為替介入の基礎③:協調介入と単独介入
今回も為替介入の話題です。下記を前提に記載し、適時、アップデイトします。
為替介入の基礎①:覆面介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
為替介入の基礎②:口先介入(レートチェック、3者会合等)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
2022年の介入についての特徴の一つは単独介入であった点です。そもそも介入には日本だけで単独で為替介入をする「単独介入」と呼ばれるものと、各国で協力して介入する「協調介入」があります。
協調介入についておそらく一番有名なのは1985年のプラザ合意に係る介入です。
この会議でドル高是正に向けたG5各国の協調行動への合意、いわゆる「プラザ合意」が発表された。具体的な内容として「基軸通貨であるドルに対して、参加各国の通貨を一律10~12%幅で切り上げ、そのための方法として参加各国は外国為替市場で協調介入をおこなう」というものであった。プラザ合意の狙いは、ドル安によって米国の輸出競争力を高め、貿易赤字を減らすことにあった。
プラザ合意|証券用語解説集|野村證券 (nomura.co.jp)
これ以外にも、98年など協調介入は複数なされていますが、最近で実施された事例でいえば、東日本大震災が起こった後の円高に対して実施したG7の協調介入です。下記は2011年3月18日に発表された協調介入の声明の一部です。
日本における悲劇的な出来事に関連した円相場の最近の動きへの対応として、日本当局からの要請に基づき、米国、英国、カナダ当局及び欧州中央銀行(ECB)は、2011年3月18日に、日本とともに為替市場における協調介入に参加する。われわれが長らく述べてきたとおり、為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与える。われわれは、為替市場をよく注視し、適切に協力する。
asahi.com(朝日新聞社):情報BOX:G7緊急声明の全文 - ロイターニュース - ビジネス・経済
これに対して、2022年の介入については、協調介入ではなくて、単独介入したということです。日本で介入がなされるとき、米国政府などと密接なコミュニケーションがあるとされますが、その判断について浅川さんは下記のように記載しています。
「(介入についての連絡については)当然総理にも話をあげます。また関係国にも連絡します。あくまで連絡であって、了承を得るような話ではないですが。ただ、介入を実施した後、海外の当局から我が国の介入に対して批判的なコメントが出てしまうようだと効果も減殺されますから、そこはやはり、あうんの呼吸でスムーズに理解を求めるということです」(p.47)
通貨・租税外交: 協調と攻防の真実 | 浅川 雅嗣, 清水 功哉 |本 | 通販 | Amazon
上記のとおり、あくまで自分たちで判断できるものの、その効果を強めることから他国とコミュニケーションをとっているという説明をしています。
単独介入について、2022年以前、最近のものは、2011年8月の介入です。その時の財務官は中尾財務官ですが、単独介入についての考え方について次のような考え方を示しています。すなわち、
①介入の前に協議をすることは求められるとしても、G3で予め了承されなければ介入しないという合意があったとは理解していない。②日本の介入の目的は、介入の変動を抑え、市場に投機的な動きに対抗するという当局の姿勢を示すことであり、特定の水準を目指すものではなく、むしろ為替の適度の変動はよくないというG7の考え方にしたがったものである。③事前に密接に協議することは必要だが、状況によっては他国の同意がなくても介入できる裁量を各国は有するべきである(p.15-16)
Amazon.co.jp: アジア経済はどう変わったか-アジア開発銀行総裁日記 (単行本) : 中尾 武彦: 本
というコメントをしており、他国には理解を求めるものの、やはり自分たちで基本的に判断できるし、すべきだとしています(これ以外にも中尾さんは指摘していますが、詳細を知りたい人は同書を参照してください)。
今回以降の介入が単独介入が予測されることを考えると、気になる点は単独介入の効果です。私が読む限り、単独介入の効果は限定的と整理しているものも多いです(一例は下記)。
円安阻止の単独為替介入の効果は限定的 | 2022年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)
国際金融のテキストでは、為替介入の効果があるとして、シグナリング効果(アナウンスメント効果)とポートフォリオ・バランス効果という2つが説明されるのが典型で、シグナリング効果とは、例えば為替介入が金融政策を変更することのシグナルになるなどと説明されるのですが、協調介入のほうがシグナルとして強いから効果が強くでる、というのが国際金融のテキストで説明されうる典型かと思います。浅川さんの「介入を実施した後、海外の当局から我が国の介入に対して批判的なコメントが出てしまうようだと効果も減殺」というコメントもシグナリング効果の文脈で解釈可能だとおもいます。シグナリング効果とポートフォリオ・バランス効果はどの国際金融のテキストにも書いてあるとおもいますが、必要に応じて簡単に説明します。学術研究について単独介入についてどう整理しているかは後日調べてアップデイトしようとおもいます。
なお、これまで外為特会について継続して記載しているので、関心がある読者は下記を参照してください。
外為特会の基礎①:外為特会のBSと為替介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎②:運用の概要|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎③:外国為替資金証券(為券)について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎④:日本には非不胎化介入は存在しない?|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑥:外貨準備と外為特会の違い|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑦:国債整理基金特会との関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑧:IMFとの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑨:外為特会が有する外貨資産の活用とチェンマイ・イニシアティブ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑩:為替介入と民間銀行のBSの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑪:為替介入や特会の運用に関する財務省の体制|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑫:外為特会改革と外為特会の積立金制度について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑬:積立金制度廃止とFBの償還(外為特会改革について)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑮:2022年の円買い為替介入と不胎化介入について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
