■借上社宅で社会保険上の現物給与になるのはどんなケースですか?
― 税務と社会保険では住宅の評価基準が異なります ―
※本記事は借上社宅Q&Aシリーズの一部です。
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【ご留意事項】
本記事は、借上社宅制度に関する一般的な情報提供および制度理解を目的として作成しています。記載内容は、一般的な制度上の考え方や実務上の整理を説明するものであり、特定の状況に対する税務・法務・労務上の判断、助言または保証を行うものではありません。
実際の運用にあたっては、会社ごとの制度設計・契約内容・運用実態等によって取扱いが異なる場合があります。個別案件については、必ず税理士、社会保険労務士、弁護士、または管轄の行政機関等へご確認・ご相談ください。
また、制度改正や行政解釈等により、将来的に取扱いが変更される可能性があります。最新情報については、国税庁・厚生労働省等の公表情報をご確認ください。
内容の正確性には十分配慮しておりますが、本記事に基づいて生じたいかなる損害等についても責任を負いかねます。
Q1. どのような場合に社会保険上の現物給与になりますか?
借上社宅では、会社が住宅を提供している場合、
その住宅について社会保険上の現物給与として評価することがあります。
ただし、
「借上社宅を利用している=必ず現物給与額が発生する」
というわけではありません。
重要なのは、
住宅の現物給与価額と、従業員が実際に負担している社宅使用料等との関係
です。
基本的には、
住宅の現物給与価額
↓
従業員負担額を反映
↓
現物給与額を整理
という流れで考えます。
したがって、
「会社が実際の家賃の何%を負担しているか」だけでは判断できません。
① 判断の基本は「住宅の現物給与価額」と「従業員負担額」
社会保険では、会社が住宅を提供している場合、
実際の家賃そのものではなく、制度上の基準によって住宅を評価します。
この住宅自体の評価額が、
「住宅の現物給与価額」
です。
そして従業員が社宅使用料などを負担している場合には、その負担額を
反映して、実際に社会保険上の報酬として扱う現物給与額を確認します。
簡単に整理すると、
住宅の現物給与価額 − 従業員負担額 = 現物給与額
という関係です。
例えば、
住宅の現物給与価額 40,000円
従業員負担額 25,000円
であれば、
40,000円 − 25,000円 = 15,000円
となります。
このように、
住宅の現物給与価額と現物給与額は別の金額です。
また、会社が貸主へ支払う実際の家賃とも異なります。

② ケース1|従業員負担額が住宅の現物給与価額より低い
最も基本的なケースです。
例えば、
住宅の現物給与価額 40,000円
従業員負担額 20,000円
の場合、
差額20,000円が生じます。
つまり、
社宅使用料を徴収しているからといって、
必ず現物給与額がゼロになるわけではありません。
重要なのは、
いくら徴収しているかではなく、
住宅の現物給与価額と比較してどうかという点です。
一方、
住宅の現物給与価額 40,000円
従業員負担額 40,000円
であれば、差額は生じません。
[参考]実務上は、家賃本体だけでなく、共益費・駐車場代などの会社負担
も含めて整理が必要になるケースがあり、現物給与との関係を
含めた実務整理を解説しています。
▶【第15回|共益費・駐車場代の扱いはどう整理する?】
🛠 制度設計を学びたい方
③ ケース2|会社が家賃を全額負担している
従業員から社宅使用料を徴収していない場合には、
本人負担として差し引く金額がありません。
そのため、住宅の現物給与価額について、社会保険上の報酬への反映を
確認する必要があります。
ここで注意したいのは、
実際の家賃全額=現物給与額ではないことです。
例えば、会社が貸主へ15万円の家賃を支払っていても、
15万円そのものを社会保険上の報酬へ加えるわけではありません。
あくまで、
社会保険上の基準によって算定した住宅の現物給与価額
を基礎として考えます。
[参考]家賃を会社が全額負担する場合の考え方は、
こちらの記事でも整理しています。
▶ 【Q&A|家賃を会社が全額負担するとどうなりますか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
④ ケース3|同じ社宅使用料でも現物給与額が異なる
例えば、従業員A・Bがともに、
社宅使用料30,000円
を負担しているとします。
しかし、
Aさん
住宅の現物給与価額 40,000円
従業員負担額 30,000円
→ 現物給与額10,000円
Bさん
住宅の現物給与価額 60,000円
従業員負担額 30,000円
→ 現物給与額30,000円
というように、
同じ社宅使用料でも結果が異なることがあります。
これは、住宅の現物給与価額が、
住宅の面積や適用する都道府県ごとの価額などによって変わるためです。
したがって、
「全員から家賃の30%を徴収している」
という運用だけでは、
社会保険上の現物給与額が同じになるとは限りません。
⑤ ケース4|税務上は給与課税されなくても現物給与額が生じる
借上社宅で特に混乱しやすいのが、このケースです。
税務と社会保険では、住宅を確認する基準が異なります。

税務では一般的に、
賃貸料相当額
を基準として給与課税の取扱いを確認します。
一方、社会保険では、
住宅の現物給与価額
を基準として現物給与額を整理します。
そのため、
税務上、給与課税されていない
からといって、
社会保険上の現物給与額もゼロ
とは限りません。
逆に、社会保険上の現物給与額が生じないからといって、
税務上の取扱いまで同じ結果になるとは限りません。
つまり、
所得税と社会保険は別々の基準で確認する必要があります。
[参考]所得税と社会保険の評価方法の違いについては、
こちらの記事で詳しく整理しています。
▶【Q&A|現物給与評価は所得税と社会保険で違うのですか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
⑥ 現物給与額が発生すると社会保険料は必ず上がる?
いいえ。
現物給与額が発生すると、その金額は社会保険上の報酬へ反映されます。
しかし、
現物給与額が発生したことと、社会保険料が実際に上がることは別です。
健康保険・厚生年金保険では、報酬額を一定の幅に区分した標準報酬月額を基礎として保険料を計算します。
そのため、
給与等の金銭による報酬 + 現物給与額
によって報酬額が増えても、
同じ標準報酬月額の等級内に収まれば、
結果として保険料が変わらない場合があります。
一方、
標準報酬月額の等級が変われば、社会保険料へ影響する可能性があります。
したがって、
「現物給与額が発生するか」
と
「社会保険料が変わるか」
は分けて考えることが重要です。
[参考]借上社宅と社会保険料の基本的な仕組みについては、
教科書記事で詳しく整理しています。
▶【第11回|借上社宅は社会保険料に影響するのか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
⑦ 実務で確認したいポイント
借上社宅の現物給与額を確認する際には、
次の項目を一連の流れで確認することが重要です。
▼ 住宅の現物給与価額
住宅の面積や適用する都道府県ごとの価額をもとに、
社会保険上の住宅評価額を確認します。
なお、2026年10月1日以降は、住宅の評価方法が見直されます。
[参考]改正内容についてはこちらの記事で詳しく整理しています。
▶【2026年10月改正】借上社宅の現物給与(社会保険)が変わる
📅 制度改正
▼ 従業員負担額
社宅規程上の金額だけではなく、
実際に従業員からいくら徴収しているのかを確認します。
給与控除額や本人請求額など、実際の負担額との整合性も重要です。
[参考]従業員負担家賃の考え方はこちらの記事で整理しています。
▶【第2回|借上社宅の従業員負担家賃はどう決める?】
🛠 制度設計を学びたい方
▼ 現物給与額
住宅の現物給与価額と従業員負担額との関係を確認し、
社会保険上の報酬として反映する金額を整理します。
そのうえで、給与計算や社会保険の届出との整合性を確認します。
■ まとめ
「社宅使用料」
「賃貸料相当額」
「住宅の現物給与価額」
「現物給与額」
は、それぞれ役割が異なります。
特に、
住宅の現物給与価額=住宅そのものを社会保険上の基準で評価した金額
現物給与額=従業員負担額を反映した後、社会保険上の報酬として扱う金額
という違いを整理しておくことが重要です。
借上社宅では、
「税務上どうなるか」だけではなく、
「社会保険上どのように評価されるか」も別に確認することが、
制度を正しく理解するうえで重要です。
[参考]税務では非課税なのに社会保険で負担増になる理由に
ついて整理しています。
▶【第12回|税務はOKなのに社会保険でNG?を解説】
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■ 本シリーズについて
借上社宅制度は、税務・社会保険・規程設計など、
複数の論点が関係する制度です。
そのため、同じように見えるケースでも、
前提条件や制度設計によって整理の方向性が変わることがあります。
本記事は一般的な考え方を整理したものですが、
実務上の取り扱いは、会社ごとの制度設計や運用状況によって
異なる場合があります。
現在は情報発信を中心としていますが、
今後は制度運用に関する実務上のコミュニケーションの場も
広げていければと考えています。
なお、記事テーマに関するご質問やご感想があれば、
コメント等でお寄せいただけますと、
今後の発信の参考にさせていただきます。
著者
Yoshihiko Tagawa|借上社宅制度の研究家
借上社宅制度について、制度運用や社宅管理の観点から
情報整理・発信を行っています。
毎月3000戸超の社宅運営に携わる中で、
借上社宅制度の運用面・管理面に関する情報整理を行ってきました。
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