 & 9\\
-3 & 12
\end{pmatrix*}
-\begin{pmatrix*}[r]
2 & -4\\
4 & -6
\end{pmatrix*}
+\begin{pmatrix*}[r]
10 & 5\\
-15 & 0
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
6-2+10 & 9-(-4)+5\\
-3-4+(-15) & 12-(-6)+0
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
14 & 18\\
-22 & 18
\end{pmatrix*} \cdots{\small (答)}
\end{align*}
$$
$${\blacksquare}$$
行列の積
2つの行列の積(かけ算)について考えます。
まず、行ベクトル $${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{cc} a & b \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ と列ベクトル $${\left(\hspace{-5pt}\begin{array}{r} p\\ q \end{array} \hspace{-5pt}\right)}$$ の積を、次のように定めます。
<定義1> 1×2 行列 ✖ 2×1 行列
$$
\begin{pmatrix}
a & b
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
=ax+by
$$
***
この計算は、ベクトル $${\vec{a}=(a, b)}$$, $${\vec{b}=(x, y)}$$ の内積
$$
\vec{a}\cdot\vec{b}=ax+by
$$
と等しくなります(中学でも分かる⑫「ベクトル」)。
例
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
3 & -2
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[r]
-4\\
1
\end{pmatrix*}
&=3\cdot(-4)+(-2)\cdot1\\
&=-12-2\\
&=-14
\end{align*}
$$
また、これは、
「$${1}$$ 行 $${\bm{2}}$$ 列の行列と $${\bm{2}}$$ 行 $${1}$$ 列の行列の積は $${1}$$ 行 $${1}$$ 列の行列、つまりスカラーとなる」
とみて取れます。ちょうど $${\bm{2}}$$ のところで ”しり取り” になります。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix}
a & b
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{rr}
\cdots \scriptsize{1 行}\\
\cdots \scriptsize{\bm{2} 行}
\end{array}
=ax+by\\[-10pt]
&\hspace{8pt}\vdots\hspace{12pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{4pt}\scriptsize{1 列}\hspace{3pt}\scriptsize{\bm{2} 列}\\
\end{align*}
$$
上で考えたことを一般化させて、いろいろな型について、行列同士の積を定義していきます。
<定義2> 2×2 行列 ✖ 2×1 行列
$$
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
ax+by\\
cx+dy
\end{pmatrix}
$$
***
これは、<定義1>でやった計算
$$
\begin{pmatrix}
a & b
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
=ax+by
$$
と
$$
\begin{pmatrix}
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
=cx+dy
$$
を組み合わせ、「行ベクトル」と「列ベクトル」の内積を2回計算をしています。つまり、下式のように空欄 $${(*)}$$ が埋まるように、2つの式を組み合わせて1つの式にまとめています。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
a & b\\
* & *
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
&=\overset{内積}{\begin{pmatrix}
ax+by\\
*
\end{pmatrix}}\\[10pt]
\begin{pmatrix}
* & *\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
&=\underset{内積}{\begin{pmatrix}
*\\
cx+dy
\end{pmatrix}}\\[20pt]
&\hspace{2pt}\downarrow\scriptsize{この2つの内積を \atop 1つにまとめて\hspace{7pt}}\\[8pt]
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
ax+by\\
cx+dy
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
例
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
2 & -1\\
3 & 5
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[c]
3\\
1
\end{pmatrix*}
&=\begin{pmatrix*}[c]
2\cdot3+(-1)\cdot1\\
3\cdot3+5\cdot1
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
6-1\\
9+5
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
5\\
14
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
また、これは
「$${2}$$ 行 $${\bm{2}}$$ 列の行列と $${\bm{2}}$$ 行 $${1}$$ 列の行列の積は $${2}$$ 行 $${1}$$ 列の行列になる」
とみて取れます。ちょうど $${\bm{2}}$$ のところで ”しり取り” になります。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{r}
\cdots \scriptsize{1 行}\\
\cdots \scriptsize{\bm{2} 行}
\end{array}=\begin{pmatrix}
ax+by\\
cx+dy
\end{pmatrix}\\[-6pt]
&\hspace{11pt}\vdots\hspace{12pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{7pt}\scriptsize{1 列}\hspace{3pt}\scriptsize{\bm{2} 列}
\end{align*}
$$
$${\bm{2}}$$ のところで ”しり取り” になる理由は、成分の数が同じでないと内積を取れないためです。
例えば、次のように $${2}$$ 行 $${2}$$ 列の行列と $${3}$$ 行 $${1}$$ 列の行列の積は計算できません。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y\\
z
\end{pmatrix}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{r}
\cdots \scriptsize{第 1 行}\\
\cdots \scriptsize{第 2 行}\\
\cdots \scriptsize{第 3 行}
\end{array}\\[-10pt]
&\hspace{11pt}\vdots\hspace{12pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{-3pt}\scriptsize{第 1 列}\hspace{3pt}\scriptsize{第 2 列}
\end{align*}
$$
内積を取ろうとしても
$${ax+by+?z}$$
と、$${z}$$ と掛ける相手がいないわけです。
一般に、
「$${l}$$ 行 $${\bm{m}}$$ 列の行列と $${\bm{m}}$$ 行 $${n}$$ 列の行列の積は $${l}$$ 行 $${n}$$ 列の行列になる」
ちょうど $${\bm{m}}$$ のところで ”しり取り” になります。
覚え方としては、下図のように「2列なら2行でかけ算可能」と覚えればよいでしょう。「列」と「行」でしり取りにならない場合は、かけ算はできません。

行列の積を考える場合は、この ”しり取り” ができるかどうかを必ず確認しましょう。
<定義3> 2×2 行列 ✖ 2×2 行列
$$
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z\\
y & w
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
ax+by & az+bw\\
cx+dy & cz+dw
\end{pmatrix}
$$
***
これは、<定義1>でやった「行ベクトル」と「列ベクトルの」の内積を4回計算しています。つまり、下式のように空欄 $${(*)}$$ が埋まるように、4つの式を組み合わせて1つの式にまとめています。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
a & b\\
* & *
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & *\\
y & *
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
ax+by & *\\
* & *
\end{pmatrix}\\[10pt]
\begin{pmatrix}
a & b\\
* & *
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
* & z\\
* & w
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
* & az+bw\\
* & *
\end{pmatrix}\\[10pt]
\begin{pmatrix}
* & *\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & *\\
y & *
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
* & *\\
cx+dy & *
\end{pmatrix}\\[10pt]
\begin{pmatrix}
* & *\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
* & z\\
* & w
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
* & *\\
* & cz+dw
\end{pmatrix}\\[14pt]
&\hspace{2pt}\downarrow\scriptsize{この4つの内積を \atop 一つにまとめて}\\[8pt]
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z\\
y & w
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
ax+by & az+bw\\
cx+dy & cz+dw
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
例
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
2 & -1\\
3 & 5
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[r]
3 & 0\\
1 & -4
\end{pmatrix*}
&=\begin{pmatrix*}[c]
2\cdot3+(-1)\cdot1 & 2\cdot0+(-1)\cdot(-4)\\
3\cdot3+5\cdot1 & 3\cdot0+5\cdot(-4)
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
6-1 & 0+4\\
9+5 & 0-20
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
5 & 4\\
14 & -20
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
これは
「$${2}$$ 行 $${\bm{2}}$$ 列の行列と $${\bm{2}}$$ 行 $${2}$$ 列の行列の積は $${2}$$ 行 $${2}$$ 列の行列になる」
とみて取れます。ちょうど $${\bm{2}}$$ のところで ”しり取り” になります。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z\\
y & w
\end{pmatrix}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{r}
\cdots \scriptsize{1 行}\\
\cdots \scriptsize{\bm{2} 行}
\end{array}=\begin{pmatrix}
ax+by & az+bw\\
cx+dy & cz+dw
\end{pmatrix}\\[-6pt]
&\hspace{11pt}\vdots\hspace{12pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{7pt}\scriptsize{1 列}\hspace{3pt}\scriptsize{\bm{2} 列}
\end{align*}
$$
ここまでが、行列を計算する上での基本形です。この基本形に慣れれば、次から述べていくやや間違いやすい行列の積も理解しやすくなります。
<定義4> 1×2 行列 ✖ 2×2 行列
$$
\begin{pmatrix}
a & b\\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z\\
y & w
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
ax+by & az+bw
\end{pmatrix}
$$
***
これは、<定義1>でやった「行ベクトル」と「列ベクトルの」の内積を2回計算をしています。つまり、下式のように空欄 $${(*)}$$ が埋まるように、2つの式を組み合わせて1つの式にまとめています。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
a & b\\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & *\\
y & *
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
ax+by & *
\end{pmatrix}\\[10pt]
\begin{pmatrix}
a & b\\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
* & z\\
* & w
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
* & cx+dy
\end{pmatrix}\\[10pt]
&\hspace{2pt}\downarrow\scriptsize{この2つの内積を \atop 一つにまとめて}\\[4pt]
\begin{pmatrix}
a & b
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z\\
y & w
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
ax+by & az+bw
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
例
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
2 & -3\\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix*}[r]
4 & -2\\
-1 & 0
\end{pmatrix*}
&=\begin{pmatrix}
2\times4+(-3)\times(-1) & 2\times(-2)+(-3)\times0
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
8+3 & -4+0
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
11 & -4
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
これは
「$${1}$$ 行 $${\bm{2}}$$ 列の行列と $${\bm{2}}$$ 行 $${2}$$ 列の行列の積は $${1}$$ 行 $${2}$$ 列の行列になる」
とみて取れます。ちょうど $${\bm{2}}$$ のところで ”しり取り” になります。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix}
a & b\\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z\\
y & w
\end{pmatrix}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{r}
\cdots \scriptsize{1 行}\\
\cdots \scriptsize{\bm{2} 行}
\end{array}=\begin{pmatrix}
ax+by & az+bw\\
\end{pmatrix}\\[-10pt]
&\hspace{8pt}\vdots\hspace{12pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{4pt}\scriptsize{1 列}\hspace{3pt}\scriptsize{\bm{2} 列}
\end{align*}
$$
これは、次と間違いやすいので注意してください。
<間違い例>
$$
\begin{pmatrix}
a & b\\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z\\
y & w
\end{pmatrix}
\ne\begin{pmatrix*}[c]
ax+by\\
az+bw
\end{pmatrix*} \leftarrow {\small 間違い}
$$
$${1}$$ 行 $${\bm{2}}$$ 列の行列と $${\bm{2}}$$ 行 $${2}$$ 列の行列の積なので、$${\bm{2}}$$ で ”しり取り” をすることによって、結果は $${1}$$ 行 $${2}$$ 列の行列にならないといけません(この間違い例は $${2}$$ 行 $${1}$$ 列の行列です)。
結果がこのようになるのは<定義2>のケースなので、混同しないように注意しましょう。
(再掲)<定義2> 2×2 行列 ✖ 1×2 行列
$$
\begin{pmatrix}
a & b\\
c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x\\
y
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
ax+by\\
cx+dy
\end{pmatrix}
$$
***
次の行列同士の積は、いわゆる内積(積の総和)にならないので注意しましょう。これも間違いやすいケースです。
<定義5> 2×1 行列 ✖ 1×2 行列
$$
\begin{pmatrix}
a\\
c
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
ax & az\\
cx & cz
\end{pmatrix}
$$
***
これは、それぞれの成分は「対応する成分の積」そのものであり、いわゆる高校で習った内積の形(対応する成分の積の「総和」)にならないので注意が必要です。下式のように空欄 $${(*)}$$ が埋まるように、4つの式を組み合わせて1つの式にまとめています。
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
a\\
*
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & *
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
ax & *\\
* & *
\end{pmatrix}\\
\begin{pmatrix}
a\\
*
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
* & z
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
* & az\\
* & *
\end{pmatrix}\\
\begin{pmatrix}
*\\
c
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & *
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
* & *\\
cx & *
\end{pmatrix}\\
\begin{pmatrix}
*\\
c
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
* & z
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
* & *\\
* & cz
\end{pmatrix}\\[14pt]
&\hspace{2pt}\downarrow\scriptsize{この4つの積を \atop 一つにまとめて}\\[8pt]
\begin{pmatrix}
a\\
c
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix}
ax & az\\
cx & cz
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
例
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
3\\
-1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
-2 & 4
\end{pmatrix}
&=\begin{pmatrix*}[r]
3\times(-2) & 3\times4\\
-1\times(-2) & -1\times4
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
-6 & 12\\
2 & -4
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
これは、
「$${2}$$ 行 $${\bm{1}}$$ 列の行列と $${\bm{1}}$$ 行 $${2}$$ 列の行列の積は $${2}$$ 行 $${2}$$ 列の行列になる」
とみて取れます。ちょうど $${\bm{1}}$$ のところで ”しり取り” になります。
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix}
a\\
c
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x & z
\end{pmatrix}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{c}
\cdots \scriptsize{\bm{1} 行}
\end{array}
=\begin{pmatrix}
ax & az\\
cx & cz
\end{pmatrix}\\[-4pt]
&\hspace{10pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{6pt}\scriptsize{\bm{1} 列}
\end{align*}
$$
上記の自然な拡張により「$${3\times\bm{4}}$$ 行列 と $${\bm{4}\times2}$$ 行列の積は $${3\times2}$$ 行列となる」など、より大きな行列についても積を計算することができます。
例 $${A=\begin{pmatrix*}[r] 2 & -1 & 4 & 0 \\ -3 & 5 & 1 & 2 \\ 0 & -2 & 3 & 1 \end{pmatrix*}, B=\begin{pmatrix*}[r] 1 & -2 \\ 0 & 3 \\ 4 & -1 \\ -2 & 2 \end{pmatrix*}}$$ について
$$
\begin{align*}
AB&=\begin{pmatrix*}[r] 2 & -1 & 4 & 0 \\ -3 & 5 & 1 & 2 \\ 0 & -2 & 3 & 1 \end{pmatrix*}\begin{pmatrix*}[r] 1 & -2 \\ 0 & 3 \\ 4 & -1 \\ -2 & 2 \end{pmatrix*}
\hspace{-3pt}
\begin{array}{rr}
\cdots \scriptsize{1 行}\\
\cdots \scriptsize{2 行}\\
\cdots \scriptsize{3 行}\\
\cdots \scriptsize{4 行}
\end{array}\\[-10pt]
&\hspace{31pt}\vdots\hspace{19pt}\vdots\hspace{13pt}\vdots\hspace{12pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{26pt}\scriptsize{1 列}\hspace{9pt}\scriptsize{2 列}\hspace{5pt}\scriptsize{3 列}\hspace{3pt}\scriptsize{4 列}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
2\cdot1+(-1)\cdot0+4\cdot4+0\cdot(-2) & 2\cdot(-2)+(-1)\cdot3+4\cdot(-1)+0\cdot2\\
(-3)\cdot1+5\cdot0+1\cdot4+2\cdot(-2) & (-3)\cdot(-2)+5\cdot3+1\cdot(-1)+2\cdot2\\
0\cdot1+(-2)\cdot0+3\cdot4+1\cdot(-2) & 0\cdot(-2)+(-2)\cdot3+3\cdot(-1)+1\cdot2
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
2+0+16+0 & -4-3-4+0\\
-3+0+4-4 & 6+15-1+4\\
0+0+12-2 & 0-6-3+2
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
18 & -11\\
-3 & 24\\
10 & -7
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
(注意)行列のかけ算ができない場合
<定義2>のところでも述べましたが、改めてここでも注意を与えます。
2つの行列 $${A, B}$$ の和や差を求める場合には、$${A}$$ と $${B}$$ は同じ型でなければなりませんでした。
積 $${AB}$$ については、$${A}$$ の列の数と $${B}$$ の行の数が一致するときのみかけ算を考えることができ、それ以外は計算できません。
例えば
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix*}[r]
2 & 3\\
-1 & 4
\end{pmatrix*}
\hspace{-4pt}
\begin{pmatrix*}[r]
1 & -2
\end{pmatrix*}
\hspace{4pt}
\begin{matrix*}[r]
\cdots \scriptsize{1 行}
\end{matrix*}
\\[-4pt]
&\hspace{18pt}\vdots\hspace{12pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{14pt}\scriptsize{1 列}\hspace{3pt}\scriptsize{2 列}
\end{align*}
$$
や
$$
\begin{align*}
&\begin{pmatrix*}[r]
2\\
4
\end{pmatrix*}
\hspace{-4pt}
\begin{pmatrix*}[r]
1 & -2\\
2 & -3
\end{pmatrix*}
\hspace{4pt}
\begin{matrix*}[r]
\cdots \scriptsize{1 行}\\
\cdots \scriptsize{2 行}
\end{matrix*}
\\[-4pt]
&\hspace{10pt}\vdots\\[-4pt]
&\hspace{6.5pt}\scriptsize{1 列}
\end{align*}
$$
は計算できません。
前者は、$${2\times\bm{2}}$$ 行列 と $${\bm{1}\times2}$$ 行列のかけ算なので計算できません(太字が ”しり取り” になっていない)。後者は、$${2\times\bm{1}}$$ 行列 と $${\bm{2}\times2}$$ 行列のかけ算なので計算できません(これも、太字が ”しり取り” になっていない)。
例題5
次の積を計算しなさい。
(1) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 5 & -3\end{array} \hspace{-4pt}\right)\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{r} 2\\ 3\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$
$${\\[-14pt]}$$
(2) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{r} 2\\ 3\end{array} \hspace{-4pt}\right)\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 5 & -3\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$
$${\\[-14pt]}$$
(3) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 1 & 3\\ 2 & -4\end{array} \hspace{-4pt}\right)\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{r} 3\\ 2\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$
$${\\[-14pt]}$$
(4) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{r} 3 & 2\end{array} \hspace{-4pt}\right)\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 1 & 3\\ 2 & -4\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$
$${\\[-14pt]}$$
(5) $${\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 2 & -3\\ 4 & 1\end{array} \hspace{-4pt}\right)\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 1 & 3\\ -2 & 4\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$
解答
(1)
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
5 & -3
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[r]
2\\
3
\end{pmatrix*}
&=5\cdot2+(-3)\cdot3\\
&=10-9\\
&=1
\end{align*}
$$
(2)
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
2\\
3
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[r]
5 & -3
\end{pmatrix*}
&=\begin{pmatrix*}[r]
2\times5 & 2\times(-3)\\
3\times5 & 3\times(-3)
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
10 & -6\\
15 & -9
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
(1) と (2) では、結果(行列の型そのもの)が違うことに注意。
(3)
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
1 & 3\\
2 & -4
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[r]
3\\
2
\end{pmatrix*}
&=\begin{pmatrix*}[c]
1\cdot3+3\cdot2\\
2\cdot3+(-4)\cdot2
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
3+6\\
6-8
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
9\\
-2
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
(4)
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
3 & 2\\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix*}[r]
1 & 3\\
2 & -4
\end{pmatrix*}
&=\begin{pmatrix}
3\times1+2\times2 & 3\times3+2\times(-4)
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
3+4 & 9-8
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
7 & 1
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
(3) と (4) も、結果(行列の型そのもの)が違うことに注意。
(5)
$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix*}[r]
2 & -3\\
4 & 1
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[r]
1 & 3\\
-2 & 4
\end{pmatrix*}
&=\begin{pmatrix*}[c]
2\cdot1+(-3)\cdot(-2) & 2\cdot3+(-3)\cdot4\\
4\cdot1+1\cdot(-2) & 4\cdot3+1\cdot4
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
2+6 & 6-12\\
4-2 & 12+4
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
8 & -6\\
2 & 16
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
$${\blacksquare}$$
行列の計算法則
実数の世界では、次の6つの法則が成り立ちます。
<実数の計算法則>
任意の実数 $${a, b, c}$$ について
1. 交換法則
1-1 たし算について $${a+b=b+a}$$
1-2 かけ算について $${ab=ba}$$
2. 結合法則
2-1 たし算について $${a+(b+c)=(a+b)+c}$$
2-2 かけ算について $${a(bc)=(ab)c}$$
3. 分配法則
たし算とかけ算について
3-1 右から分配 $${a(b+c)=ab+ab}$$
3-2 左から分配 $${(b+c)a=ba+ca}$$
1. は、演算の順序を変えても等しくなる性質です。
例 $${2+3=3+2}$$
$${2\times3=3\times2}$$
2. は、どこから演算しても等しくなる性質です。
例 $${(2+3)+4=2+(3+4)}$$
$${(2\times3)\times4=2\times(3\times4)}$$
3. は、カッコを分配して外せる性質です。
例 $${2(3+4)=2\times3+2\times4}$$
$${(3+4)2=3\times2+4\times2}$$
では、行列について上の性質がいえるでしょうか。
結論からいうと、行列では一般に、かけ算についの交換法則だけが成り立ちません。
<行列の計算法則>
任意の行列 $${A, B, C}$$ について
1. 交換法則
1-1 たし算について $${A+B=B+A}$$
1-2 かけ算について $${AB\ne BA}$$(これだけ成り立たない)
2. 結合法則
2-1 たし算について $${A+(B+C)=(A+B)+C}$$
2-2 かけ算について $${A(BC)=(AB)C}$$
3. 分配法則
たし算とかけ算について
3-1 右から分配 $${A(B+C)=AB+BC}$$
3-2 左から分配 $${(B+C)A=BA+CA}$$
交換法則の成り立たない具定例
交換法則の成り立たない具体例をあげます。
例 $${A=\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 1 & 1\\ 0 & 2\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$, $${B=\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 1 & 2\\ 3 & 0\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$ のとき
$$
\begin{align*}
AB&=\begin{pmatrix*}[c]
1 & 1\\
0 & 2
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[c]
1 & 2\\
3 & 0
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
1\cdot1+1\cdot3 & 1\cdot2+1\cdot0\\
0\cdot1+2\cdot3 & 0\cdot2+2\cdot0
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
1+3 & 2+0\\
0+6 & 0+0
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
4 & 2\\
6 & 0
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
$$
\begin{align*}
BA&=\begin{pmatrix*}[c]
1 & 2\\
3 & 0
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[c]
1 & 1\\
0 & 2
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
1\cdot1+2\cdot0 & 1\cdot1+2\cdot2\\
3\cdot1+0\cdot0 & 3\cdot1+0\cdot2
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
1+0 & 1+4\\
3+0 & 3+0
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
1 & 5\\
3 & 3
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
より
$$
\begin{align*}
AB\ne BA
\end{align*}
$$
よって、行列のかけ算においては、一般に交換法則は成り立ちません。
また、積が違う型になる場合も交換法則が成り立たない場合です。
例 $${A=\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{rr} 1 & 2\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$, $${B=\left(\hspace{-4pt}\begin{array}{r} -2\\ 3\end{array} \hspace{-4pt}\right)}$$ のとき
$$
\begin{align*}
AB&=\begin{pmatrix*}[r]
1 & 2
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[r]
-2\\
3
\end{pmatrix*}\\
&=1\cdot(-2)+2\cdot3\\
&=-2+6\\
&=4
\end{align*}
$$
$$
\begin{align*}
BA&=\begin{pmatrix*}[r]
-2\\
3
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[r]
1 & 2\\
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
-2\cdot1 & -2\cdot2\\
3\cdot1 & 3\cdot2
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
-2 & -4\\
3 & 6
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
より
$$
\begin{align*}
AB\ne BA
\end{align*}
$$
交換法則は成り立たないこと
2次正方行列について、乗法についての交換法則が成り立たないことを解説します。
<解説> 2つの行列を次のようにおきます。
$${A=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}, B=\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix}}$$
ただし、$${(1, 1)}$$ 成分のみを計算していきます。他の要素も同様なので、$${(1, 1)}$$ 成分に関係のないところは $${*}$$ としておきます。交換法則が成り立たない仕組みをつかむのが目的です。
まず $${AB}$$ は
$$
\begin{align*}
AB&=\begin{pmatrix*}[r]
a & b\\
* & *
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[r]
x & *\\
z & *
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
ax+bz & *\\
* & *
\end{pmatrix*}\\
\end{align*}
$$
一方、$${BA}$$ は
$$
\begin{align*}
BA&=\begin{pmatrix*}[r]
x & y\\
* & *
\end{pmatrix*}
\begin{pmatrix*}[r]
a & *\\
c & *
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
xa+yc & *\\
* & *
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c]
ax+cy & *\\
* & *
\end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
$${(1, 1)}$$ 成分を比較しましょう。$${AB}$$ は $${ax+bz}$$、$${BA}$$ は $${ax+cy}$$ より、明らかに
$$
\begin{align*}
ax+bz\ne ax+cy
\end{align*}
$$
となるので($${bz}$$ と $${cy}$$ は異なる)、$${AB}$$ と $${BA}$$ は一般に異なることがわかります。他の成分についても同様です。
行列の積の順序を変えると、内積の対象となる行ベクトルと列ベクトルの組み合わせが異なるというのが、交換法則が成り立たない理由となります。
行列のかけ算は、行列の中の情報を積の総和で組み合わせて、新しい行列を作る操作です。一般に乗法の順序を変えると結果が変わることは、情報や変換の流れによって結果が変わること関連しています。
結合法則が成り立つこと
2次正方行列について、たし算についての結合法則は簡単なので、かけ算についての結合法則 $${A(BC)=(AB)C}$$ が成り立つことを解説します。
<解説> 3つの行列を次のようにおきます。
$${A=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}, B=\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix}, C=\begin{pmatrix} p & q \\ r & s \end{pmatrix} }$$
左辺 $${(AB)C}$$ を計算し、これが右辺 $${A(BC)}$$ と等しくなることを示しましょう。
ただし、$${(1, 1)}$$ 成分のみを計算していきます。他の要素も同様なので、$${(1, 1)}$$ 成分に関係のないところは $${*}$$ としておきます。厳密な証明ではありませんが、結合法則が成り立つ仕組みをつかむのが目的です。
左辺 $${(AB)C}$$ を計算していきます。
$$
\begin{align*}
\\[-13pt]
(AB)C &=\left\{\begin{pmatrix} a & b \\ * & * \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \overset{○}{x} & \overset{●}{y} \\[0.5pt] \overset{○}{z} & \overset{●}{w} \end{pmatrix}\right\}\begin{pmatrix} p & * \\ r & * \end{pmatrix}\\[10pt]
&= \begin{pmatrix} a\overset{○}{x}+b\overset{○}{z} & a\overset{●}{y}+b\overset{●}{w} \\ * & * \end{pmatrix}\begin{pmatrix} p & * \\ r & * \end{pmatrix}\\[10pt]
&=\begin{pmatrix} (ax+bz)p+(ay+bw)r & * \\ * & * \end{pmatrix}\\[10pt]
&=\begin{pmatrix} axp+bzp+ayr+bwr & * \\ * & * \end{pmatrix}\\[10pt]
&=\begin{pmatrix} axp+ayr+bzp+bwr & * \\ * & * \end{pmatrix} \cdots(*5)\\[10pt]
&=\begin{pmatrix} a(xp+yr)+b(zp+wr) & * \\ * & * \end{pmatrix}\\[10pt]
&= \begin{pmatrix} a & b \\ * & * \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \overset{□}{x}p+\overset{□}{y}r & * \\[0.5pt] \overset{■}{z}p+\overset{■}{w}r & * \end{pmatrix}\\[10pt]
&= \begin{pmatrix} a & b \\ * & * \end{pmatrix}\left\{\begin{pmatrix} \overset{□}{x} & \overset{□}{y} \\[0.5pt] \overset{■}{z} & \overset{■}{w} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} p & * \\ r & * \end{pmatrix}\right\}\\[10pt]
&=A(BC)
\end{align*}
$$
$${(*5)}$$ で項を入れ換えて、共通因数の組み合わせを変えるのがポイントです。
ちょうど、行列 $${B}$$ の列ベクトル(○ と ●)を行列 $${A}$$ に右から作用させるか、行列 $${B}$$ の行ベクトル(□ と ■)を行列 $${C}$$ に左から作用させるかで、等しくなるように調整していることがわかります。真ん中の行列 $${B}$$ が調整役となることによって、結合法則が成り立つ仕組みになっています。計算していない $${*}$$ の部分も同様です。
結合法則は、「どこから計算するかの組み合わせを変えても結果は変わらない」という法則なので、4つ以上の行列のかけ算においても、例えば
$$
\begin{align*}
\{(AB)C\}D=A\{B(CD)\}=\{A(BC)\}D=(AB)(CD)
\end{align*}
$$
と、すべて同じ結果になることが保証されます。ただし、交換法則は成り立たないので、順序をかえてはいけません。例えば、次の式は $${C}$$ と $${D}$$ の順序が入れ替わっているので等しくありません。
$$
\begin{align*}
\{(AB)C\}D\ne A\{B(DC)\}
\end{align*}
$$
分配法則が成り立つこと
2次正方行列について、分配法則 $${A(B+C)=AB+AC}$$ が成り立つことを解説します。$${(B+C)A=BA+CA}$$ も同様なので割愛します。
<解説> 3つの行列を次のようにおきます。
$${A=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}, B=\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix}, C=\begin{pmatrix} p & q \\ r & s \end{pmatrix}}$$
左辺 $${(AB)C}$$ を計算し、これが右辺 $${AB+AC}$$ と等しくなることを示しましょう。
これも $${(1, 1)}$$ 成分のみを計算していきます。他の要素も同様なので、 $${(1, 1)}$$ 成分に関係のないところは $${*}$$ としておきます。厳密な証明ではありませんが、分配法則が成り立つ仕組みをつかむのが目的です。
左辺 $${A(B + C)}$$ を計算していきます。
$$
\begin{align*}
A(B + C)&=\begin{pmatrix} a & b \\ * & * \end{pmatrix}\left\{\begin{pmatrix} x & * \\ z & * \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} p & * \\ r & * \end{pmatrix}\right\}\\
&=\begin{pmatrix} a & b \\ * & * \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x+p & * \\ z+r & * \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix} a(x+p)+b(z+r) & * \\ * & * \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix} ax+ap+bz+br & * \\ * & * \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix} ax+bz+ap+br & * \\ * & * \end{pmatrix} \cdots(*6)\\
&=\begin{pmatrix} ax+bz & * \\ * & * \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} ap+br & * \\ * & * \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix} a & b \\ * & * \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x & * \\ z & * \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} a & b \\ * & * \end{pmatrix}\begin{pmatrix} p & * \\ r & * \end{pmatrix}\\
&=AB+AC
\end{align*}
$$
$${(*6)}$$ で項の順序を並べ変えて、内積の組み合わせを変えることによって、分配法則が成り立つことを可能にしています。
結局のところ、行列による結合法則と分配法則は、その成分の計算が「実数の計算法則に従うこと」でそれが成立しますが、交換法則は、「内積を取るための行ベクトルと列ベクトルの組み合わせが異なってしまう」ので、一般には成り立たないことになります。
対角成分
正方行列における、左上から右下までの対角線上にある成分を対角成分とよびます。つまり、行列 $${\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}}$$ の対角成分は $${a, d}$$ です。行列 $${\begin{pmatrix} a & b & c \\ d & e & f \\ g & h & i \end{pmatrix}}$$ の対角成分は $${a, e, i}$$ です。
単位行列
2次の正方行列 $${\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}}$$ を2次の単位行列といいます。同様に、3次の正方行列 $${\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}}$$ を3次の単位行列といいます。正方行列において、対角成分がすべて $${1}$$ で、それ以外の成分はすべて $${0}$$ である行列が単位行列です。
同様にして、4次、5次、$${\cdots}$$ と、より次数の大きな単位行列を定義できます。
単位行列は、しばしば $${E}$$ という記号を用いて表されます($${I}$$ と表す教科書もあります)。
任意の正方行列 $${\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}}$$ に対して
$$
\begin{align*}
AE&=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
a\cdot1+b\cdot0 & a\cdot0+b\cdot1\\
c\cdot1+d\cdot0 & c\cdot0+d\cdot1
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}\\
&=A
\end{align*}
$$
$$
\begin{align*}
EA&=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
1\cdot a+0\cdot c & 1\cdot b+0\cdot d\\
0\cdot a+1\cdot c & 0\cdot b+1\cdot d
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}\\
&=A
\end{align*}
$$
より、単位行列について次の法則が成り立ちます。
<単位行列の積の性質>
$${A}$$ を任意の2次の正方行列とする。$${E=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}}$$ について
$$
\begin{align*}
AE=EA=A
\end{align*}
$$
***
これは、
「単位行列は、左右どちらから掛けも変わらない」
という性質です。この性質は、3次以上の単位行列についても成り立ちます。この性質において、単位行列は数字の $${1}$$ と似ています。$${1}$$ は左右どちらから掛けても変わりません。
例
$$
\begin{align*}
2\cdot1=2\\
1\cdot2=2
\end{align*}
$$
この対比として、零行列との積についての性質も記しておきます。成り立つことは明らかなので証明は省きます。
<零行列の積の性質1>
$${A}$$ を任意の2次の正方行列とする。$${O=\begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}}$$ について
$$
\begin{align*}
AO=OA=O
\end{align*}
$$
***
これは、
「零行列は、左右どちらから掛けても零行列になる」
という性質です。この性質において、零行列は数字の $${0}$$ と似ています。$${0}$$ は左右どちらから掛けても $${0}$$ になります。
例
$$
\begin{align*}
2\cdot0=0\\
0\cdot2=0
\end{align*}
$$
なお、上記の性質1は、一般に $${n}$$ 次正方行列としても成り立ちます。
<零行列の積の性質1(一般)>
$${A}$$ を任意の $${n}$$ 次の正方行列とする。 $${n}$$ 次の零行列 $${O}$$ について
$$
\begin{align*}
AO=OA=O
\end{align*}
$$
***
<零行列の積の性質2>
ここで零行列について1つ注意を与えます。
数の乗法については、任意の実数 $${a, b}$$ について、次のことが成り立ちます。
$$
\begin{align*}
\\[-14pt]
&\hspace{31pt}\xrightarrow[]{ \bigcirc }\\[-12pt]
&ab=0\hspace{34pt}a=0 または b=0\\[-12pt]
&\hspace{31pt}\xleftarrow[ \bigcirc ]{}\\[-6pt]
\end{align*}
$$
これは、条件「$${ab=0}$$」と「$${a=0 または b=0}$$」が同値であること、つまり
「$${ab=0}$$」を仮定すれば「$${a=0 または b=0}$$」が成り立つ
逆に
「$${a=0 または b=0}$$」を仮定すれば「$${ab=0}$$」が成り立つ
ことを表しています。元の命題と、その命題の仮定と結論を入れ換えた命題(逆命題という)は、どちらも正しい(真である)ということです。
しかし、行列においては一般には同値にはならず、任意の行列 $${A, B}$$ について、次のようになります。なお、$${O}$$ は数字の $${0}$$ ではなく零行列です。
$$
\begin{align*}
\\[-12pt]
\\[-14pt]
&\hspace{38pt}\xrightarrow[]{ ✖ }\\[-12pt]
&AB=O\hspace{32pt}A=O または B=O\\[-12pt]
&\hspace{38pt}\xleftarrow[ \bigcirc ]{}\\[-6pt]
\end{align*}
$$
零行列は掛ければ必ず零行列なので、下の命題
「$${A=O または B=O}$$」を仮定すれば「$${AB=O}$$」
は成り立ちますが、上の命題
「$${AB=O}$$」を仮定すれば「$${A=O または B=O}$$」
は成り立ちません(偽である)。具体的に成り立たない例(反例という)を上げましょう。反例とは
「仮定は満たすけども結論を満たさない具体例」
です。反例が1つでもあれば、その命題は正しくないことになります。
結論からいうと、反例は、$${A=\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 4 & 2 \end{pmatrix}}$$, $${B=\begin{pmatrix*}[r] 1 & -2 \\ -2 & 4 \end{pmatrix*}}$$ となります。このとき、次のように仮定「$${AB=O}$$」を満たします。
$$
\begin{align*}
AB&=\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 4 & 2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & -2 \\ -2 & 4 \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
2\cdot1+1\cdot(-2) & 2\cdot(-2)+1\cdot4\\
4\cdot1+2\cdot(-2) & 4\cdot(-2)+2\cdot4
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
2-2 & -4+4\\
4-4 & -8+8
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}
\end{align*}
$$
しかし、結論「$${A=O または B=O}$$」は満たしていません。$${A, B}$$ のどちらか一方、または両方が零行列 $${O}$$ であれば結論を満たしますが、$${A, B}$$ はどちらも零行列ではないので結論は満たしません。以上により、命題
$$
\begin{align*}
AB=O \longrightarrow A=O または B=O
\end{align*}
$$
は、反例があるので偽となります。
例題6
命題
$$
\begin{align*}
AB=O \longrightarrow A=O または B=O
\end{align*}
$$
の反例を、上の例とは別に1つあげなさい。
解答
$${A=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}}$$, $${B=\begin{pmatrix*}[r] 0 & 0 \\ 1 & 0 \end{pmatrix*}}$$ とすると
$$
\begin{align*}
AB&=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
1\cdot0+0\cdot1 & 1\cdot0+0\cdot0\\
0\cdot0+0\cdot1 & 0\cdot0+0\cdot0
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r]
0+0 & 0+0\\
0+0 & 0+0
\end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}
\end{align*}
$$
つまり、$${AB=O}$$ であるが $${A, B}$$ はどちらも零行列ではないので、これらが反例となります。よって
$$
A=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}, B=\begin{pmatrix*}[r] 0 & 0 \\ 1 & 0 \end{pmatrix*} \cdots{\small (答)}
$$
$${\blacksquare}$$
いくつかの表記法
行列について、いくつかの表記法を述べていきます。
行列の積の略記法
行列の積について、結合法則 $${(AB)C=A(BC)}$$ は成り立ちます。どこを先に計算するかの組み合わせを変えても結果は変わらないので、これを簡単に $${ABC}$$ と表します。組み合わせのカッコをつける必要はありません(とくに必要な場合はカッコをつけます)。
この表記法は、
$${ABCD \cdots}$$
$${ABCDE \cdots}$$
と、4つ以上の行列の積についても同様です。
ただし、かけ算の順序は重要で、一般に $${AB}$$ と $${BA}$$ は異なる結果になるため(交換法則は成り立たない)、
$${ABC=ACB}$$
のように順序を変えてはいけません。
正方行列の累乗
正方行列の累乗 $${AA}$$、$${AAA}$$ などを、簡単に $${A^2}$$、$${A^3}$$ と表します。一般に $${A}$$ の $${n}$$ 乗は $${A^n}$$ と表します。
例 $${A=\begin{pmatrix*}[r] 2 & 7 \\ -1 & 3 \end{pmatrix*}}$$ のとき
$$
\begin{align*}
A^2&=AA\\
&=\begin{pmatrix*}[r] 2 & 7 \\ -1 & -3 \end{pmatrix*}\begin{pmatrix*}[r] 2 & 7 \\ -1 & -3 \end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c] 2\cdot2+7\cdot(-1) & 2\cdot7+7\cdot(-3) \\ (-1)\cdot2+(-3)\cdot(-1) & (-1)\cdot7+(-3)\cdot(-3) \end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c] 4-7 & 14-21 \\ -2+3 & -7+9 \end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r] -3 & -7 \\ 1 & 2 \end{pmatrix*}\\[12pt]
A^3&=A^2A\\
&=\begin{pmatrix*}[r] -3 & -7 \\ 1 & 2 \end{pmatrix*}\begin{pmatrix*}[r] 2 & 7 \\ -1 & -3 \end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c] (-3)\cdot2+(-7)\cdot(-1) & (-3)\cdot7+(-7)\cdot(-3) \\ 1\cdot2+2\cdot(-1) & 1\cdot7+2\cdot(-3) \end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c] -6+7 & -21+21 \\ 2-2 & 7-6 \end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r] 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix*}\\[12pt]
A^4&=A^3A\\
&=\begin{pmatrix*}[r] 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix*}\begin{pmatrix*}[r] 2 & 7 \\ -1 & -3 \end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c] 1\cdot2+0\cdot(-1) & 1\cdot7+0\cdot(-3) \\ 0\cdot2+1\cdot(-1) & 0\cdot7+1\cdot(-3) \end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[c] 2+0 & 7+0 \\ 0-1 & 0-3 \end{pmatrix*}\\
&=\begin{pmatrix*}[r] 2 & 7 \\ -1 & -3 \end{pmatrix*}
\end{align*}
$$
m 行 n 列の行列
行列を一般的に扱う場合、自然数 $${m, n}$$ を使って次のように表記されます。
$$
A=
\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{m1} & a_{m2} & \dots & a_{mn}
\end{pmatrix}
$$
特に、$${n}$$ 次正方行列は、$${m=n}$$ として次のようになります。
$$
A=
\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \dots & a_{nn}
\end{pmatrix}
$$
ケイリー・ハミルトンの定理
以前、高校で習っていた行列の定理として、次の定理が有名です(今は高校で行列を習わないようです)。
<ケイリー・ハミルトンの定理>
行列 $${A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}}$$ について、次の等式が等式が成り立つ。
$$
\begin{align*}
A^2-(a+d)A+(ad-bc)E=0
\end{align*}
$$
***
これをケイリー・ハミルトンの定理といいます。$${A}$$ の係数は $${a+d}$$、$${E}$$ の係数は $${ad-bc}$$ となります。
この定理を証明します。
証明
まず、行列の2乗を計算します。
$$
\begin{align*}
A^2&=A \times A\\
&=\begin{pmatrix}
a & b \\ c & d \end{pmatrix}\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}\\
&= \begin{pmatrix}
a^2 + bc & ab + bd \\ ca + dc & cb+d^2
\end{pmatrix}\\
&= \begin{pmatrix}
a^2 + bc & ab + bd \\ ac + cd & cb + d^2
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$
より
$$
\begin{align*}
&A^2-(a+d)A+(ad-bc)E\\
=\,&\begin{pmatrix} a^2 + bc & ab + bd \\ ac + cd & cb + d^2 \end{pmatrix}-(a+d)\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}+(ad-bc)\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\\
=\,&\begin{pmatrix} a^2+bc & ab+bd \\ ac+cd & bc+d^2 \end{pmatrix}-\begin{pmatrix} (a+d)a & (a+d)b \\ (a+d)c & (a+d)d \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} ad-bc & 0 \\ 0 & ad-bc \end{pmatrix}\\
=\,&\begin{pmatrix} a^2+bc & ab+bd \\ ac+cd & bc+d^2 \end{pmatrix}-\begin{pmatrix} a^2+ad & ab+bd \\ ac+cd & ad+d^2 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} ad-bc & 0 \\ 0 & ad-bc \end{pmatrix}\\
=\,&\begin{pmatrix} \cancel{a^2}+\bcancel{bc}-\cancel{a^2}-\sout{ad}+\sout{ad}-\bcancel{bc} & \cancel{ab}+\bcancel{bd}-\cancel{ab}-\bcancel{bd}+0 \\ \cancel{ac}+\bcancel{cd}-\cancel{ac}-\bcancel{cd}+0 & \cancel{bc}+\bcancel{d^2}-\sout{ad}-\bcancel{d^2}+\sout{ad}-\cancel{bc} \end{pmatrix}\\
=\,&\begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}
\end{align*}
$$
より証明された。
$${\blacksquare}$$
これは、ケイリー・ハミルトンの定理の一部であり、特に $${2\times2}$$ 行列に関する簡単なケースです。大学で習うケイリー・ハミルトンの定理は、より一般的で複雑な内容を含みます。
この定理は、行列の次数を下げるのに便利です。つまり
$$
\begin{align*}
A^2=(a+b)A-(ad-bc)E
\end{align*}
$$
と考えることによって、$${A^2}$$ を次数の1つ小さい $${A}$$ の式に書き換えることができます。その考えを使った例題を1つ与えましょう。
例題7
行列 $${A=\begin{pmatrix} -2 & 1 \\ -3 & 1 \end{pmatrix}}$$ について,
次を求めなさい。
(1) $${A^2}$$
(2) $${A^3}$$
指針
普通に2乗、3乗を計算してもよいですが、ケイリー・ハミルトンの定理を使うと、行列の積を用いずに求めることができます。
(1) は、ケイリー・ハミルトンの定理を用いて $${A^2}$$ の次数を下げます。
(2) は、(1) の結果を利用します。
解答
行列 $${A=\begin{pmatrix} -2 & 1 \\ -3 & 1 \end{pmatrix}}$$ において、
$${a+d=-2+1=-1}$$
$${ad-bc=-2\cdot1-1\cdot(-3)=-2+3=1}$$
なので、ケイリー・ハミルトンの定理より
$$
\begin{align*}
A^2-(-1)A+1\cdot E=0\\
A^2+A+E=0
\end{align*}
$$
$${A}$$ と $${E}$$ を移項して
$$
\begin{align*}
A^2&=-A-E \cdots(*7)\\
&=-\begin{pmatrix} -2 & 1 \\ -3 & 1 \end{pmatrix}-\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix} 2 & -1 \\ 3 & -1 \end{pmatrix}-\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix} 2-1 & -1-0 \\ 3-0 & -1-1 \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix} 1 & -1 \\ 3 & -2 \end{pmatrix}
\end{align*}
$$
(2) (1) の $${(*7)}$$ 式
$$
\begin{align*}
A^2&=-A-E
\end{align*}
$$
より、両辺に左から $${A}$$ を掛けて
$$
\begin{align*}
AA^2&=A(-A-E)\\
A^3&=-AA-AE
\end{align*}
$$
より
$$
\begin{align*}
A^3&=-A^2-A\\
\end{align*}
$$
(1) の結果を利用して
$$
\begin{align*}
A^3&=-A^2-A\\
&=-\begin{pmatrix} 1 & -1 \\ 3 & -2 \end{pmatrix}-\begin{pmatrix} -2 & 1 \\ -3 & 1 \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix} -1 & 1 \\ -3 & 2 \end{pmatrix}-\begin{pmatrix} -2 & 1 \\ -3 & 1 \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix} -1-(-2) & 1-1 \\ -3-(-3) & 2-1 \end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}
\end{align*}
$$
$${\blacksquare}$$
上記のように計算することによって、$${A^3, A^4, \cdots}$$ と、より高次のものでも、行列の積を計算しないで求めることができます。
行列の歴史
行列の理論を体系的に発展させたのは、19世紀のイギリスの数学者であり弁護士でもあるアーサー・ケイリーです。彼は特に、ケイリー・ハミルトンの定理の証明などを通じて、行列の理論を確立しました。

1858年、彼は上記のケイリー・ハミルトンの定理(のより一般化されたもの)を3次以下の行列に対して証明し、その後、アイルランドの数学者であるウィリアム・ローワン・ハミルトンによって4次の場合が証明されました(一般の $${n}$$ 次の場合は、1878年にドイツの数学者であるフロベニウスによって証明された)(Wikipedia「ケイリー・ハミルトンの定理」より)。

一般的な形での「ケイリー・ハミルトンの定理」は、大学の線形代数という分野で勉強するので、そちらの教科書をご覧ください。より高度な内容が多く含まれていますが、行列の性質を理解する上で非常に奥深い内容を含んでいます。
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