見出し画像

中学でも分かる⑯「線形性」

 「線形性」とは、中学・高校数学の中にも現れる、基本的な性質の一つです。具体的にどのような性質なのか、解説していきましょう。


線形性とは?

 まずは、関数 $${f}$$ について線形性の定義を与えます。抽象的な定義ですが、すぐに具体例をあげていきます(関数 $${f(x)}$$ という表記については、中学でも分かる①「微分法」)。

<線形性の定義>

 関数 $${f}$$ が次の2つの性質を満たすとき、このような性質を線形性といいます。

加法性 $${f(x+y)=f(x)+f(y)}$$
同次性 $${f(cx)=cf(x)}$$ $${c}$$ は任意の実数

***

 加法性とは、「足してから関数に代入するのと、関数に代入してから足すのは同じ」という性質です。

 同次性とは、「$${c}$$ 倍してから関数に代入するのと、関数に代入してから $${c}$$ 倍するのは同じ」という性質です。

 「同次」とは、入力を $${c}$$ 倍すると出力も $${c}$$ 倍と、同じ定数倍になることを意味します。
 この加法性と同次性の両方を満たすとき、線形性をもつといえます。どちらか一方、または両方を満たさないときは、線形性をもちません。
 例えば、関数 $${f(x)=2x}$$ について考えましょう。これは、入力された値 $${x}$$ を $${2}$$ 倍にして出力する関数です。

$$
\begin{align*}
x \xrightarrow[2  倍]{\hspace{4pt}f(x)\hspace{4pt}} 2x
\end{align*}
$$

 この関数は線形性をもつでしょうか?
 まずは加法性を確認します。$${f(x+y)}$$ と $${f(x)+f(y)}$$ を別々に計算して、等しくなるかを確認します。すると
 $${f(x+y)=2(x+y)=2x+2y}$$
 一方
 $${f(x)+f(y)=2x+2y}$$
より、$${f(x+y)=f(x)+f(y)}$$ が成り立つので加法性をもちます。
 次に、同次性を確認します。$${f(cx)}$$ と $${cf(x)}$$ を別々に計算して、等しくなるかを確認します。すると
 $${cf(x)=c\cdot 2x=2cx}$$
 一方
 $${f(cx)=2\cdot cx=2cx}$$
より、$${f(cx)=cf(x)}$$ が成り立つので同次性ももちます。
 以上により、加法性と同次性の両方を満たすので、関数 $${f(x)=2x}$$ は線形性をもつといえます。
 関数 $${f(x)=2x}$$ が線形性をもつイメージ図を、下図で与えましょう。

 加法性について、$${f(1)+f(2)=f(1+2)}$$ は成り立つ。

 同次性について、$${f(3\cdot1)=3f(1)}$$ は成り立つ。

 では次に、関数 $${f(x)=2x+1}$$ について考えます。これは、入力された値 $${x}$$ を $${2}$$ 倍してから $${1}$$ を足して出力する関数です。

$$
\begin{align*}
x \xrightarrow[\tiny 2  倍して  1  を足す]{\hspace{6pt}f(x)\hspace{6pt}} 2x+1
\end{align*}
$$

 この関数 $${f(x)=2x+1}$$ は線形性をもつでしょうか?
 加法性は
 $${f(x+y)=2(x+y)+1=2x+2y+1}$$
 $${f(x)+f(y)=(2x+1)+(2y+1)=2x+2y+2}$$
より、$${f(x+y)\ne f(x)+f(y)}$$ となるので加法性をもちません。
 この時点で $${f(x)=2x+1}$$ は線形性をもたないことは示されますが、同次性も確認してみましょう。すると
 $${f(cx)=2(cx)+1=2cx+1}$$
 $${cf(x)=c\cdot(2x+1)=2cx+c}$$
より、$${f(cx)\ne cf(x)}$$ となるので同次性ももちません。
 以上により、関数 $${f(x)=2x+1}$$ は線形性をもちません。線形性をもたないことを示すには、加法性と同次性のどちらか一方が成り立たないことを示せば十分です。
 関数 $${f(x)=2x+1}$$ が線形性をもたないイメージ図を、下図で与えましょう。

 加法性について、$${f(1)+f(2)=f(1+3)}$$ は成り立たない。

 同次性について、$${f(3\cdot1)=3f(1)}$$ は成り立たない。

 さらに、関数 $${f(x)=x^2}$$ について考えます。これは、入力された値 $${x}$$ を $${2}$$ 乗して出力する関数です。

$$
\begin{align*}
x \xrightarrow[2  乗]{\hspace{4pt}f(x)\hspace{4pt}} x^2
\end{align*}
$$

 この関数 $${f(x)=x^2}$$ は線形性をもつでしょうか?
 加法性は
 $${f(x+y)=(x+y)^2=x^2+2xy+y^2}$$
 $${f(x)+f(y)=x^2+y^2}$$
より、$${f(x+y)\ne f(x)+f(y)}$$ となるので加法性をもちません。
 この時点で $${f(x)=x^2}$$ に線形性がないことは示されますが、同次性も確認してみましょう。すると
 $${f(cx)=(cx)^2=c^2x^2}$$
 $${cf(x)=c\cdot x^2=cx^2}$$
より、$${f(cx)\ne cf(x)}$$ となるので同次性ももちません。
 以上により、関数 $${f(x)=x^2}$$ は線形性をもちません。
 関数 $${f(x)=x^2}$$ が線形性をもたないイメージ図を、下図で与えましょう。

 加法性について、$${f(1)+f(2)=f(1+3)}$$ は成り立たない。

 同次性について、$${f(3\cdot1)=3f(1)}$$ は成り立たない。

 結果をまとめておきましょう。
・$${f(x)=2x}$$ は線形性をもつ。
・$${f(x)=2x+1}$$ は線形性をもたない。
・$${f(x)=x^2}$$ は線形性をもたない。

例題1

(1) 関数 $${f(x)=ax}$$ は、線形性をもつか確認しなさい。
 ただし、$${a}$$ は任意の実数。
(2) 関数 $${f(x)=x+b}$$ は、線形性をもつか確認しなさい。
 ただし、$${b}$$ は $${0}$$ 以外の任意の実数。

解答

(1) 加法性は
 $${f(x+y)=a(x+y)=ax+ay}$$
 $${f(x)+f(y)=ax+ay}$$
より、$${f(x+y)=f(x)+f(y)}$$ となるので満たします。
 同次性は
 $${cf(x)=c\cdot ax=acx}$$
 $${f(cx)=a\cdot cx=acx}$$
より、$${f(cx)=cf(x)}$$ となるので満たします。
 以上により、関数 $${f(x)=ax}$$ は線形性をもちます。
(2) 加法性は
 $${f(x+y)=(x+y)+b=x+y+b}$$
 $${f(x)+f(y)=(x+b)+(y+b)=x+y+b+b=x+y+2b}$$
より、$${f(x+y)\ne f(x)+f(y)}$$ となるので満たしません。よって、関数 $${f(x)=x+b}$$ は線形性をもちません。
 ちなみに同次性も
 $${f(cx)=cx+b}$$
 $${cf(x)=c(x+b)=cx+bc}$$
より、$${f(cx)\ne cf(x)}$$ となるので満たしません。

$${\blacksquare}$$

 線形性を満たす関数 $${f(x)}$$ は $${f(x) = ax}$$ の形に限られ、そのグラフは、原点を通る直線になります。

高校数学に現れる線形性

 実は中学・高校数学のなかに、人知れず線形性が現れます。それをみていきます。まずは、先にやった線形性の定義を再掲します。

<線形性の定義>(再掲)

 関数 $${f}$$ が次の2つの性質を満たすとき、このような性質を線形性といいます。

加法性 $${f(x+y)=f(x)+f(y)}$$
同次性 $${f(cx)=cf(x)}$$ $${c}$$ は任意の実数

***

 ここまでは、$${f}$$ は $${f(x)=2x}$$ といった具体的な「関数」として扱ってきました。ここからは、$${f}$$ は具体的な関数のみではなく、一般に「作用(演算)」を表すものとします。
 それを踏まえ、より一般的に扱えるように、線形性の定義を次のように拡張します。ここからは、この一般的な定義を採用します。

<線形性の定義(一般的)>

 作用 $${f}$$ が次の2つの性質を満たすとき、このような性質を線形性といいます。

加法性 $${f(x+y)=f(x)+f(y)}$$
同次性 $${f(cx)=cf(x)}$$ $${c}$$ は任意の実数

***

 前の定義の「関数」の部分を「作用」に変えています。
 この定義で作用 $${f}$$ と表現しているものは、「何かを受け取って、それに対して特定の演算を行い、新しい何かを生み出すもの」と考えるとよいでしょう。例えば、$${f(x)=2x}$$ のように、数を代入すること(受け取ること)によって別の数に変える「関数」も、その作用のひとつです。

$$
\begin{align*}
\\[-14pt]
x=3 \xrightarrow[代入]{\hspace{3pt}作用  f(x)=2x\hspace{3pt}} f(3)=6
\end{align*}
$$

 この作用 $${f}$$ は、様々な場面で見られます。例えば、微分や積分の計算は、関数を受け取って、その演算によって新しい関数を生み出します(中学でも分かる①「微分」、➁「積分」)。
 また、ベクトル同士の内積も、2つのベクトルを受け取って、その演算によって1つの数(スカラー)を生み出します(中学でも分かる⑫「ベクトル」)。
 よって、微分や積分、内積といった計算は、作用 $${f}$$ としてとらえることができます。
 また、作用させる対象は要素という言葉で表します。

$$
\begin{align*}
\\[-14pt]
\underset{\tiny 要素}{x} \xrightarrow[]{\hspace{6pt}作用  f\hspace{6pt}} x'
\end{align*}
$$

 なお、ここで言う要素とは、数だけでなく、関数やベクトルといった「計算や操作の対象となるもの」全般を指します。
 例えば
・微分や積分を考えるとき、関数を微分したり積分したりするので、この場合の要素は関数です。
・内積を考えるとき、ベクトル同士で計算をするので、この場合の要素はベクトルです。

 このように、何を扱うかによって、要素となるものは様々なものになります。

 つまり線形性とは、
 「要素を足してから $${f}$$ を作用させるのと、要素に $${f}$$ を作用させてから足すのは同じ」
という加法性と
 「要素を $${c}$$ 倍してから $${f}$$ を作用させるのと、要素に $${f}$$ を作用させてから $${c}$$ 倍するのは同じ」
という同次性の、両方を満たす性質ということができます。
 以下、高校数学に現れる線形性を具体的にみていきましょう。

微分の線形性

 微分は次のような作用と考えます。

$$
\begin{align*}
f(x) \xrightarrow[微分]{\hspace{6pt}\dfrac{d}{dx}\hspace{6pt}} \dfrac{d}{dx}f(x)
\end{align*}
$$

 「関数 $${f(x)}$$ に微分 $${\dfrac{d}{dx}}$$ を作用させると、新しい関数 $${\dfrac{d}{dx}x^3}$$ になる」ということです。線形性の定義において、作用 $${f}$$ に相当するものが微分 $${\dfrac{d}{dx}}$$ になり、要素 $${x}$$ に相当するものが関数 $${f(x)}$$ になります。

$$
\begin{align*}
\underset{要素}{f(x)} \xrightarrow[微分]{\hspace{5pt}作用  \dfrac{d}{dx}\hspace{5pt}} \dfrac{d}{dx}f(x)
\end{align*}
$$

 例えば $${f(x)=x^3}$$ とすると、$${\dfrac{d}{dx}x^3=3x^2}$$ より

$$
\begin{align*}
x^3 \xrightarrow[微分]{\hspace{6pt}\dfrac{d}{dx}\hspace{6pt}} 3x^2
\end{align*}
$$

となります。「関数 $${x^3}$$ に微分 $${\dfrac{d}{dx}}$$ を作用させると、新しい関数 $${3x^2}$$ になる」ということです。
 この微分は、次のように線形性をもちます。

$$
\begin{align*}
&{\bf 加法性} \frac{d}{dx}\{f(x)+g(x)\}=\frac{d}{dx}f(x)+\frac{d}{dx}g(x)\\[8pt]
&{\bf 同次性} \frac{d}{dx}cf(x)=c\frac{d}{dx}f(x)
\end{align*}
$$

 「関数を足してから微分しても、関数を微分してから足しても同じ」という加法性、「関数を $${c}$$ 倍してから微分しても、関数を微分してから $${c}$$ 倍しても同じ」という同次性、この両方の性質を満たしているので、微分は線形性をもつといえます。
 なお、この関係式は、中学でも分かる①「微分法」の、<微分の公式2> 1. と 2. ですでにふれています。これを用いた具体的な計算例を示しているので、気になる方はそちらをご覧ください。

 この要領で、高校数数学に現れる線形性をいくつか紹介していきます。

不定積分の線形性

$$
\begin{align*}
&{\bf 加法性} \int\{f(x)+g(x)\}dx=\int f(x)dx+\int g(x)dx\\[8pt]
&{\bf 同次性} \int cf(x)=c \int f(x)dx
\end{align*}
$$

「関数を足してから積分しても、関数を積分してから足しても同じ」という加法性、「関数を $${c}$$ 倍してから積分しても、関数を積分してから $${c}$$ 倍しても同じ」という同次性、この両方の性質を満たしているので、不定積分は線形性をもつといえます。
 なお、この関係式は、中学でも分かる➁「積分法」の<積分公式2> 1. と 2. ですでにふれています。これを用いた具体的な計算例を示しているので、気になる方はそちらをご覧ください。

定積分の線形性

 不定積分と同様に、定積分も線形性をもちます。

$$
\begin{align*}
&{\bf 加法性} \int_a^b \{f(x)+g(x)\}dx=\int_a^b f(x)dx+\int_a^b g(x)dx\\[8pt]
&{\bf 同次性} \int_a^b cf(x)=c \int_a^b f(x)dx
\end{align*}
$$

 ただし、積分範囲(下限 $${a}$$ と上限 $${b}$$)が、すべて同じであることが条件となります。

関数の極限の線形性

 $${\displaystyle\lim_{n\to\infty}f(n)}$$ と $${\displaystyle\lim_{n \to \infty} g(x)}$$ が、ともに有限の値(極限値)として存在するとき

$$
\begin{align*}
&{\bf 加法性} \lim_{x\to\infty} \{f(x)+g(x)\}= \lim_{x\to\infty}f(x)+\lim_{x\to\infty}g(x)\\
&{\bf 同次性} \lim_{x\to\infty}\{cf(x)\}=c\lim_{x\to\infty}f(x)
\end{align*}
$$

 「関数を足してから極限を取っても、関数の極限を取ってから足しても同じ」という加法性、「関数を $${c}$$ 倍してから極限を取っても、関数の極限を取ってから $${c}$$ 倍しても同じ」という同次性、この両方の性質を満たしているので、極限を取る操作は線形性をもつといえます。
 なお、線形性をもつための前提となる条件は、$${\displaystyle\lim_{n\to\infty}f(n)=a}$$ かつ $${\displaystyle\lim_{n \to \infty} g(x)=b}$$ のように、それぞれの関数に極限値が存在することであることに注意してください(中学でも分かる①「微分」)。
 加法性における足し算は、具体的に定まった極限値を足し合わせる行為を指し、同次性における実数倍も、極限値という具体的な数値に対して行う操作です。極限値が存在しなければ、その計算の対象が不明確になります。

内積の線形性

 内積とは、2つのベクトル $${\vec{a},  \vec{b}}$$ のなす角を $${\theta}$$ に対して
 $${\vec{a}\cdot\vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta}$$
として定義される量です。内積の値は実数値(スカラー)となります(中学でも分かる⑫「ベクトル」)。


 $${|\vec{a}|=3、|\vec{b}|=2}$$、$${\vec{a}}$$ と $${\vec{b}}$$ のなす角が $${\theta=60\degree}$$ のとき、$${\cos60\degree=\dfrac{1}{2}}$$ より

$$
\begin{align*}
\vec{a}\cdot\vec{b}&=|\vec{a}||\vec{b}|\cos60\degree\\
&=3\cdot\cancel{2}\cdot\dfrac{1}{\cancel{2}}\\
&=3
\end{align*}
$$

 内積を取る操作は、片方のベクトルを固定すると、もう一方のベクトルに対し線形性をもちます。つまり、任意のベクトル $${\vec{b},  \vec{c}}$$ と実数 $${c}$$ に対して、$${\vec{a}}$$ を固定した場合の線形性は次のようになります。

$$
\begin{align*}
&{\bf 加法性} \vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}\\
&{\bf 同次性} \vec{a}\cdot c\vec{b}=c\,(\vec{a}\cdot\vec{b})
\end{align*}
$$

 「足してから内積を取っても、内積を取ってから足しても同じ」という加法性、「$${c}$$ 倍してから内積を取っても、内積を取ってから $${c}$$ 倍しても同じ」という同次性、この両方の性質を満たしているので、(片方のベクトルを固定して)内積を取る操作は線形性をもつといえます。

(発展)双線形性

 「片方のベクトルを固定する」という意味について。
 内積 $${\vec{a}\cdot\vec{b}}$$ は2つのベクトルによる演算であり、 $${\vec{a}\cdot\vec{b}}$$ の $${\vec{a}}$$ の方を第1ひきすう、$${\vec{b}}$$ の方を第2ひきすうといいます。前述の線形性は、第1引数(下記の $${\vec{a}}$$)を固定した場合です。

$$
\begin{align*}
&{\bf 加法性} \underset{\tiny 固定}{\vec{a}}\hspace{-2pt}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}\\
&{\bf 同次性} \underset{\tiny 固定}{\vec{a}}\hspace{-2pt}\cdot c\vec{b}=c\,(\vec{a}\cdot\vec{b})
\end{align*}
$$

 第2引数(下記の $${\vec{b}}$$)を固定した場合の線形性は、次のようになります。

$$
\begin{align*}
&{\bf 加法性} (\vec{a}+\vec{c})\cdot\hspace{-2pt}\underset{\tiny 固定}{\vec{b}}=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{c}\cdot\vec{b}\\
&{\bf 同次性} c\vec{a}\cdot\hspace{-2pt}\underset{\tiny 固定}{\vec{b}}=c\,(\vec{a}\cdot\vec{b})
\end{align*}
$$

 以上のように、内積は、片方のベクトルを固定したときに、もう一方のベクトルに対して線形性をもちます。この性質のことを双線形性といいます。「引数が1つ」のときは線形性、「引数が2つで、そのどちらを固定しも線形性が成り立つ性質」が双線形性です。つまり、ベクトルの内積は(厳密には線形性ではなく)双線形性をもつといえます。

1次変換の線形性

 前回やった1次変換にも線形性があります。復習として、1次変換の定義を与えます(中学でも分かる⑮「一次変換」)。

<1次変換の定義>(復習)

 $${a,  b,  c,  d}$$ を定数として

$$
\begin{align*}
x'&=ax+by\\
y'&=cx+dy
\end{align*}
$$

によって点 P$${(x,  y)}$$ と点 Q$${(x',  y')}$$ と の関係を定めると、座標平面上の1つの変換が得られます。
 一般に、この形の式によって表される変換

$$
f:(x,  y) \longrightarrow (x',  y')
$$

1次変換といいます。1次変換 $${f}$$ は、行列を用いると

$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
x' \\ y'
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
a & b \\  c & d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x \\ y
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$

と表すことができます。つまり、変換 $${f}$$ は行列

$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
a & b \\ c & d
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$

によって定まるので、$${f}$$ を、行列 $${\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}}$$ で表される1次変換といいます。
 また、この行列のことを変換行列とよびます。

***

 すると、一次変換は次のような作用と考えることができます。

$$
\begin{align*}
\begin{pmatrix}
x \\ y
\end{pmatrix}
\xrightarrow[一次変換]{\hspace{6pt}
\begin{pmatrix}
a & b \\ c & d
\end{pmatrix}\hspace{6pt}}
\begin{pmatrix}
x' \\ y'
\end{pmatrix}
\end{align*}
$$

 線形性の定義において、作用 $${f}$$ に相当するものが変換行列 $${\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}}$$ になり、要素 $${x}$$ に相当するものが列ベクトル $${\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}}$$ になります。
 「列ベクトル $${\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}}$$ に変換行列 $${\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}}$$ を作用させると、新しい列ベクトル $${\begin{pmatrix} x' \\ y' \end{pmatrix}}$$ になる」ということです。

 この一次変換について、次のように線形性をもちます。

$$
\begin{align*}
&{\bf 加法性} \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}
\left\{\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
+\begin{pmatrix} z \\ w \end{pmatrix}\right\}
=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
+\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} z \\ w \end{pmatrix}\\[10pt]
&{\bf 同次性} \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}\left\{c\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\right\}
=c\left\{\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\right\}
\end{align*}
$$

 「列ベクトルを足してから変換行列を作用させても、列ベクトルに変換行列を作用させてから足しても同じ」という加法性、「列ベクトルを $${c}$$ 倍してから変換行列を作用させても、列ベクトルに変換行列を作用させてから $${c}$$ 倍しても同じ」という同次性、この両方の性質を満たしているので、一次変換は線形性をもつといえます。

 なお、上記の例は、作用として2次正方行列、要素として2次の列ベクトルの場合ですが、一般に $${n}$$ 次正方行列における1次変換へと拡張できます。
 つまり、$${A}$$ を $${n}$$ 次正方行列、$${\overrightarrow{X},  \overrightarrow{Y}}$$ を $${n}$$ 次の列ベクトルとすると

$$
\begin{align*}
&{\bf 加法性} A(\overrightarrow{X}
+\overrightarrow{Y})
=A\overrightarrow{X}
+A\overrightarrow{Y}\\
&{\bf 同次性} A(c\overrightarrow{X})
=c(A\overrightarrow{X})
\end{align*}
$$

となります。

”引き算”の関係

 線形性の定義をみると、加法性は足し算がベースになっています。

<線形性の定義>(再掲)
 作用 $${f}$$ が次の2つの性質を満たすとき、このような性質を線形性といいます。

加法性 $${f(x+y)=f(x)+f(y)}$$ $${\small{\leftarrow 足し算がベース}}$$
同次性 $${f(cx)=cf(x)}$$ $${c}$$ は任意の実数

***

 では、次のような引き算の関係、つまり

$$
\begin{align*}
f(x-y)=f(x)-f(y)
\end{align*}
$$

はどう考えればよいでしょうか?
 実は、線形性という特別な性質を持つ作用 $${f}$$ であれば、この引き算の関係も成り立ちます。以下、それを示します。 

引き算の関係の証明

 まず
 $${x-y=x+(-y)}$$
と、引き算は負の数を足すことによって表せるので、$${-y}$$ をひと固まりにすると、$${f}$$ の加法性より

$$
\begin{align*}
f(x+(−y))=f(x)+f(−y) \cdots(*1)
\end{align*}
$$

が成り立ちます。詳しくは、$${-y=y'}$$ と置き換えると、$${(*1)}$$ は

$$
\begin{align*}
f(x+y')=f(x)+f(y')
\end{align*}
$$

より、加法性の定義そのものとなります。
 よって、$${(*1)}$$ より

$$
\begin{align*}
f(x−y)=f(x)+f(−y) \cdots(*2)
\end{align*}
$$

が得られます。
 次に、同次性 $${f(ax)=af(x)}$$ を考えます。これについて $${a=−1}$$ とし、$${x}$$ を $${y}$$ に文字を変えると、次が成り立ちます。

$$
\begin{align*}
f(−y)=−f(y)
\end{align*}
$$

 これを、$${(*2)}$$ の下線部

$$
\begin{align*}
f(x−y)=f(x)+\underline{f(−y)} \cdots(*2)
\end{align*}
$$

代入すると

$$
\begin{align*}
f(x−y)=f(x)−f(y)
\end{align*}
$$

となり、引き算の関係が導かれます。

$${\blacksquare}$$

 このように、加法性と同次性から引き算の関係も成り立ちます。

3つ以上の要素の加法性

 線形性の加法性は、$${x}$$ と $${y}$$ の $${2}$$ つの要素で定義されます。

<線形性の定義>(再掲)
 作用 $${f}$$ が次の2つの性質を満たすとき、このような性質を線形性といいます。

加法性 $${f(x+y)=f(x)+f(y)}$$ $${\small{\leftarrow x  と  y  の  2  つの要素}}$$
同次性 $${f(cx)=cf(x)}$$ $${c}$$ は任意の実数

***

 しかし、線形性をもつ場合、この加法性は、次のように $${3}$$ つの要素に対しても成り立ちます。

$$
\begin{align*}
f(x+y+z)=f(x)+f(y)+f(z)
\end{align*}
$$

 以下、この関係式を示します。 

3つの要素の加法性の証明

 まずは
 $${x+y+z=x+(y+z)}$$
と $${y+z}$$ をひと固まりにすると、$${f}$$ の加法性より

$$
\begin{align*}
f(x+(y+z))=f(x)+f(y+z) \cdots(*3)
\end{align*}
$$

が成り立ちます。詳しくは、$${y+z=y'}$$ と置き換えると、$${(*3)}$$ は

$$
\begin{align*}
f(x+y')=f(x)+f(y')
\end{align*}
$$

より、加法性の定義そのものとなります。
 すると、$${(*3)}$$ の $${f(y+z)}$$ のところでも加法性
 $${f(y+z)=f(y)+f(z)}$$
が成り立つので、これを $${(*3)}$$ の下線部

$$
\begin{align*}
f(x+(y+z))=f(x)+\underline{f(y+z)} \cdots(*3)
\end{align*}
$$

に代入することで

$$
\begin{align*}
f(x+(y+z))=f(x)+f(y)+f(z)
\end{align*}
$$

より

$$
\begin{align*}
f(x+y+z)=f(x)+f(y)+f(z)
\end{align*}
$$

となり、$${3}$$ つの要素の加法性が成り立ちます。

$${\blacksquare}$$

 一般に、$${n}$$ 個の要素について加法性は成り立ちます。つまり、$${n}$$ を $${2}$$ 以上の自然数として

$$
\begin{align*}
f(x_1+x_2+\cdots+x_3)=f(x_1)+f(x_2)+\cdots+f(x_n)
\end{align*}
$$

が成り立ちます。

線形性の他の定義方法

 最初に与えた線形性の定義は次のようなものでした。ここでは、これを<線形性の定義1>とします。

<線形性の定義1>(再掲)
 作用 $${f}$$ が次の2つの性質を満たすとき、このような性質を線形性といいます。

加法性 $${f(x+y)=f(x)+f(y)}$$
同次性 $${f(cx)=cf(x)}$$ $${c}$$ は任意の実数

***

 線形性には他の定義もあり、次のように定義することも可能です。これを<線形性の定義2>とします。

<線形性の定義2>
 作用 $${f}$$ が次の2つの性質を満たすとき、このような性質を線形性といいます。

 $${f(ax+by)=af(x)+bf(y)}$$ $${a,  b}$$ は任意の実数

***

 ここで、<定義1><定義2>が同値であることを証明します。そのためには
(case1) <定義1>ならば<定義2>
(case2) <定義2>ならば<定義1>
の両方を示します。

(case1)
 <定義1>を前提にして、$${f(ax+by)=af(x)+bf(y)}$$ を示します。

$$
\begin{align*}
f(ax+by)&=f(ax)+f(bx) {\small 加法性より}\\
&=af(x)+bf(y) {\small 同次性より}
\end{align*}
$$

 よって、<定義1>ならば<定義2>が示されました。

(case2)
 <定義2>を前提にして、加法性と同次性を示します。
 <定義2>において、$${a=1,  b=1}$$ とすると

$$
\begin{align*}
f(1\cdot x+1\cdot y)=1\cdot f(x)+1\cdot f(x)
\end{align*}
$$

より

$$
\begin{align*}
f(x+y)&=f(x)+f(x)
\end{align*}
$$

となり、<定義1>の加法性が導かれます。
 また、$${a=c,  b=0}$$ とすると

$$
\begin{align*}
f(cx+0\cdot y)=cf(x)+0\cdot f(x)
\end{align*}
$$

より

$$
\begin{align*}
f(cx)&=cf(x)
\end{align*}
$$

となり、<定義1>の同次性も導かれ、これで、<定義2>ならば<定義1>が示されました。
 以上により、<定義1><定義2>が同値であることを証明されました。これにより、<定義2>の方を線形性の定義として与えることも可能です。加法性と同次性を
 $${f(ax+by) = af(x)+bf(y)}$$
という1つの式に集約させているのが<定義2>です。

線形結合

 <定義2>

$$
f(ax+by) = af(x)+bf(y)
$$

に現れる

$$
ax+by
$$

のように、複数の要素をそれぞれ定数倍して足し合わせた形を線形結合といいます(または1次結合ともいう)。例えば、$${2x+3y}$$ や $${-x-5y}$$ のような形が線形結合です。
 すると、出力側の

$$
af(x)+bf(y)
$$

も、$${f(x)}$$ と $${f(y)}$$ という要素の線形結合です。

$$
f(\underset{線形結合}{\underline{ax+by}})=\underset{線形結合}{\underline{af(x)+bf(y)}}
$$

 つまり、作用 $${f}$$ は、入力側(作用前)の線形結合を、出力側(作用後)の線形結合へと変換する性質を持っています。この性質は「線形結合の形式を保つ」と表現することができます。

$$
\begin{align*}
\underset{入力(作用前)}{ax+by}  \xrightarrow[\,線形結合の形式を保つ\,]{\footnotesize f}  \underset{出力(作用後)}{af(x)+bf(y)}
\end{align*}
$$

 この「線形結合の形式を保つ」という性質こそが、線形性の定義であるとともに、加法性と同次性から導かれる、線形性の本質を示すものです。

 線形結合の形式を保つイメージ図を、$${f(x)=2x}$$ という関数で与えましょう。下図より
 $${f(\hspace{-4pt}\underset{作用前の線形結合}{\underline{4\cdot1+3\cdot2}}\hspace{-4pt})=\underset{作用後の線形結合}{\underline{4f(1)+3f(2)}}}$$
が成り立つことが分かります。

 この線形結合は、一般に $${n}$$ 個の要素についても成り立ちます。つまり、$${n}$$ を自然数として、次の式が成り立ちます。

$$
\begin{align*}
f(a_1x_1+a_2x_2+\cdots+a_nx_n)=a_1f(x_1)+a_2f(x_2)+\cdots+a_nf(x_n)
\end{align*}
$$

 要素が $${n}$$ 個になっても、線形結合の形式が保たれていることに着目してください。

$$
\begin{align*}
f(\underset{作用前の線形結合}{\underline{a_1x_1+a_2x_2+\cdots+a_nx_n}})=\underset{作用後の線形結合}{\underline{a_1f(x_1)+a_2f(x_2)+\cdots+a_nf(x_n)}}
\end{align*}
$$

 なお、「線形性」と「線形結合」は違う概念なので混同しないようにしましょう。
 「線形結合」は、複数の要素をそれぞれ定数倍して足し合わせた形を指します。「線形性」は、その線形結合の形式を保つ、作用の性質のことです。

$$
\begin{align*}
\\[-14pt]
\underset{線形結合}{ax+by}  \xrightarrow[\,線形結合の形式を保つ\,]{\footnotesize f(線形性をもつ)}  \underset{線形結合}{af(x)+bf(y)}
\end{align*}
$$

 先に、<定義1>の線形性の例として紹介した微分や積分などは、線形結合の形式を保ちます。以下、それをみていきます。

<線形性の定義2>の例

 $${a,  b,  k,  l}$$ を実数の定数とする。

微分について

$$
\begin{align*}
\frac{d}{dx}(af(x)+bg(x))=a\frac{d}{dx}f(x)+b\frac{d}{dx}g(x)
\end{align*}
$$

不定積分について

$$
\begin{align*}
\int(af(x)+bg(x))dx=a\int f(x)dx+b\int g(x)dx
\end{align*}
$$

定積分について

$$
\begin{align*}
\int_a^b (kf(x)+lg(x))dx=k\int_a^b f(x)dx+l\int_a^b g(x)dx
\end{align*}
$$

内積について
 
第1引数を固定した場合($${\vec{a}}$$ を固定)

$$
\begin{align*}
\vec{a}\cdot(k\vec{b}+l\vec{c})=k(\vec{a}\cdot\vec{b})+l(\vec{a}\cdot\vec{c})
\end{align*}
$$

 第2引数を固定した場合($${\vec{c}}$$ を固定)

$$
\begin{align*}
(k\vec{a}+l\vec{b})\cdot\vec{c}=k(\vec{a}\cdot\vec{c})+l(\vec{b}\cdot\vec{c})
\end{align*}
$$

関数の極限について

 $${\displaystyle\lim_{x\to\infty}f(x)}$$ と $${\displaystyle\lim_{x\to\infty}g(x)}$$ が、ともに有限な値(極限値)として存在するとき

$$
\begin{align*}
 \lim_{x\to\infty} \{af(x)+bg(x)\}= a\lim_{x\to\infty}f(x)+b\lim_{x\to\infty}g(x)
\end{align*}
$$

一次変換について
 変換行列 $${A}$$ を $${n}$$ 次の正方行列、$${\overrightarrow{X},  \overrightarrow{Y}}$$ を $${n}$$ 次の列ベクトルとすると

$$
\begin{align*}
A(k\overrightarrow{X}+l\overrightarrow{Y})=k(A\overrightarrow{X})+l(A\overrightarrow{Y})
\end{align*}
$$

 これらの例は、3つ以上の要素に対しても成り立ちます。

(まとめ)線形結合の形式を保つこと

 「線形結合の形式を保つ」という性質は非常に重要で、この性質のおかげで、複雑な計算に対して「重ね合わせの原理」を適用できるようになります。
 重ね合わせの原理は、以下のことを可能にします。
・複雑な問題を扱いやすい要素に分ける(分割)。
・分割した要素ごとに処理を行う。
・要素ごとの結果を合わせて最終的な答えを導き出す(統合)。

  $${f(ax+by)}$$ を各要素 $${f(x)}$$ と $${f(y)}$$ に分割
→ $${f(x)}$$ と $${f(y)}$$ を処理
→ $${af(x)+bf(y)}$$ と統合

 この分割統合により、計算が効率的になり、理解の促進につながります。そのため、線形性を構成する要素である加法性と同次性は、非常に重要な性質として位置付けられます。
 加法性と同次性だけでは、その重要性を理解しにくいかもしれませんが、この2つの性質がそろうことで「線形結合の形式を保つ」という強力な特性が生まれます。このように考えると、単独ではそのありがたみを理解しにくい加法性と同次性が、どれほど重要であるかが実感できるでしょう。

 なお、今現在は高校数学で線形性を扱っていないですが、当時の高校の教科書では<定義1>を、専門性の高い大学の教科書では<定義2>を用いることが多いようです。
 <定義1>は、加法性と同次性のそれぞれの性質を、個別に理解する際に便利です。
 <定義2>は、加法性と同次性を一つの式で、より簡潔に定義したい場合に有効です。数学的な性質を証明する際に、加法性と同次性を個別に確認する手間が省け、論理展開をスムーズに進めることができます。
 入門段階では、<定義1>で加法性と同次性の理解を促しつつも、本格的な議論に入る際には、「線形結合の構造を保つ」ことを示す<定義2>で進めることで、高等数学から大学数学へのスムーズな移行がうながされます。


いいなと思ったら応援しよう!

中学でもわかる浪漫数学 数学・物理をわかりやすく。チップは書籍の購入費用に使わせていただきます。 購入したい本「初学の編集者がわかるまで書き直した 基礎から鍛える量子力学 基本の数理から現実の物理まで一歩一歩」

この記事が参加している募集