「Solaria 第九話|さくら覚醒(前編)」

「Solaria 第一話|はじまりの坂」(前編)
「Solaria 第一話|はじまりの坂」(後編)
「Solaria 第二話|衝突の先にある光」
「Solaria 特別編 |坂の上の学園」
「Solaria 第三話|バラバラのリズム」
「Solaria 第四話|届かない声」
「Solaria 第五話|ひとつのステップ」
「Solaria 第六話|スプリングフェスティバル」
「Solaria 第七話|広がる波紋」
「Solaria 第八話|名前を持つということ」
「Solaria|メンバー紹介」
「Solaria 星ヶ丘学園 学校案内」
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放課後。
ダンス練習室。
「はい、もう一回いくよ!」
あかりの声が響く。
音楽が流れる。
鏡に映る、5人。
揃っているようで——
どこか、揃いきらない。
「ストップ」
音が止まる。
「さくら」
呼ばれて、びくっと肩が揺れる。
「ワンテンポ遅れてる」
あかりの声は、いつも通り真っ直ぐだった。
「……ごめん」
小さく、うつむく。
「あと、声」
続けて言う。
「出てない」
空気が、少しだけ張る。
ひなたが、口を開きかける。
でも——
何も言わない。
しおりも、静かに見ている。
「……はい」
さくらの返事は、小さい。
「もう一回」
音楽が、再び流れる。
踊る。
歌う。
でも——
(出ない)
声が。
(出したいのに)
喉が、締まる。
(怖い)
その瞬間。
音が、遠くなる。
フラッシュバック。
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小学校の教室。
ざわざわした空気。
歌い終わったあと。
「……なんか違くない?」
「似てないよな」
笑い声。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
(やめて!!)
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「ストップ!!」
現実に引き戻される。
音楽が止まる。

さくらの呼吸が、乱れている。
「……ごめん」
絞り出すように言う。
「一回、休憩にしよっか」
ゆいの声。
やわらかい。
誰も反対しない。
屋上。
夕方の風。
さくらは、一人でフェンスにもたれていた。
空を見上げる。
(なんで……)
手が、少し震える。
(あのときみたいに)
(歌えなくなるの……)
足音。
「さくら」
ひなただった。

隣に並ぶ。
何も言わない。
少しの沈黙。
「……怖い?」
ひなたの声は、静かだった。
さくらは、答えない。
でも。
小さく、うなずく。
「そっか」
ひなたは、それ以上聞かない。
ただ、前を向く。
「さ」
少し明るく言う。
「歌おっか」
「……え?」
「ここで」
さくらの目が揺れる。
「大丈夫だよ」
ひなたが笑う。
「ここなら」
風が吹く。
あの日と同じ場所。
さくらは、目を閉じる。
深呼吸。

小さく、声を出す。
震えている。
でも——
止まらない。
ひなたは、何も言わず隣で聴いている。
その歌は。
まだ弱い。
でも。
確かに、“今のさくら”だった。
夜。
ダンス練習室。
誰もいない。
ピアノが、置かれている。
さくらが、そっと近づく。
指を置く。

——ポロン
音が、響く。
懐かしい音。
(……私)
もう一度、鍵盤に触れる。
ぽつり、ぽつりと音を重ねる。
ぎこちない。
でも。
メロディになりかけている。
そのとき。
「……いい音」
後ろから声。
ゆいだった。
振り返る。
「ごめんなさい…勝手に」
「ううん」
ゆいが微笑む。

「さくらの音だね」
その言葉に、さくらの手が止まる。
「……私の?」
「うん」
ゆいは、ゆっくり近づく。
「ちゃんと、出てるよ」
「さくらの中にあるもの」
さくらは、何も言えない。
ただ、鍵盤を見る。
(……私の、音)
もう一度、弾く。
さっきより、少しだけ強く。
その音は——
まだ小さい。
でも、確かに“始まり”だった。
夜空。
星が、少しずつ見え始める。
光は、まだ弱い。
でも。
確実に、そこにある。
第九話 さくら覚醒(前編) (終)
▶ Solaria 第十話|
― さくら覚醒(後編) ― へ続く
