「答えを渡す人事は、二流だった」|なぜ、人事にコーチングが必要なのか
「答えは、相手の中にある」――この一文に出会ったとき、私は自身の「人事としてのあり方」を、恥ずかしく感じました。
部下やクライアント企業のマネジメント層に対して、つい「答え」や「正解」を渡してしまっていませんか。
現場の経験や知識で敵わない相手に、人事としてどう向き合えばいいのか悩んだことはありませんか。
今日の話が、そんな方のヒントになれば嬉しいです。
このnoteでは、 私が「答えを渡す人事」であることに違和感を持った背景と、そこにコーチングがどう刺さったのか、そして、コーチング自体をどう捉えているか、について書いています。
これから経営戦略人事を目指す方、現場マネージャーとの向き合い方に悩んでいる方に読んでいただきたい内容です。
1. 背景:「答えを渡す人事」への違和感と、現場との壁
人事の仕事は、ルールを作って守らせる、部門にお願いをして動いてもらう、というものが多いです。あるいは、人事に限らず、部下を抱えるマネージャーや管理系の仕事をしている人は同じような境遇にあるかもしれません。経理、財務、マーケティング、経営企画など。
そうすると、「人事に言われたから、仕方なしにやる」という光景が結構あります。経営者や人事が旗を振って会社を変革しようとしても、「笛吹けど踊らず」という状態に終わることはよくあります。私自身、そうした場面に何度も直面してきました。
もう一つ、ずっと感じていた壁があります。ビジネスの現場にいるマネージャー達は、製品やサービス、カスタマーのことなど、日々のオペレーションの知識や経験を豊富に持っています。ビジネスに近い戦略人事(HRBP)と言えど、実務で営業しているわけではありませんので、経験値という意味では、かないません。
そうすると、その経験や知識の差で人事がついていけず、部門のリーダー達との間に見えない格差が生まれてしまいます。「答え」を渡すこともできず、かといって対等に議論する土台もない。この宙ぶらりんな状態に、もどかしさを感じていました。
2. コーチングとは何か、なぜこの課題に刺さったのか
そんなときに出会ったのが、『新 コーチングが人を活かす』(鈴木義幸著)という1冊の本でした。2000年に刊行されて以来、改訂をしながら、コーチングの「入門書」として読み継がれてきた本です。著者の鈴木さんは、日本にコーチングを本格導入したことで知られる、株式会社コーチ・エィの代表です。
コーチングとは何でしょうか。皆さんはスポーツのコーチを思い浮かべるかもしれません。勝利を目指して、チームメンバーの特性を把握しながら、強みを伸ばし、弱みを克服すべく指導する。試合ではうまく差配する。そんなイメージがあるかもしれません。
しかし、コーチングの定義は、それとは少し異なります。コーチングとは、相手に効果的な質問をして、相手に話させることで、気づきを与えたり、自走を促すアプローチです。そして、その前提の根っこにあるメッセージは、「答えは、いつも相手の中にある」という考え方です。
この考え方が、私の課題意識にそのまま刺さりました。人事として「こうすべきです」と正解を渡してしまいたくなる場面は、実はたくさんあります。部下育成においてもきっと同じだと思います。
でも、それでは相手の中に、本当の意味での納得や、次につながる行動は生まれません。人事が言ったから・・・という、やらされ仕事になってしまうのです。
一方で、知識や経験で現場マネージャーに敵わなくても、効果的な質問を要所要所で投げかけられれば、対等な対話の土台をつくれます。傾聴やオープンクエスチョン(Yes/Noで終わらない質問。たとえば、なぜ、どういう時に、といった質問)といった基本を知っておくだけで、相手に話をさせやすくなります。人は自分で話をしていると、記憶に残りやすく、自分で話した内容だからこそ責任感も生まれてきやすいのです。
さらに、外資系やグローバル企業では、ビジネスリーダーの多くがコーチングの基本を身につけています。そうした環境で仕事をする人事にとって、コーチングはマネジメント層との共通言語でもあります。ここが無知だったり技術が使えなかったりすると、人事として少し見劣りしてしまう。そういう意味でも、学んでおく価値があると感じました。
3. 学んだあとの私:1年半のコーチ養成講座、そして今
本を読んで、こうした気づきを得ただけで終わらせたくありませんでした。私はこの本を読んだあと、本格的に学んでみたいと思い、コーチ・エィアカデミアに入学しました。そして、1年半のプロコーチ養成課程で、コーチングのエッセンスを、実践しながら学び、身につけることとなったのです。
学ぶ中で、特に印象に残った考え方が二つあります。一つは、コーチングの成果を測る基準です。実際に相手が行動を起こしたかどうかが、唯一の基準だという考え方です。話していて「いい気づきがあった」で終わらせず、行動につながって初めて意味がある。そういう厳しさです。これは人事施策そのものにも当てはまります。研修をやりました、面談をしましたという「実施した」実績だけでは、組織は変わりません。以前に書いた「リスキリングが掛け声で終わる」というテーマとも重なります。
もう一つは、チームの中で出てくる異論や反論を、発展に向けた貴重な情報として扱うという考え方です。信頼関係は、異論や反論を安心して言い合える関係の中でこそ育まれます。中小企業の顧問先でも、経営者と社員の間で本音の異論反論が出にくい組織ほど、課題の発見が遅れる傾向を感じてきました。
学んだあと、経営層との関わり方も変わりました。時に、問いを相手との間に置いて、一緒に探索していく。この姿勢は、経営層の「壁打ち相手(相談相手になって、考えを整理する手伝いをすること)」として日々やっていることと、自然に重なるようになりました。答えを渡す人ではなく、答えにたどり着く手伝いをする人。この違いを、実感として持てるようになったのが一番の変化です。
コーチングは、傾聴や相手に話をさせていく技術ですから、仕事だけでなく、プライベートにも活かせるスキルです。人事の仕事に関わらない方にも、おすすめできるスキルだと思っています。
4. コーチングは万能薬ではない
ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。ここまで書いておきながら、私はコーチングを万能薬として礼賛しているわけではない、ということです。学んだことで、限界を感じたです。
コーチングだけで、現場の組織変革が回るわけではありません。コーチングは、相手の中に何か目的意識があって、達成のために筋道をはっきりさせたいといった場合に特に効果を発揮します。
逆に、相手の中に本当にアイデアが無い場合とか、相手がどうしても知識や正解を教えてほしい時(ティーチングが必要な場合)、心や体がとても疲れていて、考える力がない時などは、効果が薄いのです。
ですので、時には、やり方を教える「ティーチング」も必要です。寄り添ってアドバイスを与える「メンタリング」も必要です。心のケアをする「カウンセリング」も必要になることもあります。
ですから、コーチングは、少なくとも知っておいたほうがいい、必要な手段の中におけるピースの一つだと私は考えています。一番良いのは、これらを状況に応じて、うまく使い分けられることだと思います。
5. まとめ:戦略人事にコーチングが欠かせない理由
経営戦略人事(HRBP)の仕事は、制度設計や数字の分析だけでは完結しません。最終的には、経営層や現場のマネージャー一人ひとりが、自分の頭で考えて動けるように支援することが求められます。その意味で、コーチングは戦略人事にとって欠かせない土台の一つだと、あらためて感じています。
今回のポイントを整理すると、
「答えを渡す人事」であることへの違和感と、現場マネージャーとの経験・知識の壁が出発点
『新 コーチングが人を活かす』の「答えは、いつも相手の中にある」という考え方が、その課題に刺さった
本を読んだあと、コーチ・エィアカデミアに入学し、1年半のプロコーチ養成課程で実践しながら学んだ
成果は「行動が変わったかどうか」で測る。気づきだけで終わらせない厳しさが必要
異論反論を歓迎できるチームほど、信頼関係が育ち、本当の課題にたどり着ける
コーチングは仕事だけでなく、プライベートにも活かせるスキル。人事以外の方にもおすすめできる
ただし、コーチングは万能薬ではなく、ティーチング・メンタリング・カウンセリングとの使い分けが大切
このシリーズでは、経営戦略人事になっていくために私が読んだ本や、そこから得た学びを、これからも紹介していく予定です。次回もお楽しみに。
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