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その「週4日就労制」はホンモノか〜世界の潮流に逆行してカリフォルニアとインドの行政が進めようとしている「週4日就労制」の欺瞞:今日のノート#913(2026-5-19)


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#今日のコトバ

"生きることは、この世で最も稀なことだ。ほとんどの人は、ただ存在しているに過ぎない。"
(オスカー・ワイルド)

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#その「週4日就労制」はホンモノか〜世界の潮流に逆行してカリフォルニアとインドの行政が進めようとしている「週4日就労制」の欺瞞

働き方改革という言葉は、もうずいぶん前から使い古されている感がある。ただ、その内実は国や地域によってまったく違う方向に進みつつあって、最近になって、ようやくその輪郭が見えてきたように思う。

今回、久しぶりに週4日就労制について書こうと思ったのは、いち企業が試験的に導入するという話ではなくて、州や国の行政が「週4日」という言葉を、本来とは逆の意味で使い始めている事例が、ここのところ立て続けに報じられているから。

ひとつはアメリカのカリフォルニア州、そしてもうひとつはインドにそれがあった。

カリフォルニア州が州職員に週4日「出社」を義務付ける

The Sacramento Beeの報道を引用したAllwork.Spaceの記事によれば、カリフォルニア州のGavin Newsom知事は、2026年7月1日から、州の各機関のほとんどの職員に対して週に最低4日、対面で勤務するよう指示する方針を打ち出している。

Newsom知事は今週、州の各長官に宛てた書簡で、「実行可能な最大限の範囲で」RTO(リターン・トゥ・オフィス)政策を進めるよう求め、すべての使えるワークステーションを週4日、埋めるよう指示した。

ここで注意したいのは、これは「週4日労働制」ではなく、「週4日出社制」だということ。むしろ働き方改革の流れに逆行する話で、コロナ禍以降に定着しつつあったリモートワーク、ハイブリッドワークから、対面勤務に揺り戻そうという動きになる。

州政府の言い分は、98%の部局が職員を対面で受け入れるだけの十分なスペースを持っており、オフィスが不足している一部の部局ではハイブリッドが継続される、というもの。

州当局は、対面勤務の方がコラボレーション、メンタリング、コミュニケーション、説明責任の面で優れていると主張している。また、職員が週に1日を超えてリモートで働けるようなローテーションスケジュールは避けるべきだ、とも釘を刺している。

なお、RTOについてはいくつか過去記事がある。

労組の反発と繰り返し延期されてきた経緯

ただし、これがすんなり通っているわけではない。そりゃそうだろう。

州職員を代表する公務員労組のSEIU Local 1000は今週、不当労働行為の申立てを行った。

労組側の言い分は、州側が交渉を放棄して、適切な団体交渉を経ずに一方的にこの政策を押し付けようとしている、というもの。労組は、勤務場所、スケジュール、テレワークのルールについての議論を州側が制限していると批判している。

実は、この政策が最初に発表された昨年にも、複数の労組が同様の法的異議申し立てを行っている。当初は2025年7月の実施予定だったが、州の予算削減と職員の有給休暇譲歩に絡む交渉によって、一度、延期された経緯がある。

労組側はさらに、各機関がそもそも大規模な対面勤務に耐えられる運用体制になっているのか、についても疑問視している。デスクの確保、ワークステーションの共有、建物のコンディションなど、現場の実情を見れば、簡単には進まないという指摘がある。

知事室によれば、すでに州職員の大半は週に最低4日、対面で勤務しており、州職員全体の半数未満しかリモートワークの対象になっていない、とのこと。それでもなお、この政策を貫こうとするところに、行政側の強い意思を感じる。

「出社」の押し付けはローカルの活力を削ぐ

ここまで読んで、ぼくが思うのは、カリフォルニア州のこの動きは、表面的には「週4日」と言っているが、要するに「オフィスに来い」と言っているだけだ、ということ。

リモートワークが当たり前になりつつある中で、特に若い世代、子育て世代、介護世代にとっては、通勤に往復2時間も3時間もかけて、巨大なオフィスビルに集合することの不合理さは、もう体感としてわかっているはず。それを「コラボレーションのため」「メンタリングのため」と言うのは、要するに「上司の目の届くところで仕事をしろ」と言っているのに等しい。

そもそも、リモートワークやハイブリッドワークの是非は、もう十分に議論し尽くされた話。生産性が下がるのか、上がるのか。社員のエンゲージメントはどうか。長期的な人材育成にどう影響するか。各社、各組織が、何年もかけて自分たちの最適解を探してきた。にもかかわらず、州の行政が「全員、対面で来い」と一律に号令をかけることに、どれほどの妥当性があるのか。

せっかく、自分の住む地元で働けるようになり、地域の経済圏の中で時間を使うようになってきたところに、また都市の中心に通勤させる、ということになると、地方の小さな営みは確実に細っていく。

地方のコワーキングスペースがある町は、そこで働く人がランチを食べ、コーヒーを飲み、夕方には地元の居酒屋に立ち寄る。そうした小さな日常の循環が、ローカル経済を回している。

行政が、そうした分散型の働き方の価値を理解しないまま、20世紀的な「集まって働け」のロジックに戻していく。これは、未来の働き方への投資というよりは、過去の景色への執着に見える。

州職員という、税金で給料が支払われている人たちを、強制的に通勤させることで、誰が得をするのか。商業用不動産のオーナー、都市中心部の飲食店、通勤交通機関の事業者。たしかにそうした人たちの売上は戻ってくるだろう。だが、その代償として、地方や郊外で芽吹いていた新しい働き方の文化が確実に損なわれる。

インドは労働時間そのままで週4日に「圧縮」する

次にインドの動き。これはまた、まったく違う方向の話になる。

Allwork.Spaceの記事MSNの報道を引いて伝えるところによれば、インドは新しく告示された労働法の枠組みの下で、企業が従業員に週4日勤務制を提供することを許可した。

ただし、これは週4日「労働」制ではなく、週4日「圧縮」制、という方が実態に近い。インドの法定労働時間の上限は週48時間。これを5日や6日に分割するのではなく、4日に圧縮していい、というのが今回の改正の中身。え?

つまり、1日に約12時間働けば、残りの3日は休める。だが、週の総労働時間は変わらない。「3日休めて嬉しい」というよりは、「働く日は今まで以上に長くなる」というほうが、現場の実感に近いのではないか。

時間外労働の保護は維持される。承認されたスケジュールを超えた労働には、通常賃金の2倍が支払われる。これは従来通りで、悪化はしていない。

強制ではなく「選べる」制度は知識産業から先に動く

このインドの制度のポイントは、企業に対して圧縮スケジュールを強制するものではない、ということ。各企業が、自社の業態に合うかどうかを判断していい。そして、従業員側の合意も必要になる。

どの業界が先に動くか。記事は、IT、コンサルティング、クリエイティブサービスといった、生産性が「現場にいる時間」ではなく「アウトプット」で測られる業種が、もっとも早く採用する可能性が高い、と見ている。逆に、製造業や、現場での人手が必要なシフト制の業種では、1日12時間の労働を実現するのは難しい。

ここで気になるのが、1日12時間という労働時間そのものだ。日本でもインドでも、長時間労働の弊害はさんざん議論されてきた。集中力の低下、心身の疲労、家庭生活の犠牲。1日8時間ですら、午後の後半になると生産性は落ちる、という研究もある。そこに12時間を詰め込んで、本当にアウトプットの質が保てるのか。3日間休めるとしても、その休みが「疲労回復のための休み」になってしまっては、本来の生活の豊かさにつながらない。

世界的に見ると、週4日労働制の試みの多くは、労働時間そのものを減らす方向で進んでいる。アイスランドの実証実験、英国の4 Day Week Foundationが主導するパイロット、北欧諸国の取り組みなど、いずれも「同じ給料で、短い労働時間で、同等以上の生産性を出せるかどうか」を検証する流れだ。

それに対して、インドの今回の制度は、労働時間は減らさず、4日に詰め込む。これは世界の潮流とは明らかに違う方向で、しかも法定の48時間という、すでにかなり長い労働時間を前提にしている。

インドのお国事情を考えると、これは「いきなり労働時間そのものを減らすことは難しいので、まずは選択肢を増やしてみる」という現実的な一歩と読めなくもない。国の経済成長を犠牲にせず、しかし働く人の選択肢を広げる、という落とし所だろうか。ただ、それが「選べる」という名のもとに、結果として企業側に都合よく運用されないか、という懸念は残る。

この2つの「週4日」が示すもの

ここで、ちょっと整理しておきたい。

カリフォルニアは、週4日「対面で出社」を求めている。労働時間や働き方の改革ではなく、リモートからオフィスへの揺り戻し。

インドは、週4日「労働日」を選べるようにした。ただし労働時間は同じで、1日12時間に圧縮する。

どちらも「週4日」という言葉を使っているが、その意味するところは正反対と言っていい。一方は「集まって働け」、もう一方は「集中して長時間働け」。どちらも、ヨーロッパで議論されている、本来の意味での週4日労働制(労働時間そのものを減らし、生活と仕事のバランスを取り戻す試み)とは、ずいぶん違う。

行政側がこの「週4日」という言葉を便利に使い始めている、ということに、どうもぼくは引っかかる。中身を見れば、出社の強制であったり、長時間労働の温存であったり、働く人の主体性や生活の質の向上という観点からは距離がある。

過去にも、いろんな国や企業が週4日制を試みてきた。アイスランドの大規模実験では、生産性を落とさずに労働時間を減らせることが示された。英国の61社が参加したパイロットでは、9割近い企業が継続を決めた。日本でも、Microsoft Japanの実験で生産性が40%上がったというニュースが、数年前に話題になった。これらの事例に共通しているのは、「労働時間を減らす」という前提に立っていることだ。

そこに、まったく違う方向からの「週4日」が出てきている。これをどう評価するかは、議論の余地が大きい。

ちなみに、週4日就労制については過去に何度も書いている。一応、貼っておく。

働き方の選択肢を考えるいい機会

ただ、こうした多様な動きが出てきていること自体は、歓迎していいと考えている。理由はシンプルで、働き方が一つに決まっている時代は、もう終わったから。

ある人にとっては、週5日、毎日決まった時間にオフィスに通うのが心地よい。別の人にとっては、週4日、長時間集中して働いて3日休む方が合っている。また別の人にとっては、週5日でも6日でも、リモートで自分のペースで進める方が成果が出る。場所も時間も、本人と仕事の性質に合わせて選べる、というのがこれからの働き方であって、「一つの正解」を国が押し付ける時代では既にないと思う。

ここで重要なのは、これらの選択肢は、テクノロジーの進化と人生観の変化という2つの大きな潮流に支えられている、ということ。リモートワークは、クラウドサービスやビデオ会議の普及によって、ようやく現実的な選択肢になった。AIが業務の一部を担うようになり、人がデスクに張り付いている時間と成果の関係は、ますます弱くなっている。

同時に、コロナ禍を経験した人々は、「自分の人生の時間をどう使うか」を、以前より真剣に考えるようになった。家族と過ごす時間、地域でのつながり、自分の健康、学び直し。働くこと以外の時間が、これほど価値あるものとして語られる時代は、これまでなかったのではないか。

その意味で、カリフォルニアの「全員出社」の方向には違和感があるし、インドの「圧縮で長時間労働を温存」にも疑問は残る。だが、こうした政策がメディアで議論されることで、本来の意味での働き方改革とは何か、という問いが浮かび上がってくる。

そして、その問いに対する答えの一つが、ローカルコワーキングだと思っている。

ローカルコワーキングが新しい働き方の受け皿になる

リモートワークが定着し、あるいは揺り戻され、また定着し、という波の中で、確実に増えているのは、「住む場所と働く場所を、自分で選びたい」という人たちだ。

都市の本社オフィスに毎日通うのは、もうゴメンだ。だが、自宅で四六時中、家族と顔を突き合わせて仕事をするのも違う。週に何日かは集中して仕事ができる場所が、家から徒歩や自転車で行ける範囲にほしい。そして、そこで地域の人と顔を合わせて、ゆるくつながっていたい。

こうしたニーズに応えられるのは、巨大なシェアオフィスチェーンではなく、その地域に根ざした中小のローカルコワーキングだ。

2010年に神戸で日本初のコワーキングスペースとしてカフーツをオープンして16年が経った。この間に、コワーキングをめぐる状況は何度も変わった。

最初はフリーランサーのための仕事場と見られていたし、その後はスタートアップやノマドワーカーの拠点になり、コロナ禍以降は企業に勤めるリモートワーカーも利用するようになった。今は、仕事に限らずもっと多様な人が、もっと多様な目的で使う施設、環境になっている。

ぼくは、こうしたローカルコワーキングが全国の1,788の市区町村すべてに整備され、それらをネットワークでつながる社会を夢見ている。なぜ全国かというと、働き方が分散していく時代において、住む場所と働く場所の選択肢が、大都市に集中していること自体が、すでに意味をなさないようになっているから。

行政が、上から「週4日出社」とか「1日12時間で4日」とか言う前に、本当にやるべきは、どこに住んでも、自分のペースで働ける環境を整えることではないか。そのためには、巨大なオフィスビルを建てるのではなく、それぞれの町に、人と人がつながれるローカルコワーキングがある、という状態を作っていく必要がある。

ただしそこには、「コワーキングの5大価値」、Accessibility(つながり)、Openness(シェア)、Collaboration(コラボ)、Community(コミュニティ)、Sustainability(継続性)が備わっていることが大前提。ただ、ハコだけ作ってもそれはコワーキングになならない。

行政が「週4日」という記号を振り回している間に、地域では、もっと多層的な働き方の選択肢が、すでに静かに育ちつつある。世界中で、それぞれの土地で、それぞれの仕方で、働き方の試行錯誤が続いている。

そして、その最前線に、ローカルコワーキングがあるということを、キモに銘じてユメユメお忘れなきよう願う次第。

ということで、今日はこのへんで。

(トップ画像:Vitaly Gariev

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