SoFi USDはなぜ「トークン化市場」を制するのか ― 80%シェアを想定する構造的理由
前回は、SoFiが2030年にB2B決済市場でどれほどの収益を生み出し得るかを見た。今回はその延長線上にある、より信用要件が厳しく、金融インフラの中枢に近い「トークン化市場」を深掘りする。
※トークン化市場は2030年におけるステーブルコイン発行残高1.2兆ドルのうち、20%を占めるとイメージしている。
<もっとも保守的なステーブルコイン市場>
以下のような金融資産をブロックチェーン上でトークンとして表現し、保有・移転・清算を行うのがトークン化市場である。
・米国国債
・MMF(マネーマーケットファンド)
・社債
・ローン
これらはいずれも、本来は伝統的金融市場の中核を成す低リスク資産であり、暗号資産のような価格変動や投機性とは無縁の世界である。そのため、この市場はもっとも信用水準が高く、かつもっとも保守的である。
<市場規模>
トークン化市場は全体の20%(約2,400億ドル)を占めると想定する。
この2,400億ドルという数字は決して過大ではない。理由は明確である。
・国債・MMFはそれぞれ「兆ドル単位」の既存市場を持つ
・トークン化は既に存在しているインフラの置き換えで済む
トークン化は、新しい金融商品を生み出す試みではない。すでに存在している国債やMMF、社債といった金融資産を、より効率的に扱うために「裏側の仕組み」を置き換える行為に近い。
つまりトークン化とは、誰かに新しい行動を強いるイノベーションではない。金融機関や企業がこれまで通りの取引を行いながら、「その裏側だけ」を静かにアップデートする技術である。
そのため、利用者の理解や行動変容をほとんど必要とせず、規制や会計の枠組みにも適合しやすい。結果として、トークン化市場は金融イノベーションの中でももっとも現実的で、もっとも導入障壁が低い領域と言える。
<「1ドル割れ」が絶対に許容されない市場>
トークン化市場は、許容されるリスク水準が極端に低い。求められるのは「利回り」や「柔軟性」ではない。いかなる金融危機時にも揺らがない制度上の確実性という点だ。
国債やMMF、社債を担保とする市場では、「1ドル割れに陥るリスクがある」という時点で、そのステーブルコインは使用不能となる。
すなわち、USDT/USDCのような非銀行発行のステーブルコインが主役になることはない。B2B決済市場ですら、このリスクは致命的である。ましてや、国債やMMFを扱うトークン化市場においては、完全に「アウト」である。
<SoFi USDのシェア:80%>
以上を踏まえると、トークン化市場におけるステーブルコインの要件は極めて限定的になる。
✅発行主体が銀行であること
✅準備資産がFRB口座で管理可能なこと
✅破綻時の扱いが銀行法で明確であること
これを満たす「汎用ステーブルコイン」は、現時点で事実上SoFi USDのみである。SoFiが発行するSoFi USDは、銀行の枠組みの中で設計された、制度に適合するステーブルコインであり、USDT/USDCとは設計思想が根本的に異なる。
このため、トークン化市場(20%)において、SoFi USDが約80%のシェアを獲得すると想定する。これは、SoFi USDが「強い」からではなく、他に選択肢が存在しないという構造的帰結である。
なお、念のため補足をしておくと、この市場において、J.P.モルガンやシティグループが発行するトークンも競合にはならない。これらは自社グループ内や特定顧客に限定して利用されるクローズド型の決済・清算手段であり、パブリックな市場で広く流通する汎用ステーブルコインではないためである。
<ローカル銀行型ステーブルコインの存在>
この市場でSoFi USDの競合になり得るのは、以下のようなローカル通貨・銀行型ステーブルコインである。
・EUR建て銀行型ステーブルコイン
・JPY建て銀行型ステーブルコイン
しかし、これらは競合というより、すみ分けが可能な補完的存在となる。国境を越えるトークン化金融の基軸は、依然としてドルであり、ドル建てトークン化市場の中核を担うのはSoFi USDとなる可能性が高い。
<収益の柱は「手数料収益」>
トークン化市場におけるSoFiの収益源は、運用収益ではなく手数料収益である。
暗号資産市場と同様、SoFi USDの運用収益の大半は、流動性を供給するLPや取引所側に配分されると考える。ここでは、その95%が外部に支払われる前提に立ち、運用収益は見込まない。
<手数料率:0.01%>
・国債・MMFという超低リスク資産を扱う
・取引単価が極めて大きい
・既存市場でも数bp(0.01%単位)の手数料が成立している
これを踏まえると、トークン化市場における手数料率は0.01〜0.03%程度を想定するのが現実的であり、最下限の0.01%は保守的な前提と言える。
よって、最終損益は以下の計算となる。
1.2兆ドル×20%×30倍×80%×50%×0.01%×税率(1-25%)=約2億ドル
【最終損益(手数料)の前提条件】
・2030年ステーブルコイン発行残高:1.2兆ドル
・トークン化市場のシェア:20%(2,400億ドル)
・Velocity(決済回転率)30倍
・B2B年間取引量:7.2兆ドル(2,400億ドル×30倍)
・SoFiのシェア80%
・利益率50% ※前回同様
・手数料率0.01%
・税率25%
<まとめ>
トークン化市場とは、以下特徴を持つ。
💡もっとも信用要件が厳しい
💡1ドル割れが一切許容されない
この条件下では、
✅非銀行型ステーブルコインは不適格
✅銀行型ステーブルコインが事実上の標準
✅現時点でその条件を満たすのはSoFi USDのみ
結果として、SoFi USDが約80%のシェアを獲得するというシナリオは、制度と構造が導く自然な帰結である。
次回は「SoFi USD「リスクシナリオ」― 信託銀行勢がFRB口座を手に入れる」をお届けする。
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