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上達しない夫と始めた、大人のプライベートダンスレッスン

「叶ったらいいなぁ」という願いは、まだまだ色々ある。 私の場合、そのほとんどは物質(欲しいもの)ではないから、お金を出せば済むことでもない。多くは「体験」だ。 それでもやっぱり、「お金と時間があれば解決できるんじゃない?」と思われがちだけど、自分にとって最善のルートで、しかも最善の形で受け取りたいとなると、そこには絶妙な「タイミング」というものがある。

実は先週から、ひとつの願いが叶いはじめた。 それは、ペアダンスのプライベートレッスンを、単発ではなく継続で受けること。

これは、私にとってなかなか叶わないもののひとつだった。 以前は料金的に高嶺の花だったし、最近は「好きな先生が見つからない」という贅沢な悩みが続いていた。だからここ数年間は、ずっとグループレッスン止まり。そこそこに上達して、知らない人とでもステップを踏めるようにはなったけれど、どこか物足りなさは残る。

そこに加わったのが、夫という存在だ。 夫も私と出会ってからダンスに興味を持ち始め、一緒にグループレッスンを受けたりもした。けれど、リードする側の男性はとにかく頭を使う。夫は運動神経こそ抜群なものの、いかんせん練習をまったくしないので、ちっとも上達しない(笑)。 おかげで、一緒のイベントに出かけても、私は違う人とばかり踊る羽目になる。だって、夫とのダンスは私がイマイチ楽しめないから。

とはいえ、夫婦で楽しめる趣味があるのはすごく素敵なことだ。共通の友達も増えるし、この春はメキシコ行きのダンスクルーズにまで参加して、どっぷり旅行気分も味わえた。上達せずとも投げ出さずに続けている夫の根気には、心から感謝している。

そんな中、私の中に「自宅でも練習したい」という小さな野望が芽生えた。 ゲストルームのベッドを処分してソファーベッドを買い、スペースを作り、壁に鏡を貼る。大がかりな模様替えになるため、最初は渋っていた夫だったけれど、なぜか急に心変わりした。去年の夏、あっという間に即席のダンス練習スペースが我が家に完成した。

……が、結局のところ、そこで練習することは滅多にない(笑)。 一人で練習するのは難しいし、二人で始めると、大抵ちょっとした小競り合いに発展するからだ。これを友達に言うと大爆笑されるのだけれど、パートナーから何かを習うときの「あるある」らしい。もっとも、私の方が教えながら「もう、なんでできないの!」とイラッとしてしまう側なのだが。

二人の関係を穏やかに保つためにも、やはりプロという名の「潤滑剤」が必要だ。 夫もプライベートレッスンに乗り気になり、そこから本格的な先生探しが始まった。けれど、時間や場所、そして何より私自身の好みの相性もあって、なかなか「この人!」という先生に出会えないまま、時間だけが過ぎていった。

そうこうしているうちに、先月、うれしい変化が訪れた。先月に入ってから、私が昔から大好きだったインストラクターのKが、近くのスタジオでグループレッスンを再スタートさせたのだ。私は大喜びで、夫と友達を連れて通いはじめることにした。 夫は彼のことをとても気に入ってくれた。 自宅兼スタジオでプライベートレッスンをまた始める。と言うので、夫は勢いでチケットを大量にまとめ買いした。

夫のためのレッスンだけど、ペアダンスなので私も一緒に相手をする。そうすることで私自身も基礎を学びなおせるし、夫のステップ(リード)も学べる。後半は私の個人指導もしてもらえるし、宿題と復習は自宅できる。最高である。

Kの自宅兼スタジオは遠い場所にある。一昨日はレッスン日だった。夜9時半にレッスンが終わり、夫の運転で帰宅中に、美しい夜景が見えた。黒々とした海にかかる橋が、アメリカの国旗の色にライトアップされていた。その輝きを眺めていたら、いつの間にか、またひとつ夢が叶っていたんだなぁとなんだかちょっと不思議な気がした。

そういえば数年前、ダンス仲間に、ものすごく上手な独身男性がいた。まだろくにステップも踏めなかった私は、彼が次々と上手な女性とサルサを踊る姿を眺めては、いいなぁ、と思っていた。ある日、彼が近づいてきて、自分の仕事に勧誘してきた。当時私はシングルマザーで、生活に支障はなくても趣味にかけるお金が限られていたことを察していたんだと思う。

「十分お金があれば好きなときに好きなだけプライベートレッスンが受けられるんだよ。僕と一緒にどんどん稼げばいいじゃないか」と、彼は何度も言った。人の感情を動かすのが本当に上手な人だった。仕事内容を聞いてから、やりたくないから断ったし、それがきっかけで彼とは疎遠になった。けれど、あのときに無理をして、必死になって叶えるべき願いでもなかったのだと、今はよく分かる。

あの頃の私の頭の中にあったのは、自分ひとりでレッスンを受けている姿だった。でも私が受け取った現実は、大好きなインストラクターのもとに夫婦一緒に通って習うこと。夫が喜んでレッスン費用を払い、遠方なのに運転までしてくれる。そして平日の夜にはいろんな場所にダンスしに行ったり、グループレッスンにも行く。共通の知人も増えたし、その世界が心地よい。自分の小さな枠をいつの間にか超えて、「私たち」にとっての最善を体験しているんだなぁ、としみじみ思う。

さて、プライベートレッスンの初日に、インストラクターのKが夫に聞いた。「あなたの目標は、ダンスイベントに行ったとき、あなたとダンスしたい女性がずらずらと列をなすほどうまくなることだよね?」

すると夫は少し改まった感じで、丁寧に答えた。

「僕の目標は、ダンスイベントに行ったとき、妻が『さて、今日はどんな上手なダンサーと一緒に踊ろうか?』と目を輝かせてキョロキョロするのではなく、真っ先に僕と踊りたい!ってワクワクすることです」

これにはKも私も、一瞬黙ってしまった。私は、少し苦笑いした。それから、なんだか胸がじんわりした。そして次に夫とダンスイベントに行くことが、少し楽しみになってきた。


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