小説「葬送の旅」(1/10話)…創作大賞2024応募作品です
【あらすじ】
亡くなった人といつでも会えるようになった世界。
人の死は遠いものではなくなり、誰もが希望を持てるものに。
しかし生きる事に無頓着になる者を生み出してしまう。
「何かが欠けているのか」
亡き祖父から受け継いだ、業界トップの葬儀社を経営する
紡黄(つむぎ)はタイムリープを決断!
欠けている何かを探す修行の旅へ!
行き先は、おじいちゃんが成し遂げた完全IT化になる前の
〈過去の時代〉。
小さな葬儀屋さんで、一か月だけのアルバイトが始まる。
おじいちゃんとの思い出や、喪失を前に必死で生きようと
する人々との交流を通し、大切な事を学んでゆく。
○ 本 編 ◯
【第1話】
一I・M・Yから戻ってこられない依存患者の数が増大一
一バーチャル不死について国会討論一
一セレモニー・花ミズキ社の罪とは一
不穏な見出しが今朝もニューストレンドを賑わせている。
紡黄(つむぎ)は淹れたばかりのコーヒーを飲みながら、
はぁ…と深い溜息をつく。
そろそろ真剣に考え直さなければいけない、言い知れぬ不安が紡黄の心に押し寄せる。
このところ、毎朝これだ。
花ミズキ社の経営の事ばかり考えるせいで、どんどん偏頭痛が酷くなっている。
朝の一杯だけという自ら課したルーティンも、いつしか破られ、昨日は一日に五杯という記録を打ち立ててしまった。
紡黄は、エンディング業界トップシェアを誇る花ミズキ社、その三代目社長であり、世間から今まさに、バーチャル不死の是非を問われている中心人物なのだ。
I・M・Yとは、I miss youの略。
残された人の、会いたいという気持ちを叶える、仮想空間の事。
人工知能、AIの技術が物凄いスピードで進化し、ゲームの娯楽はもちろん、ビジネス、教育、医療と様々な分野で実用化されていき、遂に葬儀業界の完全IT化が実現したのが、祖父が社長をしていた25年程前のこと。
2XXX年。
紡黄のいるこの世界では、死者といつでも会える事が当たり前になっていた。
「このままI・M・Y依存者が増えて、新しい法律でもできたら、うちがやってけなくなるのも時間の問題じゃん」
独り言を呟いたつもりだったが、斜め前に座る、社員の柳木の耳に届いたようで、
「あと十年くらいは大丈夫でしょ」
と、軽い答えが返ってくる。
この男はいつもそうだ。
相変わらずポジティブなのか、浅はかなのか、よく分からない。
普段は相手にしない紡黄だったが、ノートパソコンから目を離さずに、コーヒー片手に軽口をたたく柳木に、今朝は何故か苛立ちが収まらず、つい言い返してしまう。
「あのさ、呑気なこと言わないでくれる?そうでなくても例年に比べて依頼件数が減ってるんだから」
漸くこちらに顔を上げた柳木は、まるで小さい子のように口を尖らせる。
「まぁそうですけど。でもうちでお別れ会されたお客さんは、皆さん喜んで下さってますよ?顧客満足度…えーっと、ほら、星4.8!」
ノートパソコンの画面をこちらに向け、尖った口を引っ込めて、したり顔を見せる。
確かに、とは思う。
けれど紡黄の中で、本質的な何か、大切な事が欠けているような気がしてならないのだ。
セレモニー・花ミズキ社は、紡黄の祖父が立ち上げた会社だった。
おじいちゃんが実現させた完全IT化の当初、賛否両論はあったものの、次第に世の中にも受け入れられ、葬儀の形式は一新された。
それまで当たり前だった、故人の為に参列した人を遺族が迎え、故人を偲び、見送るという葬儀の形態はなくなり、
お別れ会と称して、亡くなった本人自ら(=AI故人)が参列者を迎えて、会話や挨拶までしてくれるということで、新しい葬送の形態であるお別れ会は、たちまち評判になり、多くの支持を集めた。
そらから業績は猛烈なスピードで伸び、並行してAI技術は進歩をし続け、
それに伴い、花ミズキ社も更なる事業拡大。
その後、莫大な資金を投入して、VR=仮想空間を創り、
お別れ会の後は、いつでも好きな時に故人に会うことができるという、I・M・Yという名のプラットフォームを業界初導入し、葬儀社として成功させた功績はあまりにも大きかった。
亡くなった大切な人と会い、会話をし、その身に触れて肌感や温もりを感じることもできるI・M・Yは、国内外を問わず多くの人に喜ばれ、故人を見送るという概念も様変わりし、
バーチャル不死は世の中に受け入れられていった…はずだったのだ。
身近な人の死という喪失体験、悲しみや苦しみから人々は解放され、
生と死は手を伸ばせば届く距離になったというのに、現実はどうだろうか。
亡くなった者が存在するバーチャルの世界、死者と共に生きられる世界が実現した結果、
皮肉にも、目の前の''生きる''ということに、無頓着になってしまうI・M・Y依存者を、
数多く生み出す結果となってしまった。
私は、先程のニューストレンドの記事を読みながら、もう一度、深く溜息をつく。
このままでは、花ミズキ社の経営だけの問題ではなく、社会問題を招いた諸悪の根源として吊るし上げられてしまうかもしれない。
やはり私は、何か大切なことを見失ってしまっているのだろうか。
何とかおじいちゃんが創り上げた、この花ミズキ社を守らねば。
そして見失っているものは一体何なのか、それを見つけなければ。
ふつふつと湧き上がる使命感を胸に、紡黄は改めて『葬送』について学び直す為、AIが導入されていない〈過去の時代〉へタイムリープして、修行することを決意した。
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第2話へと続く
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