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【物語リレー】ハッピーエンドへの発射【ふうりさん】

読む順番
①ふうりさん プロローグ

②ことさん 第零話

③尋羽さん 第一話

④ekoさん 第二話

⑤ゆずまるまるさん 第三話

⑥匠さん 第四話

第五話
バキッ、と。
世界がひび割れる音が、鼓膜ではなく脳髄に直接響いた。
見上げた青空には、巨大な亀裂が走っていた。その奥に覗くのは、底なしの暗闇と、ぎらぎらと不気味な光を放つ『空星』だけ。
「こっち来る?」
傷だらけの手を差し出すアクラの声に、私は抗うことができなかった。いや、抗う理由が、この空っぽの現実のどこにあったというのだろう。
生活音が消え失せ、人間だけが綺麗に拭い去られた通学路。この張りぼてのような世界に未練などないと、私自身が一番よく分かっていた。
私は、ゆっくりと手を伸ばし、その冷たい指先に触れた。
瞬間、強烈な引力が私を襲った。
足元のアスファルトが崩れ落ち、視界がぐにゃりと歪む。上下左右の感覚が消失し、私はまるで深海へと沈んでいくように、空の亀裂の中へと吸い込まれていった。
息ができない。音が無い。光すらも、あの空星の狂ったような瞬き以外、何も存在しない。
どれだけ落下したのか、あるいは上昇したのかも分からない。やがて、フワリと足裏に固い感触が戻った。
「……ここは」
声を出しても、反響することなく虚無に吸い込まれていく。
そこは、何もない空間だった。上も下も真っ黒で、まるで宇宙空間に放り出されたかのよう。だというのに、足元だけは水面のように波紋が広がり、歩くことができる。
ここが、亀裂の奥。人間のいない、偽りの空の中。
ふと、前方に人影が見えた。
暗闇の中で、ぼんやりと輪郭を帯びている。誰かいるのだろうか。私は警戒しながらも、吸い寄せられるようにその影へと歩み寄った。
影の輪郭が、次第に鮮明になる。
見慣れた制服。見慣れたローファー。そして、見慣れた髪の長さ。
「え……?」
息を呑んだ。
そこに立っていたのは、紛れもなく『私』だった。
鏡を見ているわけではない。目の前の『私』は、私とは違う空気を纏っていた。
学校で誰にでも分け隔てなく接し、屈託のない笑顔を振りまいている『表の私』ではない。冷たく、虚ろで、世界のすべてを諦めきったような、酷く暗い瞳。
『白は嫌、黒が好き』
『現実は嫌、虚構が好き』
私が心の奥底に隠し、誰にも見せないようにしていたドス黒い感情そのものが、人間の形をしてそこに立っていた。
もう一人の私は、微かに口角を上げ、あの銀色の紙片に映った時と同じように、一度も瞬きをせずに私を見つめ返している。
「ようこそ、境界の向こう側へ」
背後から、アクラの楽しげな声が響いた。
振り返ると、アクラは今までで一番、歪で満ち足りた笑みを浮かべていた。傷跡の走る顔が、空星のギラついた光を反射して青白く浮かび上がっている。
「アクラ……これは、どういうこと? 彼女は……」
「キミだよ。いや、キミの『裏側』かな。現実という窮屈な服を脱ぎ捨てた、本当のキミの姿さ」
アクラは私ともう一人の私の間を、滑るように歩きながら言った。
「ずっと苦しかっただろ? 誰にも気付かれないように笑顔を貼り付けて、合わない世界に自分を押し殺して。でもね、もうそんなことをする必要はないんだ」
アクラの瞳が、ふと冷酷な色を帯びた。飄々としていたこれまでの態度が嘘のように、絶対的な冷たさが空間を支配する。
「君達の役目は、終わった。君達人間は、空星となるんだよ?」
「……空星に、なる?」
アクラが頭上を指さす。
見上げると、あの巨大な星が、まるで意思を持っているかのように脈打っていた。
よく見ると、それは単なる星ではなかった。無数の光の粒……いや、絶望や諦観、行き場を失った人間の感情が、凄まじい密度で圧縮され、渦を巻いている集合体だった。
「この世界に適合できなかった欠陥品たち。裏側の感情に押し潰された人間たちは皆、あの星の養分になる。君も、もう一人の君と一つになって、あの美しい虚無の一部になるんだ」
言葉の意味を理解するより早く、私の体が異変を起こし始めた。
指先から、ポロポロと光の粒子となって崩れ始めているのだ。痛覚はない。ただ、私という存在の輪郭が、ゆっくりと世界から溶け出していくような、抗いようのない喪失感。
「待って……やだ……!」
もう一人の私が、静かに私に抱き着いてきた。
氷のように冷たい体温。彼女が触れた場所から、私の体が加速度的に崩壊していく。感情が、記憶が、意識が、白いノイズに塗りつぶされていく。
(ああ……これで、終わるんだ……)
諦めが心を支配した、その時だった。
「――させない」
凛とした、しかしどこか悲痛な響きを帯びた声が、虚無の空間に響き渡った。
私の体を包み込んでいた崩壊のプロセスが、ピタリと止まる。
アクラが、初めて驚愕の表情を浮かべて声の方向を振り向いた。
暗闇の奥から、もう一つの影が歩み出てくる。
その姿を見て、私は自分の目を疑った。
そこにいたのは、アクラだった。
いや、違う。私をここに引きずり込んだアクラとは違う。服装も、体格も同じ。顔に走る痛々しい傷跡も同じ。
しかし、決定的な違いがあった。
後から現れたもう一人のアクラの瞳は、悲しそうに揺れ、そして……静かに、瞬きをしたのだ。
「……何故だ。何故、お前がここに干渉できる」
私を空星にしようとしたアクラが、低く唸るような声で問う。
瞬きをしたアクラは、彼女には答えず、ただ真っ直ぐに私を見た。
その優しい瞳を見た瞬間。
私の脳内で、厳重に鍵をかけられていた『何か』が、激しい音を立てて砕け散った。
フラッシュバックする記憶。
幼い頃の風景。私と手を繋いで歩く、少し背の高い少女。
いつも私を庇い、不器用な笑顔を見せてくれた人。
そして――ある日突然、私の目の前で理不尽な事故に巻き込まれ、永遠に失われてしまった大切な存在。
現実を受け入れられなかった私は、心を壊さないために、彼に関する記憶をすっぽりと抜け落ちさせていたのだ。
『白は嫌、黒が好き』になったのも、『現実に合わない』と感じるようになったのも、すべては彼女がいない世界への拒絶反応だった。
涙が、止まらなかった。
崩れかけていた体から、温かい雫が零れ落ちる。
「なんで……なんで、忘れていたんだろう……」
震える唇から、抑えきれない言葉がこぼれ落ちる。
「お姉……ちゃん……?」
瞬きをしたアクラ――お姉ちゃんは、困ったように、けれど愛おしそうに微笑んだ。
「ごめんな。こんな姿になってしまって。……お前を迎えに来るのが、遅くなってごめんね」
彼女もまた、この理不尽な世界の裏側に囚われ、あの化け物(アクラ)と姿を共有させられていたのだ。私の絶望に引かれて現れた怪異は、お姉ちゃんの残滓を歪めて利用していたに過ぎなかった。
「ふざけるな! 統合はすでに始まっている! 今更、欠落した一個体が何を――」
怪異のアクラが叫び、空間が激しく震動する。空星からの引力が何倍にも膨れ上がり、私とお姉ちゃんを飲み込もうとする。
「私は、お前をこんな星の一部なんかにさせない。お前の現実は、まだ終わってない」
お姉ちゃんは私の前に立ち塞がり、両手を広げた。
彼女の体から、目も眩むような銀色の光が溢れ出す。それは、あの気味の悪い紙片の光ではなく、もっと温かく、力強い、命の光だった。
「戻れ。そして、今度こそお前の『世界』を生きて」
「お姉ちゃん! 待って、一緒に……!」
「お前なら、全部救える。俺の分まで、泣いて、笑って……生きて。お願い」
銀色の光が、虚無の闇を、そして空星の赤い光を飲み込んでいく。
空間がガラスのようにひび割れ、砕け散る。
光の奔流の中で、お姉ちゃんの姿が、もう一人の私の姿が、そして怪異のアクラの姿が遠ざかっていく。
激しい逆風。
時間が、空間が、凄まじい勢いで逆行していくのを感じた。
崩れ落ちたアスファルトが元に戻る。
消えた生活音が、逆再生のように耳に飛び込んでくる。
割れた空が修復され、夜の闇が世界を包み込む。
――そして。
「……はっ!」
息を大きく吸い込み、私は目を見開いた。
暗い、帰り道。
ほのかな光を放つ街灯。そこに群がる蛾。
遠くで、下水道に落ちた石ころの音が、コロン、と反響している。
予備校からの帰り道。すべてが始まった、あの瞬間に私は立っていた。
冷や汗で制服が張り付いている。
鼓動が早鐘のように鳴っている。
けれど、もう私の胸の内に、ドス黒いものは立ち込めていなかった。
あるのは、確かな記憶と、熱を帯びた決意だけ。
背後から、ポン、と肩を叩かれる感触。
「どーも。やあやあ、初めましてぇ」
聞き慣れた、けれど今はもう恐れるに足らない、あの不気味な声。
私は、ゆっくりと振り返った。
そこには、瞬きをしないアクラが、ニヤニヤとした笑みを浮かべて立っている。
「今日は、君に忠告があってきました」
「……知ってるわ」
私の力強い言葉に、アクラの笑顔がピクリと引きつった。
私はもう、逃げない。
現実に絶望して、裏側に引きこもったりしない。
お姉ちゃんが命を賭して巻き戻してくれたこの時間で。
私自身の未来を、そして囚われたお姉ちゃんを、すべてを救うために。
私は、アクラを真っ直ぐに見据えた。

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まず、忘れてて、申し訳ないです😭

ふうりさんに教えてもらうまで、二日間忘れてました…(ふうりさんありがとうございます!)
というわけで、約1時間40分ぐらいで3500文字書き終えた本作ですが、1時間で書き上げるつもりだったので、文字数と悩む展開が多くなり、意外とかかりましたね…

それと、あともう少しで、終わりですね。

続きはゆきさんでお願いします!また見に行きます👍

てことは、最終話は、よしまるさんですね!
また見に行きますね〜👍

あとは、僕についての紹介です。
①人気投票企画の紹介

②初めての人へ

③オススメ作品

④共同マガジン紹介


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