【1】骨のお守りは誰のために

 お経しか聞こえない場内がざわついた。
 参列者席の真ん中を堂々と歩く男は無駄にオーラを放っている。焼香台の前に立つと顔をあげた。
 飾られた遺影は無邪気な笑顔の男性だ。
 焼香を終えた男はもう一度遺影を見て眉をひそめた。涙はない。沈痛な面持ちで故人の親族に挨拶をして参列者を見渡す。その中の一人に男は目を見開いた。
「コウ、か?」
 男と目が合ったコウも驚いた。
「ケン…………」
 外へ行こうとケンが促してきたのでコウは席を立つ。
 ロビーに出ると数名の子供が泣いていた。傍にはコウやガクと同じぐらいの女性が涙を流しながら子供を抱きしめている。
 女性と目が合ったコウは会釈する。気づいたケンも小さく頭を下げた。
 外に出て喫煙所へ向かう。誰もいない。
「ガクの学校の子供たちだろうな」
 ケンは電子タバコのスイッチを押しながら言った。
 亡くなったのは、嶋まなぶであだ名はガクだ。コウとケンの高校の同級生であり、同じ剣道部に所属していた。
「小学校の先生だったらしいな」
 コウはガクと連絡を取っていなかったので、周りから聞こえてきた話しか知らない。
「ちゃんと先生してたんだろうな。生徒や同僚に涙流してもらえるんだから」
 ケンは寂し気な横顔で煙草を吸った。ケンの瞳は潤んでいる。
 コウはガクが亡くなったと訊いた時安堵した。ガクがやってきたことを考えると涙はでない。小学生が泣いていようと親族が悲しんでいようとガクの同僚が気を病もうと、コウは悲しみも涙もない。
「しかし、お前が来てるとは思わなかったな」
「え?」
「高校の時のことを考えたら来てないと思うだろう、普通」
「そうだな。ナナから連絡がなかったら来てないな」
「ナナ? お前もナナから連絡があったのか?」
 ケンが声を荒げる。
「お前もって、もしかしてケンも?」
 二人は視線を交わして青くなった。
ナナは剣道部のマネージャーをしていた。高校卒業後、音信不通になっていたが、突然ガクの葬儀に参列してほしいと連絡があった。ナナはガクとケンと仲が悪かった。コウもナナとは良い関係とは言い難かった。だから連絡があった時、疑念と気持ち悪さを抱いた。
 ついでに言えばコウも目の前のケンとは仲が良いとは言えない。高校卒業後、連絡もとっていなければ、会ってもいない。
「お前、まさか、ユウのこと何か話したんじゃないだろうな」
 鬼の形相で顔を寄せてきたケンにコウは息を飲んだ。
「…………ま、まさか」
 ケンの威圧感に上手く言葉が出てこない。脳裏に高校時代の苦い記憶がよぎる。一度だけ喧嘩して負けた時のものだ。
「ナナもどこまで知ってるかわからないが、あの頃のことは話すんじゃねぇぞ」
 コウは首を縦に動かした。

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