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15本のBL小説を読んだレビュー

毎月開催! #noteでBL 企画に投稿してくれた作品のレビューです!今月のお題はこちら↓

『食事シーン』『家以外の、作者の大好きな場所や土地、時代を舞台にした話』
『脊髄反射』
この3つのお題を使った3000〜5000字のブロマンス〜BL小説

『食事シーン』『家以外の、作者の大好きな場所や土地、時代を舞台にした話』のお題は同時回収しやすいと思います。
「背景」や「食べる」描写の書き込みが苦手な人は難題かもしれないし、5000文字以内の恋愛小説だとこのシーンは省くことが多いかもしれません。
逆に得意な人は背景の書き込みや食事にこだわって『脊髄反射』を忘れる。
ちなみに『脊髄反射』は脳を介さない野生的な反応なので作品に盛り込むのはなかなか難しい。
でも意識せずにみんな普段書いてます、ぼーっとしてて熱い鍋に触って腕を跳ねるシーンとか。
展開のきっかけや人物の精神状態の描写によく書くけど、意識して書くことないですし、意識したら急に書けなくなったりする、人間は不思議な生き物です。

作品のタイトルをタップすると小説も読めます!
小説だけ読みたい方はこちらのアンソロジー記事へどうぞ!

以下m小説順でレビューを書かせていただいてます!


小岩井と林』 日常ほのぼの

マイルドリリーさん!

ほほう、小岩井に行ったのか。
私は確実に表題の「小岩井と林」を「小岩井林」と脳内変換していた。
自分が出したお題の『家以外の、作者の大好きな場所や土地、時代を舞台にした話』と言う前提に引っ張られたせいで「小岩井」を岩手県の有名な農場と思い込んだのだ。
実際に小岩井農場に行った事はないが隅に林くらいはあるだろう。となると『食事シーン』はヨーグルトかチーズ…と見せかけての牛乳だな!かすりもしない予想と間違った脳内変換で読み始めていた。
落ち着けば、どう見ても記事の表紙写真は澤だし、あらすじにも「小岩井」はいるが「小岩井に行く」とは一文字もない!すっとこどっこいな企画者で面目ない。
この話は、爽やかな初夏に「小岩井」と「林」というまちづくり推進課の男2人が町おこしの一環で鉱物採取を定期的にしていたら、いつしかこの時間が2人にとって大切な時間になっていく…
「小岩井、牛乳、ヨーグルト」ではなく「小岩井、胸キュン、水晶の形をした恋の卵」の、林とは恋人にはまだ遠そうだが、距離は確実に近まった一番楽しい時期の爽やかないい話だった、誠心誠意、作者のリリーさんに謝りたい。
でもな、皆んな読んだかい?
作者が引用してくれていた「ざっくりとした登場人物設定」記事によると、小岩井は実家が牧場で牛乳飲み放題という設定があるんだぜ!
さらに、アセクシャルで恋愛が難しい林を「見つめる、支える、スープでぬくめる」のアクションを駆使し、確実に距離を詰めている。私の読む感じでは林も悪くない印象だし?
これはもう、「小岩井林」を裏公式としていいんではないですか?って、すっとこどっこいなミスを棚に上げたなみさんは思うのよ。


好きなものづくし』 現代

syo⭐︎さん!

この企画は小説投稿日の当日駆け込み乗車も良しとしている。
表向きの理由としては、投稿してくれる作家さんのプライベートを優先したい。
でも本当の理由は「うっかり断った小説がめっちゃおもろかったらなんか損した気分になるから」である。
笑いの巨匠・明石家さんま師匠が「自分が寝ている間におもろいこと起きたら嫌やから」と言う理由でショートスリーパーになったのと似た「面白い」に対する貪欲さが私にもあるようだ。
作者のsyo⭐︎さんも家庭の事情で参加を断念していたが、当日に突然連絡があり、仕事と子育てと睡魔と戦いながら夜中に滑り込み投稿!
企画の〆にこの『好きなものづくし』を読むことになった。
1日の終わりに読む文章は大切だ、私は就寝前に見た映像や読んだ内容がそのまま夢に反映されやすい。
syo⭐︎さんの作品は全体的に優しいが、登場人物の過去や心にアポロチョコくらいの棘がある話が多く、読了後に人それぞれの幸せの形について考えさせる。
だがたまにその棘が、床に落ちたのレゴブロックか、デビュー当時のKAT-TUNくらい鋭利に突き刺さる、ギリギリでいつも生きていたい小説の時がある。
やはり明日の朝イチに回そうか。
だが、私の心の亀梨が「今読めよ、いい話だから」と背中を押し、小説の書き出しに視線を移した。
『氷柱とか見に行きませんか?』と言う、思わず聞き返すほどの非日常な誘い文句の書き出しに、私と亀梨はすぐ微笑みあった。
氷柱を見にいく。在り来りではない自分の趣味に好きな人を誘う。
ロマンチックで意表をつく書き出しですよね。
そこから始まる竜宮城みたいな至れり尽せり愛されりの話にごっつぁんです!
「あ、氷柱とか興味ないんで。それに鬼滅の刃も読んでないし」と突っぱねなくてよかった!よく眠れました。


始まりのキーホルダーと、終わらない旅』 現代ラブコメ風BL?

凪砂いるさん!

ご新規さんの中には、まだ“当て馬の美学“について知らない人がいるかもしれない。
この小説のいるさんは「当て馬×当て馬」と言う、トレンディドラマの端っこで主人公カップルが互いの思いを確認し合う最終話の2回前くらいか、最終話の終わり5分くらいに「お前らいつの間に付き合ったてたんだよ!」と主人公に言われる失恋者同士のカップルにフォーカスしている。そう、ドラマなら赤楚衛二の役所ですね。
何が言いたいかというと、今月の私の赤楚衛二の時間が始まった、と言うことですよ。
いつもなら甘いお菓子をアテにコーヒーを啜りつつ読むのだが、拝読した時間が夕飯の前だったので今回は空きっ腹で読む事にした。
ちなみに小説内の赤楚に関しては作家のいるさんの公認を得ている赤楚衛二ご本人とも所属事務所とも関係はございません!)ので、大腕を振って赤楚タイムと脳内では言える!
さぁ私も真尋と紘也と共に揃いのキーホルダーを揺らして列車に乗って九州の旅に出よう!
海との境界が溶けるような朝の車窓から魚を探し、列車の床の模様をQRコードとか言うおとぼけモードに微笑んだり、カレーと焼酎のハイカロリーに胸焼けだわ、と思った矢先のお揃いの限定のラゲージタグ!
それって、また2人で旅行しようって意味かよ?おいおいお熱いね!カレーと焼酎よりこっちに胸焼けだっつうの!ちょっと誰かぁ〜太田胃酸持ってきて!
そしてトドメの一言「はぐれないように、掴まっとけ」のセリフ!自分がそんな事言ってもらいながら手を引かれたのはいつの日か?と黄昏れて1人で晩飯を食う。
若さとほんのり漂う雄感と、さりげない気遣いとちょっとハードな明日の予定!当て馬はねぇ気兼ねないのよ、主人公みたいにきちんとしないでいいもん。
君達の旅はななつ星だよ!!


湊先輩とパンケーキ』 現代、日常、心理

冬槻ぱきら(旧:ぱきら)さん!

例えば好きな人がいたとする。
その人が自分に好意や好感を持っているかを測りたいなら、相手の言葉より行動を見るのがいい。
例えば、おしゃべり中にふと自分が飲み物に口をつけると、相手も遅れて飲み物に手を伸ばす。
コップを置いて腕を組むと、相手も腕を組む。
これは“ミラーリング効果“と言う、懇意になりたい人の行動を鏡で写したように真似してしまう、無意識の可愛い反射。
実はこの逆もあり、お近付きになりたい相手の動きの真似をすることで相手との距離もぐんと近づけられる、恋愛に限らず営業の人も使う社交術の一つなのだ。
この“ミラーリング効果“を踏まえて『湊先輩とパンケーキ』を読むと面白い。
主人公は大学の同じゼミの先輩の社交的で明るくてかわいい湊先輩が気になっている。
ひょんなことからそんな湊先輩と「しあわせのパンケーキ」に2人きりで行く事になるのだが…
ここから2人の楽しい時間が始まるのか、それとも受難の時間なのかは既にあらすじで作者が伝えてくれているからネタバレではないとして。
主人公は“あることを恐れて“おかしな行動をとり、結果どんどん2人は噛み合わなくなっていく。
この“おかしな行動“はミラーリング効果の心理かもなぁと思う。
ミラーリング効果は、された相手によっては「なんで真似するの?」の違和感になり不審に思われることもあり、100%距離が近付く社交術にはならない。
好きな人と同じ行動を取ることは鳥のすり込みのような、間違いのない共感や好意を生む行動だが、不特定多数に対して有効であっても、全ての人に当てはまらない。
結果、人の心と心を通い合わせる恋愛のコミニケーションに正解などないのだ。
これに懲りるな主人公!
初デートってのは大体がわからない事づくしの諸行無常で正解やねん!


エスケイプ・ブルー』 現代

星屑さん!

なぁんだ、元スプリンターの青野が金持ちイケメン高校生をゲットする話か。と、私は途中で一回読むのを休んでキッチンに向かった。
美しい見た目の傷ついた若い男の子と冴えない年上男のワンラブ的な話は割と読んだのだよ、とタカを括ってチョコバッキーを齧りながら座り直してスクロール。
…ふうん、…お?いやいや、青野やしな。
横浜まで来てマクドナルドでテリヤキバーガーかよ!美味いけどもやな、今日の晩飯面倒やしマクドでいいか、青野やしな。
…青野。…青野?……青野ォォォォオオ!!!!
叫んで冷静になった。
この作品の受けに当たると思われる華奢な男子と、社会とか生活に疲れているきっと攻めの年上男が物語に出てきた時。
生物学的には女であるにも関わらず、なぜ私は女役である受けに共感しながら読めないのだろうか。
確かに、小学校のグラウンドに紛れ込んだ犬みたいな学生生活をしていた私に、裕福だが雁字搦めの家庭環境に反吐を吐きつつも従うしかなかったこの美少年のような繊細な過去はない。
どっちか言うと私は青野よりの人生だと思う。
そうだ、押しに弱いと言ってしまうと雑だけど「根底にある正義感で何人たりとも見捨てられない大人」の青野90%の人生だ。
だけど私も女やから、どう考えても少年のような儚さで、青野のような芯のある男に出会いたいと女の部分が反応するねん。
なのにちくしょう、少年目線で読めないとはどうゆう事や!!
儚く美しく濃ゆい睫毛を海風に遊ばせ潮風混じりの塩っぱい涙を隠して、嬉し涙と悲しい涙の塩分濃度は違うのよ?とかさ。言いたいね、なのにさ。
あぁぁ。俺の人生、青野90%かよ。
これって一体全体なんのせいよ?
サカナクションの言う、バッハの旋律を夜に聴いたせいってやつですか?


スローモーション』 心中ロードトリップ

鳩野公園さん!

3という数字は安定や区切りを表すらしい。
私もこの企画をやって今回で20回、3人の登場人物が出てくる話幾度となく読み、3という数字に神秘に触れ続けてきた。
3人の恋愛話は目が離せない。
パワーバランスの三つ巴なのか、三竦みなのか、三権分立なのか、徳川御三家の二次創作BLという埋蔵金なのか?考え出すと尽きない。
三角関係は自分もよく書く題材だ。
登場人物の3人がこの歪な関係をどう考えて誰を選び、その先にどんな形になっていくのか?などの3人を結ぶ関係は考えるが、なにゆえ一般的で書きやすい2人でなく、あえて3人の恋愛を選んだのかは考えたこともなかった。
『スローモーション』に出てくる、遥希と絋と隼の3人は3人で交際をし同棲をしている。
関係としては遥希(受)は、絋(攻)も隼(攻)も気に入っているが、この2人は遥希を独り占めしたい気持ちもある、となっている(あとがき参照)
この場合の解決策は、殴り合って負けた攻めの屍を超えていくしかないと思うが、そんな事をすると悲しみにくれる遥希との世紀末が始まる予感しなかい。
3人での恋愛が前提であるが、本編は2人(遥希と絋)がふらりとドライブに出る話だが、読み進めていて気がついたのは、3人でいると関係性は安定しているが、2人になると一般的で安定するはずの関係が一気に崩れていくような脆さになる。
不道徳な3人の恋愛より、抜け駆けした2人の罪の方が重く感じてしまうのだ。
ならばここにもう1人足して4人すると、ラオウ、トキ、ジャギ、ケンシロウの北斗四兄弟になり、殺し合いが始まる。しかも末っ子のケンには実兄のヒョウもいてだなぁ、あれ?世紀末の血のつながらない兄弟喧嘩の話やっけ?
脳の記憶に一番適しているのは3個までらしい。
人がストレスを感じた時に耐えれる数字も3分までと言われている。
何故人がこんなに3に囚われるのはは分からないが、三角関係までは許容範囲でストレスなく愛でられるということかもしれない。
自分が関わらなければの話だがな!


忍びの夜は』 創作歴史、ブロマンス

木野山キノさん!

実はね、作者のキノさんとはもう結構長い付き合いだから白状するけど、この小説のタイトル見てめっちゃビビってしまった。
なぜなら過去に自分が書いた元気盛りの大学生の小説、に出てきたセクシービデオのタイトルに類似していたからだ。
確か「忍びの夜は屋根裏から〜寝床にしたたるクノイチの濃厚はちみつ〜」的なタイトルにした記憶がよみがえり、一回全てを無にして散歩に出掛け、近くの墓に参り無心で草むしりをした。
これで何がチャラになるのかは分からないが、神より仏案件な気がしたのは事実だ。
帰宅してあらすじを読む。うむ、大丈夫だ、デカい乳が忍んでいないクノイチはきっと出ない!だってお前、キノさんだぞ!
ほらみろ!犬猿の仲だけどお互いを認め合っている忍びの少年・草助と勝行の微笑ましい話じゃないか!
2人の小競り合いが始まった頃に現れる見廻りの武士、小林殿と山田殿もついておるし、安泰も安泰だ!
これでどちらかの名前が“新右衛門“やったら一休どの〜案件やけど、大丈夫これはキノさんの小説だから。
何がそんなにキノさんなら大丈夫なのかを説明すると、キノさんの書く物語は無邪気なトラブルメイカーは出ても、悪意のある人間はまぁいないし、元気な若者が主人公の2人なら、見守る大人が必ずそばに居る安心感がちゃんと担保された話が多い。
セクシービデオなんか出て来るわけな…え?
ここでブービートラップが!皆までは言えないが、勝行が親方様の💗ふわぁ〜おう💗の伏線!
あかん、あかんよ、いやでもな、あかんて、はちみつあかんて!キノさんだぞ!
多分、私は勝行に友情以上の何かを感じていた草助より、期待…ゲフッ、ゲフンゲフン、章介を勝手に心配、していたことだけ報告します。
大丈夫だよ、全年齢だよ!だっておめぇら!キノさんだぞ!!


落とし物のないようご注意ください』 不穏系、青春小説
※傷の描写・喫煙・飲酒の描写がございます。

布列さん!

あらすじの一行目でふと思った。
この話は、恋人に振られた主人公の「俺」が、ゴールデンウィークの後半にもともとあった予定がなくなった思いつきで、校外学習の時に行った江ノ島に向かうところから話は始まるのだが。
はて、なんでこの「俺」は自分が恋人にフラれて孤独を感じている時に、幸せな家族やカップルがひしめき合うゴールデンウィークの江ノ島なんかに向かったんだろうか?と。
失恋してすぐなんか、失恋理由によるけど絶望を地獄の業火で煮込み尽くして悪態を吐いて捏ね回し、罵詈雑言まみれのダークマターに人の不幸と言う蜜をかけて貪りながら1人孤独に過ごしたいものではないか?
そもそも、彼女とデートで行く予定だった場所なら少しわかるがそうでもないし、どうやら2人の思い出の場所でもない。
「俺」は向かった江ノ島で特に彼女との思い出にふける様子もなく、持ち出した愛用のカメラでシャッターだけ切る。中の写真を見る気もない。
だがこの時不意に映り込んだ「男」がこの後の物語を転がし始め、飄々と謎の行動を繰り返しながら、さりげなく「俺」の中の彼女の思い出に撫でるみたいにするっと触れて、今後の展開に曖昧で少し君の悪い後味を残して消えていく。
辛い思い出は消化不良を起こしやすいし、濃い思い出だからか胸焼けもする。
主人公の「男」は、シャッターを切るように一瞬の思い出を思い出とだけ残して残し、美化も期待も残さずこの先も生きるんだろう。
実は読み始めに江ノ島に行った理由を独自に考察していたのだが、
ゴールデンウィークに浮かれた幸せまみれの人々が、突然の雨で散り散りに走る様を見下ろしながら「ゴミのようだ!」とサングラスの奥でほくそ笑むムスカのような男の話を想像していた。
それにラピュタの落とし物はムスカだから、タイトルの回収もできるかな、なんちって。


イン・ザ・ホテル・ウィズ・ブックス』 心理サスペンス

月は東にさん!

もうずっと企画のレビューを読んでいる皆さんは、土曜半ドンの吉本新喜劇見ながら袋ラーメンを食う!みたいな、いつものやつと思ってください。
私が企画を始めた初期から参加してくださり、日々貪欲に作品に挑んでいる作者の月さんが、自分の小説の「パターン」をAIにツッコまれてしまった。
人によってはこの手の指摘や感想は耳に痛いかもしれないが、それには毎月拝読してレビューを書く私も悪気なく気付いていて同意。
ここで「ですよね〜」と明るく返せるのが彼女の懐深さと、自分の創作と真摯に向き合っている証だと思う。
月さんの小説は、3人いれば1人何かを失くすおじさんが現れる。
そこに、おじさんの失恋相手に恋する若い美男が現れて奪い去られる…ほんでだいたい好きな人に絵とか、何かを思い出の品を贈っている「失っちゃうおじさん」がいるのだ。
今回の話は2人だ。

「ああ。ホテルに泊まり、どこにも出掛けず、ただ部屋で本を読んで過ごす。それだけでいい」
ひょんなことから大学生の梓は、豪華に設えた「ブックホテル」で「男」とたくさんの本に囲まれて過ごすことになる。
そのホテルは「男」の持ち物で、梓が泊まる部屋は『彼』のオールタイムベスト』で揃えられていた。

お気づきになっただろうか。
やはり何かを失くした男が現れ、好きな人との思い出の…今回はついにホテルをつくった。う〜む。
心から愛する人を亡くした時。
喪失感を埋めようと奔走する人は思い出に囚われた哀れな人にも見えるが、一生ものの人を手に入れてその人に一生を捧げられる幸せな人とも考えられる。
面影や体温、声を求め、自分の中で生きる愛した人を形にして残す行為は、他人の目に切なく可哀想に映るだろう。
だが、当の本人にとってはまだ続く2人の幸せの時間でしかないかもしれない。
それを可哀そうだ、辛い、と言う人は、心から愛せるものにまだ出会えていないんじゃないかしら。
私は思う、きっと来年。
月さんの作品の失っちゃうおじさん(今回はお兄さん)は、タージ・マハル造る。


カラボスはネジを巻く』 現代劇(バレエ)

四四田 鹿辰(ヨシダ ナレシカ)さん!

ダンサーは命が二つある。
一つは競技生命、もう一つは体に宿る命、どちらも降りる時は緞帳みたいに晴れの舞台を遮り終わらせる。
狡猾な神は足を狙う。
風邪や疲労で体調を崩すと、まず足から崩れて動けなくなる経験が誰にでもあるだろう。神はまるで、立てなくなった自分が悪いと責めるように仕向けてくる。
ダンサーは着地の際に健を切って舞台に倒れ丸くなる。それは疲労して修復が間に合わない健に鞭を打ったような、人の恐怖心を煽る絶妙に響く音がする。
舞台に落ちたチリの一つで起きた被害にしろ、他者か自分かどちらかを責めるように仕向ける、神様は命の足を引っ張るのが得意だ。

バレエ公演の準備中、舞台上でたった一本のボルトを拾うところから話は始まるこの話は「たかが」と「されど」のせめぎ合いだ。
「たかが」ボルト一本、と主演を務めるであろうダンサーの少女は、若さ故の傲慢さで取り合わないが、「されど」ボルト一本と、主人公で公演責任者のレオは食い下がる。
若い気位は目の前の賞賛にだけしか目を向けず、足元の危険に気がつけない。
ボルト一本に拘るレオのダンサーとしての緞帳はすでに降りていて、それでも舞台に残り続ける彼は、オーロラ姫のパーティーに呼ばれなかった魔法使いのカラボスみたいに滑稽にも読める。
呪いのように「たかが」一本のボルトを姫に突きつけて、呪いをかけているようかもしれない。
かつて隣にいたナオだけはそんなレオに寄り添う、彼は「されど」の意味を知っている男だからだ。
ダンサーだったレオが無くしたものは大きいが、それを埋めて余るほどのナオの存在がある限り、レオの命の緞帳は降りないだろう。


キビナゴの刺身』 人間ドラマ

岡埜 由木子(偏光)さん!

ちょ、めっちゃ「あらすじ」しゃべるやん!
一回、上の小説のタイトルクリックか、私のつくったまとめ記事からでもいいんであらすじ読んでくださいな、ほんまに。
小説の「あらすじ」の使い方は本当にそれぞれで面白い。
この企画は本編の文字数を5000文字以内にする制限があるので、書ききれなかった前置きの内容があらすじだったり、ざっくり2行くらいでこんな話です〜程どもある。
公募や小説サイトの投稿の練習にもなるからとしっかり内容を要約して書いて、これはこれで完結しているのでは?と思うものもある。
様々なあらすじを読むのが実は結構好きなのだが、今回は初めて、あらすじに語りかけられた。

 『みなさん、特に真一郎、覚えておいでですか。』

あ、はい、それはもう毎月楽しく読ませてもらってますんで。

 『前々々回の九州旅行において、池島真一郎は「明日ならいい」と「約束」していた事を。』

えぇ〜…待って待って、そんな前前前世みたいに急に言われても。どのエピソードやっけ?待ってな岡埜さん!ほんでこの場合は真一郎の恋人である、拓海(攻め)の大事な伏線回収やねんな。

てな具合で本編に行く前に前々々回に戻るという、三歩進んで二歩下がってから本編に入ったというか戻ったのですが、傷を抱えた2人の青年が九州で羽を伸ばす微笑ましさと、絶妙な大人の酒が入った空気感。
そうですねん、ここで刮目して欲しいのはあえて拓海の名前の横に(攻め)と表記したところです。
おめぇら、BL好きだったらこの意味わかるよなぁ?!旅行中に受けが言う「明日ならいい」の後にあえて、あえて!つける(攻め)の意味をよぉ!
現場からは、以上です。


指先にバニラ』 恋愛(フェティシズム)

一吾さん!

電話ボックスは多様性の扉。
追いかけられる登場人物が狂気を避けて逃げ込む場所。
最後の電話の受話器を置いてピピー、ピピー…っと繰り返される電子音の中で関係の終わりに泣き崩れる場所。
と思えば、通り雨を避けて駆け込んだ2人ので偶然の一致で恋も生まれる。
スマートフォンが普及した今、もう終わったコンテンツかもしれないが、あの街中にポツンとある四方を囲んで雑踏から遮断してくれる機密性の高さは今でも記憶に残っている。
プライバシーのなかった自宅をそっと抜け出して、電話ボックスの受話器から聞く好い人の電子な声は、白い息を吐いてでも聞きに行く価値があった。不便利なアナログは我慢とロマンがたくさん詰まってた。
この『指先にバニラ』で印象的なのは、電話ボックスの中で鳴るスマートフォン。
電話ボックスを知らないであろうスマホネイティブの大学生が、電話ボックスのお世話になったことがあるであろう世代の母親からの着信を無視するところ。
この反転する新旧のバランスが、後半に出てくる電話ボックスの中で雨宿りする2人の食べるバニラアイスくらい味わい深い。
そういえば、電話ボックスはどんどん数を減らしているなぁ、情報社会に遮断された絶滅危惧の妖怪みたい。
電話ボックスから固定電話にかけながら徐々に近付いてくる「メリーさん(地方によって呼び名が変わります)」もすっかり形を潜めたし。
小説の最後、電話ボックスから出て母親の着信に対応する、そんな彼を振り返って見つめる視線からの情報で繋がる、遠い雷鳴みたいな閃きで繋がるシナプス。
2人の呼気と体温で透明さを失った電話ボックスの扉を押し開けるまだ若い指が、跡を残して押し開けた先にある解放と突きつけるような冷ややかな現実。
そんなふうに振り向いて見つめてくれる人が欲しくて、メリーさんも鬼電追跡してたのかな?ってちょっと思う。


サトゥルヌスの午餐』 SF
(※一部、流血の表現があります)

坂本エンジンさん!

「1、善人は、フードをおいしそうに食べる」
「2、正体不明者は、フードを食べない」
「3、悪人は、フードを粗末に扱う」

これは福田里香さんの著書『ゴロつきはいつも食卓を襲う〜フード理論とステレオタイプフード』から抜粋した三原則である。
食事のシーンは人物同士の関係性や、場面の切り替えや伏線などに頻繁に使われ、説明が無くとも視聴者や読者にたくさんの情報を与える。
小説の冒頭、興味を惹くのは時の神・サトゥルヌス(=クロノス)の存在だ。
彼は大地の神ガイアと天空神ウラノスが交わって生まれた巨神で、しばし大釜を持った老人の姿で描かれることから「時の翁」と呼ばれている。
サトゥルヌスは長じて父を殺し神々の上に君臨するが、最後に父に残された予言『お前もまた自分の子供に殺されるだろう』に怯え続け、自分の子供を次々と腹の中に収めざるをえなかった。
作中でも、ゴヤ作『我が子を喰らうサトゥルヌス」の畜生にしか見えない傑作が、胡乱なインパクトを残す。
生きる為に食べる、食事は命を繋ぐ時間だ。
最初私はお題の『脊髄反射』を上手く使った作品だと思っていたが、読み進めるにつれ食事をメインに読んだ方が人物の心情や深い関係性を知れるかもしれないと思った。
ウイルスのまん延した改廃的な世界で主人公2人が大皿でチリクラブを分け合って食べるシーンに注目する。
2人の登場人物が同じ皿のものを食うのは信頼の証、さらに言うと男女(BL場合は男性同士)が向かい合って食事をするのはセックスの暗喩。冒頭のサトゥルヌスとの対比。
食事風景を中心に読むと、ラストシーンに差し込まれた2人のただならぬ関係と生きる“時間“の貴重さに飲み込まれる。
ちなみに私はマレーシアで知らない男に奢ってもらったカレー味のソフトシェルクラブの味が今でも忘れられない。


平成ドラマチック』 SF

ナルさん!

この小説は長いノリツッコミの途中やな。
いや待ておいおい、恋愛小説なんやから頭の中パヤパヤにして「猛烈にアタックしたらすぐ好きになるとかネタ振りをしておいて手を出さないうえに章介殿のアプローチをスルーし続ける裕太氏は絶対に照れ隠しをしてるでござるぞ!」と鼻息荒く読み進めばいいやろ、なんで漫才の手法になんか例えるねんな。
いや待ちなはれ、漫才の伝統技法と恋愛小説って相性がいいんですよ!私は過去にもレビューで例えたことがありますし。
ノリツッコミが何かわからない人はもう流石にいないと思われるが、私の友人で日本中がキムタクに夢中だった平成の真っ只中でSMAPを知らなかったうっかり女子がいたので一応説明する。
ノリツッコミとは、相方のボケを聞きその内容に一回乗っかって一緒にボケた後にツッコミをかぶせる難易度の高い技である。
ツッコミは消え物なので、ボケに素早く反応して端的に打ち込むものだが、ノリツッコミは一度ボケに合わせて泳がせながら自分も共感してボケる間がある。
一回我慢してノる、この耐久が観客も舞台の漫才師同士もジレて夢中になる効果があるのだ。
この小説も作中何度もツッコミどころがやってくる。

お互いがゲイだとカミングアウトしたあの日に戻ってしまえたら…って戻るんかい。タイムリープかよ!
あの日に戻ってゲイのカミングアウトのついでに未来から来たこともカミングアウトしてまうんかい!ほんで案外あっさり受け入れんかい!
こんな感じで物語は平成の懐かしい流行り物に囲まれながら和やかに進み、最後に一粒、読者の心に涙を落とす。
ノリツッコミのいいところは、ボケにのっかって乗っかり続けている限り終わりを引き延ばすことが出来ること。
最後のツッコミが入るまでどんな現実が巡ろうとも、2人の楽しい漫才に終わりは来ないので!
おっとそろそろいい時間だな、それではお後がよろしいようで。


りんごと火星』 SF

常世田美穂さん!

私は投稿小説をまとめ記事にする回収の際に、順番を意識する。
一応、記事の頭から全ての小説を一気読みをしてくれた際の読了の余韻を想像して載せる順番を決めている。
最後に持って来る話の決め手は、登場人物の想いを丹精に練っているか?だ。
それは他のみんなが適当書いていると言うわけではなく、飛び抜けて繊細な部分を言語化して可視化させている話を置くようにしている。
主人公の心の向く方向や成長が感じられる話は、一つの話として閉じられても読者の心の中で続くから、ラストに相応しいと思っている。

『りんごと火星』は表題通りの火星の話。
主人公の芹沢さんのうんざり傷心具合を読み進めると、ちょっと大変でも火星にまでいきたい気持ちがよく分かる。
うんざりはしているけど、火星移住の先輩である野々さんとの関係は上々。なのにずっと芹沢さんは地球に置いてきた恋人のことばかり考えている。
宇宙は新しいフリをして、とてつもなく古い。
宇宙科学とかニュートリノとか最新鋭っぽい名前をつけられて、地球上では取り沙汰されるが、結局何億光年も過去の光の力を借りて、どうにか光る年老いた星の寄せ集めの空間でしかない。
それでも美しく目に映るのは、どんなに悲しい思い出も美しいものとして残す努力を人が怠らないからだろうと思う。
そんな思い出だらけの孤独の中で、芹沢さんは自分と似た光を放つ野々さんと出会う、孤独で辛い思い出が野々さんとの一体感で塗り替えられる。
きっとりんごを嫌いになった芹沢さんの思い出は、野々さんと食べたアップルパイの格別なりんごの思い出に置き換えられていくだろう、死んだ星の塵を集めて新しく生まれていく宇宙の星に囲まれながら。
これから鬱屈とした梅雨に入るし、今回は明るい兆しのある話で締めたいと思っていたので、常世田さんの『りんごと火星』はラストにうってつけだと読んですぐ思った。

来月は不穏祭りやから、こんな綺麗に終われない未来が私を待ってるしなぁ。



以上15名!ありがとうございました!
またの挑戦をお待ちしております。


次回のお題発表は5月25日(月)です!

次回は不穏淑女かし子嬢からの挑戦状、年に一度の「激重感情仄暗不穏」BL小説祭り!
不穏も色々ありまして、色んな不穏がありまして。
「激重い感情」の重量、「仄暗い」の解像度、「不穏」の強弱。それを想像した時の世界観、人物背景。
それぞれの人生経験や趣味趣向の違いがあるので、言葉を聞いて創造するイメージは違います。
その違いを読むのも楽しいけれど、私には私のこだわりがある!
私がこだわった私の読みたい!書きたい!そんな我儘を存分に叶えるお題になります!


匿名でメッセージが送れる質問箱を設置しました!

noteユーザーさん以外も質問も受け付けれるので、どうぞご自由に。
匿名なので私にも周りにもバレません、気兼ねなくお使いください。

・企画に対する質問、意見、感想
・企画でやってほしいお題などのリクエスト
・参加してるけど今更聞きにくかった質問

・なみさんへの質問、意見、感想、ねぎらい
・書いてほしい記事や小説のリクエスト
・創作の事、小説の事、侑太郎さんの筋肉の事

・今日の献立、明日のパン
・日本の夜明け
・どうでもいい雑談

なんでも答えれる範囲でお答えします。
「企画宛」「なみさん宛」を書いてもらえると嬉しいです、間違ったら恥ずかしいやん。

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