『新ソロモンの審判』プロローグ、第1話(全11話)
あらすじ
先の見えないこの時代(これはいつの時代でも同じ)に生きる私たちが、「起きてしまったトラブル」にどう向き合うべきかを考える物語。
天災や人災、スキャンダルやゴシップに至るまで、浮世を騒がすトラブルは後を絶ちません。
誰もが二度と起きない(起こさない)こと願いながら「必ず繰り返されるトラブル」への身の処し方を「先人たちの逸話」を参考に模索します。
旧約聖書の『列王記』では「神から知恵を授けられた王」として描かれ、日本の「大岡裁き」にも投影されている「ソロモンの審判」になぞらえて、一話完結のショートストーリーの連作で展開します。
プロローグ
この物語の舞台は、さまざまな悩ましいトラブルが次から次へ起きている(現代の日本や世界を彷彿とさせる)王国。
国王の職務として世間の耳目を集める難題の解決を迫られるソロモン王は、途方に暮れると恋人であるシバの女王を頼るのが常です。
シバの女王は、温故知新の精神からトラブル解決のヒントが得られるかもしれない歴史上の人物の話を聞くことを王にすすめます。
そこでソロモン王は、配下にある天使ミカエルや悪魔ベリアルに命じて、女王が推挙した歴史上の人物を霊界から召喚し、有名な逸話などにからめて助言を仰ぎます。
先人との対話を通して気づく「今も昔も本質は変わらない逸話の普遍性」を参考にして、ソロモン王が下す審判とは……。
主な登場人物
「ソロモン王」
父のダビデから玉座を世襲した国王。優れた「知恵」に恵まれているが、勉強嫌いで「教養」はない。良くも悪くも「清濁を併せ吞むことができる」君主。神の加護によって霊界とつながる天使と悪魔を配下に置く。
「シバの女王」
ソロモンの恋人で才色兼備な属国の女王。トラブル解決の手がかりとなる歴史上の人物を紹介し、ソロモンの賢明な審判を支える。
「ミカエル」
ソロモン配下の天使。ソロモンの命で霊界から歴史上の人物を召喚する。臣下として清濁の「清」を司る。
「ベリアル」
ソロモン配下の悪魔。ソロモンの命で霊界から歴史上の人物を召喚する。臣下として清濁の「濁」を司る。
第1話「思いのままになる人と、マリー・アントワネットの失言」
愛されている大臣夫人
ここは王国を統べるソロモン王の執務室。
丘の上に建つ宮殿の最上階にあって、バルコニーからは城下の美しい都が見渡せる。
王の側近であるシバの女王、ミカエル、ベリアルが顔をそろえた。
「前代未聞の身勝手な振る舞いです!」
ミカエルが声を荒げる。
「いにしえから幾星霜を経て今日に至る人の世で、『前代未聞』のことなどめったにあるものではございません」
シバの女王が静かに制す。
ミカエルがテーブルに、ある週刊誌の記事のコピーを広げた。
そこには若い俳優と夜遊びに興じる衛生大臣夫人の記事だった。
「派手な男遊びで顰蹙を買うことが多いセレブのスキャンダル記事ですね。出るんですか?」
ベリアルがあまり興味なさげに質した。
「出ません。政府与党が出版社と何らかの取引をして、今回は差し止めたと思われます」とミカエル。
「大臣夫人の火遊びなら、これまでも複数の芸能人との記事が出ているはずですが。なぜ今回は差し止めに?」とベリアル。
「大臣の選挙が近いからです」とミカエル。
「夫人のスキャンダルでも駄目なのか……。今の時代、不倫に対する世間の風当たりは特に強いからな」とソロモン。
「そういう意味で言えば、夫人は白です。彼女の火遊びはどれも、肉体関係を伴うような不倫には至っていないでしょう」
ベリアルが胸を張って言った。
「なぜ、そう言い切れます?」
ミカエルが食い下がる。
「なぜって、夫人の容姿や年齢を考えれば、さすがに……。まあ、桁外れの野心家ならば、目をつむってやるかもしれませんが……」
「何ということを……」
ベリアルのそれこそ今の時代にはあるまじき下品な冗談に、シバの女王が呆れ返る。
「で、ミカエルは大臣夫人の何をそんなに問題視しているのだ?」
面倒な話はごめん、とばかりにソロモンが言う。
「その、余波です。
今回の不倫、いや、火遊びでも、記事をもみ消すべく、結果的に政府与党が乗り出し、出版社とよからぬ交渉をする事態に陥っています。
要らぬ借りをつくることになります」とミカエル。
「それは確かに」とシバの女王。
ミカエルが続ける。
「火遊びは、夫人が言い寄る場合と、言い寄られる場合があります。
特に言い寄られる場合は、十中八九、彼女の『立場』が悪用されます。
しかし、自分が悪用ではなく『愛されている』と思い込んでいる夫人は、問題が起きるまでそれに気づきません。
知らぬ間に夫人の立場は、産学官さまざまな利権で悪用されています。
巷の顰蹙を買う火遊びだけではすまないのです」
ミカエルの説明を受け、シバの女王が嘆じた。
「看過できない、余波ですね」
「夫人も、悪気はないのであろう?」
歯切れの悪いソロモンに、ミカエルが反論する。
「かえってそれが問題なのです。悪気がないので反省しません。
反省どころか、自分は誰からも愛される人気者だと誤解しています。
また、質の悪い取り巻きたちに踊らされているとも知らず、自分の言動は公益に資するとさえ思っているふしがあります。
猛省を促し、何がしかの処分を科す必要があります」
「処分?」
ソロモンが驚く。
「世間では、夫人のように不倫など何をしても守られ、許される、特権階級への不満の声が高まっているそうですから……」
ベリアルが興味本位で面倒な話にしようする。
シバの女王は表情でミカエルとベリアルに同意した。
「……わかった。近く本人に聞いてみよう」
不承不承ソロモンは頷いた。
正直な大臣夫人の抗弁
ソロモン王は(用件を匂わせた上で)大臣夫人を晩餐に招いた。
「お久しぶりです。本日はお招きいただき有難うございます。
父からもくれぐれもよろしくとことづかって参りました」
宮殿を訪れた大臣夫人は、満面の笑みで挨拶をした。
夫人の父親は、保険業で成功を収めた財閥の会長で、ソロモンの父、先王ダビデの時代から続く王家の有力な支持者であった。
『やはり事を荒立てたくないな……』
ソロモンの胸中を知ってか知らずにか、話が本題に移ってからも大臣夫人はまったく悪びれる様子はなく、逆に「迷惑している」と訴えた。
「マスコミは何でもかんでも大袈裟に報じます。私の名前を出せば、新聞や雑誌は売れ、テレビの視聴率も上がるからです」
「あなたのような人は、めったにいないからでしょう」とミカエル。
「確かに、成功した企業家の娘、また閣僚の妻として、それなりの有名税は甘んじて支払いますが、やっぱり我慢にも限界があります」と夫人。
ミカエルは皮肉も通じない夫人に呆れ、シバの女王に目で助けを求めた。
「では、事実関係の確認をさせてください。
あなたの芸能人等との不適切な交際を公にしないために、政府与党が関与したことをご存じですか?」
シバの女王の質問で、夫人の表情が一気に曇った。
「まあ、おそろしい。尋問を受ける犯罪者のようだわ。政府与党の関与など存じ上げません」
「あなたのお眼鏡にかなったせいで、自らの意思に反しながらも、不適切な交際を強要された人がいることをご存じですか?」
「存じません!」
「あなたとの不適切な交際のあと、明らかに不自然でも、徹底して、仕事で優遇されたり、逆に冷遇されたりする人がいることをご存じですか?」
「存じません」
質問者がミカエルに代わる。
「いわゆる関係者との不適切な交際がきっかけで懇意になり、あなたが顧問に就任した健康関連企業が、まもなく、万博にからむ大型の公共事業を随意契約で受注したことをご存じですか?」
「……くわしくは、存じません」
「いわゆる関係者との不適切な交際がきっかけで懇意になり、あなたが理事として広告塔になった養子縁組斡旋事業者が、海外の富裕な小児性愛者向けに、多くの子どもたちを売買していたことをご存じですよね?」
「……当時は、存じませんでした。本当です」
ベリアルが楽しそうに夫人に加勢した。
「私は夫人を疑ってはいません。夫人は、それが不倫かどうかはさておき、思いのままに人を愛し、また愛されただけです。
その余波である被害や不祥事などについては、何もご存じないでしょう。なぜなら、誰も知らせませんから……」
「確かに、知らなかったということなら……」
夫人を擁護しようとするソロモンをミカエルが制す。
「知らない、知らなかった、では済まされない問題があります!」
「もう少し、ご自身のお立場をわきまえる必要があるかと……」
シバの女王の控えめな苦言は、夫人の癇に障った。
「私が財閥令嬢かつ大臣夫人であるという社会的な立場の優位性を否定するつもりはありません。事実ですから。
ただ、私が親しい交際をさせていただく人たちは、みなさん私の立場にも増して、私個人の人間性に好意をもってくださっているのです」
「何を根拠に?」とミカエル。
「みなさん、そう仰います」と夫人。
失笑するミカエルに、夫人は語気を強める。
「では伺います。
どうして、私のお誘いを誰も断らなかったのでしょうか。またどうして、お誘いを受けた私は誰からも歓待されたのでしょうか。
私は誰かに何かを無理強いしたことも、されたこともありません。
結果論として、企業等の不祥事の原因を私にこじつけるのも結構ですが、これ以上、何をわきまえろと仰るのでしょうか!」
再び、ベリアルが楽しそうに夫人に加勢する。
「その通り。嫌なら嫌、駄目なら駄目と言われなければわからない。
また、知らぬ間に企業の腐敗に立場を悪用されたとすれば、夫人はむしろ被害者で、責を問うのは筋違いでしょう」
頷く夫人に対して、今度はシバの女王が反論した。
「特権階級であるあなたの誘いを、断りたくても断れない人がいるのです。また、あなたに取り入るためには、手段を選ばない人もいます。
そのような人たちの歪んだ忖度や奸計を、言外の意を汲まず、純粋な好意として鵜吞みにするのは、やはり、ご自身の特権の上にあぐらをかいた軽率な判断と言えましょう」
大臣夫人が席を蹴った。
「何て失礼な、属国の女王の分際で!」
そう言い放つと、ソロモンがとりなす間もなく宮殿を後にした。
マリー・アントワネットの悪評
大臣夫人を招いた翌日のソロモン王の執務室。
「夫人のご機嫌を損ねてしまいました」とシバの女王。
「プライドの高い人だからな。女王が気にすることはない。
しかし、夫人の父上からも、それとなく抗議の連絡があったよ」
ソロモン王は頭をかいた。
「今後の献金に影響を及ぼします。関係修復を急ぎましょう」とベリアル。
「それでは国民に示しがつきません!」とミカエル。
ソロモン王が、恥を忍んで言った。
「ミカエルの言う通り、大臣夫人の行動は不謹慎だと私も思う。
ただ、かく言う私も、周囲からちやほやされれば気持ちがいいし、羽目を外して遊ぶこともままある。
ほかより不謹慎さが悪目立ちするタイプの夫人ばかりが責めを負うべきか否か、正直なところよくわからない。女王はどう思う?」
途方に暮れると、シバの女王に頼るのがソロモン王の常であった。
シバの女王が応じた。
「私の見識など高が知れています。それならば王様、温故知新と申します。
歴史上の人物のお話を聞いてみてはいかがでしょうか。
何か解決の手がかりがつかめるかもしれません」
ソロモン王は身を乗り出した。
「それは妙案だ。霊界とつながっている天使のミカエルや悪魔のベリアルの手を借りれば、どんな故人も現世に召喚することができる。
で、誰を呼び寄せる?」
しばらく思案してから、シバの女王はある先人の名を告げた。
「王様は、マリー・アントワネットをご存じですか?」
「聞いたことはあるような……」とソロモン王。
王の「聞いたことはあるような」は「知らぬ」を意味する返答である。
『そもそも、天賦の「知恵」はあれども、勉学による「教養」のない王様が「知らぬ」というのは想定内のこと。
歴史的な予備知識などはなくとも、ソロモン様なら先人との対話の中からきっと「肝心なこと」を読み取られるに違いない』
女王は召喚をすすめ、王はミカエルとベリアルにそれを命じた。
その夜の晩餐に、マリー・アントワネットは霊界から招待された。
シバの女王がソロモン王に紹介する。
「フランス国王ルイ十六世の王妃、マリー・アントワネット様です」
「ようこそお越しいただきました」
ソロモンが歓迎する。
「悪名高き私に何の御用でしょう?」
華やかな容姿に似合わぬアントワネットの自嘲は、何も知らないソロモンを驚かせた。
「悪名が高いのですか? そうは見えませんが……」
「ソロモン様はご存じないようなので、恥を忍んで申し上げます。
私は、オーストリアから当時財政が厳しかったフランス王室に政略結婚で嫁ぎながら周囲と軋轢を起こし、その気晴らしに夜ごと仮面舞踏会や賭博に興じていました」
「それは若気に至りにすぎません」とベリアル。
「私は、錠前づくりが趣味の地味でお人好しの夫、ルイ十六世を裏切って、スウェーデンのフェルセン伯爵と浮気をしました」
「それは浮気ではなく、本当の恋だったのでは?」とシバの女王。
パンがなければお菓子を…
アントワネットの自嘲は、なおも続いた。
「私の浪費と悪評はどこまでも膨れ上がり、ついに虐げられていた市民たちの不満が爆発。フランス革命によって王室は崩壊いたしました」
「何ですと!」
それまで静かに聞いていたソロモン王が大声をあげた。
なぜなら、王国の主にとって最大の脅威は、王制を終焉させる「革命」にほかならないからである。
「あなたのせいで革命が起こったのですか?」
王の問いにはミカエルが答えた。
「それはさすがに言いすぎでしょう。革命は時代の趨勢です」
王にかわって、今度はシバの女王が問いかけた。
「では、私からもお尋ねを。
貧困から食事も満足にできない状況だった市民の怒りに火をつけ、革命の引き金を引いたとされる『あの言葉』についてはいかがですか?」
アントワネットの唇がゆがむ。
「あの言葉とは『パンがなければお菓子を食べればよい』という言葉のことですね」
「何ということを……」
はじめてその言葉を知ったソロモンは頭を抱えた。
「フランス革命のきっかけとなった悪女の異名を彩るにふさわしい暴言ですが、それは私の言葉ではありません」
嘘をついているようには見受けられない落ち着いたアントワネットの証言に、ソロモンはじめ一同が胸をなでおろした。
「同時代の哲学者、ルソーの『告白』の中に言葉の原典はあるそうですが、くわしいことは知りません。
ただ、後世においてそれが私の発した暴言として流布されているのであれば、やはり不徳の致すところです」
思いもよらぬアントワネットの自戒の弁に、ソロモンは戸惑いながら言葉を返した。
「着せられた濡れ衣の責任まで負う必要はありませんよ」
「ソロモン様は、お優しいんですね」
ほころぶアントワネットの可憐な微笑がソロモンを魅了した。
「でも、あのマリー・アントワネットなら『然もありなん』と誰もが信じたからこそ、濡れ衣がのちの世まで語り伝えられたのです。
私は、わずか十四歳で王太子妃になり、十八歳で王妃になった世間知らずの娘でした。
慣れないフランスの宮廷生活で、理不尽な苦労もさせられましたが、同じように、身勝手な行動で周囲を振り回しました。
誰かに陰口を囁かれることがあっても、フランス王妃という絶対の権威によって立場は守られ、結局は私のわがままが肯定されていたのです。
そして、特権に守られた貴族が支配する社会構造を根こそぎ覆すフランス革命によって、はじめて私は真摯な後悔や反省を経験しました。
大衆の非難に晒されながら、断頭台で生涯の最期を迎えたのも、自業自得だと思っています……」
アントワネットは話し終えると、青い瞳に滲んだ涙を(彼女の案でその形を正方形に統一した)ハンカチでぬぐった。
「そんなにご自分を責めないでください。
言いづらいことも含めて、貴重なお話を有難うございました」
ソロモンはアントワネットの肩に手を添えて慰めた。
ソロモンの審判
マリー・アントワネットの話を聞いた数日後、立場をわきまえない夫人の一件について、ソロモンは王国の君主の名において審判を下した。
それは、夫である衛生大臣と父親である財閥会長の無期限の公職追放と、それにともなう親族のあらゆる特権の剥奪であった。
宮殿前の広場に向けて演説をすることもできる執務室の広いバルコニーに出て、ソロモン王は厳しい面持ちで都を睥睨していた。
王のそばに寄り添うようにしてシバの女王がバルコニーに姿をあらわし、ミカエルとベリアルもそれに続いた。
女王が王に問いかけた。
「夫人本人でなく、その夫や父親の責を問うとは驚きました。
よろしければ王様の審判の意図をご教示ください」
厳しい表情のまま王はこたえた。
「マリー・アントワネットの話が参考になった。
国民から忌み嫌われた挙句、ギロチンで処刑されるアントワネットの悲劇を招いた要因は、時代の趨勢もさることながら、フランス王妃として図らずも手にした『世間知らずを許される特権』だったのではなかろうか。
特権のスケールはくらべるまでもないが、夫人のわがままな行動の要因も同じようなものだろう。
そしてその余波として起きた『夫人が巻き込まれたトラブル』の責任は、夫人本人ではなく、彼女に仕える周囲の者たちが負わされている。
それは降格や左遷にとどまらず、因果関係は定かではないが、自死にまで追い込まれたスタッフもいるとかいないとか……。
それでもなお、夫人は反省をしないし、我慢もできない。
それこそが、財閥令嬢や大臣夫人として図らずも手にした『世間知らずを許される特権』が生んだ、思い上がりだ」
処分が夫人というよりも、むしろ夫や父親に重く課せられたことに疑念をもっていたミカエルが手を打った。
「たとえ問題が起きても、『よく知らない自分』は悪くないと開き直ることができる彼女の特権意識を失くすための、夫や父親の公職追放なのですね」
ソロモンが頷く。
「夫の政界や父親の財界での威光がなくなれば、世間は夫人のわがままに、過剰な忖度を働かせる必要はなくなる。
また、これは言うまでもなく、彼女の立場を利用しようとしていた悪質な取り巻きたちも離れてゆくだろう」
ソロモンの言葉通り、審判が下されてから夫人の周囲では、それまで彼女との親密な関係を誇示していた者たちを筆頭に、今度は誰もが関係の希薄さを声高に主張するようになっていた。
ベリアルが口を挟んだ。
「それにしても、処分が厳しすぎるような気がするのですが……」
ソロモンがこたえた。
「夫人の特権意識は、たとえ本人に悪気はなくても問題で、危険だ。
夫は近い将来の首相候補として期待されている逸材だ。
場合によっては、ファーストレディーとなった彼女の悪気はなく、むしろ『良かれと思った』浅はかで身勝手な言動が暴走して、国益を損ねるような大事を招いてしまうおそれもあるのだ。
夫人の『世間知らず』が手遅れになる前に、『自分を律する』習慣を覚えてもらわなければなるまい」
再びベリアルが口を挟む。
「しかし、あちらも死活問題ですから、夫の政界や父親の財界からの反発は必至です。王室も少なからず打撃を受けることになるのでは?」
ソロモンは表情を和らげ、ベリアルの懸念を払拭した。
「いや、大臣や会長には、事前に相談して話はつけてある。
実は、彼らも以前からその妻や娘の『奔放さ』に手を焼いていたものの、目が届かぬことも多く、何とかしなければと腐心していたらしい。
家族でダメージを負う荒療治だが、彼らは私の考えを受け入れてくれた。何だかんだいって、家族に愛されている彼女は幸せ者だね。
もちろん無期限とはいっても、彼女の反省や変化の状況を見て、公職追放は解除するつもりだから心配は無用だ」
ベリアルは納得した。
が、ミカエルが独り言のようにつぶやく。
「実の親である会長が娘の荒療治に協力するのはともかく、政略結婚の妻に浮気をされ放題の大臣の胸中は、いかがなものでしょう?」
声を潜めてベリアルが応じた。
「ふたりの仲は睦まじいのですが、大臣は同性愛者で、夫人にさみしい思いをさせている負い目があるという噂があります」
ベリアルとミカエルの噂話を聞き流しながら、シバの女王は、あらためてソロモン王の知恵に感心し、自分のことを「属国の女王の分際で」と檄して罵った夫人の顔を思い出していた。
(第2話)https://note.com/sin_sen/n/nc3cd8f5ebf46
(第3話)https://note.com/sin_sen/n/n4d5290cba81c
(第4話)https://note.com/sin_sen/n/n94009883fd94
(第5話)https://note.com/sin_sen/n/nd3e83543f973
(第6話)https://note.com/sin_sen/n/n21eb800603a9
(第7話)https://note.com/sin_sen/n/n4cd7dec35a16
(第8話)https://note.com/sin_sen/n/na8d5c7e7afd9
(第9話)https://note.com/sin_sen/n/n1311bad00a03
(第10話)https://note.com/sin_sen/n/n6de48e5599d3
(第11話)https://note.com/sin_sen/n/na3db36f8d5f4
