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『選ばれない自分』(6)

【春 2nd】

 陽射しが強くなり、新緑の季節を迎えていた。授業用の教科書を求める学生客も少なくなり、私の担当する店舗はやや落ち着き始めていた。先週、藤田から絵葉書が届いた。SNS全盛のこの時代に絵葉書だ。絵葉書によると、藤田はオーストラリアにいるらしい。北部の都市ダーウィンでバイクを調達し、エアーズロックまで南下したようだ。周囲には砂漠以外何も見えない街道で、ギアをトップに入れたまま1時間以上走り続ける。その間すれ違う車はほんの数台。オーストラリアは秋も深まるシーズンだが、砂漠地帯はまだ太陽がジリジリと照りつけるらしい。そんな中でバイクを走らせると、すべてが忘れられるそうだ。この後はエアーズロックからさらに南下してアデレード、そこからは西のパースを目指す予定らしい。気持ちの整理が付くまで、オーストラリア中を走るつもりだと記されていた。藤田らしいと思った。
 藤田の絵葉書とともに、もう1通、葉書が届いていた。桧山さんからの結婚の挨拶の葉書だった。写真などはなく、イラストで飾られたシンプルな葉書だった。印刷された文面だけで、特に手書きの文字が入っている訳でもない。結局、桧山さんの結婚相手がどんな人なのか、私が知る事はなかった。
 そして私はその葉書を眺めながら、自分の選択が本当に正しかったのか、少しだけ考え直してしまった。桧山さんから「好きです」と言われた瞬間には、かなり心が揺れた。あの時、もしすべてを捨てて桧山さんの気持ちを受け入れていたら、私達二人はその後はどうなっていたのだろうか。そんな事を、今さら考えても何にもならない。しかしどうしても考えてしまう。
 藤田もそうであったが、40代も半ばになってからの恋は、その後遺症が自分が想像していた以上にはるかに激しい。すでに2カ月が経過していたが、私は心の傷を癒せずにいた。

『選ばれない自分』(1)

『選ばれない自分』(2)

『選ばれない自分』(3)

『選ばれない自分』(4)

『選ばれない自分』(5)

『選ばれない自分』(6)

『選ばれない自分』(7)

『選ばれない自分』(8)

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ラーメンと競馬と映画がたまらなく好きです。 こんな辺境の文章を読んでいただきまして、本当にありがとうございます!