為替介入の基礎⑥:為替介入は財務省(政府)と中央銀行のどちらが担うか
昨日、為替介入の効果について、ファイナンスのテキストで説明されるシグナリング効果とポートフォリオ・リバランス効果について説明しました。今回は、為替介入が財務省が担うのか、あるいは中央銀行のが担うのかという議論をします。今回も必要に応じて加筆・修正します。
為替介入の基礎⑤:為替介入はどのようなときに効果があるか|服部孝洋(東京大学) (note.com)
まず、我が国では財務省が為替介入の判断を行い、日銀はその執行ということになります。例えば、米国も同様であり、伊藤先生の論文では「アメリカにおいても、介入については、財務省が所管しており、通常はアメリカ連邦準備銀行が介入を実施する」と記載しています。米国の財務長官を務めたルービンの書籍でも米国財務省で介入を判断していたことが書かれています(特にルービンによるドル高容認と介入政策については興味深いので別の機会で取り上げます)。
それでは他国ではどうかというと、白川さんの本が丁寧に整理しています。まず、白川さんの本では、
最初に、主要国の為替市場介入について法的枠組みをみると、米国では財務省財務省(外国為替安定基金<The Exchange Stabilization Fund:ESF>)とFRBが権限をもっており、現実にも大半のケースにおいて両者が折半で介入している。実際の介入はFRBと財務省の両方の代理の代理人であるニューヨーク連銀が行っている。ユーロエリアでは欧州中央銀行が介入権限を有している。英国では大蔵省が介入権限を有している。日本については、英国と同様、政府(財務省)が介入権限を有している。(p.285-286)
と説明しています。
白川さんの本では、為替レート制度に関する権限の所在についても、Lybeck and Morris(2004)に基づいて下記の通り紹介しています。

そのうえで、
所与の為替レート制度の下では、為替市場への介入レートの水準の決定を含め、為替レートに関する政策の実施(implementation)は通常は中央銀行にゆだねられている(Lybeck and Morris, 2004)。他方、為替レート制度の選択に関する権限については、国によって異なっている。先進国については政府が権限を有しているケースが圧倒的に多い。ただし、為替レート制度や平価の変更についても中央銀行との協議を義務付けているケースもみられる。他方、途上国については、少なくとも独立した金融政策を適切に行っていくうえで、どのような為替レート制度を採用するかは非常に重要な前提条件であることから、中央銀行が為替レート制度についても何らかの権限を有しているケースは少なくなく、特に低所得国ほど、中央銀行が権限を有するケースが多くなっている(p.285)。
と指摘しています。白川さんのいうとおり、日本のように政府が介入の権限を有している国も少なくない点に注意してください。白川さんの本ではBOXをもうけて米国とユーロエリアにおける介入についても取り上げているので、関心がある人はそちらもご参照ください。
また、日銀もこの点の整理をしています。そちらも書きぶりを確認してみましょう。
為替介入の主体をはじめとする為替介入制度は,国によって様々である。日本では 財務省が為替介入を行う権限を有し,日本銀行が介入事務を執行する一方,米国では 財務省が為替介入を行う権限を有するとともに,連邦準備制度理事会も公開市場操作の一環として為替介入を行うことができる。実際の為替介入では,財務省と連邦準備 制度理事会の事前の協議により,両者が資金を折半して行うことが通常であるが,介入事務の執行はニューヨーク連邦準備銀行が行う。通貨統合が行われたユーロエリアでは,欧州連合(EU)蔵相理事会が,欧州中央銀行(ECB)に諮問のうえで策定する為替相場政策に関する一般的な指針 *と整合的なかたちで為替介入を行う権限を,ECB に対して与えており,介入事務の執行は ECB と各国の中央銀行が行う。英国で は,為替介入を行う権限は,財務省とともに,金融政策目標達成に必要な場合に限ってイングランド銀行(BOE)も有しており,介入事務の執行はBOE が行う。このほか,中国では国務院の指導に基づき中央銀行である中国人民銀行が為替介入の決定と執行の双方を担っているが,韓国では企画財政省が為替介入を決定し中央銀行である 韓国銀行が執行している(p.200-201)。
* この指針は,物価安定の目的を妨げるものであってはならないとされている。


ちなみに、白川さんの本は、特に円債市場の実務家が辞書のように頻繁に参照しているというイメージです。例えば、国債のトレーダーと金融政策について議論していたときも、「まずは基本書をチェック」ということで白川さんの本にどう書かれているかを見ることが多かった印象です。この本は白川さんが京大時代に記載されたようですが、もう15年前に書かれた本であるので、個人的にはそろそろアップデイトしてほしいと思っています。
今回は引用による部分が増えてしまいましたが、上記は下記の通り、為替介入に関する文章を前提としています。こちらも参照してください。上記は適時、加筆修正します。
為替介入の基礎①:覆面介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
為替介入の基礎②:口先介入(レートチェック、3者会合等)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
為替介入の基礎③:協調介入と単独介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
為替介入の基礎④:日銀の当座預金の「財政等要因」と為替介入額の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)
為替介入の基礎⑤:為替介入はどのようなときに効果があるか|服部孝洋(東京大学) (note.com)
なお、これまで外為特会について継続して記載しているので、関心がある読者は下記を参照してください。
外為特会の基礎①:外為特会のBSと為替介入|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎②:運用の概要|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎③:外国為替資金証券(為券)について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎④:日本には非不胎化介入は存在しない?|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑤:為替介入規模の推定|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑥:外貨準備と外為特会の違い|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑦:国債整理基金特会との関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑧:IMFとの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑨:外為特会が有する外貨資産の活用とチェンマイ・イニシアティブ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑩:為替介入と民間銀行のBSの関係|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑪:為替介入や特会の運用に関する財務省の体制|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑫:外為特会改革と外為特会の積立金制度について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑬:積立金制度廃止とFBの償還(外為特会改革について)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑮:2022年の円買い為替介入と不胎化介入について|服部孝洋(東京大学) (note.com)
外為特会の基礎⑯:Tビルの大部分はFB(為券)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
