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『選ばれない自分』(7)

【TRUTH】

 「突然失礼なことを言ってしまって、本当にごめんなさい。結婚する前にどうしても、冴縞さんに私の気持ちをお伝えしたかったんです。でもこれでスッキリしました。ありがとうございました」
 もし、私もこの場を笑って過ごせば、私と桧山さんの間にはこのまま何も起こらずに終了するだろう。だがそれでいいのだろうか。私は迷っていた。選ばれない私の人生の中で、これほどまでにはっきりと私を選んでくれた人は、桧山さんだけだ。そして私も、桧山さんの事が誰よりも好きであった。今が自分の人生の大きな岐路ではないだろうか。この選択を間違えれば、私は一生後悔するかもしれない。感情だけに任せて行動を起こすのはもちろん愚かなことである。しかし、時には感情を開放する事も必要なのではないだろうか。

だが私はその選択を取らなかった。

 「そう言っていただけるのは本当に嬉しいです。私も桧山さんの事を好きです、もちろん女性としてです。もし、家族がいなくて私が独身だったら、ここで『私が幸せにしますから、結婚をやめてください!』と言ったかもしれません。でも、今の私にできる事は、桧山さんのこれからの幸せを願うだけです」
 「…ありがとうございます。それだけで十分です。冴縞さんに好きって言ってもらえただけで、本当に満足です。実は、もし冴縞さんも私の事を好きだって言ってくれたら、結婚をやめようかな、とも思ってました。冴縞さんには絶対ご迷惑をおかけしないので、ずっと側にいさせてください、ってお願いしようかと思っていたんです。でも、それもご迷惑ですよね」
 私は桧山さんの顔を見る事ができなかった。
 「迷惑とか迷惑じゃないとか、そういう事ではないのだと思います。私は桧山さんに幸せになってもらいたいと思いますが、桧山さんを幸せにできるのは私ではありません。では誰が桧山さんを幸せにできるのかと問われても、答えることはできませんが、少なくともそれが私ではない事だけはわかっています」
 私は私を選ばなかった。それが正しい選択だと思った。妻とはこの後正式に離婚をするとしても、私には流星がいる。流星と一緒に暮らしたまま3人が幸せになれるとは思えない。そして、私は桧山さんより20歳も年上で、自然の摂理を考えれば、藤田が言われた言葉通り桧山さんより20年早く死んでしまう。流星の事も含めて、桧山さんにすべてを押しつけるわけにはいかない。誰がどう考えても、私が桧山さんを幸せにできるわけがないのだ。
 私はその事を、桧山さんに説明しなかった。自分の事情をすべて説明するなんて、そんなみっともない事を桧山さんにしたくなかった。世界中で唯一私の事を評価してくれる桧山さんに、カッコ悪い部分を見せたくなかった。
 私の言葉を聞いて、桧山さんは再び泣き始めた。
 「冴縞さんのおっしゃる事、とても良くわかります。冴縞さんはきっと、誰よりも私の事を一生懸命考えてくれているのだと思います。好きと言う気持ちはとても大切だと思います。でも、お互いに無理をしてまでその気持ちを貫き通すが事がいいかと言えば、必ずしもそうではないような気もします。そういう事なんですよね」
 桧山さんは私が考えていた事を、簡潔に言葉にしてくれた。そして涙を拭って続けた。
 「だって『ラ・ラ・ランド』の二人も、最後は結ばれませんでしたものね。あんなにカッコいい恋愛をしたのに。冴縞さんの事を好きになった事だけでも、それは素晴らしい事なんです、きっと」
 私はやや複雑な気持ちではあったが、自分の選択が間違っていないと思った。

『選ばれない自分』(1)

『選ばれない自分』(2)

『選ばれない自分』(3)

『選ばれない自分』(4)

『選ばれない自分』(5)

『選ばれない自分』(6)

『選ばれない自分』(7)

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ラーメンと競馬と映画がたまらなく好きです。 こんな辺境の文章を読んでいただきまして、本当にありがとうございます!