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「大丈夫」1警戒

あらすじ

私は昔、パパ活で生活をしていた。今はゲイの青年、海くんがビジネスパートナーであり、彼と同居している。一緒に生活しているうちに、海くんが、パパ活のパパ誠一郎の、息子であることが分かった。そこで私は、誠一郎や海くんの母親の協力も得ながら、海くんのカミングアウトを促した。結果、海くんと彼氏との恋を、みんなで祝福することができた。そして私は、若いころに別れた誠一郎のことを、今でも愛していることに気づいた。占い師として大勢の恋と向き合いながら、ゲイの恋人たちを支え、自分の恋にも向き合う私。ラストは、私と誠一郎が独特のやり方で、愛を確かめ合うシーンである。


朝一で美容室に行き、インスタで見かけた「OLに今最も人気のファッション」に身を包み、ネットで購入したヴィトンそっくりなバッグを持っている私。
今日は様子見だから、誰とも面と向かって話さないはず、と自分に言い聞かせつつ、もしヴィトンが本物かどうか疑われたら、「これは頂き物だから出所不明なんです」って言おうなんて考えたりもしている。

デパートのトイレで自分の姿を最終確認してから、化粧品売り場に行く。クリスマス前の混雑した店内でも、お目当ての彼は、すぐに見つかった。
海くん。昨日TikTokのおすすめで出てきて、初めて知った人。
偶然なのかアルゴリズムの効果なのか、彼は近所のデパートの化粧品売り場に勤務している。

海くんは、自身のメイクアップ動画をライブ配信しているティックトッカーだ。
「僕はここをボトックスしているけど、ここにもっと陰影をつけたいから」
彫刻のように美しい顔に、多彩な色を添えていくメイク。
「目は二重がくっきり出るように整形したんだよね、あ、ビフォアー写真見ます?」
学ラン姿の写真が表示される。
「これね、高校生の時。もとは二重になる日とならない日があるような目で、高校のバイト代はほぼ全部整形につぎこんだんだ。
そう、意外と僕ね、遊び人じゃないの、あんまりお金使わないのよ、お酒も太るから飲みたくないし」
手際よくメイクをしていきながら、よどみなく話し続ける。

「海くん、かっこいい! フォローしちゃいました!」
どんな対応をする子なのか、試しにコメントしてみると、
「エンジェルちゃんナイスフォロー! ありがとー!」
ソフトな話し方ながら明るくて、活舌よし。合格。
あとは直接会って、話してみるしかない。
私は彼のライブ配信終了後、すぐにDMした。

《さっきのメイク動画すごくおもしろかったです。
メイクってあんなこともできるんだなぁって感激しちゃいました。
いつか海くんのいるお店に行ってみたいです!》
《わあありがとう!
僕は〇〇デパートの化粧品売り場で働いているからいつでもきて!
明日もずっといるからよかったら来て!
TikTokでは美肌フィルターだけちょっと使ってるから、思ってるより皮膚汚いかもしれないけどw》
「!」連発の元気な返事が、すぐに来た。
《ありがとう。行けたら行くね!》

その勢いで今朝の美容院を予約し、今14時。
高級化粧品売り場の芳香にうっとりしながら足を踏み入れた瞬間、海くんとすれ違った。
彼は小さなバッグを持って、自分の持ち場を離れていく。
顔が見えたのは一瞬だったけれど、昨日見たばかりだし、見間違えるわけがない。
TikTokなんて別人級に顔を加工できるにも関わらず、彼はほぼそのまま配信してくれていたのだろう。
私は長身の彼の背中を追いかけて「あのっ」と声をかけた。
「海くんですか?」
「はいっ」
「私、昨日TikTokで」
「あ、もしかして昨日の? エンジェルちゃん?」
彼は満面の笑みを見せてくれて、「お待ちしてました!」と警官みたいなポーズをとった。

「とはいえ僕、これから休憩なんだよね、もし何か欲しい品があれば」
「ううん、今日は化粧品が欲しかったわけじゃなくて、海くんに会ってみたいなって気持ちで、ちょっと寄っただけだから」
「マジで? 嬉しい! ねえエンジェルちゃん、ランチもう食べた?」
「あ、まだ……」
「ならちょっとランチ付き合ってくんない?」
「うん! ぜひぜひ!」
願ってもいない幸運に恵まれた。運の良さだけは昔から自信がある。
クラス替えではいつも好きな子と同じクラスになれたり、大事な用事がある日は晴れが多かったり、今までの人生で意地悪な人に出会ったことがなかったりと、私は本当に恵まれているのだ。

それにしても一瞬でここまで急展開してくれて、しかも高い化粧品を買わずに彼と話せるなんて、すごすぎる。
「オムライス屋さんでいい? ラーメンとかとんかつとかは汗かいちゃうし、ハンバーガーは口の周りのメイクが落ちるから、勤務中は避けてるんだよね」
うんうん、とうなずきながら、「いつもオムライス屋さんなの?」と確認してみると、「ううん、だいたいはコンビニのおにぎりだよ」
「今日も?」
「うん、でも、せっかく来てもらったのに、休憩室でおにぎり食べてるなんて、つまんないじゃん。僕も、エンジェルちゃんも」
何か他に目的があるかもしれないが、とりあえず感じがいい。
どうせどんな人だって信用できないことに変わりないのだから、この子でいいや、と私は決心した。

「海くん、ライブ配信すごいよね。私、みさ。占い師やってて、実は私もTikTokライブやりたいなって思っているんだけど」
「占いって一番いいやつじゃない?」
「そうなの?」
「うん、占いとかスピリチュアルとかが一番稼げるんだよ、すごい、占い師さんなんだ」
うん、と私はスマホで占い師としての実績を見せた。
チャット占いサイト年間トップ。売上一位。

「すげーっ」
「それで今はTikTokライブやるべきだって占い師事務所からも言われているんだけど、私、占い中はめちゃくちゃ集中しているから、ライブ配信用に愛想よく話すのは自信ないのね」
実際はただ単に顔出しをしたくないだけだ。
私の器量は十人並みだと思うけど、顔を出したら不細工だなんだ言われそうだし、占いというあいまいなものに対しての批判などなど、被害にあいそうな気がする。
その点、彼ならどうせ顔に対しての世間の反応には慣れているだろうし、占いの内容に関しては彼に何の責任もないのだから、批判が届いてもさして気にならないはず。
そもそも私は身バレが嫌で、占いサイトでは性別も男で登録しているのだ。

「なんとかライブ配信を考えてくれって事務所に言われちゃって、困っていた昨日、海くんに出会えて、こういうイケメンが私の代わりに話してくれたらいいなあって思っちゃったりしたんだよね」
「鑑定は裏でみさちゃんがするけど、カメラの前では僕が占い師のエンジェルちゃんになりきって、それを伝えるってこと?」
「そうそう!」
「いいね! 僕バカだから、自分で話すこと考えるのは無理だけど、それ超楽しそう! 占い系はとにかく稼げるからずっと興味あったんだよねー」
海くんはとびきりの笑顔を見せてくれた。女をひっかけるための武器として、キラキラの白い歯も見せて、笑ってくれたのかもしれない。
こういう男は、自分の美しさがどれだけ威力を発揮するか、全部理解した上で笑っているのだろう。
「カプシーヌだもんね! やっぱりお金持ってるなー」
彼が私のルイヴィトンバッグに目を留めたことで、彼に対してのイメージは完全に固まった。金持ち女に媚び慣れている男。
となると、彼はルイヴィトンの本物か偽物かを見極める目を持っているかもと心配になり、私は話を変えた。

「売上とかまだどうなるかわからないけど、報酬出たら折半でいい?」
「半分くれるの? ラッキー! なら死ぬ気で頑張る!」
打算的な様子はつゆほども見せずに、彼はすべてに同意してくれる。
「じゃあさ、みさちゃん。うちは配信の機材とかいいやつ揃ってるから、今日うち来る? 18時半に終わるからそのころにまたお店来ない? 駐車場のほうに職員用出口があるからそのあたりにいてもらえたらいいなーなんて」
自分が望んだこととはいえ、あまりにも話がトントン拍子に進み、うなずきながらも内心困惑した。

年下の男だし、人当たりいいし、つい油断しちゃうけど、こんなのって怪しすぎる。でもこっちから近づいて、こっちから提案した話だし。
「私なんかが職員用出口にいていいの?」
「いいに決まってるじゃん。出口の外なら犬や猫もよく来てるよ! でも外で待ってると寒いだろうから、18時50分に出口に来てくれたりする? それまではお店の中にいて」
「了解。海くん一人暮らし?」
「うん!」
彼女いるでしょって聞くのはおばさんっぽいよね、モテそうだよねっていうのも不自然な流れだし、まあ、そこは把握しておかなくてもいいところではあるけど、ただの野次馬的興味はある。いくら自宅に招かれたって、あわよくばなんて考えてないない。

「僕ね、ゲイなんだ」
とてもさわやかに、彼は言った。
「そうなんだ、残念!」と私は笑い飛ばしてみたけど、こっそり唾を強く飲み込んだ。
(あなたのこと、家には呼ぶけど、恋愛対象外だから)
という意味に聞こえたからだ。
私はもう30歳だし、スタイルもよくないし、メイクなんかプロから見たらすっぴんよりもひどいくらいだろうし、女性としての魅力なんて今日付け焼き刃でどうにか標準に持っていきたかっただけで、こんなイケメンからしたら、お母さんの友達よりも劣るかもしれない。
いくら整形しているにしても、このイケメンぶりならお母さんも美人に決まっているし。

でも彼は案外とても優しくて、私が彼に惚れる前に、自分はゲイだなんて嘘をついてくれたのだろう。
恋愛関係は無理、というメッセージを「僕はゲイ」なんて言ってくれて、私を落とさず自分を偽ってくれた。
巧妙なやり方に、フラれたショックよりも感心する気持ちが大きくなったりしたが、私のひねくれた解釈は的外れだったらしい。

私の傷心も感心も、18時50分に消えた。
海くんと一緒に出てきた、モデルみたいな美容部員が、
「海くんお疲れ~! あ、今日は彼氏さんじゃないんだ」
と言いながら、私に会釈したのだ。
「うん、新しい友達! じゃあね!」
友達っていうのは私のことか、と理解するのに少し時間かかった。
彼には彼氏がいる。どうやら職場でも公認のゲイらしい。
つまり。私が恋愛対象外だからゲイだと嘘をつかれたわけではない、ということを知り、私は嬉しくなった。


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