デジタルアクター試論 6. 契約のパーセンテージ化
デジタルアクター試論 目次
1. 発想の出発点——肖像権を払ってCGで作るという可能性
2. 最初の突破口は誰が開けるか
3. ブルース・リーという最有力候補
4. アイコンと役柄のバランス問題
5. 完全オリジナルのCGキャラによるスターシステム
6. 契約のパーセンテージ化
7. 仮面ライダー1号という日本の特殊事例
8. ルパン三世・クレヨンしんちゃんとの対比
9. 違う人が本郷猛を演じても定着しなかった理由
10. 今の仮面ライダーがほぼCGという逆説
11. 一文字隼人と佐々木剛氏
12. 美空ひばりとの違い——役を演じるか否か
13. 性格の可変性という基準——ブルース・ウェイン、長谷川平蔵、車寅次郎
14. 「群像劇化」が原点を重くする逆説
15. 特撮主演というキャリアの賭け——村上弘明、長谷川初範、細川茂樹、オダギリジョー
16. 西島秀俊という稀有な存在——シン・ウルトラマンからBLACK SUNへ
17. 西島秀俊と木村拓哉——芸能人としての格と俳優としての評価
18. 30代・40代の本郷猛を描くという可能性
19. 総3Dアニメ化という選択肢
20. フランケンシュタインの被造物として
21. 唯一無二性を生んだ三つの偶然
22. 撮影現場の一体感、という最後の鍵
23. ブルース・ウェインとクラーク・ケント——比較対象の精緻化、そして本郷猛の特異性のまとめ
24. 最初のデジタル化に生じる微妙な変更
25. 『ボヘミアン・ラプソディ』が示した「受け手の補完」
26. マイケル・ジャクソンの伝記映画
27. 『ワイルド・スピード』のブライアン・オコナーと、ドミニクたちの老い
28. 乱用するプロデューサーへの懸念
29. 「コモディティ化」と「民主化」という言葉の歪み
30. 政治権力による技術の独占とプロパガンダ
31. ゲリラ的パロディというもう一つの危険
32. 結語

Frank Bullitt (Steve McQueen)
“Bullitt"
作品の中で一場面、あるいは何%という括りで必ず、そのキャラクターの特徴、売りを出す、という契約——これは映画の「芸術としての自由度」と、デジタル・スターを管理する側の「ブランドビジネス」を両立させる、極めて現実的な妥協点である。
生身の俳優の契約でも「クレジットの順番」や「トレイラーでの露出時間」といった細かい縛りがあるが、デジタル・スターの時代には、それがさらに細分化・数値化されて「キャラクターのアイデンティティ(記号)の保証」という形に進化するわけだ。
この「必ず特徴を出す」という契約(例えば一作品につき最低15%以上のシーンに登場し、うち1回は「売り」の演出を入れること、など)が一般化した場合、優秀な監督や脚本家ほど、この「制約」を最高に面白いギミックに変えてみせるはずだ。
「素手での格闘シーン、および特有の咆哮を必ず1回入れる」という契約のアクターを、あえて全編「車椅子の天才探偵」という設定で物語を進め、一切アクションをさせない。しかし最後の最後、犯人に追い詰められた絶体絶命の瞬間、車椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、完璧なワンインチパンチを一発だけ叩き込んで吠える——というような演出だ。あるいは「シグネチャー・ポーズを必ず1回入れる」契約の往年の二枚目アクターに、近未来のサイバーパンク世界で「アンドロイドの物乞い」の役をやらせる。ネオンの雨の中、落ちていた湿ったタバコを拾い、火をつけた一瞬だけ、かつての映画スターとしての「あの色気」が画面にフラッシュバックする。
このように、制約があるからこそ「いつ、あの『売り』が来るのか」という観客との心理戦(サスペンス)が生まれ、むしろ作品の最高の見せ場になり得る。
これは現代の映画が失いかけている、歌舞伎の「見得」や、時代劇の「この紋所が目に入らぬか」、あるいはアメコミ映画の「ヒーロー着地」のような様式美のデジタル的な復権でもある。観客もそれを分かっていて見に来るため、劇中でそのアクターが「お決まりのルーティン」を披露した瞬間、劇場のボルテージは最高潮に達する。
このシステムが定着すると、契約書(スマートコントラクト)はかなり厳密にデータ化されるだろう。
全編で「そのスターらしさ」を前面に出し、アクションや名セリフを義務化する「フル・アイコン」プラン(最高額、娯楽大作向け)。劇中の大部分は地味な演技に徹してよいが、一部だけ「売り」のキラー演出を挟む「アクター・モード」プラン(中規模、サスペンスや人間ドラマ向け)。顔の骨格と眼光のニュアンスのみ使用し、「売り」のポーズ義務はない「カメオ・エッセンス」プラン(安価、インディーズやアート系映画向け)。監督やプロデューサーは、予算と作品のトーンに合わせて、こうしたプランを買い分けるようになる。
映画に登場する「車」で例えるなら、『ブリット』のフォード・マスタングのように全編で激しいカースタントをして魅せる使い方もあれば、背景のガレージにそっと佇ませて「あ、あの名車がある」とマニアをニヤリとさせる使い方もある。
人間をデジタルデータとして扱う以上、このくらいドライで、かつお互いのリスペクト(商業的価値と芸術的価値)を守るための明確なスコア(パーセンテージ)での契約こそが、ドミノをバタバタと倒していくための、最も現実的な潤滑油になりそうである。
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