忌み地 序章
忌み地・因縁・因習・呪詛・人形・あなたの最初の子供は必ず死ぬ運命にある
死んだ義母の家に住むことになった主人公・結花子。 その家には不気味な人形たちがいた。 家中にカビが生え、誰もいないはずの廊下から子供の足音が聞こえてくる。 それは最初は気のせいだと思われていたが、悪意を持って結花子に襲いかかってきた。 結花子は友人の知り合い・霊感が強い壱央に助けを求めることになる。 井野家の当主の最初の子供は必ず死ぬ……妊娠中の結花子はそのことを知って戦慄する。
男はひたすらぬかるんだ湿原を歩いている。背中に担いだ死体のせいで、足首までぬかるみの中に沈んでいた。自分が今まで捨ててきた、死体の折り重なる葦原の中を突き進んでいく。足の裏で糜爛した残骸がずるりと剥けて滑る。湿原の水は腐った水に濁り、腐汁と区別がつかない。獣や川魚が腐ったような鼻をつく臭気。疫病で死んだ屍が放つ悪臭には慣れている。体にも死体の臭いがこびりついて離れない。けれど、その臭いは男の暗い欲望を掻き立て、抑えきれない興奮を呼び覚ます。
背に負ぶった裸の女の腹は大きく、子を孕んでいる。つい先刻死んだばかりで、まだ生温かい。肌は滑らかでもっちりとしていて、背に当たる乳房の膨らみも男を刺激するばかり。物言わぬ女が喜んで男を受け入れているかのように感じられた。男のたぎる欲望は徐々に弾力が失われていく女の肌に向けられていた。とうとう我慢できなくなり、まばらに葦が生える土の上に女を横たえる。突き出した女の腹は蛙の腹のように無様だが、男にはどうでもいいことだった。むしろ孕み女だからこそ欲情をそそられる。
女の体はまだぐんにゃりとしているけれど、いずれ固く硬直してきて、触り心地が悪くなる。男は急いで下半身を女の股に割り込ませた。物言わぬ孕み女だからこそ男を受け入れて、なおかつ精を放った腹の中には赤ん坊がある。それこそ男の望むことだ。疫病で倒れ野ざらしになった死体の金品や衣服を奪い、安達野に運んでくるようになってからは、死んだ孕み女をかりそめの妻として抱くのだ。
ひとしきり欲望を満たした後、男は腰から鉈を取り出した。
女との逢瀬のあとは、我が子として戦利品を必ず手に入れる。男は一夜限りの妻の腹を鉈で割いた。煮こごりのようなどす黒い血が、裂いた腹から流れ出してくる。まだ薄く桃色がかったものが腸の隙間から覗く。男は嬉々としてその桃色の塊を取り出し、両手で抱えた。いつもならば腕の中には死んだ赤ん坊があるはずだった。
それなのに腕の中のそれがわずかに身動ぎして、かすかな声を上げた。次第に声は大きく、激しくなっていった。
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