「Solaria 第十話|さくら覚醒(後編)」

「Solaria 第一話|はじまりの坂」(前編)
「Solaria 第一話|はじまりの坂」(後編)
「Solaria 第二話|衝突の先にある光」
「Solaria 特別編 |坂の上の学園」
「Solaria 第三話|バラバラのリズム」
「Solaria 第四話|届かない声」
「Solaria 第五話|ひとつのステップ」
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放課後。
ダンス練習室。
静かな空気。
誰も、すぐには動かない。
昨日の練習の空気が、まだ残っている。
「……やろっか」
ひなたが言う。
明るく。
でも、無理にじゃない。
音楽が流れる。
立ち位置につく5人。
さくらは、少しだけ深呼吸をする。
(大丈夫)
そう言い聞かせる。
イントロ。
体が動き出す。
ステップ。
ターン。
そして——
歌。
(……出す)
声を、出す。
一瞬だけ、詰まる。
でも。
止まらない。
(止めない)
声が、震える。
それでも。
前に出る。
「——Shining Start!」
響いた。
昨日よりも、確かに。
でも——
「ストップ」
音が止まる。
あかり。
「……まだ甘い」
静かな声。
空気が、張り詰める。
「歌えてる」
「でも——」
一歩、近づく。
「“守ってる”」
さくらの心が、揺れる。
「……え」
「怖いのはわかる」
あかりの目は、まっすぐだった。

「でも、それじゃ届かない」
「ステージは」
「優しくない」
沈黙。
ひなたが、歯を食いしばる。
でも——
何も言わない。
言えない。
あかりの言葉が、正しいから。
さくらは、うつむく。
(守ってる……)
その言葉が、刺さる。
(私……)
(まだ、逃げてる)
(屋上)
夕方。
一人。
風が強い。
さくらは、フェンスを握る。
(どうしたらいいの)
声が出るようになった。
でも。
怖さは、消えていない。
(また、あんなふうに)
あの声…フィードバック…
『似てない』
『違う』
頭の中に、蘇る。
耳を塞ぎたくなる。
「……違う」
小さく、呟く。
「違う……!」
顔を上げる。
空。
広い。
どこまでも。
そのとき。
「さくら」
声。
振り向く。
ひなた。
息を少し切らしている。
「……また来たの?」
少しだけ、笑う。
ひなたも、笑う。
「うん」
隣に並ぶ。
何も言わない。
風の音。
しばらくして。
「ねえ」
ひなたが、空を見たまま言う。
「さくらの歌ってさ」
「優しいよね」
さくらが、少しだけ目を見開く。
「……え?」
「なんていうか」
「包まれる感じ」
「安心する」
「でも——」
少し間。
「それだけじゃ、もったいない」
さくらの心が、揺れる。
「さくらの中にさ」
「もっと、いっぱいあるでしょ?」
ひなたが、真っ直ぐ見る。
「悔しいとか」
「悲しいとか」
「苦しいとか」
「全部」
「歌にしていいんだよ」
その言葉。
胸に、落ちる。
(全部……)
今まで。
隠してきた。
抑えてきた。
出さないようにしてきた。
でも。
「……怖いよ」
震える声。
「出したら……」
「また、笑われるかもしれない」
ひなたは、すぐに答えない。
少し考えて。
「じゃあさ」
にっと笑う。
「笑わせればいいじゃん」
「え?」
「“うまくて笑うしかない”ってやつ」
一瞬。
さくらが、ぽかんとする。
そして。
小さく、笑う。
その笑顔は。
少しだけ、軽くなっていた。
「……なにそれ」
「いいでしょ?」
ひなたが笑う。
「さくらならできるよ」
迷いのない声。
その言葉が——
背中を、押す。
さくらは、目を閉じる。
深呼吸。
そして。
歌う。
最初は、小さく。
でも。
すぐに、強くなる。
(怖い)
(でも)
(逃げない)

声が、伸びる。
空に、響く。
涙が、こぼれる。
でも。
止まらない。
(これが——)
(私の歌)
ひなたが、隣で笑う。
何も言わない。
ただ、聴いている。
その歌は。
もう、震えていなかった。
(翌日)
ダンス練習室。
「いくよ」
あかり。
音楽が流れる。
踊る。
そして——
歌。
さくらが、顔を上げる。
迷いは、ない。
声を、出す。
「――Shining Start!!」
響いた。
まっすぐに。
強く。
感情ごと。
空気が、変わる。
全員が、気づく。
違う。
昨日とは、まるで違う。
歌い終わる。
静寂。
そして。
あかりが、口を開く。
「……いいじゃん」
それだけ。
でも。
それが、すべてだった。
さくらが、少しだけ笑う。
涙が、まだ残っている。
でも——
前を向いている。
「もう一回やるよ!」
ひなたの声。
全員が、動く。
音楽が流れる。
今度は。
5人の音が、揃っていた。
光が、ひとつになる。
第十話 さくら覚醒(後編) (終)
▶ Solaria 第十一話|
― 知らなかった事実 ― へ続く
