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ニボシの恩 その壱

 ヒデサトがうちに来た頃、父は末期ガンで自宅療養中でした。
昨年5月に病気がわかり、入退院を繰り返していました。
この頃、父はすでに余命いくばくもないと医師に宣告されていたのです。
そんな時にヒデサトがやってきました。

 父はヒデサトを飼うことに大反対でした。それには理由があって昔いた猫が増えすぎて近所からクレームが来て大変だったからです。そんなことがあって反対されるのは分かっていましたが、保護した仔猫を手放すことはできません。

近所から苦情が来ない様に、家族にも迷惑かけない様に「私の部屋から出さない、世話は私がする」という条件でヒデサトの居場所を確保しました。

 仔猫だったヒデサトは私の狭い部屋でも十分な広さがありました。でも日々大きくなるヒデサトは、私の部屋以外の場所にも興味を示す様になりました。

ヒデサトのテリトリーは徐々に広がっていき、リビングや父のいる部屋にまで侵入する様になりました。治らない病気への苛立ちもあってか、父はヒデサトを見つけると怒鳴るばかり。さすがに手は上げないものの、私が仕事に行っている間に捨てられないか心配で家に帰ると一番にヒデサトの姿を確認していました。

 心配な日々が続いていたのですが、ある時から最初は父を怖がっていた
ヒデサトが父の側に行く様になりました。父が怒る回数もめっきり減っています。不思議だなと思っていたのですが原因は分からないままでした。

ある日、家に帰ってきたら台所の床に「ニボシ」の頭が落ちていたのです。ヒデサトはニボシが大好きだったのですが、頭だけは食べません。落ちていたニボシは間違いなくヒデサトの食べ残しです。母に尋ねてもニボシはあげていませんでした。

その会話を聞いた父が
「こいつはニボシの頭は食べないな!」と言うのです。
それを知っているのはヒデサトの世話をしている私だけ。父が知っているはずはないのです。あれだけ私の部屋から出すなと言っていた父が、ヒデサトにニボシをあげるとは思えなくて不思議に思っていました。

 数日後、ヒデサトは部屋を出て父に向って歩いていました。驚いた私は父に見つかる前にヒデサトを回収しようと焦りました。でも、ヒデサトは怖がらずに父に近づいていきます。

このままだと怒られる!どうしよう!
父は握り拳を振り上げています。殴られる!と思った次の瞬間、父は握り拳のままヒデサトを追い払うしぐさをしています。振り上げた拳にはニボシが握られていました。ヒデサトは父がニボシ持っていたのを知っていたのです。

父は飼うのを反対した手前、ニボシをあげていることを言えなかったみたいでした。私に隠れてニボシを上げていた父は照れてた顔で
「台所にあるニボシを使わないなら、猫にやればいい。沢山あるぞ」と言いました。
それ以降、ヒデサトは家の中を自由に行き来できる様になりました。


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