「自分でやった方が早い」が、会社の成長を止める
「自分でやった方が早いんですよ」
人を雇っている社長と話していると、よく聞く言葉です。
確かに、その通りかもしれませんね。
長年その仕事をしてきた社長と、入社して数年の社員。
同じ仕事をすれば、社長の方が早い。
しかも、品質も高い。
デザイン会社なら、自分で作った方が早い。
Web制作会社なら、自分で直した方が早い。
造園会社なら、自分で現場を見た方が話が早い。
コンサルティング会社なら、自分で提案書を書いた方が早い。
社員に一から説明するくらいなら、自分でやってしまった方が早い。
これは、短期的には正しい判断です。
問題は、それを毎日繰り返した時に何が起こるのかです。
社長なら30分、社員なら2時間
例えば、ある仕事があります。
社長なら30分でできる。
社員に任せれば、最初は2時間かかる。
途中で質問も来る。
出来上がったものをチェックして、修正も必要かもしれません。
そう考えると、
「もういい。私がやる」
と言いたくなります。
その方が、その日の仕事は早く終わります。
お客様にも迷惑をかけません。
品質も守れます。
だから、また次の仕事も社長がやります。
そして、その次も自分でやります。
半年後。
社員はどうなっているでしょうか。
おそらく、その仕事を一人ではできないままです。
社長も半年後、同じ仕事をやっています。
今日の30分を守るために、未来の時間を失っている
ここで考えてほしいことがあります。
社員に教えるのに1時間かかった。
確かに、その日は1時間余計に必要です。
でも、その社員が次から一人で仕事をできるようになれば、
その後の仕事は社長がやらなくて済みます。
一方、
「自分でやった方が早い」と毎回30分で処理していたら、
その仕事はずっと社長の仕事のままです。
10回なら5時間。
100回なら50時間。
それでもまだ、
「自分でやった方が早い」
と言えるでしょうか。
目の前だけを見ると、自分でやる方が早い。
でも、1年という時間で見ると、まったく違う結果になります。
今日の時間を節約するために、未来の時間を失っている。
そんなことが起きているのです。
腕のいい社長ほど、この問題にはまりやすい
これは、能力の低い社長の問題ではありません。
むしろ逆です。
腕のいい社長ほど、この状態になりやすい。
なぜなら、何でもできるからです。
お客様との商談もできる。
提案もできる。
制作もできる。
トラブルにも対応できる。
判断も早い。
だから社員が困っていると、すぐ助けることができる。
「ちょっと貸して」
と自分でやれば、あっという間に問題が解決します。
社員から見れば、とても頼れる社長です。
ところが、それを繰り返すと、社員はどうなるでしょう。
困ったら社長に聞く。
分からなければ社長に聞く。
難しい仕事は社長に渡す。
最後の判断も社長に任せる。
気がつけば、
社員を助けているつもりの社長が、社員が自分で考えなくてもいい会社をつくっている。
そんなことさえ起こります。
「教える時間」は仕事ではないと思っていませんか?
職人として仕事をしてきた社長にとって、
デザインをする。
提案書を作る。
お客様と商談する。
現場に出る。
こうした時間は、仕事をしている実感があります。
成果物も残ります。
売上にも直結します。
何よりも、感謝の言葉をいただけます。
ところが、
社員に説明する。
一緒に考える。
失敗を振り返る。
判断の仕方を教える。
こうした時間は、目に見える成果が出にくい。
だから、どうしても後回しになります。
忙しくなると、
「教育は時間ができてから」
となります。
でも、その「時間ができる日」はなかなか来ません。
なぜなら、社員が育たない限り、社長が仕事を抱え続けるからです。
これは少し皮肉な話です。
忙しいから教えられない。
教えないから社員が育たない。
社員が育たないから、さらに社長が忙しくなる。
この循環に入ってしまいます。
職人と管理職では、成果の出し方が違う
ここで、社長自身の役割を考えてみましょう。
「職人」として仕事をしている時は、
自分で成果を出すこと
が重要です。
自分がいい仕事をする。
自分がお客様を満足させる。
自分の技術を高める。
これでいい。
ところが、人を雇うと役割が変わります。
管理者として必要なのは、
人を通じて成果を出すこと
です。
自分が10件の仕事をこなすのではない。
5人の社員が、それぞれ仕事をできる状態をつくる。
自分が正しい答えを出し続けるのではない。
社員が自分で判断できるようにする。
この違いは、とても大きい。
職人は、
「自分ならどうするか」
を考えます。
管理者は、
「この人ができるようになるには、どうすればいいか」
を考えます。
同じ仕事を見ても、時間の使い方がまったく違うのです。
社長がやってはいけない、という話ではありません
ここは誤解してほしくありません。
社長が現場の仕事をしてはいけない、と言っているわけではありません。
デザインが好きなら、デザインをしてもいい。
庭づくりが好きなら、現場に出てもいい。
お客様と話すのが好きなら、商談をしてもいい。
問題は、
「やりたいからやっている」のか、「自分しかできないからやっている」のか。
この違いです。
自分で選んで現場に立っているなら問題ありません。
しかし、
「社員には任せられない」
「結局、自分がやるしかない」
という状態なら、会社の成長には限界があります。
社長が一人でできる仕事量には限界があるからです。
社員を育てる時間は、未来への投資
社員に仕事を任せれば、最初は時間がかかります。
失敗もします。
やり直しもあります。
社長なら一度でできることを、何度も説明しなければならないかもしれません。
それでも、その時間を取る。
なぜなら、
「人ができるようになる時間」は、社長の未来の時間をつくるからです。
会社を大きくするというのは、単に売上を増やすことではありません。
社長がやっていた仕事を、一つずつ組織の仕事へ変えていくことでもあります。
そのためには、
「自分がやる時間」
だけで一週間を埋めてはいけません。
「人ができるようにする時間」
を、意識して確保する必要があります。
最後に、一つ考えてみてください。
あなたは今週、
自分が仕事をするために、何時間使いましたか?
そして、
誰かが仕事をできるようになるために、何時間使いましたか?
もし前者ばかりなら、
あなたはまだ、職人として会社を支えているのかもしれません。
次回は、
仕事を任せたのに、なぜ最後は全部社長に戻ってくるのか。
「作業を任せること」と「仕事を任せること」の違いについて考えます。

シリーズ一覧
第1回
社員を雇ったのに、なぜ社長はもっと忙しくなるのか
https://note.com/takashima_time/n/n7a659b652070
第2回
「自分でやった方が早い」が、会社の成長を止める
https://note.com/takashima_time/n/nfc30deaeeaed
第3回
仕事を任せたのに、なぜ最後は全部社長に戻ってくるのか
https://note.com/takashima_time/n/n1eadd84f00ea
第4回
社長の頭の中にしかない「完成基準」
https://note.com/takashima_time/n/n43124ac251e1
第5回
一番仕事ができる社員が、明日辞めたらどうなりますか?
https://note.com/takashima_time/n/n8740f54bcc96
第6回
社長の技術・センス・経験を「個人技」で終わらせない
https://note.com/takashima_time/n/nd17bfefcb7e8
第7回
職人社長から経営者へ――あなたは何に時間を使っていますか?
https://note.com/takashima_time/n/n1e5f53436bbf
